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プロローグ:審判

転寝をするには随分と心地いいものではない雰囲気がある戦場で、まるで我が家の如く眠る者がいた。それはカラス・S・フラメル。遠くではエインヘリャルと、それを迎撃する連合軍が剣を交えている。数で勝るのが連合軍であれ、遅れを取らせないのがエインヘリャル。戦力差は第三者の目でも圧倒的でありながら、実際の戦力では五分であろうか。

連合軍を取り仕切る姫神蔵人は、眼前エインヘリャルの進行を食い止める連合軍を見据えながら、疑問を浮かべていた。個々の能力の差はあって当然であろうが、なぜこの戦力で五分なのであろうか。


連合軍東洋部隊は、その手に魔法を宿し、あるいはエインヘリャルを迎撃し、あるいは味方に補助魔法をかけた。指揮を執るのは鳴海優菜。彼女は後に『東洋の女神』と呼ばれる、世界唯一の白魔法の使い手であった。

遠距離攻撃を持ち前とする東洋軍、しかし、それでも魔法を扱えないエインヘリャルを完全に抑え込むことができずにいた。


戦争は2年と2ヶ月にも及んだ。


しかし、戦争が終えてもカラスが見つかることは無かった。












どこまでも暗い闇の中を歩いていた。それは、夢や希望を世界から奪ったような世界。絶望に覆い尽くされた悲しい世界に見える。ただ、1人世界に取り残された気分だった。

宛も何も無く、理由も意味もない中を歩いていた。時折見える希望に満ちた光明は、他の誰かに取られ消えていく。




「…っ!!」


「あら、起きたのですね?」


俺、姫神霞はベットから飛び跳ねるように目が覚めた。息は荒く、汗が飛ぶ。…どうやら、先程のは夢だったのか。それはどこかほっとするように、また悲しみが襲ってくるような感覚を霞に与えた。

目が覚めて最初に見たのはアルカナだった。昨日と同じようにベットに腰を下ろして、昨日とは違いリンガルの実の皮を剥いていた。器用にナイフを使って、起き上がった霞を目で一瞥する。


「なんだ…夢でよかった。」


「夢でよかった、とはまた希望的観測ですね。あなたがどんな夢を見たかはわかりませんが、夢が現実になる確率は3割と読んだ方がいいですよ。」


「あの夢が現実になったら俺はそれこそ自分を殺しかねない。」


「だからこそ、なんですけどね。あ、リンガルの実が剥けました。どうぞ。」


アルカナに差し出された、綺麗に皿に並べられたリンガルの実を一つ手に取る。白い果実が水っぽく潤み、指先にはしっとりとした感覚が伝わる。口の中にいれると、リンガルの実特有の甘酸っぱい味が広がっていった。

もう一つリンガルの実を口にしたところで、アルカナが口を開いた。


「そういえばですが、どうやら世界が大変になりましたよー。って、なんか創作物のテンプレの言葉を残しときます。」


「お前のその話し方が危機感を与えないんだけど、どんな大変?」


「簡略に言いますと戦争が起きます。四大陸を巻き込んだ、それこそ天地開闢の侵略なんかがお遊びに見えるほどの。」


「…なんだって?」


これまで学校の講座や両親の話からも何度も耳にしてきた天地開闢の侵略。それを上回る戦争が今起きたとアルカナは口にした。もちろん、信じるわけがない。四大陸は現在、北欧代表の石動丸徹によって和親条約を結んでいる。それだけではなく、世界は北欧の龍神を戦力的に恐れている状態だ。争いが起きれば北欧に叩かれてるのは明白な状況。それに、北欧自身が世界に戦争の火種を落とすとは考えられない。

アルカナはリンガルの実を一つ口にすると、うーったまりませんねこの味、と言ってから霞に向き直し口を再び開く。


「詳細は不明です。ですが、昨日に魔法液晶の世界放映が四度行われ、格大陸代表が、戦争を起こすことを表明しました。これにより、格大陸も代表国を中心に軍備体制を整え始めています。まぁ安心してください。帝国バスティーユは西洋代表国の帝国ツェペシュのバックアップがとれています。他国の侵略より迎撃する準備はとれています。あれでも王女のアリシアですから、問題は無いと思うんですが。」


