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剣と魔法と七体の人工精霊  作者: ひろっさー
第二章 冒険者になろう
73/219

73 チンピラ


「なるほど。そう言う訳だったのか」

「納得したか」

「ああ、ユージには本当に済まねえ事をした」


 裕二はパーチが横になっている間にルビンの森での内容を話した。ドワーフを助けメディッサバイパーを倒し、その肝臓を譲ってドワーフに感謝された。その礼としてメディッサバイパーを素材に加工してもらい武器も譲ってもらった。

 だが、メディッサバイパーの体内から出てきた矢尻については話さなかった。その情報は今必要ないし余計なトラブルを生む可能性もあるからだ。


「しかし、邪剣オートソウの本物が二本あるとはな。それだけでひと財産だぞ」

「そうなのか?」

「もう一本はペルメニアのゴンズって奴の店にあるはずだ。アイツがいくらでそれを競り落としたか知ってるか?」

「いや、知らん。ゴンズは売らないって言ってたし。と言うかゴンズと知り合いか?」

「いや、俺は知り合いじゃねえ。ユージこそ知り合いなのか?」


 パーチに詳しく話しを聞くと、ガンディナルが最初に邪剣オートソウを売ったのは、今は亡くなったパーチの父親だと言う事だ。

 パーチの父親は武器屋をやっていたがある日ガンディナルの息子のベルグナルが剣を売りに来た。


「いくらで買ったかは今となってはわからねえ。だが、安くはなかったろうな。その金で山ほど酒を買って帰ったそうだ」


 それから数年後。パーチの父親は詐欺師に騙されて借金を背負った。なので仕方なく邪剣オートソウを売る事になる。


「まあ、それで何とか借金は返せたけど親父は病気になっちまって、そのまま逝っちまった」


 その後、邪剣オートソウの所有者は何度か変わり、最後はオークションに出された。


「それをゴンズが競り落としたかのか」

「そう言う事だ。俺がゴンズと知り合いじゃなくてもその事に詳しいのは、元は家にあった剣を奴がとんでもない値段で競り落としたからだ」

「いくらだったんだ?」

「金貨千二百枚」

「な、な、な、なにいいぃ!」


 ゴンズ武具店の値札が付けられた物で一番高かったのは『魔剣ヨグトゥーラ』で金貨四百枚だったはず。邪剣オートソウはその三倍になる。日本円だと約一億二千万円だ。


「ゴンズって金持ちだったのか」

「親父も上手く売ってりゃあ大金持ちだったろうな」

「壁に飾ってたけど大丈夫なのか?」

「色々と盗まれない為の仕掛けがあるだろ。それくらい考えるさ」

「そうなのか? 心配はしてたけど普通に触らせてくれたが……まあ違う心配か」


 ゴンズも最初は裕二が剣を持つ時『剣に食われる』と言ってかなり心配していた。きっと今のパーチのような状態を予想していたのだろう。いや、ゴンズも同じ目にあったのかも知れない。


「しかし、ゴンズとユージが知り合いって事は……ユージはスペンドラ出身か?」

「いや、ちが……まあその近辺だな」


 この世界の出身地などない裕二は慌てて誤魔化す。東京ですと言って通じる訳がない。


「もしかしてお前のその魔法の腕……チェスカーバレン学院にいたのか?」

「ああ、良くわかるな」

「俺は数年前までサレム王国側のヴィシェルヘイムで冒険者をやっていた。あそこは一流の冒険者が集まるからな。まあ俺も最初は一流のつもりだったが結局そいつらに比べるとそうでもなかった。その近辺で腕の立つ奴の何人かはチェスカーバレン学院出身がいたぞ。ユージも既にそのレベルじゃないのか?」

