77 武勇伝
裕二とヘスは森でオスロットを壊滅させた後、ワイルドウルフを回収してからパーリッドへ戻った。あんな事があった後なので、まだ陽は高いが宿でゆっくり休みたい。二人はパーリッドへ戻るとワイルドウルフの処理だけして宿へと戻って行った。
ちなみにワイルドウルフの処理とは、ギルドへそのまま持ち込むのではなく、解体、加工をしてくれる業者へ持ち込んで伝票を受け取る。それを後からギルドへ持っていくと、それらの費用を差し引いた報酬が支払われる事になっている。ワイルドウルフ四体では大した稼ぎとは言えないだろう。
「しかし、パーリッドに来てからトラブル続きだな」
最初はパーチに盗みを疑われ、その次はチンピラに絡まれ、最後はギャングに命を狙われる。学院にいた時もグロッグとシェリルのお陰で面倒事はあったが、こちらは違うタイプの面倒があるようだ。
「ですがあのギャングは裕二様が完全に壊滅させたので、今後はそうそう面倒は起こらないのではないですか」
おそらく奴らが街一番のトラブルメーカー。そいつらがいなくなれば街全体のトラブルも減る。必然的に裕二のトラブルも減る。セバスチャンはそう考えている。
「かもな。とりあえずはこれで普通に冒険者としてやっていけるだろう。明日は伝票持ってタグを受け取ってやっと普通に依頼が出きるはずだよな」
「そうですね。今日はその為にゆっくり休むとして、先に照合結果をお知らせしておきます」
「照合? ああ魔人の文字か。どうだった?」
ヘスから預かった魔食いの指輪は、人間の文字をベースに補助的な感じで魔人の文字が使われている。なので文字数は少ない。矢尻の方はおそらくだが魔人の文字のみで構成されたひとつの術式だ。つまり矢尻の方が文字数は多い。
セバスチャンは文字数の少ない指輪を基準にどれくらい同じ文字が使われているのかを調べた。
「その結果、適合率は約九割。ほぼ同じ文字と考えて良いと思います」
つまりメディッサバイパーに打ち込まれた矢尻は魔人の文字で術式が作られた。人間がそれを作った可能性は否定出来ないが、魔人が作った物だと考える方が自然だ。となると、メディッサバイパーは何かしらの目的で魔人に使役されていた。と言う可能性が最も高くなるだろう。
「現段階ではあくまで可能性でしかありませんが、魔人が絡んでると考えた方が良さそうです」
「そうだな。その目的がわかれば良いんだが」
メディッサバイパーは裕二の知る限り、何かを成した部分はない。目的の途中だったのか、それとも目的遂行したのか、それもわからない。
「でもまあ、その指輪はもう必要ないな。ヘスに返しとくか」
「そうですね。家宝と言う事ですからヘス様には大切な物なのでしょう」
裕二に信用してもらう為に渡されたヘスの指輪。しかし、今回の森での出来事でヘスへの信頼度は大きく増した。もう指輪は必要ない。もちろんお互い何か隠し事がない、とまでは言わないが、そんな物を預からなくても裕二はヘスを信頼出来るようになった。
ヘスを警戒していたセバスチャンも、そう言う方向に考えが傾いてきたようだ。
◇
「ユージ!」
裕二とヘスは翌日、依頼を受ける為ギルドへと向かった。だが、建物に入った瞬間、パーチが裕二の名を大声で叫ぶ。それにつられギルド内の全員が裕二に視線を送った。
「な、んだ?」
「お、おめえ……大丈夫なのか?」
「へ?」
裕二とヘスはなんの事かわからないので固まっている。しかし、次のパーチの言葉で何となく理解した。
「オスロットとやりあったんじゃねえのか?」
「ああ、その事か。森で襲われたから全滅させたよ。けっこう大変だった」
「お、おめえは……いや、そうじゃなくて」
「ユージ、さすがにそれじゃあ……」
超絶簡素な説明にパーチは納得いかないようだ。その横でヘスがため息をついてから細かな説明を始めた。その説明にギルド内の全員が聞き耳を立てている。
「て事は……やっぱりジェイクとイーリーか。それをユージが返り討ちにして、その報復でオスロットが出てきた。しかし、オスロット全員でユージに対応したとなると、その力を高く評価してた事になるな」
「ハッハッハ。最初にユージがジェイクとイーリーに絡まれた時、俺はユージを助けようとしたんだ。だけどそこに辿り着く前に終わってたよ。オジーはそれを聞いてブルったワケだな。ひとりじゃ何も出来ないからこそ、あんな人数でユージに挑んだのさ」
ヘスが自分の事のように自慢している。周りはもっと細かく聞きたいようで、ヘスにどんどん質問を投げかけていた。その返答を聞くたびに周りも盛り上がってくる。
「樹上から何百もの魔法が飛んできてな。ユージは怪我をした俺を抱えながら敵をバンバン倒していくんだ。信じられるか? 前からも後ろからも魔法が飛んできて更に数十人の奴らが剣で攻撃してくるんだ。俺は死んだと思ったね。だけどユージは表情を一切変えず――」
――盛りすぎだろ……
裕二の話す超絶簡素な説明よりヘスの盛りまくりの説明の方が面白いのだろう。おそらくこの説明をベースに噂話が広まる事になる。裕二も最初こそ否定していたが『謙遜すんな』の一言で片付けられ、次第に諦めていった。
