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剣と魔法と七体の人工精霊  作者: ひろっさー
第二章 冒険者になろう
81/219

81 休日


 裕二とヘスはパーリッドに帰った翌日、ギルドへの報告を済ませ、その日は休む事にした。

 体力的に厳しいと言う訳ではないが、やはり魔人と遭遇した事で精神的にくたびれる部分もあるだろう。あの場はあれが最善だったのか。今後魔人と遭遇した場合、どのように行動すれば良いのか。そんな事も考えてしまう。

 だが、いつまでもそれを考えていても仕方がない。そこに明確な答えなどないのだろう。魔人についてはまだ、わからない事も多いのだから。


「いいかユージ。ああやって話しかけてくる奴は話術で買わせようとしてる。特に魔人関連の物はその効果を確かめようがないから偽物も多い」

「おお、なるほど」

「本物を売ってる店はあんな事しなくても客がくる」


 裕二とヘスは中央通りで必要な物資を買いながら怪しすぎる露店を見てまわる。中には良い品物もあるのだろうが、今の裕二にそれを見分ける事は難しい。

 ヘスは裕二よりその辺に詳しいが、目利きと言う程でもない。うるさい、しつこい、こう言った商人は信用出来ないと言ってるだけだ。後は経験の差だろう。それでも裕二より優位な部分ではあるので少しばかり得意気に振る舞う。


「見ろユージ。ああ言う奥まった店が良いんだ」

「ほう、行ってみるか」


 露店の奥にある古そうな店。朽ち果てる寸前の木で出来た看板。薄汚れた窓から見える怪しげなアイテムの数々。確かにそれらしい雰囲気はある。そう言う店は店主も忘れているような品物があったりする。十年前にプレミアのついたゲームが新品、定価で売っている店を見つけたような感覚だ。

 裕二はわくわくしながらその店の扉を開ける。


「う、ぉぉ」


 ホコリ臭さと刺激臭の入り混じる店内。杖やローブから指輪、腕輪、様々なタイプの魔石等わかりやすい物もあるが、乾燥したトカゲ、瓶に入ったつぶつぶ。毒々しい色の鉢植え。引き裂かれた書籍。何かの腕のミイラ。と、怪しさ満載の店だ。その奥のカウンターに座る黒いローブを着た鷲鼻の老婆。彼女が店主なのだろう。


「何だか凄いのが来たねえ」


 老婆はニヤリと口元を歪め開口一番そう言い放った。それは明らかにヘスではなく裕二に言っている。ボサボサの白髪の奥に僅かに見える目がそう物語っていた。


「やっぱりわかるかい婆さん。このユージはあのオスロットをひとりで壊滅させる程の魔術師なんだぜ」

「オスロット? あのクソガキ共かい。その程度はいくらでもいるさ」


 どうやらこの老婆はヘスの言う視点とは違う物の見方をしているらしい。オスロットを壊滅させる程度の魔術師なら他にもいる。そこにはさして驚きもない。老婆の言葉はそう読み取れる。


「じゃあ婆さん。凄いのってどういう意味だよ」


 ヘスのその問いは無視され老婆はじっと裕二を見据える。彼女はいったい何を見ているのか。裕二はそこに焦りを感じ始めた。


 ――まさか……タルパが見えてるのか? まずいな。


「濃い魔力だね。だけど不自然と言うか……バランスが悪いね」

「バランス……」


 とりあえずタルパが見えてる訳ではないようだ。裕二は老婆の答えを聞き、密かに安堵する。


「魔力が変な方向に放出されているような気がするねえ。理由はわからないけどね」

「そうなんですか……」

「二方向だけ激しく動いているような……」


 ――二方向……アリー、チビドラ! 止まれ。

 ――ん?

 ――ミャ?


