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剣と魔法と七体の人工精霊  作者: ひろっさー
第二章 冒険者になろう
69/219

69 魔剣


 裕二は森で助けたドワーフに招かれ彼らの村、と言うには豪奢な地下空間へと辿り着き、シートットの妹のミルフによりその隣の部屋へ案内され、そこで休む事となった。


「しかし、スゲー所だな」


 部屋はシンプルだが、外と同じように黒く磨かれたタイルが敷き詰められ、綺麗に壁がくり抜かれ棚になっている。椅子やテーブルも簡素だがしっかりしたもので彼らの文化の高さが現れている。


「でも、肝臓なんて何に使うんだ?」

「おそらくあの大蛇の、と言うのが重要なのでしょう。薬として使うのでは?」

「あーなるほど。急いでいたのは薬が早急に必要だったって事か」


 と、セバスチャンと話しているとドアがノックされた。ベルグナルのようにいきなり開けたりはしないようだ。そして、飲み物を運んだミルフが入ってくる。


「兄貴は大丈夫そう。改めて礼を言うよ。ありがとう、ユージ」

「いや、たまたま通りかかっただけだから」

「いきなりベルグナルにここに連れて来られて驚いたんじゃない?」

「まあ、確かに」

「ベルグナルはしばらく戻ってこないから、私が説明しとくよ」


 裕二は出された飲み物で喉を潤す。白くて甘い乳酸菌飲料のような飲み物で、少しお酒が入っているようだ。とても美味しい。それをひとくち飲んでテーブルに置くとミルフが話し始めた。


「実は昨日、ベルグナルの父親のガンディナルがルビンの森で狩りをしていてね……」


 裕二が先程までいた森はルビンの森と言うらしい。その奥深くの山の地下空間に、ドワーフの村がある。

 ベルグナルの父親のガンディナルは、森で狩りをしていた。ドワーフは村の中で食料を自給しているが、肉類は外で狩る場合が多く、ガンディナルもたまにルビンの森で狩りをするらしい。

 その時、いきなり現れたメディッサバイパーに攻撃され、毒を受けてしまった。


「だけど何でルビンにメディッサバイパーがいたのか良くわからないんだけどね」


 メディッサバイパーは通常ルビンの森にはおらず、ヴィシェルヘイムに棲むモンスターと言われる。それが何故ここにいたのか。しかし、今はそれよりもガンディナルの治療が先だ。

 メディッサバイパーの毒はゆっくりと体の中を巡り徐々に石化して行き、三ヶ月程かけて完全な石となる。その治療方法は裕二がやったように初期ならごっそり血を抜けば助かるが、時間が経つとそれでは助からない。毒を中和する必要があり、それをするにはメディッサバイパーの肝臓を薬草と煮出したスープが必要になる。

 ベルグナル達はそれを作る為にメディッサバイパーを探し戦いを挑んだ、と言うワケだ。


「それで肝臓を欲しがったのか」

「そういう事。ついさっきフラスコとビーカーも戻ったから今スープを作ってると思う。ガンディナルもやられたのは昨日だからきっと助かるよ。これもユージのお陰だ」


 そう言ってミルフはニッコリと笑った。

 しかし、気になるのは何故ヴィシェルヘイムのモンスターがここにいたのかだが、それについてはドワーフもさっぱりわからないらしい。


「でも、良くひとりでメディッサバイパーを倒せたね。ユージは名のある冒険者なの?」

「いや、これから冒険者になりにパーリッドに行くんだ。ヴィシェルヘイムもちょっと興味あるけど」

「へえ。でもヴィシェルヘイムだと、メディッサバイパーは強いモンスターには数えられないらしいよ」

「そうなのか?」

「ヴィシェルヘイムの奥地には更に強いモンスターが沢山いるんだってさ。ドラゴンもいるって噂だね」

「ドラゴン! 見てえ!」


 ファンタジー世界では必ず出てくるモンスターの王者ドラゴン。裕二はそれを聞き活気づく。一度は本物を見てみたい。

 サレム王国に面するヴィシェルヘイムの森。その奥深くには深い谷があり、その近辺ではドラゴンの目撃も報告されているらしい。とは言っても場所が場所だけに目撃例は少なく、噂話の域を出ないものだ。


「ふふ、男ってみんなそうだよね。何でドラゴンなんか見たいのか、さっぱりわからないよ」

「うぐ……だってデカいし」


 ――ミャッ!

