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剣と魔法と七体の人工精霊  作者: ひろっさー
第二章 冒険者になろう
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68 ドワーフの村


 裕二は白虎に乗りアンドラークとサレムの国境付近の山に向かっていた。目的地のパーリッドに行くには遠まわりになるが、先に様々なモンスターと戦っておきたいので、森の奥深く、国境付近の山を目指している。

 国境とは言っても関所があるような場所とは違い、明確に線が引かれている訳ではないが、わざわざそこを通って国境を越えようと考える者はまずいないだろう。滅多に人が訪れる事のないような場所だ。


 裕二はそんな場所を白虎に跨り、感知能力を作動させながら猛スピードで進む。


「モンスターと……人間の気配だな。交戦中か?」


 進行方向からそんな気配を捉えた。モンスターの気配はかなり色濃く、殺気も放っている。もしかしたら人間側は苦戦しているのではないか。裕二は気配の雰囲気からそう考えた。


「行ってみよう」


 裕二は気配のする方向へ白虎を走らせる。少し進むといくつかの木が揺れているのが見えてきた。あそこにいるのだろう。少し手前で白虎を降り、その場所へと近づく。そこには巨大な蛇を相手にしている武装した者が四人いる。


「デケー蛇だな。セバスチャン、あれは何て奴だ?」

「私の知識にはありません。それより、ひとり倒れているようです」

「みたいだな。手伝った方が良いのか?」

「見た感じはかなり苦戦しているので、その方が良さそうです。倒れている者は早急に治療が必要でしょう」


 こういう場合、獲物の横取りと思われると困る。かと言って放置して死なれるのも嫌な気分だ。なので判断は難しい。


「あの位置取りは不味いですね」


 その中のひとりが大蛇に石を投げ、そこに近づこうとしている。だが、距離を見誤っているのか、かなり接近している。このままだとあの者も攻撃される。その時、裕二の体が咄嗟に動いた。


「来やがれ蛇野朗!」


 大蛇の前にいる者が叫ぶと同時に、裕二は鎌首をもたげた大蛇の背後からムサシを憑依させ、一気にその頭に駆け上がる。そして、その場に手をつき大蛇の頭に内部破壊を行った。直後に大蛇は大量の血を吐き、その頭は裕二を乗せたまま地面に落ちる。


「大丈夫か?」


 裕二はチラリとだけ周りを見てそう声をかけ、大蛇の頭から降りる。周りは唖然としているが、先に倒れている者を治療した方が良いだろう。治癒魔法を使う事になるのでテンの力も使ってみたい。


「あ、あれ? 人間じゃないのか? まあ良いや、テン」


 倒れている者に近づくと裕二はそう言った。良く見ると人間ぽいが人間ではないようだ。人間よりも背が低くガッシリとしており、耳と鼻がやや大きい。微妙に人とは違う。だが、それを考えるのは後だ。裕二は気持ちを切り替え、テンを憑依させてからその者の胸に手をかざす。


「あんたいったい……」

「少し待て。治療中だ」


 しばらくするとその者の体が僅かに動き出した。


「ごっ、ごほっ!」

「シートット!」


 シートットと呼ばれた者は裕二の治療により回復し始めた。だが、それで全て良くなる、と言う訳ではなさそうだ。


 ――裕二様。だいたいは治せるけど、毒を受けたみたいでそれが中和出来ないよ。毒自体に魔力を妨害する力があるみたい。今の僕には難しいかな。


「これじゃ駄目なのか……」


 ――中和は無理だけど、毒を受けてまだそんなに時間が経ってないから、噛まれた箇所の血をごっそり抜けば大丈夫かも。安全なやり方ではないけどね。


「うーん。それしかないか」


 裕二はテンから詳しい容体を聞き、シートットの仲間にそれを伝える。


「噛まれた部分の毒を血液ごと大量に抜く必要がある。どうする? 安全ではないけどやるか?」


 心配そうに見ていた仲間は急に話しを振られアタフタしている。だが、その中の落ち着いたひとりが裕二に答えた。


「やってくれ。そのくらいなら大丈夫だ」

「ならやるぞ」


 仲間の了解を得て、裕二は再びシートットに手をかざす。すると一瞬でその部分は黒く腫れ上がった。


「うっ!」


 僅かな呻き声と同時に、シートットの傷口から大量の黒ずんだ血が溢れ出る。その量はかなりのもので、辺りを血で濡らし嫌な匂いも漂ってくる。ある程度血を出してから、今度はゆっくりと傷を塞ぐ。シートットは苦悶の表情から徐々に落ち着きを取り戻していった。


「これで大丈夫だ。でもしばらくは安静にしてくれ」

「すまねえ……」


 裕二の判断を聞いて、仲間たちもやっと安堵の表情を浮かべる。後は仲間が何とかするだろう。裕二のする事はもうないのでその場を立ち上がる。


「ま、待ってくれ! ここまでしてもらって本当に申し訳ねえんだが……もう一つだけ、俺達の頼みを聞いてくれねえか」

「頼み?」

「ああ、今は急いでるので詳しい事は省く。アンタが倒したメディッサバイパー。その肝臓を譲って欲しい」

「メディッサバイパーってこの大蛇か? まあいいけど」

「本当か! ありがとう。本当にありがとう。あんたには必ず恩を返す。だが、今は急を要するのでしばらく待ってくれ」

「え、ああ。わかった」


 どうやら彼らは、このメディッサバイパーと呼ばれる大蛇の肝臓を狙って戦いを挑んでいたようだ。それを裕二が倒してしまったので、彼らは裕二がメディッサバイパーの所有者と考えたのだろう。裕二としてはそれの価値はわからないが、必死に頼む姿を見てそれをやらないワケにもいかない。