「おや。コントロールしてるのかい? これは凄いねえ」


 ――やっぱりか。


 店に入ってからアチコチ珍しい物を見て楽しそうに飛び回っていたアリーとチビドラ。裕二はいつもの事なので気にしてはいなかったが、おそらくタルパと裕二の間には魔力での繋がりがあるのだろう。老婆はそれを感じ取っていたと考えられる。


 そして、それについてはチェスカーバレン学院編入時にもリシュテインに、完璧ではないが見破られた経験がある。だが、今までに裕二のタルパを完璧に見破った者はいない。リシュテインクラスの魔術師であっても何となく、と言う程度だ。この老婆はそれに近い能力を持つのかも知れない。


「なんかやったのか? ユージ」

「いや、別に」

「ふふ、悪かったね。喋りすぎたようだね。まあアンタが使うような物はないけどゆっくり見ていきな」


 老婆はそう言ったが裕二は彼女がどのように感じたのか。それに興味が湧いてきた。見えてないのは間違いない。他はともかく、リアンが見えてたらもっとぶったまげるだろう。裕二はそこを率直に聞いてみた。


「どんな風に感じたんですか?」

「そうさね。力の圧迫感とでも言うのかね。これは人によって違う」

「それは……魔力で人を見分けられるって事ですか?」

「ある程度ならね。正確には無理だろうよ。私より高位の魔術師なら、もっと正確かも知れないけどね。例えば収納魔法で取り出した物はそこに僅かな魔力が残留する。誰がそれを取り出したのか見分けるのも可能、かもね」

「なるほど……お婆さんもかなり凄そうですけど」

「ふふ、ありがとよ。でも私はただの年寄りさ」


 ――残留魔力か……


 他愛のない話し。ではあるが、裕二にはとても印象深い話しでもあった。そんな話しを聞けただけでもこの店に足を運んだ価値はあるのだろう。


 ――なんか買うかな。


 別に話しの礼と言う訳ではないが、表でゴミを買うよりは遥かに良い。裕二はこれも商売の手法なのかと少しだけ考えたりもしたが、気分良く買い物が出きるのなら問題はない。


「婆さん。この束はなんだ?」


 二人の話しを聞き耳を立てつつ並べられた商品を物色していたヘス。雑多に並んだ沢山の品物の中から百枚ほどの紙束を見つける。


「それは使役術の札だね」

「使役術か。随分あるな」

「スペンドラから流れてきた売れ残りだよ」

「スペンドラ……」


 裕二はスペンドラと言う言葉に僅かに反応する。だが、それを無視するように老婆は札について詳しく話しだす。

 その紙束は小動物を使役する為の術式が書かれた札。使用者の魔力を使い発動するが詠唱の必要がない。シェリルが武闘大会で使っていたのと同じ物だ。


「スペンドラは貴族が集まる街だからね。従者がいる貴族にこんな物は必要ないんだよ」

「そりゃそうだよな」


 こんな物を使っても小動物にやれる事などたかが知れている。せいぜい物珍しさに買う程度の物だ。ヘスがそれに同意する。裕二も頷きながらそれに納得した。だが、老婆は話しを続ける。


「何でだか知らないが一時期その需要が高まってね。スペンドラの商人が大量に札を仕入れたんだけど、結局ほとんど買われず売れ残った。それがこっちに格安で流れてきたんだよ」


 ――裕二様。おそらく……

 ――ああ、シェリルが武闘大会で使ったのを見た商人が、売れると見込んで大量に仕入れた。けどその思惑はハズレた。

 ――ですね。


 裕二とセバスチャンもその程度は簡単に想像がつく。あの憎たらしい顔が微かに脳裏を過ぎるが、おそらくこの束がスペンドラで売れたらかなりの額になるはずだ。品物に問題がある訳ではないので少し勿体無い気もする。


