夏合宿③
各々部屋に荷物を置いた後、一旦ロビーに集まり、今日の流れの打ち合わせが行われた。
「えー、本日から三泊四日、料理研究部の夏合宿をここ『静波荘』様で行う。くれぐれも館内を利用している他のお客様や、旅館の従業員の方々に迷惑をかけることのないように」
外山先生が僕たち生徒に向かって、まるで先生みたいなことを言った。僕はさっき先生の部屋にビールのケースを運ばされたばかりだから、てっきりこの人はお酒目的で観光で来ている一般の人かと思っていたよ☆
「この後の予定はどうなってる?」
「十八時より夕食で、それまでは自由時間になります」
僕の隣にいる金髪マントマスク女がそう言った。ねえ、本当にお願い。旅館だからそれ取りません?
さっきからすれ違う大人は目を合わさないように伏し目がちになるし、子供は子供で「あ!シャアだ!」とか言い出すし。違うよ坊や。この人はシャアじゃないよー。不審者だよー。見ちゃいけませんよー。
「そうか、まだ二時間あるな。では五分前に食堂『竹の間』に集合だ。君たちは高校生だから大丈夫だと思うが、迷子になったりしないようにな。特に宮島、お前は前科があるから気を付けろよ」
名指しで釘を刺された宮島は「ゔっ」と言った後、ごまかすように「はははー」と苦笑いをした。
さすが外山先生。宮島のことをよく分かっていらっしゃる。ていうかお前去年すでに迷子になってるのかよ…。
「姫は大好きなだいまおうしゃまから離れちゃダメだぞ?」
先生は屈みこんで姫様の頭を撫でた。姫様もニコニコしながら「はーいっ!」と元気よく返事をした。
それにしても自由時間か。急に言われても困るな。皆は何をするんだろうか。
「先生」
「ん?どうした」
「いや、急に自由時間と言われても、男一人で何をすればいいか思い浮かばなくて。皆はどうするんですか?」
「おーそうか!暇かー風早!丁度いい!十五分後に私の部屋に来い。五〇二号室だ」
ちょ、ちょっとなんですかその悪そうな笑顔!怖ッ!!別に暇って言ってないし!あ、笑いながらどっか行っちゃった…。まあいっか。宮島と一緒にでも行くか。
「さえこ、さえこ」
声のする方を見ると、姫様が僕の方をチラチラ見ながら宮島に話しかけていた。
「何かしら、姫」
「しーっ!こえが大きい!じゅんいちにきこえてしまう。これはないしょばなしじゃ」
姫様、その内緒話、全部ここまで聞こえてきております。
宮島は屈んで姫様に顔を寄せ、微かに僕まで聞こえるくらいの小さい声で「ごめんね、いいわよ」と囁いた。姫様も宮島の動作に合わせるように、顔を近づけ、宮島の耳元で囁いた。
「じゅんいちの、すきなどうぶつは何かの?」
姫様!そんなこと、宮島は知りませんって!内緒話にせず僕に直接聞いてください!猫です、猫!!テレパシーで伝われーッ!!!それーッ!!ねこーッ!
「猫とかじゃないかしら」
宮島すげええエェェ!!!絶対に適当で言ったくせに、ピンポイントで当てやがった!!
「なるほどの。りょうかいじゃ。礼をもうすぞ」
姫様は用事はそれだけらしく、ととととーっと走って大好きなだいまおうしゃまのもとへ向かった。その途中、一度僕の方を見て、目が合った瞬間に左頬を撫でながら「えへへー」と悪戯っぽく笑った。まるで僕に「たのしみにしておれよ」と言わんばかりの表情だった。
「当てずっぽうで当てちまうなんてすごいな」
僕が声を掛けると、宮島は急にムスッとした表情になった。ちょっと頬が膨らんでいる。子供か、お前の怒り方は。
「ふんっ」
声を掛けた僕に返事もせず、スタコラどこかへ行ってしまった。なんだよ、さっきの値札のこと、まだ怒ってんのかよ…。しゃーない、外山先生のとこには一人で行くか。




