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剣と魔法と七体の人工精霊  作者: ひろっさー
第二章 冒険者になろう
95/219

95 切り札


 タルソット村の前に立つ裕二、バチル、ヘス。その右側にステンドット子爵の兵士が五十程。左側にはマサラート王子の率いる騎馬が三百程。

 どう考えてもステンドットに勝ち目はない。にもかかわらず、彼の表情は落ち着いている。


「突撃!」


 キリック団長の号令で兵士達がこちらへ向かってくる。それに対しマサラート王子は百名程の騎馬を動かした。それでもステンドット側の倍だ。


「普通に突っ込んできただけニャ?」

「いやバチル。油断するな」


 誰がどう見てもこちらが優勢。兵士もただ突っ込んできただけにしか見えない。

 しかし、よく見るとステンドットも精鋭を揃えているのかその動きは素早い。更に決して広くはない場所と言う事もあり、騎馬の優位性もあまり発揮されていなかった。

 戦いは互角とまではいかないが、ステンドット側がかなり奮戦し、狭い範囲で乱戦になっている。


「良し、俺達も行くぞ。バチル、ヘス」

「うニャ」

「わかった」


 そこへ裕二とバチルも突っ込んで行った。しかし、裕二としては敵味方入り乱れているので広範囲魔法は使えない。ひとりずつ倒していくしかないだろう。


 ――来ましたかユージ殿。彼らは囮なんですけどね。


 その時。ステンドットは手で合図を送る。すると。森の中からキラリと光る物が裕二に向けられた。


 ステンドットは混戦になり、裕二の意識がそこに向くのを待っていたのだ。そうなれば森の中へ意識は向かない。そこに散らばった伏兵にも気づかない。気づいたとしても森に散らばっているいる伏兵がどのような攻撃をするかまでは気を配るのは難しい。


 裕二の意識は完全に目の前の乱戦に向いていた。なので気づかなかった。森の中に光る透明な矢尻の存在に。


 ――メディッサバイパーをも使役する矢尻。それは当然人間にも使えます。ふっふっ、あなたは私の人形になるのですよ。


 ステンドットは上着のポケットから札を一枚取り出す。それが矢尻の術式を作動させる為の札だ。

 裕二に矢が打ち込まれ、ステンドットがそれを作動させたら、裕二はその術に嵌まる事になる。そうなれば裕二はステンドットの命令を聞く事になり、マサラート王子の兵士とも互角以上に戦える事になるだろう。


