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剣と魔法と七体の人工精霊  作者: ひろっさー
第一章 異世界転移と学院
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7 グラスコード侯爵


 彼の名はシャストニア・グラスコード。普段はグラスコード侯爵と呼ばれる。

 この領地、グラスコード侯爵領の領主だ。侯爵としての様々な仕事の為に彼はあらゆる場所を馬車で行き来する。

 本宅に帰れるのは半年にいっぺんくらいだろうか。

 グラスコード侯爵は護衛の騎士八名を引き連れ、馬車でメリトルという街に向かっていた。


「旦那様。このあたりは最近ワイルドウルフの被害が多数報告されております。急いで通り抜けられた方が良いでしょう」

「そう言えばそうだったな。忙しくてうっかりしていた」


 グラスコード侯爵は侍従の男、マレットにそう言われ、御者に急ぐよう命じた。それに合わせ、八名の騎士も速度を上げる。


 だが、騎士のひとりが背後の気配に気づく。


「おい、ワイルドウルフだ」

「ああ、でも一体だけだ。こちらを追う素振りを見せたら仕留めるぞ」


 騎士達にもワイルドウルフの情報は知らされていたが、その内容はあまり詳しいものではなかった。せいぜい数体のワイルドウルフなら、彼らには大変な敵というワケではなかったのだ。なのでこの時も油断していた。


「更に三体、森から現れたな。こっちにくるぞ」


 それを合図に後ろの四名の騎士が方向転換し、ワイルドウルフ目掛け馬を走らせる。そしてその距離が縮まった時、初めて気づく。


「森の中にたくさん隠れてるぞ!」


 その声と同時に森のワイルドウルフが一斉に飛び出してきた。


「何だあの数は!」


 森から現れたワイルドウルフは、およそ四十はいるだろう。四人では無理だ。そう判断した騎士は笛を吹く。

 甲高い音の笛の音が聞こえると、馬車に付いていた騎士も方向転換し、ワイルドウルフのいる方へ馬を走らせる。それと同時に馬車は更に速度を上げる。


「な、何だ?」


 グラスコード侯爵は窓からその様子を伺った。マレットも何が起きたのか知るため窓から後方を見る。


「ワイルドウルフです! あの数では……急ぎましょう」


 馬車は騎士とワイルドウルフを引き離し、早い速度を維持しながら走る。グラスコード侯爵は騎士達が無事戻る事を願うが、それ以外何も出来る事はない。


「旦那様! 追って来てます」

「なに!」


 ワイルドウルフは騎士達の相手に数体残し、後は馬車を追い始めた。既に何人かの騎士は倒れている。


「もっと速度を上げろ!」


 このままでは追いつかれてしまう。焦るグラスコード侯爵とマレットは、窓からその様子を伺う。


 と、その時。窓から後方を見ていたグラスコード侯爵の視界に少年の姿が紛れ込む。道端に人がいるのだ。


「な、何て事だ!」


 しかし、グラスコード侯爵には何も出来ない。少年がワイルドウルフに襲われる事をわかっているのに、何も出来ずに逃げるしかないのだ。


 だが、その少年の動きがおかしい。彼にも既にワイルドウルフの群れは見えているはずだ。なのにその少年は道の中央に立ちふさがったのだ。


「殺されるぞ! 逃げろ!」


 力いっぱい叫んだ声は、その少年に届いたのだろうか? そんな事を考える間もなく、少年は凄まじい火魔法を使った。


「なっ?! 魔法!」


 そしてその少年の傍らに見た事のない生物がぼんやりと浮かび上がってきた。

 何をしたのか? 何をしているのか? グラスコード侯爵にはさっぱりわからない。

 その後、大きは音と共に、ワイルドウルフのいた辺りから大きな砂煙が上がる。

 その間にも馬車はどんどん進み距離を広げる。やがて道がカーブに差し掛かった時、後ろを見るが、ワイルドウルフは全く追って来ない。


「何が起きた? 馬車をゆっくり止めろ!」


 やがて砂煙が収まると、そこに立っていたのは先程の少年だけだ。ワイルドウルフは全て倒れ、見た事のない生物もいない。

 そして少年がこちらに振り向いた。



「アリー、あれどう見ても人だよな」

「人だー!」

「止まってるから街とかあるか聞いてみよう」


 裕二は白虎を出すと警戒されると思い、徒歩で馬車に近づく。

 止まっていた馬車からは二人の男が出てきた。二人ともタキシードの様な整った身なりで、年齢的には中年層だろうか。目鼻立ちのくっきりした白人だ。アジア系には見えない。


「だ、大丈夫なのか!」


 裕二はいきなり話しかけられる。その言葉は英語でも日本語でもないのに、裕二には何故かわかった。知らない言葉だが、懐かしい感じがする。


「すいません。どっかに街とかありますか?」


 異世界人との初めての会話は全く噛み合ってなかった。


 

「と、とりあえず、どうすれば良い、マレット」

「え、ええ。ワイルドウルフがいないなら騎士の救出に……」

「そうか……君はあのワイルドウルフの群れを全て倒したのか?」

「オオカミですか? ええ、まあ」

「こんな少年が……いや、まず馬車に乗ってくれ。中で話そう」

「へ? はい」


 グラスコード侯爵は御者に方向転換させ騎士の元へ向かわせた。その間に裕二と話しをする。


「私の名はシャストニア・グラスコード。グラスコード侯爵領の領主をしている。君はなんという名だ?」

「裕二です。神谷裕二」

「ユージというのか……助けてくれてありがとう、ユージ」

「は、はい」


 グラスコード侯爵は裕二を観察するが髪の色、目の色、服装、等からこの国の者ではないと判断した。そしてワイルドウルフを退けたあの魔法。火魔法はともかく、もうひとつのは何だったのか。ユージという少年にとても興味が湧いた。