 ――いや、チビドラが小さい事と関係ないぞ。


「そんなのに会ったら喰われるとは考えないの?」

「まあ……それもそうだな」

「はあ、きっと兄貴やベルグナルとも気が合うよ。同じ事言ってたからね」


 ミルフはそう言いながら苦笑いをする。どの世界でも男とはそう言うものなのだろう。裕二もその話しを聞きベルグナル達に親しみを感じながらも苦笑いで応える。


 そして、森に残された裕二の倒したメディッサバイパーは、とりあえず肝臓だけ抜かれた状態だが、後から他のドワーフが回収してくれると言う事だ。その際に素材として使える皮や牙等は、すぐ使えるように加工までしておいてくれると言われた。それをパーリッドで売れば、当面の生活費には困らないだろう。


「でも一度に全部は売らない方が良いよ」

「何でだ?」

「メディッサバイパーの素材なんて高価だし目立つからね。変な奴に目をつけられないとも限らない」

「あーそういう事か。わかった」


 しばらくの間、雑談を交えながら現状についての話しをされた事により、裕二もだいたいの事は理解した。後はガンディナルが良くなれば落ち着くだろう。


「じゃあ、私は夕食の支度をしてくるから、ゆっくりしててね」


 そう言ってミルフは部屋から出て行った。裕二はひとりになり、体を伸ばしてリラックスしようとした時、再びセバスチャンが現れる。


「どうした?」

「いえ、大した事ではありませんが、ミルフ様の話しを聞き、気になる事がいくつか……」


 セバスチャンの気になる事。それは裕二がこれから冒険者として活動する際、詳しく知っておいた方が良さそうな話し。その断片がミルフの話しには含まれていたのではないか、と言う事だ。


「まず気になるのは、メディッサバイパーが何故ここにいたのか。もう一つはメディッサバイパーの素材を売るのは警戒が必要。最後はヴィシェルヘイムのドラゴンの話しです」

「確かに気になる話しではあるな。今すぐ詳細がわかりそうな話しでもないから頭に入れておこう。セバスチャン、覚えといてくれ」

「畏まりました」


 素材とドラゴンに関しては予想と噂話の範疇であり現場での対処が求められるだろう。だがもう一つ、本来ならルビンの森ではなく、ヴィシェルヘイムにいるはずのメディッサバイパーがここにいた、と言うのは既に起きた事でその原因が不明なままだ。気にしすぎなのかも知れないが、セバスチャンとしては、主である裕二を守る為に、気にしすぎてちょうど良いくらいになるのだろう。



「それでは、我らの家族を救ってくれた英雄、ユージに乾杯!」


 裕二が最初に村に入った時に見た居酒屋のような場所。そこに大勢のドワーフが集まり杯を掲げる。それは全て裕二に向けられたものだ。

 裕二がたまたまそこを通らなければどうなっていたか。おそらく犠牲者はもっと増えていただろう。ベルグナルはそれを大袈裟に仲間達に説明する。その場は裕二の武勇伝で持ちきりだ。


「何してるユージ。もっと食え。お前の為に用意したんだぞ。ガッハッハッハ」


 沢山のドワーフから一斉に話しかけられ食べる暇がないのだが、ベルグナルはどんどん料理を裕二の前に置き、あれも食えこれも食えと勧めてくる。


 そのベルグナルがここにいると言う事は、ガンディナルの容体が安定してきたと言う事だ。


「もう大丈夫なのか?」

「ああ、体力は落ちているが数日すれば元に戻るだろう。シートットも明日には動ける」

「なら良かった」

「ユージのお陰だぜ。それよりもメディッサバイパーを倒したアレは何だ? 魔法なのか?」

「えっ……ああ、あれは……魔力の塊を敵の中で爆発させるような感じの魔法……かな」

「なるほど、そういう事か」


 裕二は咄嗟にテキトーな説明をしたが、それほど間違っていると言う訳でもない。超能力なので説明が難しいが魔法のひとつ、と言う事にしておいた。ベルグナルもその説明で納得したようなので問題はなさそうだ。チェスカーバレンならもっと詳しく聞かれただろうが、ドワーフはそこまで細かい事は気にしないらしく、裕二にとっては都合が良い。


