金の鈴、銀の鈴
人を呪わば穴二つ。
むかしむかし、あるところに
それはそれは美しい双子の姉妹がいました。
白磁の肌に、芙蓉の顔、柳の眉。
夜目 遠目 笠の内の娘が妬むほど。
噂を聞いた国王が『二人を嫁に』
両親は『是非に』と送り出しました。
姉にはころころ良く鳴く金の鈴、
妹にはしゃんしゃん鳴く銀の鈴。
家が恋しくなったらば、
鳴らして耐えよと母様が。
金の鈴には赤い紐、
銀の鈴には青い紐。
村が恋しくなったらば、
赤い日出と日暮に青き日中、
二人で耐えよと父様が。
二人を嫁にやりました。
さて、面白いの面白くないって。
村娘と妾達の形相の凄まじさ。
蝶よ花よと育てられ、
参りました 絶世の美女。
美貌の代わりに鎮座する巨大な巨大な自尊心。
我慢ならんと娘らは姉妹に呪いをかけました。
夜な夜な歌が聞こえます。
呪いの歌が、怨めしや。
姉妹は歌で眠れません。
みるみる痩せ干そっていきます。
――ころころ しゃんしゃん ころころ しゃんしゃん――
一つ、日出 日中 日暮には
(姉様も聞こえますか、あの歌が)
二つ、逃げねば刃傷 気を付けやんせ
(毎夜毎夜、あの歌が)
三つ、妙齢 芳紀は 気を付けやんせ
(おお、私たちが何をしたと申しますか)
四つ、良からぬ姉妹には
(妹や 私は怖い)
五つ、怒れる鬼が お仕置きぞ
(私もです姉様 どうなってしまうのか)
六つ、無理くり 連れてくぞ
(他の者には聞こえない)
七つ、鳴かぬ蛍や 今 参る
(足音さえするような)
八つ、夜叉か 般若か 怨めしい
(ああ、よく身体が動かない)
九つ、こちらか? あちらか? どこじゃ
(もう、身体が起こせない)
十で、とうとう 見ぃ つ け た !
(瞼さえ もう開けない)
――ころころ しゃんしゃん ころころ しゃんしゃん――
常世で会おうと指切りを
二人は眼を閉じました。
すると二人は同じ夢。
真っ暗闇の夢でした。
二人はそっと手を繋ぎ、
やっと終わったと安堵しました。
すると、おやおや。
どこからか、声がします。
母様の声です。
『呪った娘達を恨むかね』
姉妹は首を横に。
『恨みながら逝くよりも』
『許して 恨む前に 逝きたい』と。
父様の声です。
『遺していく我等を恨むかね』
姉妹は首を縦に、涙と共に。
『育て上げて頂いたご恩』
『御返ししてから 逝きたい』と。
――そうか――
――そうか――
父母の声が重なった
刹那、真っ白な光が溢れます。
溢れた一瞬、たくさんの
鎖に繋がれた何かしらを
引いていく
父母の背中が見えました。
目を覚ますと朝でした。
二人はようやっと
ちゃんと眠れていたのです。
健やかに二人が回復するうちに
流行り病で人が 亡くなります。
不思議なことに、二人を
妬んでいた娘ばかりが亡くなりました。
元気になった美しい姉妹。
王様はたいそう喜ばれ、
欲しいものはないか訊ねます。
実家に1日、帰りたい。
二人の願いはそれだけです。
王様は必ず帰って来るのを条件に、
二人の願いを叶えます。
久方ぶりに帰った家には
やはり
優しくて厳しい母と
厳しくて優しい父の
骸に蛆がわいておりました。
人を呪わば穴二つ。
憎悪に気付いた両親が
姉妹を妬む相手を呪い、
共に彼岸へ行ったのです。
姉妹は泣いてすがります。
涙も枯れ果て、
見送ると姉妹は城に戻ります。
歌の聞こえぬ夜
姉は妹の為に赤い紐の金の鈴に
妹は姉の為に青い紐の銀の鈴に
たった一つ、誓いを。
貴女を守るために生きる。
その晩、二人の女王が生まれ
王はお隠れになりました。
商売に栄え、平和な国。
二人の女王はお互いに
お互いを支えて生きました。
それはそれは仲睦まじく、
国を治められていました。
隣国の王子を二人で取り合うまでは。
めでたしめでたし。
やっぱり我が身が一番か。