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剣と魔法と七体の人工精霊  作者: ひろっさー
第三章 魔の森
98/219

98 街道の兵士


 裕二とバチルはタルソットから南下しサレム王国のシェルラックと言う街を目指す。

 アンドラークの王子、マサラートからは馬と大量の金貨。そして、シェルラックに常駐するアンドラーク軍への紹介状を受け取った。

 現地では彼らとその施設が裕二達の助けになってくれる事だろう。


「その施設の空き部屋に泊めてもらえるから、宿を探す必要はないな」

「ごはんも出るニャ?」

「どうだろうな。でも都合良くバターソテーは出ないと思うぞ」

「ふニャァ……そんなのずるいニャ」

「いや、ずるくはねえよ」


 だが、気になるのは現在のシェルラック。そしてヴィシェルヘイムの状態だ。

 強力なモンスターの跋扈するヴィシェルヘイム。その最前線にあるシェルラック。

 パーチからは人が足りてないとは聞いているが、詳しい事はわからない。しかし、それだけモンスターも多く現れる事は容易に想像出来る。

 それにヴィシェルヘイムの先には、魔人の棲家があるとも噂される。彼らと遭遇する確率も今までよりは上がるだろう。とは言っても魔人はなかなか人前には現れない。結局のところステンドット子爵と戦っても魔人が現れる事はなかった。しかし、ステンドットが魔人と繋がりがあったのは確実だ。

 魔人の矢尻とベヒーモスを召喚した指輪。そして、彼のとった行動は魔人の存在を強く示している。奴らは確実にいる。

 いずれにしても、よほど警戒しているのかなかなか現れない魔人。テリーとともにエンバードでその姿を目撃出来たのは運が良かったのか、とも思えてしまう。

 だが、魔人が人前に堂々と現れる時。それは今とは状況が大きく異なっているのかも知れない。


 裕二はそんな事を考えながら馬を走らせる。


「ペルメニアの軍事施設もあるらしいから、そちらには近づかない方が良いな」

「何でニャ?」


 一応大丈夫らしいが、裕二としては警備兵を倒してしまった負い目がある。まかり間違ってペルメニアに送り返されたら面倒だ。

 バチルも勝手に休学した事は本国には知らせていないようなので、もしペルメニアに送り返されたら困るだろう。


「ニャるほど。それはいやニャ」

「だろ。だから向こうではあまり派手にケンカはするなよ」

「了解ニャ」


 二人はそんなやり取りをしながらシェルラックへ続く街道を先へ進む。

 その街道の周りには平原が広がっているが、右手の先には森が見える。そこは既にヴィシェルヘイムだ。

 ヴィシェルヘイムは広大な森で今いる場所はその一部に面している。シェルラック近辺と比べたらほとんどモンスターは現れないのだろう。割りとのんびりした雰囲気だ。


 ヴィシェルヘイムの全体像はハッキリとはわかっていない。

 わかっているのはそこがとても広大である事。その先には深い谷がある。

 シェルラックから見た森の両端。その外側は海になっていてある程度はそこを船で進む事も可能だ。しかし、ヴィシェルヘイムの先、その地形は半島になっており周りは絶壁になっているので上陸は難しい。更にその絶壁にはワイバーンが群れをなしているのでよじ登る事も不可能。そんな事をすればたちまちワイバーンの餌になってしまう。

 そのような状況なので森の先は高地と推測されている程度だ。人を寄せつけない隔絶された土地と言える。そこに魔人が棲むと噂されてもなんら不思議ではない。


 今、裕二達が見ているのは普通の森と変わらないヴィシェルヘイム。だが、その奥へと足を踏み込めば踏み込む程、強力なモンスターが現れ人々の行く手を阻むだろう。


 程なくして、アンドラークとサレムの国境となる関所が見えてきた。そこには数名の兵士が槍を交差させ一旦そこで止まるよう促している。


「なんニャあれ?」

「関所だな。あそこが国境だろ。俺たちは問題なく通れるはずだ」


 関所を通るには馬、馬車の数。貿易品と見なされる品の量に応じて料金を払う。

 裕二とバチルは見た目には冒険者で荷物も少ない。通常なら馬二頭分の料金を支払えばそこを通過出来る。しかし、裕二はマサラート王子の紹介状を持っているのでその必要はない。

 裕二はそれを関所の兵士に見せた。


「これは……マサラート王子殿下の紹介状!」

「ああ、通れるだろ?」

「ええ……通れる事は通れますが……」


 その兵士は少し言い淀む。何か別の問題があるようだ。


「先程、森と街道の境界を警備している兵士から連絡がありまして、この先、数体のキュクロープスが現れているとの事です」


 キュクロープス。そのモンスターは端的に言うと巨人だ。

 ボサボサの髪の毛。青い肌に尖った耳と牙。体長は四〜五メートル程。数体の群れで行動し、手には棍棒のような武器を持っている。その力は強く、馬車など一撃で破壊されてしまう。