「さあ、どうかな。でもチェスカーバレンには俺より強いのもいるぞ」

「ユージよりか? 恐ろしい所だな」


 裕二はふとテリーの顔を思い出す。今頃どうしているだろうか。そんな話しを続けているとパーチもだいぶ具合が良くなってきたようだ。


「今まで聞いた事は全て黙っておく事にする。だから心配しないでくれ」

「わかった」

「じゃあ、そろそろ本題だな」

「やっとかよ」


 本題となるのはメディッサバイパーの素材の買い取りだ。だが、パーチはそれについて気になる事がある。


「素材は他にもあるだろ。どうせなら全部売っちまった方が良いぞ。後でまたこんな面倒は嫌だろ?」

「まあ、確かに」


 裕二の持つ素材は皮、骨、牙等で肉や内蔵等の腐りやすい部分はドワーフに提供してあるので既にない。唯一余った肝臓だけは乾燥させた物を受け取っている。何故かと言うと、今の段階ではメディッサバイパーに毒を受けた時、テンでも治せない場合があるからだ。なのでこれを売るつもりはないので全て使った事にしておく。


「うーん。金貨四枚でどうだ? 肝臓があれば金貨十枚出すが使っちまったからどうにもならねえよな」

「なに? 肝臓だけで金貨六枚なのか?」

「そうだ。肝臓は薬としての価値が高い。でも邪険オートソウの方が遥かに高いけどな」

「そ、そうだった。俺はかなり得してるんだよな……それで頼む」


 良く考えると裕二は肝臓より遥かに高価な物をドワーフから受け取っていた事になる。『魔剣ヘイムダル』はいったいいくらになってしまうのか。パーチではわからないかも知れないが、知ってても聞く気にはなれないし、今更二本もらいましたとは言えない。

 だが、これで何とか交渉成立だ。ここまで大変だとは思わなかったが、それは売り物がメディッサバイパーだったからだろう。次回からそんな事はないはずだ。パーチは金庫から金を出し裕二に渡した。


「それとユージ。最初に受けたモンスター討伐はメディッサバイパーを倒せる奴には必要ないからやらなくて良いぞ。ナスティに言っとくから次回来た時タグを受け取れ」

「いいのか?」

「ああ、通常はその程度出来ないと困るので最初に腕試しとしてやってもらうがお前は必要ない。暇ならやっても構わないけどな」

「わかった」

「それと、今後素材を売る場合、高価な物は布か皮袋に入れてそのまま出せ。周りに見られると面倒だぞ。今回は見られた可能性もあるから気をつけておけよ」


 そう言えば裕二は素材をそのままカウンターの上に置いた。パーチはそれを急いでカウンターの下に隠したが、確かにその可能性はある。気をつけた方が良い。


 とりあえず今までの流れで裕二はギルドからある程度の信頼は得ただろう。普通の仕事ならすぐにこなせるはずだ。とは言っても冒険者としての経験不足まで補えた訳ではない。


「まずは普通にモンスター五体を狩ってみるよ」

「そうか。期待してるぜ。名前が売れりゃ指名依頼も入るから頑張れよ」


 裕二は部屋を出てカウンターをくぐり外に出た。冒険者登録は完了したのですぐに狩り、とはいかない。先にパーリッドでの定宿を探し、ロープやナイフ、気替え等、こまごまと買う物もある。


「先に……あっ! パーチに宿屋の場所聞けば良かった。まあいいか」


 適当にブラブラするか誰かその辺の人に聞けば見つかるだろう。裕二はそう考えて歩き出した。


「アイツ無事に出てきたな」

「ああ、おそらく盗人と疑われてたがその容疑も晴れたのだろう」

「て事はあの素材は売れた……」

「そうだ。あのガキ、結構な金を持ってるはずだぜ」

「だけどアレは何の素材だったんだ?」

「さあな。だが、珍しい物に間違いねえ。だから呼ばれたんだ」



 裕二はギルドを出てすぐに辺りを見回す。普通に考えれば宿、食事、武器等の冒険者が使うような店が集まっているはずだ。その考えは正しかったようで、それらしい看板が通りにいくつもある。


 ――どうするか。先にあの辺の薄暗い路地に行った方が良いか?