「ユージ。済まないが、この先にワイルドウルフから私を守ろうと戦っている者がいるんだ。出来たら君の力を貸してもらえないか?」


 ――リアン見られたかな? まあ、いいや。


「わかりました」 


 馬車は道を逆戻りし、その場所へと向かう。しかし何となく予想はついていた。馬の蹄の音もワイルドウルフの声も何も聞こえないからだ。


「ダメだったか……」


 騎士は全員ワイルドウルフにやられていた。そしてワイルドウルフもその場に何体か倒されていた。

 グラスコード侯爵は馬車を降りた。そしてマレットと御者に布で騎士の亡骸を包むよう命じる。


「済まん……」


 だが、その時。裕二は森から走ってくるワイルドウルフ四体の動きを察知した。ここで戦ってた残党だろう。


「危ないので馬車の中へ」

「ど、どうしたユージ」


 あまりアレコレ見られない方が良いと判断した裕二は、ムサシを憑依させワイルドウルフを迎え撃つ事にした。


 そして、ワイルドウルフが森から出た瞬間、裕二は地面を蹴り一直線にワイルドウルフの向かい首を跳ね飛ばす。そのままの勢いで次々とワイルドウルフを刺し、首を跳ね、数秒で全て倒した。


「な、何だ今のは……」


 その後、遺体を収容し、馬車はまた方向転換して先程の道を走り始めた。


「ユージ、君はいったい何者なんだい?」

「何者と言われても……」

「見たところ東の国の出身に思えるが」

「いやー、その……実は記憶がなくて」

「なに! 記憶が……そうか」


 裕二は咄嗟に嘘をついた。僕は異世界の日本から来ました。なんて言える訳がない。いや、言ってもいいが説明したくない。いや、説明したくないのではなく、裕二もどうやって来たのかわからないのに説明など出来る訳がない。

 なので記憶喪失という事にしておいた。


「で、先程の魔法なんだが、あれはなんだい?」


 グラスコード侯爵は魔法という言葉を使った。それはこの世界に魔法がある、という事なのだろうか。


「先程の?」

「ああ、最初にワイルドウルフを倒したろ。その時何かいたように思うが……いや、確かにいた、あれがワイルドウルフを攻撃したんだ。それに君のさっきの動き。あんなの見た事ない。あれも魔法なのかい?」


 どうやらリアンは完全に見られていたようだ。裕二は話すかどうか迷っていたが、グラスコード侯爵はこう言った。


「君の魔法については誰にも話さない。だから教えてくれないか? あれがいったい何なのか」


 裕二の使ったのは魔法ではない。タルパだ。しかしタルパをどうやって説明するか、タルパと言って通じるとは思えないし。


 ――裕二。人工精霊で良いんじゃない?

 ――おお、なるほど。わかったアリー。


 チビドラの背に乗り、プカプカ馬車の中を浮いてたアリーが裕二に助言する。ちなみにアリーとチビドラは霊体化してるのでグラスコード侯爵には見えてないようだ。


「あれは人工精霊です」

「人工精霊?! そんなのがあるのか! マレット知ってるか?」

「いえ、私も初めて聞きました」


 色々話しを進めると、どうやらこの世界には魔法がある。なので裕二がチビドラを使って出した炎は魔法と解釈された。だが、リアンについては召喚魔法というものがあり、それだと思っていたようだが、リアンの異様な姿と攻撃力にただの召喚魔法ではないと思っていた。そして裕二の口から出た人工精霊という言葉。グラスコード侯爵は初めて聞く言葉に戸惑ったが、ある程度理解もしたようだ。


「ユージ。先程の人工精霊、もう一度見せてくれないか?」

「え、はあ。わかりました」


 あまり見せない方が良い気もするが、ストレートに言われると断わりにくい。でも、いざとなったら白虎に乗って山に逃げれば大丈夫だろう。裕二は仕方なくリアンを見せる事にする。

 しばらく馬車を走らせ、広い場所を見つけると、そこに裕二、グラスコード侯爵、マレットが降りる。そしてマレットは御者に何やら話し出す。その手には布袋があり、中からコインの様な音がする。御者は焦った表情でブルブルと首を横に振るとその袋を受け取った。おそらくこれから見る事の口止め料、それと、それを話した場合どうなるか、を言ってたのだろう。飴とムチというやつだ。


「じゃあユージ、頼む」

「はい」


 とだけ裕二は返事をする。その直後リアンがグラスコード侯爵の目の前に現れた。


「す、凄い! 完全無詠唱で召喚、しかも……これは、アンデッドか?!」


 リアンはアンデッドではない。骸骨ではあるが、それは裕二が見た目の威圧感重視で作っただけだ。当然、聖水とかも効かない。


「リアン」


 裕二が一言発するとリアンは手近な岩や木にガトリングガンを撃ち込んだ。あっという間にそこら中穴だらけだ。


「これは……魔法? 何なのだ?」


 その後、全ては見せなかったがチビドラと白虎を見せた。アリーとかセバスチャンを出して話しとかされたら面倒だと思ったのだ。


 そして馬車に戻りまた走り出す。


「ユージ。君は記憶喪失と言ったね。どこか行くところはあるのかい?」


 はっきり言ってない。あるとすれば元いた山くらいだ。


「君さえ良ければなんだが、私の家に来ないか?」







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