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剣と魔法と七体の人工精霊  作者: ひろっさー
第二章 冒険者になろう
94/219

94 現れた者


「きたニャ!」


 誰よりも早くそれに気づいたのはバチルだった。


「お姉様!」


 村長の家を飛び出すバチル。裕二、ヘス、テパニーゼがそれに続く。

 バチルは見張り台に素早く登ると、右手をひさしのように使い遠くをジッと見る。裕二もすぐに追いつきそれを感知能力で感じとった。


「五十くらいか」

「うニャ」

「中央奥の戦闘車両がステンドットだな」

「あいつニャか」


 ヘスとテパニーゼには未だそれが見えてすらいない。だが、今更驚くような事でもない。

 ヘスは裕二の、テパニーゼはバチルの凄いところを今までたくさん見てきたのだ。そして、彼らの力はこの程度では無い事も良く知っている。 


 そして、すぐさま四人は行動に移った。


 テパニーゼはすぐに村長へ知らせ村人を村の後方、避難用出口近くの家に集める。それが終わると村長とテパニーゼは再び見張り台に登り、何かあったら合図を出し、村人を逃がす役割だ。

 残り三人が外に出ると村の出入り口は固く閉ざされる。

 裕二とバチルが前に立ち、ヘスはその背後に立つ。そして、テパニーゼと村長にも遥か先にいるステンドットが見えてきた。それは当然、相手も同じだろう。


「ステンドット様。見えて参りました。奴らこちらを待ち構えてますね」

「ふっふっ、勇ましい事です。やる気充分と言った感じですか」


 村の前はけっこうな大きさの広場となっており、そこから二方向に割りと大きな道が続いている。そして、その周りは森が広がる。小規模な戦闘を行うには適当な場所と言える。

 その村の前の広場にステンドット子爵が到着する。


「ユージ殿。これはいったいどういう事でしょう。私はその女を倒すよう依頼したはずですが」


 ステンドットはバチルを指さしながら困った表情で裕二にそう言った。


「やかましニャ! その程度の戦力でこのバチル様をどうにか出来ると思ってるニャ? お前なんか速攻殺せるニャ!」

「まあ待てバチル。ここは俺に任せろ」


 裕二はバチルを手で制してから一歩前に出た。


「ステンドット子爵。村人が邪教徒でない事は自分が証明しました。そして、ここにいるバチルは某国の貴族。解決するなら外交の場でどうぞ。少なくともあなたがここに、軍隊を連れてくる理由はないはずですが?」


 それを聞いたステンドット子爵は唇の端を釣り上げながら口を開く。


「ユージ殿。魔人に操られていた魔術師はこちらで処分致しました。しかし、それを操っていた者はどこにいるのでしょう。彼ひとりでやるような事ではありませんよね。ですが、この村にはツェトランド家の名を語る偽物がいると聞いてます」


 ツェトランドの名を語る偽物。まさかステンドットはテパニーゼが偽物と言うつもりなのか。


「伯爵令嬢であるテパニーゼ様がひとりの護衛もつけずにこんな場所にいる訳がありません。その者が魔人の手先ではないですか? 少なくとも現時点では一番の容疑者。ユージ殿。テパニーゼ様の名を語る者をこちらに引き渡してください」


 その話しは村の見張り台にいたテパニーゼにも聞こえている。しかし、裕二から絶対に顔を見せないように言われているので、テパニーゼは唇を噛み締めながら反論したい気持ちを抑える。


 ――なんと卑劣な! 私が家を出たのもキリックが私を見間違える事など無い事もわかっているクセに。


 ここでむざむざテパニーゼが出ていけば、ステンドットは彼女を偽物と決めつけ殺すだろう。それだけではない。村人も偽物を匿った、魔人の手先を匿ったと言う事にも出来る。それがステンドットの狙いだろう。


「そちらの女性も本物の貴族なのか確かめる必要があります。なのでその身柄はこちらで預かります。ユージ殿。我々の前に立ちはだかるのはおやめ下さい」

 

