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夏合宿②

 七月。夏休み初日の土曜日。僕たち料理研究部は学校に集合し、外山先生の車に乗り込んで合宿をする温泉旅館へと向かった。

 先輩や先生の話では、海が近く景色が最高の旅館で、温泉も料理も格別、ということらしい。

 えーっとこれ、観光じゃないよね?合宿だよね?


 サービスエリアで休憩も挟みつつ、車に揺られることおよそ二時間。料理研究部一行は目的の静波海岸に到着した。


「うみじゃ、うみじゃー♪」


 いつもは和服に簪の姫様が、今日は水色のワンピースに麦わら帽子姿で、ぴょんぴょん飛び跳ねながらはしゃいでいる。

 かわいいいいいイィィィィィィィィ!!!!!!!

 流石は姫様!!洋服を着ても「可愛い生物人間代表」間違いなし!!今人気のアイドルグループの一番人気の子の可愛さが百だとしたら、姫様の可愛さは八億くらいだな。もう本当に次元が違う。他の追随を許さないとはこのことだ。

 見てくれよこの子。これで、心まで綺麗なんだぜ…。


「うふふ、姫、嬉しそうね」


 宮島が僕の隣に来て、優しい笑顔でそう言った。今日は宮島も私服で、白いショートパンツに七分袖の薄い水色のシャツを着ている。脚なげー。ヘアピンも、学校では黒いやつだけど、今日はピンクの小さい花が付いたピンに変わっていた。


「…宮島の私服、初めて見た」


「な、何よ。ジロジロ見ないで。恥ずかしいじゃない」


 恥ずかしさからか、顔を少し紅潮させた宮島は僕から横に視線を逸らした。


「それで、…どうかしら」


「…いや、いいんじゃねーか?ファッションのこととか全く分からないけど似合ってると思うぞ。ヘアピンもいつものと違って可愛いし」


「そっか…。ありがと」


 そう言った後も、宮島は小さい声で何か言っていたようだったが、最後の方はよく聞き取れなかった。


「あれ、宮島。その服、何か首、ていうか肩のところについてるぞ」


「へ?どこかしら」


 宮島の首と肩の間あたりに、何か白い紙のようなものがくっついているのが見えた。慌てて宮島も手でそれを探す。


「今の手で触っているとこよりもうちょっと左だ」


「こっち?」


「いや、ちげえって。逆」


「もう、わからないわ。も、申し訳ないけど、風早君が取ってくれないかしら」


 仕方がなく、宮島に近づいた。僕が近づくと宮島は恥ずかしそうに視線を逸らし、下を向いた。

 や、やめろ。何か知らんがこっちまで照れる。ていうか、宮島まつ毛長っ!!!!ラクダかお前は。眼鏡とぶつかりそうじゃねえか。

 いかんいかん。僕は宮島の肩のごみを取るんだった。…ん、なんだこれ、紙か?あれ、布地とくっついてる。んー、引っ張っても取れないな…。ていうかなんだこの紙。反対側に何か書いてある…。よし、取れた!こ、これは…。


「その…ご、ごめんね風早君。もう取れたかしら」


「…いや、何でもない。何もついていなかった」


「どういうこと?だって、手に何か持っているじゃない」


「お前は見ないほうがいい」


「何よその言い方、気になるじゃない。いいから見せて?」


 仕方がなく、宮島の首についていた紙を渡した。宮島は紙を受け取ると、ひっくり返してそこに書かれた文字を読む。


 Mサイズ 超絶SALE‼7880円 


 どうやら宮島の薄い水色のシャツはMサイズで超絶セールで七千八百八十円らしい。紙を受け取った宮島は、プルプルと震え、みるみるうちに陶器のように白い肌が赤く染まっていく。


「ッ…!!風早君のばかっ!!」


 宮島は僕に向かって値札を投げつけ、凄まじいスピードでどこかへ消えていった。あいつ脚はえー。はぐれメタルかよってくらいの逃げっぷりだ。


 それにしても早速出ました、宮島さんの天然。ていうか何、僕が馬鹿なの?それは違うんじゃないかしら。


「優衣も冴子もあんなにはしゃぐなんてな。ふふ、やはりこれも純が部活に来てくれたおかげか。ただ、我々は部活の合宿できたわけだ。遊びに来たわけではない。純もそこは勘違いをしないようにな」


 振り返ると、背後からの声はダークマター先輩だった。

 頭には麦わら帽子、顔にはシュノーケル。首からは虫かごをぶら下げ、腰には浮き輪を付けて左手に虫取り網、右手にガリガリ君を持っている。


「あんたが一番はしゃいでるじゃねえか!!!!ていうかどれがしたいんだよ一体!!!」


「落ち着け、純。海は、逃げやしないさ」


 駄目だこの人、全然聞いていない。僕がツッコんでいるのに全然興奮していないもの。


 僕は現地についてからの部員の様子(特に二名)に一抹の不安を覚えつつ、三泊四日お世話になる静波荘に荷物を運んだ。

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