78 坑道跡
「あ、そうそう。ヘスにこれを返しとく」
裕二はヘスに魔食いの指輪を渡す。それが意外だったのかキョトンとした顔で受け取った。だが、何か勘違いしたのかその表情はすぐに焦りへと変わる
「な、も、もしかして」
「いやいや、同行は継続していい。ヘスの事は信用しているから必要ないってだけだ」
「おお、良かったあ」
二人は今、別の依頼を引き受けて仕事に向かう途中だ。パーリッドから馬車で一日かけメイザーと言う坑道跡に向かっている。乗り合い馬車で街道を北へ走りその途中の村ビーレで馬車を降り、そこから歩いてメイザー坑道跡へ向かう。
その近隣の村からの依頼でメイザー坑道跡に棲み着いたストーンリザードを退治して欲しいとの事だ。裕二達は現在馬車を降り、徒歩でビーレに向かっている最中だ。
「ヘス、ストーンリザードってどんな奴だ?」
「丸まって岩石に化けるんだ。迂闊に近寄るとバックリやられる」
「ウッドリザードみたいな奴か」
「硬いから剣より魔法中心で攻撃した方が良いな。ライトニングが使えれば一撃で倒せる」
「それなら楽そうだな」
そんな話しをしながらふと、ヘスを見ると、先程裕二が渡した魔食いの指輪を嵌め直している。
「それ本当に魔人を無力化出来るのか?」
「さあ、古いし魔人が現れないと試せないからな。試して使えても壊れる可能性もあるし、どちらかと言うとお守りだよ」
「へえ……」
そう言えば魔人の知識、それについて裕二はあまり豊富とは言えない。本当ならチェスカーバレン学院で習うのだろうが、裕二はその前にやめてしまった。魔法についてはたくさん勉強したのだが、やはり短期間ではバランス良く知識を得るまでには至らなかった。もっと高学年になってから習う事だったのかも知れない。
裕二はふと、ヘスがその辺りの知識を持っているのか聞いてみた。
「ヘスは魔人について詳しいのか? 魔食いの指輪なんか持ってるなら多少は知識もありそうだよな」
「いや、詳しくはないぞ。前に少し本で読んだ事はある、と言う程度だな」
「それ、ちょっと聞いてみたい」
「うーん、そうだな。まず魔人は人類とは相容れない存在って事だな」
「相容れない存在? なんで?」
良く考えれば何故、魔人は人類と敵対しているのか。裕二はそれさえ良く知らない。ヘスの言葉にそのヒントがありそうだ。
「人間は魔術師であろうがなかろうが魔力が必要。これはドワーフやエルフなど他の人類、自然にも必要だな」
魔力は自然界の根源的な力、と定義されている。あらゆる存在に必要なエネルギーと言うべきもの。その一部を魔法として行使する。
「じゃあ、魔人はどうだと思う?」
「えーと、魔力いらないのか?」
「まあだいたい正解だな。答えは瘴気を根源的なエネルギーとしている。だそうだ」
「瘴気?」
瘴気とは変質した魔力、汚れた魔力と言うべきもの。人間には水が必要だが、下水の水は飲みたくない。そんな物を飲めば病気になるだろう。その下水を必要とするのが魔人と言う事になる。
人間が暮らすなら綺麗な水のある場所にしたい。だが、魔人は汚れた水のある場所に住みたい。魔人が人間のテリトリーに住むなら水を汚さなければならない。その綺麗な水、汚れた水が魔力と瘴気となる。
「となると、共存は不可だろ?」
「おお、なるほど、わかりやすい」
魔人が住みよい環境にする為には世界が瘴気に溢れてないとならない。だから人類とは相容れない存在となるのだ。
「その瘴気はどこから生まれるか、わかるか?」
「どこだ?」
「それも魔力と同じ人類や自然が作り出す」
「なに! そうなのか?」
人々のネガティブな感情、憎しみ、苦しみ、嫉妬、要は七つの大罪みたいな事だ。そう言うものが魔力を変質させ瘴気へと変える。自然界では汚水などの環境破壊も同様と考えられている。
「わかりやすいのは人間同士の戦争だな。魔人が人類を屈服させたら瘴気を作る為に森や山の破壊、そして戦争をさせるだろう。争いが好きな訳じゃなく必要って事になる」
「うーん、確かにそれじゃ相容れないよな。でも好きでやってる訳じゃないのか」
「そりゃ好きでやってる魔人もいるだろ。そこが基準じゃないって事だ」
「ああ、そっか」
「で、この魔食いの指輪はその瘴気を一時的に分散させる効果があるってワケ」
魔食いの指輪は高濃度の瘴気を感知すると発動し、それを分散させる。つまり魔人が近くにいれば自動的に発動され、瘴気を失った魔人を無力化させる。しかし、過去に一度でも使われていたなら、その効果は期待しない方が良いだろう。
「まあ、さすがに使われたかどうかはわからないけどね。その辺が魔人の基礎知識だな」
「ほう、他には?」
「知らん。詳しくないって言ったろ」
「だよな」
