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夏合宿①

 七月も半分が過ぎ、そろそろ夏休みに入りますかねーという今日この頃。相変わらず日差しが眩しく夏真っ盛りで、校内放送では日射病の注意を呼びかけるアナウンスが流れている。


 うーん、こうやって室内の部活に慣れてしまうと、この間までテニス部として活動していた自分が信じられないな。今考えると、あの真夏の炎天下で、ラケットを元気に振って部活動なんて正気の沙汰ではない。まったく、エアコンは最高だぜッ!!


 そんなエアコンが快適に効いている料理研究部に、僕が入部して一月が経った。


 いやー、月日が流れるのは早いものですね。まさしく光陰矢の如し。


 思い返すとこの一か月、本当に色々なことがあったなと改めて思う。


 例えば…姫様と一緒に折り紙、姫様と一緒にお絵かき、姫様と一緒にピアニカの練習……。


 ……。


 料理イィィィィ!!!料理関係ねえエェェ!!!!ただただ姫様を愛でていたら一か月も経ってる!!!!


「ダメだダメだ、こんなことでは!!!」


「急にどうした?純」


 急に椅子からガタッと立ち上がった僕に対して、ダークマター先輩が訝しげに聞いた。


「どうしたもこうしたもないですよ!僕が料理研究部に入って二週間、まだなーんにもしてません!先輩はパソコン使ってなんか忙しそうにしてるし、宮島は読書、姫様はお絵かき…。この部活は料理を研究する部活でしょ!?それを毎日のほほんと過ごして…。皆さん、こんなんでいいんですか!」


「…3DS片手によく言うわね」


 眼鏡をクイッと上げて、宮島が冷ややかに言った。

 ぐうっ…。この無表情サイボーグめ…!


 だってあんたら二人、部活をする気が無いどころか、ぜーんぜん僕を相手にしてくれないんだもの!ずーっと自分のことをしているんだもの!持ってくるだろう、3DSくらい!


「うーむ…まあ確かに、純の言うことも一理あるが…」


 僕らが話していると、突如部室のドアが開いた。


「おーっす。熱心に部活に励んでいるかね諸君」


「あら、外山先生。お久しぶりです」


 入ってきたのは外山藍。僕と宮島の日本史の先生で、一年生の時の学級担任だ。


 鎖骨あたりまでの内側跳ねの茶髪に、しているのかわらないほどの薄化粧で、とにかく力のある目をしている。

 クラスの男子情報では、二十八歳独身。

 僕の印象では、とにかく竹を割ったような性格で、ネチネチとしたところが一切なく、自分の思った通り、信念に従って生きている侍のような人だ。


 僕が一年生の時、授業をサボって新作ゲームの販売に並んだのがバレた時も、「バカタレ」と一言いって辞書で僕の頭をガツンと叩き、「ルールは守れ、もうするな。以上」と言われ、今度は優しく肩をポンと叩かれ、帰された。小学校中学校と、今まで先生からは長ーいお説教を受けて来た僕には、外山先生のお説教はあまりにも衝撃的だったことを、今でも覚えている。


 そんな男気溢れる人にも関わらず、服装は何故かいつもスカート。今日も白い長めのスカートだ。


「久しぶりって…。宮島、今日の三時間目に私は君のクラスで日本史の授業をした覚えがあるんだが。なあ、風早」


 先生は呆れたようにそう言い、僕の方を見た。


「ええ。僕は授業をしっかり聞いていたので、もちろん覚えてますよ」


 ほんの四時間くらい前の話ですよね。うん、少なくとも久しぶりではない。


「へ…?え!?あ!そ、そうでした。すみません…」


 宮島の顔は一瞬にして真っ赤になり、一通りあたふたした後、申し訳なさそうに下を向いた。


 出た。宮島がたまに出す天然。


 宮島は日頃の無口無表情からクラスではロボットとか、サイボーグとか言われている。しかし同じ部活になって一ヶ月、ただの天然ドジっ子でとても人間味あふれる奴だということがわかってきた。


 例えば今週の宮島は、眼鏡をかけたまま眼鏡を探したことが一回、プラグが抜けたポットを壊れたと勘違いしたことが二回。僕のことをママと呼んだことが八回。

 クラスで気を張って無口無表情を貫いている分、部室だと気が緩んでしまうのかもしれない。まあ部室にいるときの宮島の方が、素の宮島に近いということは間違いないだろう。


「…私の顔に何かついているかしら」


 僕の視線に気づき、俯いていた宮島が顔を上げて無表情でこちらを向いた。


「…何でもねーよ」


「それにしても、まさか風早が料理研究部に転部するとはな。お前はいい部活を選んだよ」


「先生が顧問なんですか」


「ああ、そうだ。ふふ、私では嫌か?」


「いえ、正直けっこう嬉しいです」


 お世辞ではなく、素直にそう思った。外山先生は僕にとって、家族を除いて一番信頼のできる大人だ。これから活動をしていく中で、先生の存在はかなり心強い。


「けっこう嬉しい、か。ははは!」


 外山先生は豪快に笑った。


「それはそうとお前ら、今週末からの合宿だが、参加は四名でいいのか?」


 ……え?合宿?


「はい。私以外の三年はやはり参加は厳しいようなので、ここにいる四名が参加になります」


「そうか。だったら私の車一台出せば大丈夫だな」


「がっしゅく♪がっしゅくー♪」


 姫様は嬉しそうにぴょんぴょん飛び跳ねている。かあわいいいいいい!!!!

 待って姫様!そのまま!今スマホでムービーを…!ああ、やめちゃった。くっ、惜しかった…。


 ていうかちょっと待ってくれ!!何?今週末から合宿行くの!?


「ちょ、まっ…先輩!合宿って」


「あ、すまん!純に言うのを完全に忘れていた。今週末から料理研究部伝統の夏合宿に行くんだ。なに心配するな、必要なものなんて何もない。三泊四日分のパンツと歯ブラシだけ忘れないようにな。あ、あと泳ぎたければ水着も」


「そうじゃぞ、じゅんいち。ぱんつと歯ぶらしじゃぞ。あとみじゅぎじゃ」


 なんだその急展開!!まだまともな部活動一日もやってないのに!!ていうかみじゅぎって何!?泳ぐの?遊ぶの!?



 そして、週末。


「日差しが、日差しが眩しい…」


 僕はいろんな年齢の女子四人と、海にやって来た。


 ふふっ。こいつは何かが、起きそうだぜ。

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