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剣と魔法と七体の人工精霊  作者: ひろっさー
第二章 冒険者になろう
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83 救いの女神


 その声は道の脇にある木の上から聞こえてきた。


「ニャッハッハッハ。女ひとりによってたかって何してるニャ! お前らまとめてバターソテーなのニャッ!」


 その者が素早く手を水平に振る。そこからキラリと光る物が数発放たれる。それは先程の投擲ナイフだ。

 数人の盗賊が倒れると同時に剣を抜く。そしてマントを翻し地面に飛び降り音もなく着地する。


「こいつ……小娘だがかなり強えぞ。油断するな!」


 その声に全ての盗賊が剣を抜き槍を構える。


「ニャッハッハッハ。盗賊は死罪なのニャ。お前らの装備もいただいてバターソテーなのニャッ!」

「な、何を言ってやがるコイツ……」


 要約すると、お前らを殺してその装備を貰い、それを売ったお金でバターソテーを食べる。と言う事なのだろう。


「構わねえ! 囲んでやっち――」


 盗賊は言い終わる前に首が跳ね飛ばされる。しかもひとりだけではない。その近くにいた者もほとんど同時にだ。その者の凄まじい速さに誰もついて来れない。


「盗賊の癖に弱すぎなのニャ。これでは訓練にならないニャ」

「く、訓練だとぉ」


 その者を中心に囲む盗賊。だが、あの速さでは迂闊に手は出せない。額を汗で濡らしながらジリジリと距離を詰める。そして、その隙を窺う。


「うわあああ!」


 しかし、今度はその者が何もしていないのに背後にいる数名の盗賊の背中から血しぶきが飛び散る。


「今度はなんだ! 伏兵か!」


 辺りを見回すがそんな者は見当たらない。だが、その盗賊が背後を向いた瞬間、円盤状の物が腹に食い込み、大量の出血を残して次の盗賊を襲う。


「ぐわあああ!」

「何だこれは!」

「ニャハッ、めんどくさいから教えないニャ。でも当たると痛いのニャ」


 どう見ても当たると痛いと言うレベルではないが、その直後に円盤はその者の持つ四角いケースに吸い込まれて行く。


「あ、ありゃディッシュケースだ! 背後にも気を、うっ……」


 盗賊が腕に熱い感覚を認識した頃には既に腕はなくなっていた。そして、そこから大量の血が溢れ出す。


「ぎゃあああ!」

「うるさいニャ!」


 直後に首が落とされ悲鳴も止まる。数分もしないうちにほとんどの者は倒され残る盗賊はひとり。この女はあまりにも強すぎる。どう考えても盗賊側に勝ち目はない。これだけの実力差を見せつけられては最早戦う気など起こらない。盗賊は最後の手段を口に出そうとする。


「ま、待て。金ならや――」


 そう言いかけた盗賊は一切の容赦もなく首が落とされた。それと同時に辺りは静まり返り僅かに馬のいななきが聞こえるだけとなった。そして、盗賊の死体と血の海の中心にはテパニーゼが放心状態で座り込んでいた。