 さすがにステンドット子爵はキリック団長のようにはいかないようだ。

 裕二はステンドットが魔人と関わりがある事を確信している。しかし、今の段階ではそれを示す事は出来ない。

 ツェトランド伯爵がミズルガルバイパーではなく、メディッサバイパーに襲われた事。それを証拠の一端とする事も出来るが、今は伯爵の安全が優先なのでそれを言う訳にもいかない。もし、それを言えば、直ちに伯爵の元へ別働隊が動いてもおかしくないだろう。


「村人を邪教徒に仕立てあげようとしたのはそちらですよ。なら、その指示をした人間もそちらにいるのではないですか? 普通に考えれば一番怪しいのはステンドット子爵。あなたですよ。そうでない事を証明出来ないならここを通す訳にはいきませんね」


 ステンドットはテパニーゼが怪しいと言い、裕二はステンドットが怪しいと言う。どちらもその主張を譲る気はない。

ならば――


「ではやはり、戦うしかないようですね。非常に残念ですユージ殿」

「そう言う事のようだな」


 裕二とステンドット。結局は戦うしかないようだ。今までそれを黙って聞いていたバチルは、組んでいた腕を解き剣に手をかける。


「皆殺しでよいニャ?」

「ステンドット以外はな。奴は無力化させる」

「わかったニャ!」


 ステンドットの側もその気だ。剣が抜かれたら後は戦うしかない。ステンドットの精鋭五十名と裕二、バチル、ヘスの三人。どちらが最後に立っているのか。


「剣を抜いて構えよ!」


 裕二とバチルもそれを聞き剣を構えた。そして、今まさに戦闘が始まろうと言う時、大きな声でそれを制する者がいた。


「双方剣を納めよ!」


 それは裕二でもステンドットでもない。今まで黙って話しを聞いていたヘス。ヘス・ローランドだった。


「どうしたヘス?」

「やっと来たようだな」


 裕二は何の事だかわからない。いや、ここにいる全員が状況をわかってないだろう。それを知るのは、ここにいるヘス、ただひとりだ。


「な、なんだ?!」


 多くの兵が戸惑いだした。どこからか地響きのような音が聞こえてくる。それはステンドットが来たのとは違うもう一つの道の先。そこから聞こえるのはたくさんの馬の蹄が地を叩く音。


「なんニャ? 三百はいるニャ」


 やがてそこに姿を現したのは、およそ三百の騎馬。その中央にはステンドットの戦闘車両など比べ物にならない大きさの馬車。その周りには複数の騎士が旗をなびかせながらこちらへやってくる。


「あ、あの馬車は! 何故こんなところに?!」


 ステンドットはあの馬車を見た事がある。それは自分が中央に仕えていた時。パレードや式典などで何度も目にした馬車。そして、その周りの旗に描かれた紋章は――


「何故アンドラーク王家の馬車が……」


 騎兵が広場に整列し、その中央に馬車が止まり、そこに騎士による道が作られた。そして、馬車からはひとりの少年が降り立つ。


「あ、あのお方は! マサラート・アンドラーク王子殿下!」


 ステンドットがそう叫ぶ。白銀の鎧に金色の縁取りのある青いマント。それと同色の髪をなびかせ颯爽と歩く裕二とさほど変わらぬ歳頃の少年。

 彼こそはアンドラーク王国第一王子。マサラート・アンドラークだったのだ。


「ヘス、ご苦労だった」

「はっ!」


 ヘスは王子の前に跪く。それを見たステンドットもその兵も戸惑いながらも次々と跪いた。それをしなかったのは裕二とバチルだけだ。

 そして、その事に衝撃を受けたのは現場の者だけではなく、見張り台にいるテパニーゼも同様に衝撃を受けた。


 ――あのお方は……マサラート王子殿下! 何故、殿下がここに?! ……はっ! そうか。ヘス様はどこかで見た事があると思っていたけど彼は……殿下直属の護衛騎士、ヘス・ローランド卿。でもこれはいったい……


「其方がユージか……やはり。懐かしささえ感じる」

「え? 懐かしさ?」

「済まんがその話しは後だ。ステンドット卿!」


 ビクッと肩を震わせるステンドット子爵。マサラート王子はそこへ言葉を投げかける。


「其の方が仕えるべき主である我が臣下、レドル・ツェトランドを毒牙にかけ、見殺しにしようとしたであろう。そこにいる我が剣、ヘス・ローランドにより調べはついている! その指示は誰のものだ? まさか魔人ではあるまいな!」