「まてよ…アルカナ、君ってまさか帝国ツェペシュの王族マクレシア家なのか!?」


「えぇ、そうですよ。言ってませんでしたね。私はマクレシア家の長女です。ただ王族を継ぐ気が無かったので、妹のアリシアに託して私は帝国バスティーユに亡命、って形なんですけどね。あなたが仮に他帝国に行くのなら、私の話はしないでくださいね?」


アルカナは片手でわりーって形を作って頭をぺこりと下げる。その後はこの話題を終わりだと決めつけて咳払いをする。霞はツッコミたい気持ちが沢山あったのだが、報われないアリシアに健闘を祈りつつ、アルカナに引き気味の顔を向けた。


「さて、私の身内共々の話は置いときまして、あなたにはこれからリハビリをしてもらいます。」


「リハビリ?俺別に普通だけど?歩けもするし、話すことも考えることも、不自由なんて何一つないぞ?」


「…なんと、そうだったのですか。いえ、失礼。同じラグナロク遺伝子の感染者のブレア君は体の不自由が見つかりましたので。てっきりそうなのかと思ったのですが…まぁあの姫神蔵人さんの息子なら、隕石一つで怪我するわけないですね。」


人間には変わりないから隕石落ちたら普通は死ぬ、と反論したかったが生存者2人で、もう1人は不自由になった事実がある以上、なんとも言えなかった。だから、霞の顔は苦虫を噛んだような顔になった。それでもお構いなく話すのがアルカナであるわけで、


「仕方ないですね、折角リハビリ用の資料を作ったのですが、体に異常がないなら何よりです。」


アルカナは手元の資料をゴミ箱にぽいっと投げ入れて、立ち上がった。んーっと伸びをした後にまた、霞に向き直る。


「ではあなたにはブレア君の話し相手になってあげてください。まだラグナロク遺伝子の研究が終わってませんので、他の孤児に会わせられないのですが、同じ境遇のブレア君なら大丈夫です。彼、家族を失って心を閉ざしているので。」


「俺は構わないけど、それならアルカナの方が向いてるんじゃないのか?」


「おろ?あなたと出会って二日しか経ってませんのに、そこまで私のこと言っちゃいます?好きなんですか?」


「…。」


「あぁ、冗談ですので、その怖い顔やめてください。私がブレア君に話しかけても、何も答えてくれないのですよ。ただ、あなただったらと思って言ってみました。まぁ、矛盾する事になりますが、希望的観測ですね。…ブレア君の部屋は出てすぐ左です。」


最後に自虐的に笑うと、アルカナは部屋を後にしていった。

霞はどこか思いふけるような表情は浮かべたものの、決心がついたのかアルカナの後を追うように部屋を後にした。





ルシファーは酷く憤怒していた。最高神オーディンにより神の格を失い、剰え今まで下僕のように扱ってた天使と同格に落とされた。自分が見定めた世界は、同時期に神へと格を上げたアフロディーテに奪われた。

その時、ルシファーの生やす羽が黒く染まった。ドス黒く湧き上がる感情がルシファーの心を染めた。ルシファーは剣を握りしめ、オーディンがいるアウグスティヌスを目指した。





霞が最初に目にしたのは、項垂れたブレアの姿だった。ベットに半身起き上がらせてはいるものの、その体は包帯まみれ。頭を垂れて、ラグナロク遺伝子特有の赤髪が目元を隠していた。


「…ブレア・オルメス。ラグナロク遺伝子の感染者。」


なんて声をかければいいかわからなかった、 が、自然と霞の口からはそう言葉が出ていた。しかし、名前を呼んだにも関わらず、ブレアはピクリとも反応しなかった。霞は特に気にすることなく、ベットの方へと歩を進めた。