今現在も魔人はどこかに潜んでいる。その潜んでいる場所もそう言う場所なのだろうか。クリシュナードが現れたら魔人も現れる、と言われているが、それまではどうしているのか。今の知識ではそこまでわからないだろう。
「ユージ、村が見えてきたぞ」
魔人の話しはそこまでにして頭を切り替える。まずはビーレと言う村で話しを聞き、メイザー坑道跡へ向かいそこでストーンリザードを討伐する。その数は多い、と言うだけで詳しくわかってはいない。本来はもっと人数の必要な依頼なのだが、オスロットを一人で壊滅させる男がいるので、ギルドも許可を出したのだ
。
◇
「よくぞおいで下さいました。私はビーレの村長、ネイマールと言います」
先の尖った木の杭を並べて作られた二〜三メートル程の壁。その中には五十件程の簡素な家が立ち並ぶビーレと言う村。そこで村長を務めるのがこのネイマールと言う男、と言うよりお年寄りだ。
裕二とヘスが村に入るとそれに気づいた村人が村長に知らせてくれたらしい。村長のネイマールはにこやかな笑顔で杖をつきながら現れ、裕二とヘスを自宅へと案内してくれた。
通された部屋にはなんの装飾もない木の戸棚、テーブル、椅子が置かれた殺風景な場所。普通の平民の暮らしはこんなものなのだろう。貴族の集まるスペンドラで暮らしていた裕二には、少し物珍しい光景でもある。
二人が椅子に座るとネイマールは早速話しを始めた。だが、最初こそにこやかだったネイマールはやや不安げな表情でこう告げた。
「もしかしてお二人だけ……でしょうか」
言いたい事はわかる。本来はもっと人数の必要な依頼。それをたった二人でやろうとしている。ネイマールが不安に思うのも無理はない。
「大丈夫ですよ。このユージはたったひとりでパーリッドのギャングを壊滅させる男ですから」
――それやめて……
「パーリッドの……おお! そうなのですか。これは失礼致しました。それならば安心ですが、メイザー坑道跡のストーンリザードは数が多いので暮れぐれも……」
「お任せ下さい!」
ヘスが自分の胸を叩きながら請け負う。安請け合いにも見えるが、ネイマールを不安にさせるよりは良いだろう。不安故に増員しろだの作戦を説明しろだのと口を挟まれれば面倒でもある。安くない料金を払う依頼主なのだからそれを言う権利もあるのだ。
「では詳しい話しを」
ネイマールから現場への経路、知りうる限りの近辺の様子、他のモンスターも現れるのか、等を聞き出す。ヘスはその場で簡単な地図を書き、詳しい情報を書き込んで行く。
メイザー坑道跡には多数のストーンリザードが住み着き、その規模は坑道跡の外にも広がっている。その近辺で狩りや採取をする村人にはその存在が脅威となっていた。
村長ネイマールの依頼はその数を減らし、出来れば全滅させて欲しいとの事だ。
「何卒よろしくお願いします」
一通りの話しを聞いた裕二とヘスは席を立ち村を後にする。聞いた限りでは数が多いと言う以外は大した事なさそうだ。
「じゃあ行くか。ユージ」
「そうだな」
歩くと時間ががかるので途中までは村人の馬車に乗せてもらい、現場近くで降ろしてもらう。帰りはヘスが救援信号をあげたら迎えに来てもらう予定だ。
「ヘス、ここがそうか」
「そうだ。この道をまっすぐ行けば坑道跡入り口になる」
森を切り開いた坑道跡までの通路。既にモンスターのテリトリーに入っているはずだ。裕二は感知能力を作動させる。
「こりゃかなりいるな……」
ストーンリザードは岩に擬態しているので基本的にそこから動かない。なので討伐するならその場に行って倒す必要がある。しかし、数が多いとそれも一苦労だ。倒すより移動の方に時間を取られる
「広範囲に五〜六十はいる」
「けっこう多いな。どうするユージ」
「うーん。魔法で一気にやる」
とは言っても通常の広範囲魔法でカバーしきれる面積ではない。裕二はどうするつもりなのか。
――リアン、ムサシ。俺たちが戻るまで数を減らしといてくれ。
――うむ。
――……
「方法は教えられないが俺たちが坑道跡から戻るまでにかなり数は減ってるはずだ。先を急ごう」
リアンとムサシなら霊体化で高速移動が出来る。攻撃も強力なのでさほど時間はかからないだろう。歩き回って倒すより効率的だし、自分たちは坑道跡に入ってしまえばヘスにも見られない。
外はリアンとムサシに任せ、裕二とヘスは坑道跡へ進入する。当然、中は真っ暗闇で何も見えない。
――テン。頼む。
すると、裕二の頭上に数個の光の玉が出現し、辺りを明るく照らす。今まで自身が発光していたテンだが、成長したことにより辺りを照らす、と言うテンの基本的な能力にも変化を与えていた。光の玉を操作して広範囲を照らす事も可能だ。
――どう? 裕二様。
――バッチリだぜテン!
