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剣と魔法と七体の人工精霊  作者: ひろっさー
第二章 冒険者になろう
92/219

92 治療


 裕二とバチルはタルソット村近くの森に、ウッドリザードを狩りに出かけた。しかし、張り切り過ぎたバチルによって必要な数はあっという間に倒してしまう。二人は多少時間に余裕が出来たのでのんびり帰る事にするが、裕二はバチルに聞きたい事があると言う。


「なんニャ。申してみるのニャ」

「俺がいなくなった後、学院の方はどうなった?」


 裕二としてはやはりそこが気になるだろう。グロッグ襲撃について詳しい人物など限られている。そのうちのひとり。バチルがここにいるのだから聞かない訳にはいかない。


「ユージは休学と言う事になってるニャ」

「え? そうなのか」

「グラスコードは全員休学ニャ」

「なに!? グロッグとシェリルもか?」

「そうニャ」


 とは言っても、裕二とグロッグ、シェリル兄妹の扱いは表面的には同じだが、実際は大きく違う。


「ユージはテリオスが休学にさせたとエリネアが言ってたニャ。バカ兄妹は休学だけどもう学院には来れないみたいニャ」

「そうなのか。テリーがうまくやったんだな……」


 グロッグとシェリルは宮廷諜報団に幽閉されているが、バチルはそれを知らない。しかし、エリネアから多少聞いているので二人がもう学院に戻れない事は知っている。

 裕二はグロッグ襲撃事件について何のお咎めもなく、ただの休学と言う事になっている。なので裕二に関しては、いつでも学院に戻れる。


「だけどユージは警備兵をぶっ倒したから、しばらく戻れないとエリネアが言ってたニャ」

「あぁ、そうだった。それどうなってる?」

「知らんのニャ。でもたぶん大丈夫ニャ」

「なんで?」

「知らんけどエリネアが大丈夫って言ってたニャ」

「そ、そうか……まあエリネアが言うなら……」


 実際のところ、警備兵は最初から裕二に手出しはできない。エリネアはテリーから詳しい事を聞いているので表向きそうなっているだけだ。


「……みんなはどうしてる?」

「バイツとエリネアとリサは、テリオスからなんか教わってるニャ」

「な、なに! そうなのか? リサはともかくバイツとエリネアが……何教わってんだ?」

「知らんニャ。でもエリネアはユージに謝りたいと言ってたニャ。リサとバイツもユージの事心配してたニャ」

「そうなのか……ミーはどうなった? 生きてるんだろ?」

「ミーってなんニャ?」


 ミーと言う名前は裕二とエリネアが使っているが、バチルはミーの事をチビと呼んでいる。裕二はエリネアから詳しい話しを聞いたアリーからそれを聞いている。それについてバチルに説明した。


「チビはエリネアが自分の部屋の隣を借りてそこに住まわしてるニャ、そこで飛びまわってるニャ」

「そうか、良かった」


 結局のところバチルから聞けるのは表面的な事しかないが、それでも、裕二は色々と聞けて安心した部分も多いようだ。とりあえずは丸く収まっている。グロッグとシェリルが学院にいないのなら安心だ。他にも聞きたい事はあるが、これ以上は無理だろう。例えばグラスコード家の内情など、バチルが知るはずもない。


「で、最後に聞きたいが、お前はなんでここにいる? 本来ならスペンドラにいるはずだろ」

「決まってるのニャ! 美味しいお魚さんを探し、そして、ユージにバターソテーを作らせる為なのニャ!」

「えぇ、そうなの……学院は? やめたのか?」

「やめてないニャ。ユージが休学出来るなら私も出来るのニャ」

「まあ……それもそうか」


 とは言っても、バチルの場合は学院長室の机に『休学ニャ!』と書いた紙を置いてきただけだ。

 普通ならその状態で長期間休むと休学とは認めらず、退学になる可能性もある。しかし、バチルは裕二と関わりが深く、グロッグ襲撃時の関係者でもあるので簡単には処分出来ず、一応休学届けに不備はあるが受理されている状態だ。

 なので学院長を始め、テリー、エリネア、バイツもバチルがどこにいるのかは知らない。唯一、バイツにだけは「美味しいお魚さんを探しに行くのニャ!」とは言ってある。当然バイツはすぐ戻るものと思っている。


「相変わらずやる事はめちゃくちゃだけど、テパニーゼにとってはかなり助かっただろうな」

「そういう事ニャ。ニャハッ」


 二人はそんな話しをしながら村へ帰って行く。



「おお、けっこう集まったな」


 裕二が村に戻り、先程バナックのいた村ハズレには大量の食料が運ばれている。多くは果実系の木の実だが、野草の類いもある。

 使役されたバナック達は、次々とそれらの物を運んでは飛び立ちを繰り返していた。使役の札の効果が切れるまでに、充分な量の食料が集まりそうだ。

 村人はそれらを集め、既に料理の為の準備に取り掛かっており、多くの者がひっきりなしに行ったり来たりしていた。その労働も自分達が食べる為とあらば、彼らの表情もイキイキとしてくる。