 そして、ステンドットの上げられた手が前に振られた。同時に森の中から矢が、裕二に向かって飛んでくる。


 しかし――


「な、何だと!」


 弓兵と裕二の間。その中間地点にほんの一瞬だけ黒い影が現れた。そして、その影は手刀で矢を叩き落とす。


 ――むっ! 今のは……


 それにいち早く気づいたのはセバスチャンだ。

 視界の端に一瞬だけ現れた影。その場には矢が落ちている。


 ――あれはまさか……


 セバスチャンは霊体化の状態で即座にそれを回収した。同時にステンドットへ目を向ける。


 ――あの札……なるほど。


「外した? 何をしているのですかキリック! 回収してきなさい。あれはひとつしかないのですよ!」


 ステンドットの切り札だった魔人の矢尻。それが失敗してしまった。今更回収しようとしても、既にそれはセバスチャンが回収している。


「何てことですか!」


 ステンドットはそう言いながら札をポケットにしまった。すかさずセバスチャンはそれを抜き取る。


 ――これと矢尻がセットになっているんですね。裕二様に報告しなければ。


 ステンドットの作戦は失敗した。そして、囮の兵士達もやはり徐々に押されて行く。キリック団長も矢を探すが、当然見つからない。

 セバスチャンはその間に裕二に報告をする。


「なるほどな。でもその矢を叩き落とした黒い影って何だ?」

「それはわかりません。今は無視した方が良いでしょう」

「そうだな。なら一気にステンドットを叩くか」


 ステンドットの悪行は既にアンドラークに知られた。その上物的証拠である矢尻も手に入れた。最早奴を生かしておく理由は何もない。


 だが、ステンドットはそれでも諦めない。


「全員引きなさい!」


 その号令でステンドットの兵が引いて行く。そして、自分の指から赤紫色の指輪を外した。


「仕方ありません。これで終わりです!」


 ステンドットはその指輪を地面に叩きつけた。すると、指輪の宝石が割れ、そこに巨大な魔法陣が作られる。


「な、なんニャ? ヤバそうニャ」


 バチルが何気なく言ったひとこと。しかし、その勘はおそらく正しいのだろう。

 その魔法陣は分散し周りにいくつもの小さな魔法陣が同時に作られる。そして、そこから指輪と同色のモンスターが現れた。

 指輪はモンスターを召喚する為の物だった。その術は正に魔人がかつて使ったものと同じ。ステンドットはそれも矢尻と同様に魔人から譲り受けていたのだろう。


「あれは! ベヒーモス!」


 ヘスがそう叫ぶ。


 最初の魔法陣から全長五メートル程のベヒーモス。その頭には三本の鋭い角があり、その体は隆起した鎧のような筋肉に覆われている。そして、周りの小さな魔法陣からは小型のベヒーモスが現れる。しかし、小型とは言っても三メートルはあるだろう。その数およそ三十。

 あれに襲われたらマサラート王子の兵士を全て当たらせても勝つのは難しい。見るからに剣や槍での攻撃は効きそうになく、騎兵など簡単に蹴散らされてしまいそうだ。


「まずい!」


 裕二とバチルだけなら何とかなる。しかし、裕二達が一体倒している間に他のベヒーモスが兵士を蹂躙するだろう。そうなればマサラート王子もヘスも殺される。おそらく村の壁も壊され村人もテパニーゼも皆殺しにされる。

 如何に裕二とバチルと言えど、ここにいる全ての人間を守りながら戦うのは無理だ。


「ハッハッハ。マサラート王子殿下。ユージ殿。申し訳ありませんが、死んでいただきます!」


 一番大きなベヒーモスが周りを見渡す。そして、その矛先がマサラートの兵士と裕二達に向いた。小型のベヒーモスもそれに習う。

 しかし、そこでバチルがある事に気づいた。


「ユージよく見るニャ」

「なんだ?」


 バチルが指さすのはステンドットの兵士。彼らは剣を鞘に納めている。片やマサラート王子の兵士は剣をベヒーモスに向けている。特に不思議な光景ではない。

 しかし、バチルはそこに違和感を感じていた。


「何でアイツら剣をしまうニャ? まだ戦いの最中ニャ」

「そうだな……いや待てよ」


 ――あの指輪はモンスターを出現させるだけ。使役出来てる訳じゃない。その証拠に奴はベヒーモスに命令していない。ベヒーモスが勝手に動いてるんだ。ステンドットの兵士が剣をしまうのは……ベヒーモスに対して敵意を出さない為! だからステンドットは自分を守る為に兵士を引かせ剣をしまわせた。ベヒーモスは敵意を察知してそちらへ向かうんだ。


 しかし、今更それがわかったところで遅い。この状態で味方に剣を納めさせるのは難しく、仮に剣を納めさせたとしても、一度向けられた敵意が消えベヒーモスの矛先が変わるとも思えない。


