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剣と魔法と七体の人工精霊  作者: ひろっさー
第二章 冒険者になろう
93/219

93 戦いの前日


「も、申し訳ありません、ステンドット様……」

「キリック団長。あなたがいながら何てざまですか!」


 ステンドット子爵は珍しく語気を強めて怒る。裕二がキリック団長のやり方に反対する程度なら想定済みでもあった。しかし、徴税官を殺害した者を放置、オマケに収納魔法を見破られ兵士に疑心暗鬼を抱かせてしまった。更には探していたテパニーゼもいたのに何も出来なかった。

 こうなるとステンドット子爵の想定からは大きく外れる事になる。特にテパニーゼと裕二が接触したのはかなり痛い。


 ――全く使えない男だ。事が済んだらすぐに処分してやる。しかし、今は……


「仕方ありませんキリック団長。私の見通しも甘かったですから。あなたのせいではありませんよ」

「す、ステンドット様……本当に申し訳ありませんでした! 以後、必ずご期待に沿えるよう致します!」


 部下を寛大に許す演技をするステンドット子爵。こうする事で彼の忠義をより引き出す事が出来る。

 キリック団長はそんな思惑も知らずに唇を震わせながら新たな決意を表明する。それが狙いとも知らずに。


 ――こんなのでも私の盾、くらいには使えるでしょうからね。


「タルソットに行った兵士は全て入れ替えなさい。緘口令も敷くように。代わりに我が騎士団第一隊を投入します」

「第一隊……精鋭部隊ですか。ではやはりユージ殿も諦めると……」

「そんな訳ないですよ。そこまでの人物なら手駒にしがいがあります。次は私が自ら向かいましょう」


 こんな状況で裕二を自分に従わせる事が出来るのか。しかし、ステンドット子爵は何やら自信ありげだ。


「しかし、いったいどのようになさるのですか?」


 するとステンドット子爵は微笑しながら自分の机の引き出しの鍵を開ける。その引き出しは二重底になっており、そこから小さな箱を取り出し、その蓋を開けた。


「こ、これは……なるほど、これなら如何にユージ殿でも……」

「ふふ、そう言う事です」


 キリック団長はそれを見て全てを察したようだ。ステンドット子爵はそれをしまい、再び厳重に鍵をかけた。


「まあ、仮にそれがダメだとしてもやりようはありますし」


 裕二がステンドット子爵の部下にならなかった場合。それは裕二との対決を意味する。しかし、精鋭部隊を投入すれば勝てるのか。向こうは裕二だけでなくバチルもいる。ステンドット子爵にはそれを倒せる手段がある、と言う事なのだろうか。



「うん、テパニーゼのお父さんは目が覚めたみたい。お母さんも喜んでたよ」

「ミャアアア」

「そうか……ならひと安心だな」


 裕二に頼まれてツェトランド伯爵の様子を見に行っていたアリーとチビドラ。裕二はその報告をトイレに行くふりをして受ける。どうやら治療は効き、快方へと向かっているようだ。

 だが、それでもしばらくは目が覚めない振りをしていてもらわなければならない。それについてはエニメーラも了承済みだ。未だ屋敷内で誰が敵なのかもわからない状況。そこでツェトランド伯爵が目を覚ましたと知られれば何か手を打たれる可能性もある。

 とは言っても、裕二とテパニーゼがタルソットから動いていなければ何か出来るとは思われない。既にその問題が片付いている事を、ステンドットは気づかないだろう。


「それも説明してたよー」

「ミャアアア」

「わかった。とりあえずステンドットの目はこちらに向いててもらわないとな。テパニーゼと俺がいるならまずコッチだろ」

「バターソテーもいるニャー」

「ミャアアア!」


 アリーとチビドラの報告を聞き終えると、裕二は村長の家にいるテパニーゼの元へ向かう。当然そこにはバチルとヘスもおり、お茶を飲みながらゆっくり過ごしていた。


「テパニーゼ。お父さんが目を覚ましたようだぞ。もう安心だろ」

「ほ、本当ですかユージ様!」

「ああ、間違いない」


 テパニーゼは思わずテーブルに手をつき席を立ちあがる。そして、安心したのかその目に涙をためていた。


「ニャ! 何で泣いてるニャ?」

「だって……お姉様……」

「私の言った通りなのニャ。最初からわかってるから泣くことないのニャ」


 テパニーゼはその言葉に笑顔を見せながらもポロポロと涙をこぼす。


「本当ですね……本当にお姉様の言うとおり……でも、嬉しくて」


 テパニーゼの当初の目的はこれで達成された。村の食料事情も安定し、そろそろ買い出しに行った村人も戻ってくる。そうなれば当分食料には困らない。

 最低でも次の襲撃がくるまでは持たせたかったので、こちらもとりあえずは安心出来る。


 裕二とヘスは暇を見て村の壁や家屋の補修も手伝い、緊急時には村の裏手から避難出来る出入り口も作っておいた。村人では戦えないので逃げてもらう方が手っ取り早いだろう。

 次にステンドットの部隊が来たら、そのやり取りは村の外で行う。その為には見張り台を作り村人に交代で監視してもらう。ステンドットの部隊が来たらユージとヘス、そしてバチルが村の外に出て入り口は閉ざす予定だ。

 その時、見張り台には顔を隠したテパニーゼと村長を置く。場合によっては村長の命令で裏から避難出来るようにしておく。

 今のところ、邪教徒の疑いは晴れているので、ステンドットが村人をどうこう出来る理由はない。だが、巻き添えを食らう可能性はあるので準備は必要だ。

 