「す、スゲー。あんたスゲーよ」
「オスロットを壊滅させちまうなんて……奴らと目も合わせられねえ奴もたくさんいるってのに」
「そりゃお前の事だろ」
「俺もあいつらには色々……ありがとよユージ」
「え、はあ……」
――もういいや……
こうして、裕二は一夜にしてパーリッドの有名人になってしまった。
「へへ、じゃあユージ。業務に戻らせてもらうぜ」
ヘスの話しは未だ盛り上がっているが、裕二もあそびに来たのではない。ナスティから冒険者タグを受け取り、パーチには伝票を渡して報酬を受け取る。それが終わったら今度は依頼を探さなくてはならないが、パーチの言う業務とやらがまだあるそうだ。
「オスロットの装備はどうする? 一応全部ユージの物だ」
オスロットを倒したのは裕二なので、その持ち物も裕二の物になる。その中から欲しい物があれば取っといてもらい、後は売り払うのが普通だ。
「うーん。いらないな」
「なら全て売り払うか。となると……金貨四枚だな」
「おお! そんなにもらえるのか」
「いやいや、本当はこれじゃ少ねえよ。四十人分の装備だぞ。中には高価な装備もけっこうあるからな」
「へ? そうなの」
「お前兵士に死体処理までやらせただろ。かなりボッタクられてるぞ」
「うげ、マジか」
パーチの説明によると裕二は後の処理を全て兵士に任せてしまった。本来は報告だけして後はギルドに依頼した方が良かったのだ。頼まれた兵士は嬉々として処理を始めた。そこには死体処理から装備選別、運搬、様々な調査、書類作成、と言う名目でお金を取られている。その残りが金貨四枚になったのだ。
「書類作成だけで金貨二枚だぜ。うちならせいぜい銅貨三枚だ。どうせ上質な紙を使ったとか、いらねえ調査でもしたんだろ」
「な、ん、だ、と」
言われて見れば兵士達はあんな面倒な作業をあっさりと引き受けてくれた。それはそう言う事だったのだろう。自分達が稼げるのにわざわざギルドへ頼めとは言わない。軍隊からの依頼ならこうはならなかったのだろうが、今回は裕二が兵士に頼んだだけで依頼ではなかった。
「まあ、やっちまったものは仕方ねえ。次回は気をつけな」
「くうう……」
「でも今後何かしらパーリッドでユージが面倒に巻き込まれても多少は融通してくれるだろ。稼がせてもらったんだからそこまで不義理じゃねえ……と思う」
「うう、わかった」
かなりがっかりな金貨四枚だが、裕二もお金に困っている訳ではないので仕方がないと諦めた方が良いだろう。
「つーかヘスはそれ知らなかったのか」
「ヘスも新人だからなあ」
「はあ、まあいっか」
裕二は他の冒険者相手に昨日の武勇伝を盛りまくるヘスを横目に、依頼書の貼ってある掲示板へ向かおうとした。
「ちょっと待てユージ」
パーチに小声で呼び止められる。その表情は先程迄と違い真剣な面持ちに変わっている。そして、裕二の耳元で囁くように話し出す。
「ロクス商会がユージの事を嗅ぎ回ってる。気をつけておけ」
「ロクス商会?」
「ああ、アチコチの街に支店を持つ有力な商会だ。噂でしかねえが、ロクス商会はオスロットとも繋がりがあるって話しもある」
「……じゃあ」
その話しを聞いて裕二は思い出す。オジーが最初にメディッサバイパーの肝臓を渡せと言った事を。
「関係あるのかな」
「わからねえが、単純に商人なら欲しがっても不思議じゃねえな。だがそれなら普通に取り引きすれば良い話しだ」
「うーん。だよな」
「まあ、大丈夫だとは思うが一応用心はしておけよ」
パーチの話しは噂話程度のものでしかない。仮にロクス商会が裕二から肝臓を奪おうとしてオスロットに依頼したとしても、そのオスロットは裕二によって壊滅させられた。今後、それ以上の戦力を用意するとは考えにくいし、既に有名人の裕二に何かするなら今まで以上に目立つ事にもなる。そう考えるとそれ程心配はいらないのかも知れない。パーチの言うように一応の用心で良いだろう。
「ヘス! 依頼探すぞ。いつまで喋ってんだよ」
◇
「オスロットが壊滅……何て事だ」
ほんの二日前にオスロットのリーダー、オジーと会った男。彼はこの近隣で手広く商売をしているロクス商会の店主、カルマイヤー・ロクスと言う。
裕二を殺す依頼をしたのは彼だ。その際、手に入るならメディッサバイパーの肝臓を手に入れるようオジーに頼んでいた。
その結果、オスロットは裕二に全員殺され壊滅させられた。四十人ものならず者が一人の少年に殺られたのだ。普通ではあり得ない事が起きてしまった。そうなると当然、自分の思惑は叶わない事にもなる。更にオスロットを壊滅させた化け物と敵対する事にもなりかねない。これが裕二の耳に入ったら大変だ。迂闊な調査さえ難しくなる。
「どうすれば良いのか……」
既にロクスはその化け物に敵対行動を取ってしまった。その化け物に擦り寄りたい気持ちもあるが、今更そんな事は出来ない。そうなれば別の化け物を敵に回す事にもなるからだ。
「やはりあのお方に相談するしか……」
ロクスは立ち上がり、すぐに旅の準備を始める。
「馬車を用意しろ! ステンドット子爵の元へ向かう」