「ユージ様、バチル様」


 そう声を掛けてきたのは村長コーべだ。最早バチルとテパニーゼが村に訪れた時の悲壮感はほとんど消え、笑顔でこちらに歩いてくる。


「お陰様で食料は何とかなりそうです。ウッドリザードの加工も既に始めておりますので、今晩には果実のジャムや野草のスープ、そして肉料理も作れると思います」

「じゃあ晩飯は期待してますよ。俺達も腹減ったし。なあバチル」

「うニャ。バターソテーを所望するニャ!」


 しかし、バターがないのでバチルの望みは却下された。


 そして、数時間後。陽もとっぷりと暮れ、村人は焚き火を囲んで食事をとる。品数は少ないが量は充分あるので、全ての村人に行き渡るだろう。

 多くの者が裕二達に感謝の言葉を述べながら満足気な表情で食事をいただいている。

 テパニーゼもその席に加わり一緒に食事をとった。自分の家では見た事すらない質素な料理ではあるが、そこに不満などあるはずもない。


「とても美味しいです、お姉様」

「美味いけど、やっぱりバターソテーが足りないニャ」

「お前本当にバターソテー好きだな。つーか今思い出したけど、パーリッドの店で暴れてバターソテーあるだけ持ってこいって言ってたのお前だろ」

「そんなの知らんニャ」


 と、束の間の楽しいひと時は過ぎて行く。しかし、そこでテパニーゼはある事に気づいた。


「そう言えば……ヘス様が見当たりませんね」

「あれ? さっきまでいたけど……トイレじゃないか?」


 その時ヘスは、早めに食事を終えてからそっと場を抜け出し、村の外にいた。

 真っ暗闇のその場所で、ヘスの手から静かに飛び立つ鳥がいる。そのヘスの手には何かの紙が残されていた。


「やはりそうか……」


 ヘスは一言そう呟いてから、村の中へと戻っていった。



「さて、そろそろ行くか」


 裕二は食事を終えると立ち上がり、テパニーゼを見る。テパニーゼもすぐにそれを察し、用意しておいた物を裕二に手渡した。その内容は、ヘスとテパニーゼに書かせた資料。治療の為の肝臓のスープ。そして、テパニーゼから母親への手紙。


「あと、何かテパニーゼからだと証明出来る物ないかな?」

「それでしたら……」


 そう言うとテパニーゼは、自分の耳につけられていたイヤリングを外し裕二に渡す。


「これはお母様からいただいたイヤリング。これならお母様も察してくれるはずです」

「わかった。しばらく預かる」


 裕二はそう言ってから村の出入りへと歩き出す。そして、村から出ると全力で走り出し、ある程度距離をとってから白虎を呼び出す。


「ひとっ走り頼むぞ白虎」

「ガルル……」


 白虎は一気にスピードを上げ、レドル・ツェトランドのいるテパニーゼの邸宅へとひた走る。


「着いたら、そうだな……やっぱりセバスチャンだろうな」

「畏まりました」

「あと、念のためテンも行ってくれ」

「わかった。僕に任せて」


 途中何度か遭遇したモンスターは先行するムサシが倒し、白虎はその速度を維持したまま先へと進む。

 やがてツェトランド伯爵邸のある街にたどり着くと、白虎は夜の闇に紛れ高い壁を越える。そこからは徒歩で屋敷に向かい、場所がわかると近くの茂みに隠れる。


「じゃあ、頼んだぞ」


 既にかなり遅い時間帯。セバスチャンとテンは霊体化の状態で外から屋敷を探る。


「あそこですね」


 テパニーゼの書いた屋敷の地図。そこに記されたレドル・ツェトランドの部屋を目指す。

 この時間であれば確実に医者はいない。事前にテパニーゼから聞いた情報では、その時間なら部屋にいるのはレドル・ツェトランド。そして、その看病をするテパニーゼの母、エニメーラ・ツェトランドだけだ。

 セバスチャンとテンはその場所とエニメーラの人相や服装、それを窓の外から確認する。



「あなた……もうすぐテパニーゼが必ず戻って参ります。どうかそれまで……」


 ベッドの上で眠るように横たわるレドル・ツェトランド。その傍らで祈るように呟くエニメーラ。もうこの時間に部屋へ来る者はない。

 エニメーラはいつ、どのような形でテパニーゼからの連絡があるかわからないので、ほぼ常にこの部屋にいる。

 もしかしたらテパニーゼは姿を隠した状態で、何らかの連絡がある可能性もある。それを考慮しての事だ。それについてはテパニーゼと打ち合わせ済みの事でもあった。その為、常に、窓とカーテンを少しだけ開けてあるのだ。その状態であれば、例えば小さい荷物や手紙などを投げ入れる事も可能だろう。

 エニメーラは風の入る室内で事態の変化をひたすら待っていた。


 だが、その瞬間は唐突に訪れる。


「エニメーラ・ツェトランド様でいらっしゃいますね」


 そこに突然響く男性の落ち着いた声。

 驚いて振り返るエニメーラはそこに、老紳士と小さな女の子の姿を発見する。


「テパニーゼ様からあるお方を介し、レドル・ツェトランド様の治療の為にやってまいりました。こちらがその手紙、そして、その証となるイヤリングです」


 驚くエニメーラが声を発する前に冷静な口調で畳み掛けるセバスチャン。その隣でニコニコしているテン。有無を言わせずこちらの要件を伝えてしまえば、怪しまれる可能性も少ない。