「お前大丈夫ニャ? とりあえず休むなら端っこに行くニャ。邪魔なのニャ」

「…………あ、あ」


 言葉にならないテパニーゼを放置して、その者は残された盗賊の馬を二頭だけ残し馬具を外した。


「お前らは自由に暮らすニャ」


 馬たちにその言葉が通じたのか定かではないが、一頭、また一頭と徐々にその場を離れて行く。そして、その後盗賊の装備や荷物をあさり始めた。

 その光景をボーッと眺めていたテパニーゼはハッと我に帰る。


「私……助かったんだ」


 見れば自分と変わらぬ年頃の少女がいる。頭には動物のような耳がありマントの下から僅かに見える尻尾。テパニーゼが初めて見る獣人だ。


「あ、あの……」

「なんニャ」

「あ、ありがとうございました」

「礼はいらないのニャ。それよりお前弱すぎなのニャ。弱いのにそんな高そうなピカピカの鎧着てたら狙われるに決まってるニャ」

「は、はい」

「弱い奴はさっさと家に帰るのニャ。この世界は焼き肉定食なのニャ」


 きっと弱肉強食と言いたかったのだろう。彼女は剥ぎ取った荷物を道の端にまとめながらそう答える。


「……あのお名前は」

「バチル・マクトレイヤなのニャ」

「バチル……マクトレイヤ。冒険者の方でしょうか?」


 その者は手に持った荷物を置き、そのまま手を腰に当てメチャメチャ偉そうな態度で言い放つ。


「違うのニャ。この私こそ、チェスカーバレン学院でナンバーワンの騎士なのニャ。バイツもユージもぶっ飛ばすのニャ!」



 バチルは盗賊から奪った荷物をまとめ終えると、それを残しておいた一頭の馬に括りつけ、もう一頭の馬に乗り込んで移動を始める。

 テパニーゼはどうして良いのか全くわからない。バチルには帰れと言われたがそうする訳にもいかない。ではこれから何をすれば良いのか。


「あ、あの……」

「モンスターに食われたくニャいニャら野営の準備を手伝うニャ」

「は、はい!」


 家を飛び出してからあっという間に絶望の淵に立たされたテパニーゼ。しかし、ここで出会ったバチル・マクトレイヤと言う獣人に救われた。テパニーゼにはバチルがまぶしいくらいに希望の光と映った。彼女についていけば何とかなる。何とかしたい。

 テパニーゼは考えがまとまった訳ではないが、今はこの獣人の少女に従おう。そう考えてバチルの後を付いていった。


「この辺にするニャ」


 道から少し森に入った場所に野営地を定める。


「少し離れるニャ」


 バチルが剣を抜くとその刀身は薄っすら緑色に光る。そして、体制を低くして辺りの草をスパスパと刈っていった。


「この草をそこの木の下に集めるニャ」

「はい!」


 テパニーゼが刈り取られた草を集め始めると、バチルはその木にロープを引っ掛ける。そして、グイッと引っ張りロープの先端に輪っかを作り足で押さえる。その輪っかに荷物の中から取り出した杭を打ち込んだ。周りの木にも同じ事をしていくつかの木が引っ張られ屋根が作られる。


「これは……屋根。凄い!」

「この布を側面に垂らして下に杭を打つのニャ」

「はい!」


 テパニーゼは指示通り木の屋根の側面に布を引っ掛け杭を打つ。慣れない作業に四苦八苦しながらも何とかやり終える。すると木の枝の屋根と布の壁で作られたテントの完成だ。テントの中は先程の草が敷き詰められその上に布を敷く。

 続けてバチルは周囲の木に何か糸のような物を括りつけていく。そして、その木の根本に石を埋めていった。


「これは結界なのニャ。モンスターが近づかないように、こちらの気配を断ってくれるニャ」


 結界を張り終えたバチルはテパニーゼに指示を出す。


「石と薪を集めてテントの前におくニャ」

「はい!」


 テントの前には火が炊かれ、そのぬくもりはテントの中まで届く。これなら心地よく寝られそうだ。バチルは荷物の中から何かの肉を取り出した。


「これを焼くのニャ」

「はい!」


 テパニーゼに肉を焼かせその間にバチルは白く半透明な石を取り出し、それをヤスリで削り始めた。


「バイツから盗んできた岩塩ニャ。あんな奴にユージの岩塩は勿体無いのニャ。私が使ってやるのニャ」

「それは……塩、ですか?」


 バチルはその塩を肉の上にパラパラとまぶしてゆく。


「焼けたら食べて良いのニャ」


 ただ塩で焼いただけの肉。しかし、テパニーゼにはそれがどんな高級料理より美味しそうに見えた。

 先程あんな思いをしたはずなのに。凄惨な死体の転がる現場を見たはずなのに。

 それでも今のテパニーゼにはバチルがそばにいてくれる事が大きな力となっていた。先程までの不安と絶望を、この獣人の少女がただとなりにいるだけで軽減させてくれているのだ。


「とても美味しいです!」


 テパニーゼはやった事のない作業を一生懸命やり食事をする事で元気と落ち着きを取り戻したようだ。バチルがそれを意図してやらせたのかは不明だが、最早テパニーゼにはバチルの存在が救いの女神となっていた。


 だが、次に考えるのは今後の事。テパニーゼには父親の病を治すと言う目的がある。今の自分にはそれを実行できる力がないと言う事は良くわかった。そこで考えるのはこの獣人の少女、バチル・マクトレイヤの力を借りれないかと言う事だ。最早それ以外の方法はあり得ない。自分ひとりになれば、また同じ事の繰り返しになってしまう。