「おお、明るい」
ヘスからするとこう言った能力も珍しいのかしきりに感心しているが、てんとう虫が出てきて辺り照らすよりは驚きも少ないだろう。だが、その驚きも長くは続かない。
「あの岩……」
「ユージ。迂闊に近づくなよ」
早速ストーンリザードが現れた。裕二は感知能力を作動させているので気配でもその存在を察知出来る。だが、擬態している状態のストーンリザードはかなり気配が薄い。こうなると転がってる岩は片っ端から攻撃した方が早そうだ。
「ライトニング!」
岩に魔法が直撃するとその形が崩れる。アルマジロのように丸まっていたストーンリザードは腹を見せて動かなくなる。裕二にとって倒す事はさほど難しくはない。
「ヘスは周りを警戒してなにかあったら対応してくれ」
「わかった」
ヘスの魔力量がどれほどあるのかわからないが、裕二より多いと言う事はないだろう。そう考えると裕二が攻撃、ヘスは警戒、と分担した方が良い。ストーンリザード以外のモンスターがいる可能性もあるのだ。ヘスならばその辺の知識も裕二よりありそうだ。上手く対応するだろう。
「しかし、やっぱり中の方が数は多いな。ダイアモンドダストバースト使ってみるか」
「いや、それは成功するかも知れんが止めておこう。いっぺんにアチコチで爆発したら坑道が崩れるかも知れん」
「うー、そっか。時間掛かりそうだな……」
ダイアモンドダストバーストなら広範囲に攻撃出来るが、坑道跡全体をカバー出来る訳ではない。数を残して坑道跡を崩したら更に面倒になる。別の出入り口でもあれば、今度はそちらに被害が出るだろう。
――もう少し効率良い方法はないかな、セバスチャン。
――畏まりました。お任せ下さい。
メイザー坑道跡に巣食うストーンリザード。その数はかなり多く外にも溢れている。裕二はその数を効率よく減らす為、セバスチャンに助言を求めた。
――ライトニング程度であれば私にも使えます。
――おお! そういやセバスチャンも多少は魔法使えるんだったな。しかし、セバスチャンひとりだと全体をカバーするまでにはまだ足りないかもな……白虎とチビドラも出すか。
――いえ、最低でも白虎、チビドラが護衛として裕二様の元にいなければ私も安心して戦えませんので。それよりも、リアンとムサシがそろそろ戻ってきます。
最初は外のストーンリザードの数が多いと思っていたが、中に比べれば大した事はなかった。リアンとムサシならそれ程時間は掛からないだろう。
リアン、ムサシ、セバスチャンに裕二の行かない範囲を掃討してもらえばかなり効率は良くなる。
――良し、それで行こう。
と、考えている間にリアンとムサシが光の玉になって高速で戻ってきた。やはりセバスチャンの読み通りだったようだ。
こうして迷路のような坑道跡を四つに別れて分担すれば、かなり早く終わりそうだ。
「ヘス、外は片付いた。今から中もやるから俺たちは通路をまっすぐ行こう」
「そうなのか? どうやってそんな……いや、聞かない約束か」
ヘスにはかなり興味があるのだろう。しかし、教えたくない事は教えなくて良いと言う約束だ。ヘスが信用出来ない訳ではないしある程度話しても良い部分もあるだろうが、そうしておかなければ一緒に行動する事自体難しくなる。ヘスも興味だけで今の関係を壊したくはないはずだ。そもそも裕二じゃなくても高位魔術師や名のある冒険者なら、話せない秘密などいくらでもある。それを無理に聞き出す事はマナー違反だ。
裕二は感知能力で辺りの気配を探っているが、三体のタルパが出動してすぐに感知した気配も消えていく。特にリアンとムサシ方面はどえらい速さだ。これでかなりの時間短縮になるだろう。
「夜までには終わらせてビーレに戻りたいな」
「て事は……村で一泊して明日帰れるか」
二人は自分達の担当通路を歩き、まばらに現れるストーンリザードを倒しながら奥へと進む。ヘスも一応ライトニングは使えるようで、たまに交代して敵を倒す。とは言っても威力の面では裕二には及ばないようだ。
「俺だとギリだな。魔力消費も考えるとユージがいなきゃやっぱり大人数が必要だったろう」
そんなこんなで一時間程経つとムサシ、リアン、セバスチャンの順に裕二の元へ戻ってきた。後はこの先をやれば終わりだ。
だが、その時。裕二の感知能力に新たな気配が捉えられた。それは今までとは全く異質な気配。
「何だ……」
「どうしたユージ」
ヘスの問いに無言で返す裕二。その気配は今までに感じた事のないもの。裕二は一瞬そう思った。
「いや、違う。これは……」
裕二の表情がみるみる変わっていく。それを見るヘスも何かまずい事態が差し迫っているように感じ始めた。
「……エンバードの怪物!」
剣と魔法とESPのSSを公開しました。一回目はテリー中心の内容になります。タイトル上部のシリーズか下記URLでいけるはずです。是非ご覧下さい。
http://ncode.syosetu.com/n7939dq/