 エニメーラもかなり驚いたようだが、セバスチャンの手にあるテパニーゼのイヤリングを見て、それを察したようだ。

 一旦落ち着きを取り戻してから、エニメーラはそれを受け取る。


「テパニーゼから……わかりました。確認させていただきます」


 エニメーラはセバスチャンから手紙とイヤリングを受け取り、それを確認し始めた。


「これは確かに私からテパニーゼに贈ったイヤリング……手紙を読んでも?」

「もちろんです」


 その手紙の内容は、旅の途中でバチル、裕二、ヘスに助けられ、現在はタルソットと言う村にいる事。今は戻れないので彼らにその治療を託した事。そして、タルソット村の惨状、それがステンドットの仕業である事も簡単に書かれていた。


「やはりステンドットが……テパニーゼは無事なのでしょうか!」

「もちろんです。ですが私どもの役目はレドル様の治療。早速始めたいのですが」

「わ、わかりました。お願いします」

「ではエニメーラ様は部外者がこの部屋ヘ立ち入らないようお願いします」

「お任せ下さい」


 セバスチャンは治療を始める。


 ベッドに横たわるレドル・ツェトランドをゆっくりと抱き起こし、その口に少しずつスープを流し込む。

 その作業は単調で時間のかかるものだ。テンはその様子を見ながら、ツェトランド伯爵に少しずつ治癒魔法を掛けて行く。

 エニメーラには何をしているのか良くわからないが、二人の治療に関する誠実な態度に少しずつ安心感が増してくる。


「テン、どうですか?」

「うん、毒は中和し始めているね。僕の治癒魔法をかけながらだから回復は早いはずだよ」


 エニメーラはそのやり取りを見て、この小さな女の子が治癒魔術師なのだと気づいた。そして、一緒にいる老紳士がその女の子に全幅の信頼を置いている様子から、この子はかなりの魔術師なのだと感じ取る。

 そして、肝心のレドル・ツェトランド伯爵の肌の色も少しずつ良い方向へ変わってきた。


 ――しかし……この方々は何者なのかしら。只者ではなさそうだけど……いえ、今はそんな事を考えてる場合ではない。テパニーゼが必死の努力をして連れてきた方々。なら、私はそれを心から信じなければ。


 そして二時間程か過ぎ、治療も終了した。


「これで大丈夫。でも数日は安静にしてね」

「は、はい」


 テンがそうエニメーラに告げた。


「テンがそう言うのであれば大丈夫でしょう。それと、私どもの事については秘密でお願いします。私どもは裕二様の極秘コネクションから送り出された者ですので。出来ればテパニーゼ様にも」


 要はセバスチャンとテンは裕二の極秘のコネ、知り合いで、その繋がりは隠されているのでヨロシク。と言う事だ。

 まさか彼らがタルパで、裕二の力の一部などと言える訳がない。


「極秘……わかりました。それについては、このエニメーラ・ツェトランドの名において必ずお約束致します」

「よろしくお願いします。では、失礼致します」


 セバスチャンがそう言うと、二人は煙のようにその場から消え去った。


「消えた……」


 こうしてセバスチャンとテンは、レドル・ツェトランドの治療を終え、裕二の元に帰って行った。それを真っ先に見つけたのはアリーとチビドラだ。


「あ、裕二見て、セバスチャンとテン帰ってきた!」

「ミャアアア!」

「おお、二人ともお疲れ。どうだった?」

「ええ、治療はうまくいきました」

「もう、大丈夫だよ」


 セバスチャンとテンは、裕二に治療の様子を報告し、その後にタルソットへ帰る事となった。

 そして、裕二が白虎を呼び出し乗り込もうとすると、セバスチャンが口を開いた。


「裕二様、このままステンドット子爵の邸宅に行き、彼を暗殺してはどうでしょう。そうなればタルソットもテパニーゼ様も……」

「うーん、俺もそれは考えたけど、やっぱりやめたんだ」


 裕二とタルパであれば、その様な方法も可能だ。屋敷の場所も依頼時に知っており、そこへ霊体化のタルパを送り出せば済む事。しかし、裕二はそのやり方にあまり良い顔をしない。


「たぶんアイツは魔人と何らかの関係がある。出来ればそれを暴きたい。今殺すとそれがわからないからな」

「なるほど、さすがは裕二様」


 裕二はステンドット子爵が魔人と関係していると確信しているが、その証拠がある訳ではない。

 それを知る為には裕二が直接、ステンドット子爵と対峙する必要があるだろう。そして、それをどのように暴くのか。

 裕二はまだそこにハッキリした考えがある訳ではないが、今ステンドットを殺したらそれは余計わからなくなる。そうなればそこで魔人の足跡も途切れる事になるのだ。


「まあ、それは後で考えるとして、もう帰ろう。さすがに眠たいし」

「帰ろー!」

「ミャアアア!」


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