 テパニーゼは少し躊躇しながらも、バチルにお願いしてみようと口を開く。


「あの……バチルお姉様。聞いていただきたいお話しがあるのですが」

「お、お姉様ニャ!? なんニャ、言ってみるニャ。チェスカーバレン学院ナンバーワンが聞いてやるニャ」

「実を言うと私は……」


 テパニーゼは今に至る経緯を話し始めた。

 父親がモンスターに襲われ意識不明の重体となった事。そして、その治療法はないと言われた事。しかし、それはある者が画策した事であり治療法はあると信じている事。それを探す為に今ここにいるのだと言う事。

 テパニーゼは順を追って説明した。バチルはそれを肉を食べウニャウニャ言いながら聞いている。


「お姉様はミズルガルバイパーと言うモンスターをご存知ですか?」

「知らんのニャ」

「私ではそのモンスターの毒を治す治療法を探すには力不足で……」

「ニャら諦めるニャ」

「それは……」


 あっさりバッサリ切り捨てるバチル。やはりそう簡単にはいかない。だが、何とかバチルの協力を取り付けたいテパニーゼ。明日にはここを発ちバチルとは別れる事になる。このまま彼女と別れたら父親を救うどころか自分の身さえ危ない。何か良い方法はないのか。テパニーゼは知恵を絞って考えた。その時、ふとテパニーゼが気になったのは、バチルが何をしにこの地にいるのか、と言う事だ。まずはそれを聞いてみる。


「お姉様はここで何をなさっていたのですか?」

「私は美味しいお魚さんを探す旅をしているのニャ。ついでにユージに勝つ為の修行の旅でもあるのニャ。そして、ユージに勝ったら美味しいお魚さんでバターソテーを作らせるのニャ!」


 それを聞きテパニーゼは直感した。美味しいお魚さん、バターソテー、そしてユージと言う人物の名前。この三つがバチル攻略のキーワードだ。ここで考えられるのはテパニーゼが伯爵家の令嬢でお金持ちであると言う事。それはつまり金の力でお魚さんとバターソテーは用意できると言う事でもある。


「あの……お姉様さえ良ければ高級なお魚を一流のシェフに料理させて、そのバターソテーと言う物を好きなだけご馳走したいと思うのですが……」

「ニャ、ニャ、ニャにいぃ! そんな事が可能ニャ?! 一流のお魚さんがシェフのバターソテーなのニャ?」


 バチルは食べていた肉をポロリと取り落とし目を丸くして驚いている。


「ええ、もちろん。ですが私は今、お父様の治療法を探さなければならない身。それが済んだならば今回のお礼として――」

「ニャらさっさとそのおっさんを治すニャ! そして、一流のお魚さんなのニャ! 私がやってやるニャ」

「で、ではご協力いただけるのですか!?」

「そんな事この私にかかれば簡単なのニャ。まずはユージを探すのニャ!」

「え? そのユージと言う人はいったい……」


 父親を治す事とそのユージと言う人物に如何なる因果関係があるのか。テパニーゼにはさっぱりわからない。しかし、バチルは自信満々の様子だ。何か考えがあるのだろうか。


「ユージは学院を飛び出してどっかにいったのニャ。エリネアに聞いたらどっかで冒険者をやってると言ってたニャ。ユージならすぐに上級冒険者になるニャ。つまりその何とかバイパーも山ほど倒してるニャ。と言う事は治療法も知っているのニャ!」


 理路整然としているようなしてないようなバチルの論理。だが、少なくともテパニーゼから見て、とんでもない強さを誇るバチルが期待を寄せる人物なのは間違いなさそうではある。

 勘と言われれば勘でしかないのだろう。しかし、バチルの信じる勘。テパニーゼが全く及ばない事をあっという間に片付けてしまうこの獣人少女の勘だ。それに期待を寄せずにはいられなかった。自分もその勘を信じたい。テパニーゼはそれをバチルと共有したかったのかも知れない。


「ではお姉様」

「ついでにその何とか子爵もぶっ潰してやるのニャ。そして、一流のバターソテー王国を作るのニャ。ニャッハッハッハ」


 その瞬間、テパニーゼは心に決めた。このバチルと言う獣人少女とともに旅をする事を。そして、ユージと言う人物を探し出し治療法を見つけると言う事を。


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