「家族を失ったショックは俺にもわかるさ。」


「…。」


その言葉に帰ってくるのはまたしても沈黙。痺れを切らしたのか、霞はブレアの胸元を掴み、視線を無理矢理合わせる。


「俺を見ろ!お前と同じラグナロクの生存者で、ラグナロク遺伝子の感染者だ。甘えんなよ、お前だけが苦しんでるわけじゃないんだ…。」


「あ…。」


ブレアは定まらない目ながら、その目を見開いた。そこに見えたのが同じ、赤い瞳に赤い髪の少年。それだけで、帝国バルカロスに住んでいてラグナロクの生き残りだとわかった。霞はブレアから手を離すと、次は右の手をブレアに差し出した。


「俺は姫神霞。帝国バルカロスに住んでいた、ただの人間だったやつだよ。」


ブレアはそんな霞をみつめていると、おのおのと自分の右手も出す。そして、そのまま霞の右手を掴む。所謂、握手。


「ブレア・オルメス、です。帝国バルカロスの。」


その言葉を聞けると、霞はニカッと笑みを浮かべて、アルカナと同じようにブレアのベットの足元に腰を下ろした。まだ緊張が解れないのか、ブレアは視線を右往左往していたが、霞が口を開くと、視線を霞に合わせる。


「俺はな、ラグナロクが起きた時に剣術所にいたんだ。光が瞬いた時は驚いたし、目が覚めて全てを知った時は一日中泣いていたさ。剣術の先生も門下生も、母さんまでも死んでしまって。でも、俺は生き残ってしまった。何度も悔いたし、昨日は悪夢に魘されたさ。」


苦笑いを浮かべながら、霞は自身のことをブレアに語りかけた。何故こんなことを話したのか、霞自身にもわからなかったが自然と口にしたのがこのことだった。ブレアも時折頷きながら、霞の言葉を聞いていた。話をしているうちに、話題は移り変わる。段々と明るい話題になっていったのか、ブレアの表情も晴れていく。時折笑い声も混ざりながら、一時の幸せが部屋を満たしていた。

部屋の外、扉の横に体を預けていたアルカナは笑い声が聞こえてきたことに満足したのか、一度頷いてからその場を後にしていった。














「うぇー、アルカナ・マクレシアですよー。」


発信音が鳴る魔法水晶を取り出して、発信元の名前表記を見て顔を引き攣らせたが、気だるげな返事で応答した。


「…。えー、嫌に決まってるじゃーん。そもそも私はもう王族じゃなく、ただの科学者だしぃ。…。…。はぁ、勘違いも甚だしいですね。」


アルカナはため息を吐くと、いつもは死んだ魚の目をしているのを、鋭い鋭利な目に変えた。そして、水晶の向こう側にいる人物を睨みつけながら、言葉を続けた。


「アリシア、あんたはもう王の器じゃないわ。ラグナロクに魅入られて狂ってる。それがラグナロクの選択だとしてもよ。私の頭脳は科学者の頭脳、堕ちた王族に使うものじゃないわ。ラグナロク遺伝子の解析も進んで、わかったこともある。…あなたが私にラグナロクを見せたとしても、私は思い通りの行動を取らなくなってるの。それじゃ、せいぜいあなたの知能で世界に戦争吹っ掛けてみな。」


それはいつものアルカナなどではなく、冷ややかなオーラを纏ったアルカナであった。アルカナは魔法水晶を強制的に切ると、壁を一度ダンッ!と殴った。落ち着いたのか、ふぅと息を吐いた時には、もういつものアルカナに戻っていた。

…これがラグナロク遺伝子の副作用なのですね。これだとブレア君が怪我した理由もわかりますが、霞君はどうやら規格外になりますねぇ…。


「ごほっごほっ…。」


アルカナが口を手で覆い咳をする。手を見ると、そこには血が付着していた。

…どうやら私の体には適合しないらしい、ですか。


アルカナは浮かぶ月を見据えて、もう一度大きな咳をした。














「コンコン、っとぉ扉が開きますよぉ。」


「…。」


「あ、すみません。」


口だけのノックをしながらアルカナが扉を開くと、着替えの最中なのか、上半身裸の霞と鉢合わせになった。謝りはするものの、そのまま部屋に入っていきベッドに腰を下ろした。