「い、いえ。決してそのような事は……それは移動中のモンスター襲撃による事故で御座います。魔人との繋がりなどある訳が……」


 ステンドットは面を上げぬままそう答えた。それを聞くマサラート王子は目を細める。


「ほう、では卿の第二邸宅別館の地下。何故そこがメイザー坑道跡に繋がっているのだ? そこにいるヘスにより、その場に魔人がいた事が確認されているのだぞ!」

「そ、それは……」


 ヘスはメイザー坑道跡で魔人と遭遇した件を、自分の父親を通じアンドラーク中央に伝えると言っていた。だが、そこには少し違いがある。ヘスはマサラート王子に直接その件を伝えていたのだ。

 王子はその報告を受け、すぐにメイザー坑道跡を調べ始めた。そしてそこで魔人によって崩された通路が繋がる先を突き止めた。そこはステンドット子爵の現在は使われていない邸宅の別館。

 更にその通路はアンドラーク王都ばかりかペルメニア方面まで伸びていたと言う。そして、そこに魔人の隠れ家もあった。そんな通路をステンドット子爵は何に使うつもりだったのか。


「卿が魔人と繋がっていたのは明白ではないか!」

「い、いえ……それは誤解で御座います。私はそのような通路など把握しておりません。きっと魔人が勝手に掘ったのでしょう」


 苦しい言い訳で何とか罪を逃れようとするステンドット。しかし、マサラート王子にとって、これは想定内だったようだ。彼は少しも慌てる事なく再び口を開く。


「レドル・ツェトランドを襲ったメディッサバイパーには魔人の矢尻が使われたそうだな。それをロクス商会に指示したのは卿であろう。何故、卿が魔人の矢尻など持っている!」

「いえ、それも誤解で御座います。そもそも魔人の矢尻などと、どうしてわかるのですか? 何故この私がそんな物を」

「そこまでしらを切るのなら見るが良い。出せ」


 マサラート王子の指示により、後方の馬車から人が連れて来られた。その人物はステンドットのよく知る人物。


「ま、まさか!」


 その者は下を向き、兵士に剣を突きつけられながら前に出される。


「ロクス商会の店主、カルマイヤー・ロクス。其方が聞いた事をここで話せ」

「は、はい。私はステンドット子爵の命令により、魔人の矢尻を使いヴィシェルヘイムのモンスターを使役し、ツェトランド伯爵の馬車を襲えと……」

「魔人の矢尻を使え。そう言ったのだな」

「その通りで御座います。その矢尻は魔人から授かった物。貴重な品なので決して失敗するなと……」


 それを聞いたステンドットは面を下げたまま顔が青ざめていく。まさかロクス商会が裏ぎるとは思わなかったのだろう。しかし、その件もヘスにより報告され、マサラート王子直属の騎士団が調査にあたっていた。ロクス商会も王子の前で嘘をつくような大胆さはなかったのだろう。あっさりと白状したようだ。ロクス商会としては、どちらに許しを乞うか。田舎貴族のステンドットと王族とでは、比べるまでもない。


「これでもしらを切るか!」


 ステンドットは確実とも言えるような証拠を突きつけられた。魔人から授かったとロクス商会が証言してしまったのだ。これではもう言い逃れは出来ない。

 しかし――


「ふ、ふふ。敬愛するマサラート王子殿下。良くぞそこまでお調べになりました。あなたを殺すのはもっと先になると思ってましたが……仕方ありません」

「何だと!」


 ステンドットは即座に立ち上がると、それに呼応したキリックが叫ぶ。


「作戦行動に移れ!」


 すると、跪いていたステンドットの兵士の内、半分が集まる。他の者達はどうして良いのかわからず、その場に留まった。しかし、それは作戦内容を正確に把握していたのがその半分だけ、と言う事でもあった。つまりステンドットはその半分だけで勝てる自信があったのだ。それは王子の率いる三百の兵がいても同じ事。


「さて。ユージ殿以外は皆殺しですかね」


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