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剣と魔法と七体の人工精霊  作者: ひろっさー
第二章 冒険者になろう
96/219

96 前世からの


 ステンドット子爵は倒されベヒーモスも全て片付けた。ステンドットの元に集まらなかった兵士も全員投降し、抵抗する者もなく事が運んでいった。彼らもステンドットの正体は知らなかったのだろう。

 タルソット村の中央には天幕が設営され裕二、バチル、テパニーゼはそこに招かれる。招いたのはアンドラーク王国第一王子、マサラート・アンドラーク王子だ。


「ユージ、テパニーゼ、そしてバチル殿。皆には大変迷惑をかけたようで申し訳なく思う」


 王子はそう言って頭を下げた。とは言ってもそもそも裕二には何故王子がこんな場所にいるのか良くわかっていない。


「それは良いんですけど……」

「殿下。そちらにおられるのは殿下の護衛騎士。ヘス・ローランド卿とお見受け致しますが」


 テパニーゼが王子に問う。


「その通りだ。ヘスには極秘任務を与えそこにいるユージを探してもらっていた」

「へ? 俺を?」

「済まんなユージ。実は最初からお前の事は知っていた。本当にユージが存在するとは正直あまり思っていなかったが」


 ヘスがそう答える。彼は裕二を知ってはいたが存在するかは半信半疑だったと言う。それについてマサラートが詳しく話しだした。


「実は……余は幼少の頃から何度もユージに関する夢を見ていた」

「夢?」


 マサラートの夢の中に何度も現れる黒髪の少年。何故か彼はその名を知っていた。

 夢には様々なものがあったのだが、最近になり裕二がアンドラークに現れる夢を見始めた。


「余はそれを確かめてみたくなった。夢の情景を詳しくヘスに話すと、そこがパーリッドではないかと言った」


 ヘスは王子の命を受け、パーリッドへ向かう。その時は半信半疑だったのだが、そこに冒険者登録をしにきた裕二を発見する。


「それでも半信半疑だったけどな。でもユージがチンピラをあっさり片付けただろ? あれを見てもしや、と思ってな」

「それでヘスは俺に声をかけたのか」


 マサラートの夢には裕二がアンドラークのどこかで戦闘をしている場面もあった。その時は意味がわからなかったのだが、ヘスが色々と調べるうちにそれがアンドラークにとって大きな問題である事がわかってきた。

 そのきっかけになったのが、メイザー坑道跡。そこで遭遇した魔人の件だ。

 マサラートは本格的に調査を始めると様々な事がわかってきた。

 メイザー坑道跡の通路を調べ、そこがステンドットの別宅に通じる事。そのステンドットはツェトランドを乗っ取ろうとしている事。ステンドットからロクス商会、そしてオスロットへの繋がり。

 そして、ヘスからの様々な報告からステンドットが魔人と繋がりのある事を確信した。


「そうなっては余が黙っている訳にもいくまい。ユージを助けステンドットをその場で断罪せねばならん。とは言っても助けられたのはこちらであったが……」


 マサラートは戦力を多めに見積もって三百の騎兵を用意した。たかだか地方貴族の私兵。本来ならそれで間に合う。しかし、ステンドットはそれを上回る戦力。ベヒーモスを召喚した。裕二がいなければ大変な事になっていたはず。


「おそらくあれも魔人の技なのだろう。恐ろしい事だ」


 しかし、その調査と裕二達の活躍のおかげで、ステンドットの策略はほぼ完全に暴く事が出来た。そして、ステンドットを倒し、その野望も完全に潰した事になる。

 アンドラークにとってはそれを未然に防ぐ事が出来た事になった。もし、それに気づいていなければ、アンドラークはツェトランド伯爵領から魔人のテリトリーを知らず知らずのうちに広めていたかも知れない。


「これも全てはユージ、そしてバチル殿やテパニーゼのおかげ。本当に礼を言う」

「い、いや、そんな事は……」

「ニャッハッハッハ。私のおかげニャ」

「殿下。もったいなきお言葉」


 裕二、バチル、テパニーゼと三者三様の反応を見せる。そして、マサラートは更に話しを続けた。


「ステンドットの問題はこれで解決した。だが、まだわからぬ事がある」

「わからぬ事?」

「そう。余が最初に夢で見たユージ。それはとてもおかしな場所にいた」

「おかしな場所ってなんですか?」

「そこには沢山の簡素な机と椅子。それは簡素だがしっかりとした鉄のパイプで作られた物。そして、その部屋の前には黒く大きな板がある。そこに白い粉を固めた物でものを書く事が出来る。余とユージはそこにいた。そして、余は……あろう事かユージを窓から突き落としてしまったのだ」

「え?! それって……」


 鉄パイプで出来た沢山の机と椅子。部屋の前にある黒い板。そして、粉を固めた物。


「黒板とチョークか……教室? そこで俺を突き落とした……」

「余は……それが真実であればユージに謝らねばならん。ずっとそう思っていた」

「てことは……永井?! え? 永井が王子?」

「永井! その頃の余は永井と言うのか」


 マサラート王子には裕二がこの世界に来る前、そのきっかけとなった人物。永井茂としての記憶があった。

 マサラートの記憶も裕二とほぼ同じ。裕二につまらない因縁をつけケンカになり、窓から突き落とす。だが、その瞬間強い後悔の念にかられ、裕二に手を伸ばした。


「そのまま余も下に落ちた。当然の報いであろう」


 あの時、アリーの力が裕二をこの世界に運んだ。しかし、永井はそのまま地面に落ちた。だが、もしかしたら永井の魂だけはアリーの力の影響を受け、肉体をその場に残してこちらへ来たのかも知れない。