 裕二は一瞬にしてそこまで考えを巡らせたが、それだけでは足りない。結局はベヒーモスに蹂躙される。


「ハッハッハ。あなたを殺すのは惜しいですが、私の勝ちですよユージ殿!」


 ステンドットが勝ち誇ったように笑う。と同時に、ベヒーモスが地面を蹴って走り出す。こうなったらもう止めようがない。


「くそ!」


 しかし、その時。裕二の耳に一瞬だけ懐かしい声が聞こえる。


 ――ユージ、よく見ろ。あのデカいのがリーダーだ。さっきのあれを使え。


「その声は、テリー!? さっきのあれって……そうか、セバスチャン!」


 裕二は即座に走り出す。そして、先頭の一番大きなベヒーモスに向かって行った。


「ユージどこ行くニャ!」


 一見自殺行為にも見える。だが、裕二がそんな事するはずがない。


 ――ムサシ! 後ろから刺せ。


 裕二は剣を出して威嚇。自分が囮になり、背後にムサシを回らせた。そして、ほんの一瞬だけ現れたムサシの手には、先程の魔人の矢尻の付いた矢が握られている。


『ブオオオオ!』


 ムサシは渾身の力を込め魔人の矢尻をベヒーモスに突き刺す。同時に裕二はセバスチャンが奪ってきた札を空中に放り投げた。直後に札は燃え上がる。

 魔人の矢尻がメディッサバイパーにも人間にも使えるなら、目の前にいるベヒーモスにも使えるはず。裕二はそれに気づいた。


「ベヒーモス! お前らの敵はアッチだ!」


 裕二の声でベヒーモスは動きを止めた。そして、向きを反転させるとその直線上にはステンドットの乗る戦闘車両がある。裕二の指はそちらをさしていた。

 それを見たステンドットは途端に顔が青ざめて行く。


「ひっ! な、なんで……」

「やっぱりな。行け!」


 一番大きなベヒーモスがステンドットに向かって走り出すと小型のベヒーモスもそれに習って走り出す。小型はリーダーに統率され動いているのだ。リーダーさえ使役出来れば群れごと動かす事が出来る。

 今のベヒーモスは敵意のある者ではなく、裕二の命令により動いていた。その群れはステンドットの一団に向かって行く。


「ひいいいい! キリック! 私を守りなさい!」

「そ、そんな……」


 しかし、目の前に迫るベヒーモスの群れにキリック程度がどうこう出来る訳もない。彼はベヒーモスに背を向け走り出す。だが、すぐに追いつかれその巨体に踏み潰される。


「ぎゃあああ!」

「キリック! だ、誰か! 私を守りなさい!」


 その声に従う者はいない。自分が逃げる事で精一杯だ。

 しかし、ひとかたまりになって逃げ場のない兵士は次々に踏み潰されて行く。そして最後、ベヒーモスは地響きを上げてステンドットの乗る戦闘車両ごと踏み潰して行った。


「ぐああ! 誰か! 私を――」


 その声がステンドットの最後の声になった。彼はそのままベヒーモスに次々と踏み潰されて行き、完全に息が途絶えた。


「やったニャ!」

「いや、まだだ」


 ステンドットとその配下は全て倒した。しかし、このままベヒーモスを残しておく訳にはいかない。今は裕二に使役されているが、術が解ければその牙は再びこちらへ向く。

 普通の兵士が無防備とは言え、ベヒーモスに剣を向けても一撃で倒すのは難しそうだ。そうなれば術が解ける可能性も否定出来ない。


「バチル。ベヒーモスは今、あのデカいのだけ使役されている。小型のはそれに従うので無防備だ。奴は術が解けないよう一撃で倒す! その前にまず小型を殺る。ヘスは他の兵士に手出しさせるな」

「任せるニャ!」

「わかった!」


 裕二は魔剣ヘイムダルをライトブレードにし、ベヒーモスの首に斬りかかる。バチルも同じようにベヒーモスに斬りかかるが、その手に持つ剣は緑色に輝いており、その切れ味は凄まじい。


「それも魔剣なのか? ライトブレードだよな?」

「ニャハッ。これはマクトレイヤの秘宝。魔剣ニャンウィップなのニャ」

「なんだその変な名前」


 裕二とバチルが次々とベヒーモスを倒して行く。その光景をマサラート王子と兵士、そしてヘスも呆気にとられながら見ていた。


「ラストニャアァ!」


 裕二がリーダーを倒し同時にバチルが最後の小型一体を倒す。すると、兵士の間から大歓声が上がった。ベヒーモスとステンドットの一団は全て倒された。これで全てが終わったのだ。


「お姉様!」


 その直後、村の入り口が開き中からテパニーゼが飛び出してきた。そして、そのままバチルの胸に飛び込み抱きついてきた。


「ニャ!」

「お姉様! 良くぞご無事で」


 テパニーゼは泣きながらバチルを放そうとしない。バチルも珍しくちょっとだけ困った顔をしていた。

 ヘスも笑顔で裕二に近づいてくる。


「やったなユージ!」

「ああ!」


 裕二とヘスもお互い手を叩きあう。


 村人は全員無事。マサラート王子にも怪我はなく、兵士達にもほとんど被害はない。彼らは背を叩き合いお互いの健闘を称える。

 これでステンドットの企みは完全に潰えた。それは誰の目にも明らかだ。


 しかし、裕二にはひとつだけ気になる事があった。


 ――さっきの声はテリーのような……そんな訳ないよな。


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