「て事は、かなり魔力はありそうだな」


 ベルグナルはニヤリとしながら呟く。それを見てやや不安な顔をする裕二。もしかして何かさせられるのか。いや、一応恩人なのだから裕二が嫌がる事はしないだろう。


「まあいいから食え。そうだ! しばらくここに泊まっていけ。ユージをもてなすのに時間が必要だ。いいな」

「お、おう……」


 と、やや強引ではあるが裕二はしばらくドワーフの村に滞在する事が勝手に決まってしまった。


 宴が終わると裕二はシートットとミルフの部屋ではなく新たに客室を用意され、そこでゆっくりと休んだ。

 豪華な料理が多かったがアレコレと目まぐるしかったので、ほとんど味わったとは言えないが素晴らしい料理だったのは間違いないだろう。しばらく滞在するので後ほどゆっくり味わいたいものだ。裕二はそう考えながら眠りにつく。



 翌朝、裕二はテンに起こされ目が覚める。ベッドから起き上がるとアリーとチビドラが霊体化のまま壁に頭を突っ込んでいた。


「何やってんだ?」


 ――ベルグナルがこっちに歩いてくるよー。

 ――ミャアアア。


「あ、通路を見てたのね……」


 しばらくするとアリーの言った通りドアが開かれ、そこにベルグナルが現れた。


「良し、行くぞユージ」

「どこ行くんだ?」

「いいから来い」

 

 ベルグナルの後をついて行くと、居住区から大ホールを通り別の通路に入る。そこは昨日の居酒屋があった通路でそれ以外にも食料品や木工品など様々な店が並んでいた。そして、その先をずっと進むとガンガンと何かを叩く音が聞こえてくる。


「この先は工房エリアだ」

「おお、なるほど」


 ドワーフと言えば鍛冶。これは鉄を叩く音だ。歩みを進めるとやがてその作業風景も見えてくる。裕二は興味深げにそれを見ている。するとベルグナルは立ち並ぶ工房のひとつに入っていった。裕二は慌ててそれを追いかける。


 するとそこには――


「おお! 凄い」


 工房の壁には沢山の剣が掛けられている。そのどれもが美しく圧倒的と言えた。スペンドラのゴンズの店も沢山の剣があったが、ここはそれと比べ物にならない。それは剣の輝きと造形、そしてその数が違った。素人の裕二にもそれがわかる程だ。


「ここは親父の工房だ」


 そう言いながらベルグナルはひとつの剣を壁から外した。見た目は普通よりやや多くの装飾が施されたロングソードだ。


「抜いてみな」


 言われるがまま剣を鞘から抜く。するとその刀身が薄っすらと緑色に光りだす。


「お、何だこれ?」

「魔力を込めてみな。こっちに向けるなよ」


 裕二は言われた通り剣に魔力を込めた。すると――


「のあっ!」


 刀身の光が一気に増し、その光が膨張したかのように輝き出した。


「ほう……ちょっと待ってな」


 ベルグナルは工房の奥から鉄の板を持ってきた。厚さは二〜三センチはありそうだ。それを椅子と椅子の間に橋をかけるように置く。


「それでコイツを斬ってみろ」

「へ?」


 一瞬驚く裕二。こんな分厚い鉄の板が剣で斬れるとは普通思わない。だが、自信ありげなベルグナルとこの光り輝く剣ならもしかして……裕二にそう思わせるだけの説得力はあった。


 裕二は何も言わずに剣を振り上げる。そして、ベルグナルの置いた鉄の板に振り下ろす。

 すると、鉄の板はダンボールでも切っている程度の手応えで刃が入り、そのまま真っ二つになって椅子の間に落ちていった。


 裕二はある程度予想はしていたが、それを上回る切れ味に少し震え上がる。それは先程、ベルグナルがこっちに向けるなと言ったのを思い出したからだ。使い方を誤れば、かなり危険な剣と言えるだろう。


「具合はどうだ?」


 ベルグナルの聞いてるのは魔力の事だ。この剣によって魔力が消費され、具合が悪くなっていないかを聞いている。裕二もゴンズの店で同じようなやり取りをした事があるのですぐにわかった。


「うん……特に問題ないな」

「やはりな。そいつをユージにやろう」

「いいのか? これ、かなりの値打ちがあるだろ」

「だからお前にやるんだよ。ユージには親父とシートットを助けてもらったんだ。これくらいじゃ足りねえぜ」


 ベルグナルによるとこの剣は『魔剣ヘイムダル』と言って、ガンディナルが作ったものだと言う。

 魔剣なので魔力を使うのだが、これはその中でも『大喰い』と言われ大量の魔力を消費するタイプの剣だ。


「これは大喰いの中でも魔力消費はかなり抑えられている。ユージなら訓練次第で自在に扱えるようになるぜ」

「大喰いか……邪剣オートソウみたいなもんだな」

「なに?! お前オートソウを知っているのか?」


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