 ――そうですね。面倒は先に済ませましょう。


 セバスチャンとそう話しながら裕二は目立たない裏路地を選び、そこへ入っていく。


 パーチにも注意されていたので、裕二は予めギルドを出る時セバスチャン、アリー、チビドラに周りを見張ってもらっていた。

 裕二の背後を見つめる者。裕二がギルドを出ると同時に動き出す者。そこで交わされる会話の内容。その該当者は目つきの悪い二人のチンピラ風冒険者だ。

 ひとりは頭がモヒカンで大きな体、と言うよりふとり気味の体型で大型の斧を背負い、腰に小型の剣を装備している。力はありそうだが動きは鈍そうだ。もうひとりは痩せて目のつり上がった男。ロングソードを腰に挿し、肩から斜めに掛けられたストラップには投擲ナイフが数本装備されている。


 そして、裕二の格好はシャツの内側にゴンズからもらったチェーンメイルを装備してはいるが、後はチェスカーバレンで森に行く時に買っておいた汚れても良い普通の服装。杖も剣も装備していない。必要ならばいつでも異次元ポケットから出せるので帯剣の必要がない。冒険者と言うより普通の兄ちゃんだ。見た目で舐められる要素もあるだろう。


 ――今度からは剣を装備しとくか。


 と、考えながら路地をゆっくりと歩く。


「よう。兄ちゃん。道に迷ったのか」


 裕二の背後から太った方が声をかけてきた。


「へへ、俺たちが案内してやるぜ。有料だけどな」


 金を寄越せと言う事なのだろうが、色んな言い回しがあるもんだ。と、裕二は感心しながら答える。


「迷ってないから遠慮しとく」

「そうかい。ならキャンセル料を払ってもらおうか」

「へへ、全部とは言わねえよ。とりあえずいくら持ってるか見せてみな」


 ――なるほど。キャンセル料と言う名目で金を取るのか。結局は恐喝なんだろうけど面白いな。


 だが、こんなセリフを吐けると言う事はかなり慣れているのだろう。あまり手加減しなくても良いかも知れない。


「要は恐喝だろ? 払わなければ力ずくか?」

「まあそう言う事だ」

「わかってるならさっさと出しな。痛い目に合いたくないだろ?」


 もちろん裕二に金を出す気などサラサラない。路地に誘導したのは裕二なのだから当然だ。


「ならさっさとやろうぜ。二人纏めてでいいぞ」


 裕二のその言葉に今までニヤついていた二人のチンピラ冒険者の表情が変わる。


「そうかい。せっかくの冒険者登録も無駄になったな。手足をぶった斬られりゃ冒険者なんて出来ねえぞ」

「ヒッヒッ、馬鹿な奴だぜ。結局金を出す事に――うっ!」


 チンピラは二人同時に地面へ膝をつく。何が起きたのかはわからないが、内蔵を思い切り揺さぶられる感覚。それは立っていられない程強烈な衝撃となって二人を襲った。


「ソニックディストーションにはソニックディストーションで対抗しないとダメだぞ。お前ら使えないのか?」

「ぐっ! 魔術師か」


 裕二はそう言うと痩せてるチンピラのロングソードを引き抜く。そして、その刀身の中心に人差し指を当てた。


「さっさと俺の目の前から消えるなら、一度だけ勘弁してやる。でもそうしないなら……」


 刀身の人差し指を当てた場所からロングソードがグニャリと折れ曲がり始めた。裕二の得意なスプーン曲げ、いわゆるメタルベンドだ。攻撃には使いにくいが脅しには最適かも知れない。チンピラのロングソードはゆっくりと折り畳まれていく。


「ひっ! な、何だそりゃ」

「お前らもこうなると言うデモンストレーションだ。どうする? 今ならこんなに折れ曲がった剣でもお前らを殺せるぞ」

「わ、わかった! 俺らが悪かった。許してくれ」

「じゃあ、さっさと消えろ。次俺の前に現れたら殺す。例えそれが偶然でもな」


 ――それテリーのセリフだー!

 ――ミャアアア!


 テリーがスペンドラの路地でチンピラに襲われた時に放ったセリフ。裕二はそれを一度言って見たかったのか少し満足げだ。言うまでもなくハッタリだが。


「わかった! 立ち去るから何もしないでくれ」


 チンピラはまだソニックディストーションのダメージはあるが、無理矢理立ち上がるとへっぴり腰で逃げて行った。


「忘れ物だぞー!」


 裕二は折れ曲がったロングソードをぶん投げると痩せてる方のチンピラの背中に当たった。だが彼はそれを無視して必死に逃げて行く。


 そして、その路地に残るのは裕二ひとりのはずだが……


「そこの角にいる奴。お前も仲間か? 隠れてないで出てこい」


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