「やはりユージにもその記憶があるのだな。ならばあれも事実と言う事か」

「ええ、まあ。前世って感じですかね……」

「前世か! なるほど……そう言った経緯もあり、ユージに何か困った事があるなら全力で助けねばならん。そう思っていたのだ。きっとその時の罪を、今生で精算せよと言う事なのだろう」


 ――しかし、あの永井がまさかこうなるとは……

 ――永井、王子になったんだねー。

 ――ミャアアア。


 マサラートは裕二に強く贖罪の意識を持っていた。それが今回の出来事の発端にもなっていたのだ。

 そして彼は、ある程度未来を夢という形で認識しており、それに沿った行動をとっていたと言う事にもなる。

 裕二と言う人物を軸に、アンドラークの未来を見た。そこに自分が介在する事も予想していた。


「だが、ユージ。余の夢はこれで終わりではない。その先がある」


 ある程度の未来を知る。ならばそこには現在より先の未来があってもおかしくはない。マサラートの見る夢は断片的なものではあるが、現在に於いても実現されていない部分。それはまだ起きていないこれから先の事と捉える事が出来る。


「これから先の事……」


 裕二は俄に緊張する。自分がこの世界の人間でない事は自覚している。そして、その力が他とは違う事もだ。そう言った部分が影響し普通では考えにくい人生を歩むのではないか。

 裕二はある程度それを受け入れている。それで力強く生きていける部分もあるのだから決して悪い事ではない。しかしその未来、幾つかの事実を見通していた人物に言われるのは何とも言えない気分でもある。


「おそらくユージはこれから、かなり危険な場所に行く。どこかの森だ。ユージがその前に立っているのが見えた」


 かなり危険な場所。そして森。裕二はすぐにそれが思い浮かぶ。


「ヴィシェルヘイム……」

「余もそう思う」


 いつ頃の未来なのかはわからない。その先どうなるかもわからない。そうした断片的な夢ではあるが、マサラートはそれを見たと言う。


「もしそこがヴィシェルヘイムとなると余が手伝える事は少ない。そもそもほとんど他国だからな。だが、ヴィシェルヘイムの近くにはシェルラックと言う街がある。そこにはアンドラークの兵士も常駐している。後で紹介状を書くのでそこの施設は自由に使うが良い。ユージには最大の便宜を図るよう言っておく」



 裕二に関しての話しはそれで一端終了し、続けてテパニーゼ、そしてバチルとマサラートの話しは移っていく。


 テパニーゼのツェトランド家については、既に調査班が入りステンドットと通じていた者は残らず捕縛される事になっており、その代役も派遣される事になっている。

 レドル・ツェトランドの容体もかなり良くなっており、王宮から医師も派遣されている。それによると体調は全く問題なく既に仕事もポツポツと始めている。

 家族はテパニーゼの帰りを首を長くして待っている、と言う事だ。


「だが、今はまだ大変であろうが、其方のような女傑がいるならツェトランド伯爵領の未来は安泰であろう。帰ってお父上を補佐するが良い」

「そんな……私などお姉様、いえ、バチル様に比べたら……」

「そんな事はあるまい。ヘスからその行動力と逞しさは聞いているぞ。伯爵令嬢がこの様な問題にたったひとりで行動を起こすなど並大抵の事ではない」


 続けてマサラートはバチルについても話す。


「ヘスからはマスカネラの公女殿下と聞いております。この度は我が国の問題にご助力頂き改めて感謝を申し上げたい」

「ニャッハッハッハ。感謝するが良いのニャ」

「マスカネラには早速、礼状を書かねばなりません。アンドラークとは離れておりますが、これを機に誼を、と考えております」

「ニャッハッ………ニャに! それはダメニャ! いかんのニャ!」


 アンドラークの王子としては当たり前の行動だろう。実際ステンドットを倒すまでの様々な問題でバチルの力は大いに役立った。その人物がマスカネラの公女なら、その本国に礼をするのは当然だ。

 しかし、バチルはそれを聞き焦りだす。


「お姉様、どうされました?」

「ダメニャ! そんな事したら私が学院にいない事が奴にバレるニャ!」

「奴?」

「奴はとっても恐ろしいのニャ。バレたくないニャ」


 怖いもの知らずで何事にも動じないバチル・マクトレイヤ。だが、その本国にはどうやらバチルでさえ恐れる人物がいるらしい。


「絶対ダメニャ! ダメなのニャ!」

「そ、そうですか……」


 バチルの強硬な姿勢にマサラートも折れるしかない。とりあえずその件は保留にするしかないだろう。

 周りの者も、この暴れん坊が恐れる人物が気にはなるが、バチルはそれどころではなさそうで、とにかくダメの一点張りだ。


 そんな感じで一応の話しを終え、裕二、バチル、テパニーゼは別に用意された天幕へと案内されそこで休む事となった。

 そして、その場にはマサラートとヘスが残る。


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