「いくらなんですか?」

「束で買ってくれるなら銀貨一枚でいいよ」

「買った!」

「おいユージ」


 裕二の即決にヘスは渋い顔をする。だが、これくらいなら例え無駄使いでも許容範囲だろう。裕二は説明を聞いた上で買っているのだ。ヘスはそう思い口を閉ざす。


「確かに銀貨一枚受け取ったよ」


 裕二はお金を払うとホクホク顔で店を出た。ヘスは微妙な表情だが、お互いが納得した取り引きなら何も言う事はない。


「しかしユージ。そんな物買ってどうすんだ?」

「馬鹿だなヘス。これをスペンドラで買ったら札ひとつで銀貨一枚でもおかしくない」

「それで売れないから流れてきたんだろ」

「ま、まあな。でも勿体無いじゃないか」

「……かもな」


 何か使い道があるならともかく、そんな物がありそうには全然見えない。ヘスには全く同意しかねる考えだが、裕二が喜んでいるので表面上の同意だけはしておいた。


「じゃあユージ。買い物も済んだし、メシでも食いに行くか」

「そうだな。腹も減ったし」


 裕二がパーリッドに来てからだいぶ日も経ち、いくつか顔見知りの飲食店も出来た。元々はヘスの馴染みの店だったが、オスロットを壊滅させて有名人になった裕二も色々と話しかけられる事が多く、そう言った店に馴染むのにそれ程時間はか掛からなかった。

 二人はどこへ行くともなく自然にそう言う店に足を運ぶ。


「よう。ユージとヘスか」


 彼はジャスパーと言う店のジャスパーと言う名前の店主。つまり自分の名を店名にしてるだけだ。そのジャスパー店内に入った裕二とヘスはその様子がいつもと違う事に気づく。


「何かあったのか?」


 いつもの見慣れた円形のテーブルと椅子。そのいくつかが新しい物に変わっている。そして、壁にはぶち破られた跡を応急処置したかのように板が貼り付けられている。ジャスパーは店内を見回したユージに事の顛末を話そうとする。


「それが聞いてくれよユージ」

「いや違う! あの女がおかしいんだ。聞いてくれユージ!」

「お前が悪いんだろ。黙ってろガークック」


 ガークックと呼ばれた冒険者がいきなり話しに割り込む。彼がこの件に関わってそうなのはその傷だらけの顔を見れば一目瞭然だ。おそらくしょうもないケンカでもしたのだろう。その結果、店のテーブルや椅子を壊してしまった。冒険者の集まる街ならありふれた話しだ。


「実はな。旅の冒険者らしき女がうちに立ち寄ってな。まあそれがけっこうかわいい娘でな。この馬鹿がちょっかい出したのさ。それがかなりしつこかったんで相手は怒り出したんだ」

「う、うるせえ! ちょっと声かけただけだろ」

「わかったからお前は黙ってろ。ところがその娘はとんでもない強さでな。暴れだしたら止まらなくなっちまって、ガークック以外の数人の猛者が止めに入ったんだよ」


 その話しに下を向いてる者が数名いる事に裕二は気づく。そしてその数人もガークックと同じように傷だらけになっていた。


「もしかしてコイツらもやられたのか?」

「そう言う事だ。あんなの見た事ないぞ。俺達じゃどうにもならないからユージを連れてこいって言ったら、お前らその時はちょうどメイザー坑道跡に行ってたからほとほと困ってな」

「そりゃ悪かった」

「仕方ねえから料理はタダにする。他に好きな物食っていいからやめてくれって言ってやっと止まったんだ」

「へえ、大変だったな」

「ああ。本当に大変だったぜ。だけどそれで機嫌を直してくれて何とかなったんだよ。その後は見かけねえから街を出たのかもな」


 聞けば聞くほど良くありそうな話しだ。だが、彼らにとってはそう言うのも娯楽になるのだろう。他の客もそれについてアレコレ楽しそうに話している。投げ飛ばされたであろう冒険者も、その娘が如何に強かったか、裕二がいたらどうなっていたか。どちらが強いのか。そんな話しで盛り上がっていた。


 裕二とヘスは席につき、そんな会話を聞き流しつつ注文を頼む。だが、その会話の中に思わず振り返ってしまいそうな内容が含まれていた。


「だけどあの娘滅茶苦茶だったけど、かなりかわいかったよな」

「ああ、でもありゃ獣人だろ。フードを被ってたけど尻尾は見えてたよ。この辺じゃ珍しい」

「それが良いんだろ。バターソテーをあるだけ持ってこいニャー! って言われてえぜ」

「何だよそれ。お前マゾかよ」


 ――なぬ! バターソテー……いや……まさかな。


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