「あ、リンガルの実をまたもって…」


「いいから1回出てけ!」





「いや、ほんとすみません。そういうの気にしない人かと思ってましたね、はい。あ、リンガルの実剥きましょうか?」


「…はぁ、反省の色なしかい。」


一度部屋から追い出して着替え終わってから説教はしたものの、どうにも反省してないアルカナにため息を吐きながら、霞はベットに腰下ろした。あっ、とアルカナが思い出したかのような声を出すと、霞の顔をまじまじ見つめて語り出す。


「あなたは、本当に体に異常はないのですね?」


「うーん、本当にこれと言って何も無いんだけどなぁ。」


「吐血等は?」


「ない。」


「突然の目眩は?」


「ない。」


「では視力の衰え等は?」


「…なぁ、そういうのあったら直ぐに報告するぞ?まるでその症状が出ることが分かりきってるような物言いだな。」


そう霞が返すとアルカナは黙り込む。昨日、リハビリの必要が無いことを伝えて、それを了承したわりには随分と質問攻めしてくることに霞は疑問を抱いた。無論、心配される立場なのは充分弁えているつもりではいるが。


「そうですね…。えぇと、話しますね。すみません。あなたの中にあるラグナロク遺伝子は、現在分裂を繰り返して、数を増やし続けています。あなたをここに引き取った日にその中のラグナロク遺伝子を少し回収して研究したんですが、私は昨日、そのラグナロク遺伝子を私に注入しました。」


「おい…まだ未知な遺伝子を自分に投与したのか?」


「はい、どうやら私の体には適応しないようでして。先程言った症状が起きるんですよ。あぁ、もちろん何も考えずに投与した訳ではないですよ?一つ、研究の過程でわかったことがあります。」


アルカナは言葉を一度区切ると、持参したファイルを取り出す。霞が見れば意味不明な文字の羅列に見える資料のだらけだったが、その中から1枚の写真付きの資料を取り出して、霞に差し出す。受け取りその資料を見るが、文字は理解できない。が、載ってる写真は目にしたことがあるものだった。


「人の体のレントゲンか?」


「…勉強不足ですがまぁ構いませんよ、この際。ここ、よく見てください。心臓の真下に本来ならある筈のない臓器が見られるんですよね。これはあなたのレントゲンになりますが、もちろんブレア君にも見られます。」


「これは…。」


「大方、予想通りって所ですかね。これは細胞でできていません、臓器にして遺伝子で構成されています。そう、ラグナロク遺伝子で。」


霞の予想と寸分狂わぬ答えが返ってきて、驚きはしなかった。しかし、不安も募る。これがラグナロク遺伝子によって構成されている以上、何も理解出来てない、どんな作用を起こすかわからない臓器が体内に存在することになる。自分の心臓の真下に右手を当てて、アルカナの言葉を待つ。


「この臓器、人体に悪い影響を与えるものはないので安心してくれて構いませんよ。ただ、分泌される細胞、仮にラグナロク細胞と呼びましょう。これは血液を通して全身に流れる動きをするのですが、どうも個々によって現れる症状が違うんですよねぇ。ブレア君、犬歯が生えたらしいんですが、あなたにはありませんし…。あ、もしかして生まれた時に生えてました?」


「いや、それはないな…。見た目の変化で言うなら俺は多分ないと思う。自分で見れるところにはないと言いきれる。」


「そうですか…。」


再び考え込むようにアルカナは黙り込む。自分で立てた仮定に、新たな情報を加えて答えを導き出す。または、新たな仮定に作り替える。それでも自分の中で納得がいっていないのか、むぅーと声を洩らしている。


「考えてもわからないことってあるんですよね、科学の世界って。いや、これ科学ですか?というより、私科学者なんですよね。あ、知ってますか。医者じゃないのに、なぜ医者のようなことをしてるんでしょう?疑問が広がるし、疑問が解決しないし、疑問が疑問が疑問が…。」


「まぁ、なんだ、リンガルの実でも食うか?」


「いただきましょうか。」


霞の問いかけに僅かな時間を有さずに返事をするアルカナに、霞はただただ苦笑いを浮かべていた。一つ、リンガルの実を手にして果物ナイフで皮を剥いていく。ワクワクした表情を浮かべてくるアルカナを見て、子供みたいだなって思い、少し口元に笑みが浮かんだのには、霞自身、気づいていなかった。

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