 なので、ここを通過する商人は隊商を組み必ず護衛を付ける。そこに現れるモンスターに対応した罠なども予め対策しておく必要がある。


 兵士が言い淀んだ理由はそこにある。

 冒険者ではあるがたったの二名。王子の紹介状を持つならそれなりの人物だ。通さないワケにはいかないが、二名では危険すぎる。


「討伐の報告があるまでここで待機された方が良いかと」


 それを聞き俄然張り切り出したのは……


「ニャに! 巨人ニャ?!」

「お、おいバチル」

「見たいのニャアアア!」


 バチルは馬をすっ飛ばして国境を越える。裕二は兵士に苦笑いをしながら慌てて追いかける。残された兵士はキョトンとしてそれを見送るしかなかった。


「ニャッハッハッハ! 一流の巨人のシェフをぶっ倒すニャ!」

「やれやれだけどバチルなら仕方ないか……」


 裕二も諦めてバチルに続く。やがて遠目にキュクロープスらしきモンスターが見えてくる。近づくにつれその全容もわかってきた。


 キュクロープスの数は五体。そのうち一体は倒れているので残りは四体。周りは三十名程の兵士がおり、モンスターを取り囲んでいる。

 キュクロープスは見た目の戦力からすると、裕二がかつて何度も倒したレッドベアに相当しそうだ。

 普通の森なら最上位のモンスター。だが、裕二にとっては大した敵ではない。力のゴリ押しで勝てる。


 しかし、一般兵士の戦い方はそれとは違う。どうやら足を狙って攻撃をしている。

 鉤爪の付いたロープをキュクロープスの足に巻きつけ、そのロープの先を近くの木に結ぶ。それをいくつもやって拘束してから攻撃するようだ。

 レッドベアよりも足が細く長い分、有効な方法と言えるだろう。彼らは慌てる事なくキュクロープスを捉えようとする。この様な兵士達が知恵を絞り、ヴィシェルヘイムとの境界を守っているのだ。

 とは言ってもかなり時間のかかりそうな作戦でもある。拘束出来るのは一体ずつ。残りは威嚇しながらそれと分断する必要もある。彼らにとって、決して楽な戦いではない。気を緩めれば一撃で殺されるはずだ。


「ニャは! ニャは!」


 そこへ突っ込んで行くバチル。


「何してる! 危ないぞ!」


 ひとりの兵士がそう叫んだ。しかし、それであのバチル・マクトレイヤが止まるはずもない。

 馬を飛び降りたバチルは即座に剣を抜き風のような速さでキュクロープスに突っ走って行く。


「ニャアアア!」


 バチルは走りながら一閃。その直後にキュクロープスの足がスッパリと斬られ、バランスを失い倒れた。


『グオオオオ!』


 キュクロープスは悲鳴を上げる。すかさずバチルは倒れたキュクロープスの首に剣を叩き込む。

 ほんの数秒。いや、もっと短いだろう。バチルは一体のキュクロープスを仕留める。


「弱いニャアアア! 纏めてかかって来いニャアアア!」


 バチルの言葉が通じたのか、それとも仲間の断末魔の悲鳴を聞いた怒りなのか。他のキュクロープスがバチルに棍棒を振り上げて向かってきた。


「ソニックディストーション!」


 いつの間にかバチルのすぐそばに来た裕二。キュクロープスに魔法を放つと残りの三体は勢いを失い膝を突く。


「ニャッハッハッハ! 纏めて――ニャ!」


 膝を突いたキュクロープスに剣を抜いた裕二が斬りかかり一体、二体と首を取る。その巨大な頭が地面落ちると同時に、裕二はバチルに目で合図を送る。


 ――残しとかねえとうるせえからな……


「なに人の獲物かっさらってるニャ!」


 元々は警備兵の獲物だが、そんな事はバチルに関係ない。


「いいからさっさと倒せ! 俺がやっちまうぞ」

「それはダメニャアアア!」


 裕二の魔法により弱った最後の一体。バチルは慌ててその首を取った。


「かかって来いニャアアア!」

「もういねーよ」


 唖然とする兵士たち。

 おそらく彼らだけでもキュクロープスを倒す事は可能だった。しかし、それには多くの時間を費やし少なからず怪我人、下手をすれば死者も出る。そこで消費する物資も馬鹿にならない。

 バチルの暴走により、兵士の助かった部分は多いだろう。その中のひとり、責任者らしき人物が裕二達に声をかけてきた。


「いやあ、助かった。礼を言う。君たち凄いな」

「いえ。こちらもちょっと暴走したので。コイツがですが」

「ニャッハッハッハ。かかってこいニャ」

「私はアンドラークのシェルラック駐屯部隊。街道警備兵小隊長のビスターだ。君たちは冒険者だろ。シェルラックに向かうのか?」


 この道を通るのならば行き先はシェルラック。そして、そこへ向かうのは大抵兵士、冒険者、もしくはそれらを引き連れた隊商しかない。

 通常たった二人でここを通る者は稀なのだが、先程見せられた戦力ならば問題はない。小隊長であるビスターはそう考えた。


「良かったら我々と行動を共にしないか? 行き先が同じなら問題ないと思うが」


 裕二としてもスムーズに目的地へ行けるので願ったりかなったりだ。どうせマサラートの紹介状を見せる為にアンドラークの駐屯地へ行くのだから。


「アンドラーク兵ですか。そうですね。ところで、これは誰に渡せば良いのでしょう」


 裕二は懐からマサラートの紹介状を出しビスターに見せた。


「これは……マサラート王子殿下の紹介状! 宛先はオーメル将軍ですね。失礼致しました。どうやらあなた方は我らの客人のようです」


 先程までフレンドリーだったビスターは、それを見て慌てて畏まる。

 その紹介状も駐屯部隊の責任者であるオーメル将軍と言う人物に宛てたものなのでビスターが中を見る訳にはいかない。


「では、参りましょう」


 裕二とバチルは、ビスターの率いる街道警備兵とシェルラックへ向かう事になった。


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