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夏合宿⑬

 ダークマター先輩は全員にフリップとペンが行き渡ったことを確認すると、オホンと咳払いを一つして前を向いた。


「では第一問!」


 先輩はいつの間に準備したのか、手元にある音響道具のようなもののスイッチを押し、「デデンッ!」と音を鳴らした。

 何だ急にこれ。クイズ番組か。


「今年の文化祭で行う出し物はなにがいいでしょーか!お手元のフリップにお書きください!どうぞ!」


 口調まで変わっちゃってるし。まあいいか。この人にツッコんでいても埒が明かないのはいつものことだ。とりあえず真剣に答えを考えよう。

 ダークマター先輩を含めた他の四名も腕を組んだりペンを持ちながらうーんと唸ったりと、皆真剣に考えているようだ。


 そんで三分後。


「シンキングタイム終ー了ーっ!」


「え、もう終わり!?」


 僕まだ何も書いていないんだけど。あーもういいや!これで。

 仕方がないので頭にあった候補の中の一つを殴り書きした。


「では順番に答えの方を発表してもらいましょう!まずは冴子から」


 宮島は先輩に促され、恥ずかしそうにフリップを立てた。そこに書いてあった答えは……。


 マグロ解体ショー。


 ……出来ないだろ素人の高校生に。築地市場か。まあただ実現したら伝説にはなるな。


「さすが冴子!素晴らしいとんがり具合だ!」


「よいぞさえこ!ゆいもマグロは大好きじゃ!」


 確かにね。普通の高校生の発想ではない。実現できるかは別にして。


「よし、じゃあ次に優衣!」


 ダークマター先輩は次に姫様を指名した。面倒くさくなったのか、いつの間にか司会者っぽい口調が元に戻っている。


「じゃーん♪ゆいのはこれじゃ!」


 かくれんぼ ゆい


 だあああああ料理関係ねええええええ!!でも超可愛いいいいい!名前付きフリップ超可愛いいいいい!


「決まりですね。今年の出し物はかくれんぼです」


「なっ……早っ!待て純。確かにとんがってはいるが、料理と全く関係がないしそもそもどうやってやるんだ」


「姫様が隠れます。それを僕が探します。終わりです」


「来場者を無視だと……!?ふーむ確かに斬新ではあるが」


 先輩は腕を組んで悩んだ。悩むことなど一つもない。かくれんぼ一択だ。


「とりあえずまだ三人残ってますし、全員の解答を見てから決めましょう」


 宮島が取り成すように間に入った。


「それもそうだな。じゃあ次は先生、お願いします」


「おーついに私の番だな!私はこれだ」


 日本酒飲み比べ祭り


「却下です」


「却下ですね」


「却下ね」


「きゃっかじゃ」


「なんだよ私のだけ!お前らはそこで日本酒に合うつまみを提供すればいいだろ?」


「外山先生、真面目にやってください」


「か、風早ぁ……。宮島が怖い」


 そんな助けを求めるような目で僕を見るな。それに今のは先生が悪い。ということで知らんぷり。


「じゃあ次に私だな。私のはこれだ!」


 料理研究部プレゼンツ、ディナーショー


 ……文化祭は朝の九時からなんだが。


「ディナーショーってことは何かショーをやるわけですよね」


「無論だ」


「そのショーって何をやるんです?」


「なんかこう……色々あるだろ。コーラにメントス入れたりとかニベアの風呂に入ったりとか」


「……それって何が面白いんですか?」


 恐ろしく冷たい表情で宮島が言った。


「ぐうっ……。じ、じゃあカードゲームをワンカートン買って家で開いて、それを同じ店に全部売るって言うのは……」


「……?その行動に何の意味が?」


「ううっ……じゅ、純助けて。冴子が怖い……」


 うん。確かに怖い。ていうかそろそろいいわこの流れ。


 まあショーのアイディア自体は再考するにしても、悲しい話だが今のところ先輩の案が一番実現できそうだ。


「で、では最後に純……。頼む」


 先輩に力なくそう言われ、僕は皆に見えるようにフリップを立てた。

 

 たこ焼き屋


「……チッ」


 あれー?聞き間違いかしら?なんだが舌打ちみたいなのが聞こえたんだけれど。


「ゴミ豚が」


 なにそれ?僕に言ってる?違うよね。僕はゴミでもないし豚でもないもの。


「個性ゼロ太郎が」


「言いいいいい過ぎだわさっきから!誰が個性ゼロ太郎だ」


「でも今のは風早くんが悪いわ。一つの面白味もないもの。まだ電話帳を眺めていた方が面白いわ」


「そこまで!?」

 

「まあ純の案はとんがりの欠片もない便所紙みたいな意見だったな。純らしくもない。お前みたいな人間はサッカー部にでも入って友達とカラオケに行った写真をインスタグラムにでも投稿してろ」


「そんなに!?」


「まあそれで純が本当にサッカー部に行ってしまったら私はむせび泣くがな」


「ゆいもじゅんいちがいなくなったらぜったいにイヤじゃ!」


「わ、私も……」


「私も生徒としてだが風早がいなくなったら悲しいぞ。あくまでも生徒としてだけどな」


 ……何の話?僕はタコ焼き屋って書いただけなんだけど。


「よしじゃあとりあえずこの中から決めるか」


「この五つの中から!?」


「たこ焼き屋と日本酒飲み比べはありえないから実質三つね」


 ぐっ……僕の案は日本酒飲み比べ並みにあり得ないのか。正直に言ってかなりショックだ。


 その後、先輩の発案で、これまでに出た意見の中から一人一回の挙手でどれを文化祭で行うかを決めることになった。

 ノミネートされたのは「マグロ解体ショー」、「かくれんぼ ゆい」、「料理研究部プレゼンツ、ディナーショー」の三つ。


 ……この中から選ぶのかよ。

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