「でも、ステンドットが魔人の為に動いてるなら、メチャクチャな理由をつけてでも皆殺しだろうな」


 ヘスがそう話す。やはり向こうはそれくらいの事はするかも知れない。最悪は常に想定しておいた方が良い。

 おそらく、こちらの戦力を知っているステンドットは精鋭を投入してくる。

 とは言っても、こんな片田舎の貴族の兵力。精鋭と言っても大したものとは思えない。裕二とバチルがいて負けるとは考えにくい。おそらくステンドットはそこに何か別の物を投入するだろう。もし、それがあるならその戦力はかなり高いはず。そこで使われるのは魔人と関連するもの。それを知るためにはその、魔人と関連する物をここで使わせる必要がある。


「それが何なのかが問題だけどな。ユージ。ないとは思うが魔人が出てくる事も想定しておけ」

「ああ、わかってる」


 かつてエンバードで遭遇した魔人は、テリーなら楽に倒せると言っていた。なら、そのテリーと拮抗する戦いを見せた裕二にも大した相手ではないはず。しかし、更に上位の魔人がいる事も否定は出来ない。一番の最悪はそれだろう。


 ――その場合は全力だ。ムサシとリアンも周りに知られようが使う!



「でもお姉様。ユージ様は本当に凄いお方なのですね」

「そうニャ。私の次に凄いのニャ!」


 裕二達との話しを終え、バチルとテパニーゼは村の中をのんびり散歩していた。村の中は一応落ち着いてはいるが、この後、ステンドットがきた時にはどうするのか。その対策を村長から説明されている。なので多少のピリピリした空気はあるが、現在の村にはツェトランド伯爵家令嬢のテパニーゼがいる事が村人の安心に繋がっていた。

 そのテパニーゼが通りかかると、村人は手を休め深々と頭を下げる。テパニーゼはそれに笑顔で応える。


「邪教徒の疑いをかけられた村を、ひとりの死傷者を出すこともなく納めてしまった。後であのカラクリを聞いて二度驚きました」

「ニャッハッハッハ。全て私の予定通りなのニャ」

「そう言えば、ユージ様もジェントラー家の方なのですか?」

「違うニャ。確かユージはグラスコード侯爵家ニャ」

「侯爵家! グラスコードと言う名前は存じませんでしたが、かなりの名家なのでしょうね」

「そうニャ。私の次に名家なのニャ!」


 裕二は現在グラスコードから離れているので多少間違った情報ではあるが、テパニーゼは素直に感心している。

 バチルの話しに出てくるジェントラー侯爵家、グラスコード侯爵家、そしてバチル自身がマクトレイヤ公爵家でもあり、どの存在もテパニーゼのツェトランド伯爵家より遥か格上。


 ――やはり、そう言った家柄の人は個人でも凄い力をお持ちなのね。


「後はスットコ子爵をぶっ潰すだけニャ」

「ええ、そうですね」

「それで終わりニャ」

「はい」


 ――それで終わり。こんな大変な問題をこの方々はあっさりと……え? これで終わり?


 テパニーゼはそこである事に気づく。それは今まで全く考えもしなかった事でもあり、当たり前の事でもあった。


 ――そうなると、その後お姉様とは……離れなければならない! そんな!! せっかくお姉様と出会えたのに。


 全てが終わると言う事は、テパニーゼは自分の家に戻り、バチルは再び旅を続けると言う事でもある。そうなると当然二人は離ればなれとなる。


「どうしたニャ?」

「い、いえ。何でもありません」


 バチルは急激に表情の変わったテパニーゼを見て声をかける。しかし、テパニーゼもその気持ちを悟られたくはない。


 ――いえ、今はそれを考えてはいけない。まだ全ては終わってない。今考えなければならないのはお姉様、ユージ様、ヘス様が生き残り、ステンドット子爵を何らかの形では倒す事。それ以外は……


 テパニーゼは全てが終わった後の事をふと考えてしまった。それは彼女がお姉様と慕うバチルとの別れを意味する。全てが上手くいくと言う事はテパニーゼにとって嬉しい事でもあるが、同時に辛い別れもやってくる事になるのだ。

 バチルがいたから盗賊に襲われても助かる事が出来た。バチルがいたから村の惨状を知ることが出来た。そして、バチルの村での行いを見て、自分のすべき事を気づかされた。

 全てを差し出して村人を救うバチル。バチルがいたからユージもヘスもこちらの協力者になってくれた。テパニーゼだけでは説明する前にキリックに殺されていたかも知れない。

 テパニーゼはたくさんの事をバチルから学んだ。たった一人絶望の淵に立たされても諦めない心。弱き人々に手を差し伸べ、その見返りさえ求めない心。仲間の力を信じて待つ心。そして――


 ――常に前を見て進む心! 私にはお姉様のように力強く進める力はないけれど、それでも!


「お姉様。必ずステンドットを倒しましょう!」

「当然ニャ! 奴の財産は私が没収するニャ! そして、新たにバターソテー子爵が誕生するのニャ!」

「ええ、お姉様!」



 そして、双方の準備が整った翌日。


「相手はかなり強いですから皆さん無理をしないように」


 五十名の精鋭部隊を引き連れ、ステンドット子爵も自ら戦闘用の馬車に乗りタルソット村を目指す。


「防御を中心に考えて下さい。後はこの私がやります。ではキリック団長」

「はっ! 前進せよ!」


 自らがタルソットに向け乗り出したステンドット子爵。

 どのような手で裕二と対峙するつもりなのか。


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