「フラスコとビーカーはそいつの解体を頼む。俺はシートットを村に運ぶ」


 裕二はもう立ち去りたいのだが、何やら恩を返すと言われてしまった。ここにいた方が良いのか少し悩む。すると、シートットを抱えた者がこう言った。


「俺の名はベルグナル。すまねえがアンタもついて来てくれ」

「お、おう」


 フラスコとビーカーと言う二人がその場に残りメディッサバイパーの解体を始め、シートットを抱えたベルグナルはその場から離れ走り出す。裕二はそれについて行った。ベルグナルはシートットを軽々と抱え、意外な速さで森を走りだす。


「客人を走らせて申し訳ねえな。アンタも抱えようか?」

「い、いや、いいよ」


 その走りっぷりを見ると、本当に二人抱えて走っても問題なさそうではあるが、裕二もそれに追いつくのは造作もない事なので、その申し出は断る。と言うより抱えられたら何か恥ずかしい。


「アンタ名は何て言うんだ?」

「裕二だ」

「ユージか。変わった名だな。今から俺達の村に行く。ユージにはこの恩を返さなければならねえが、見ての通りすぐには無理だ。とりあえず村についたらゆっくり休んでくれ」


 ベルグナルは走りながらそう言う。裕二がベルグナルの頭越しの風景を見ると山がある。どうやら裕二が朝見ていた山を目指しているようだ。


「おお、そうだ。言い忘れてた。俺達は人間じゃねえ。ドワーフだ。見た事あるか?」

「ドワーフ……いや、始めて見たよ」

「そうか。住処は穴倉だから驚かねえでくれよ」


 図書館から知識を得ていたので、ドワーフと言う種族がいるのは裕二も知っている。もちろん見るのは始めてだが、事がどんどん過ぎて行くのでそれに驚いている暇もない。


 ――ドワーフか。やっぱり人間じゃないんだな。どうするかセバスチャン。パーリッドがどんどん遠のくな。

 ――急ぐ訳でもないのでよろしいかと思います。逆にドワーフから森や山の知識を得るのも良いでしょう。冒険者になった時に役立つかも知れません。

 ――それもそうか。


 ドワーフは五百年前、魔人との戦争の時は人間と共闘したが、それ以降は人間とはほとんど交わる事なく距離をとって暮らしている。別に仲が悪い訳ではなく、生活習慣の違いからそうなっている。

 人間は地上に住み彼らは地下に住む。だが、全く交流がない訳ではなく、自らが作った物を人間に売ったり買ったり、と言う程度の交流はあるようだ。

 ペルメニアでも、ドワーフの住処に近い街や村ではたまにドワーフが訪れると言う。彼らの作る武器は価値が高いので、人間から差別される事もなく歓迎される場合が多い。


「見えてきたぜ」


 ベルグナルはそう言って山肌を指差す。だが、特に入り口らしきものはない。何か仕掛けでもあるのだろうか。


 斜面を駆け上りしばらくすると、ベルグナルは三メートル程はあろう高さの岩の前で止まった。そして、その大岩に手をつき何かを呟く。おそらく魔法がかかっているのだろう。すると、その大岩は横にゴロンと転がりその先に通路が現れた。


「入ってくれ」


 裕二はベルグナルに促され中に入る。すると、背後の大岩は再びゴロゴロ転がりながら元に戻り入り口は塞がれた。

 暗くなるかと想いきや、通路の壁面が薄っすらと光っており、動くには問題ない明るさだ。良く見ると苔のような植物が壁にビッシリと生えていて、それが発光していた。決して明るいとは言えないが地下なのだから仕方ないのだろう。通路は緩やかに下に向かって大きく螺旋状に続いている。

 途中、いくつもの別れ道と岩の扉を通り抜け、ベルグナルはスピードを落とさず走って行き裕二もそれに続く。そして、数分走り続けると通路の先が徐々に明るくなったきた。そこに村があるのだろう。そして、その出口が見えてくる。


「ユージ、着いたぜ」


 裕二がベルグナルに続き通路を出た瞬間――


「す、スゲー! 何だこれ」


 直径五十メートルはありそうな大ホールがあった。だが、裕二が驚いたのはそれだけではない。

 床には綺麗に磨き上げられ黒光りする石がタイル状に敷き詰められ、壁にもそれはあった。岩が剥き出しの部分も綺麗に磨かれてるのかピカピカに光っている。そして、いたる所に照明があり、白く発光する物から色とりどりのステンドグラスのような照明さえあり、地下空間を美しく照らし出し充分すぎる光量を放っている。

 そして、地下にも関わらず様々な植物が植えられており、緑の葉が生い茂る木もあれば見た事のない化石のような木も生えている。ホールを支える太い柱にはいたる所に穴があり、そこには立体的に植物が植えられている。遠くから見たら大樹のように見えるだろう。

 ホールは吹き抜けになっており三層に別れている。そして、そこからいくつかの広い通路が伸びている。

 各通路は食料品の並べられた店舗らしきものや居住空間、作業空間と用途によって纏まっているらしく、居酒屋のような場所には多くのドワーフがいた。


「ショッピングモールみたいだな」


 現代日本からきた裕二には、そう見えたのだろう。とても地下とは思えない空間だ。最初に聞いていた『村』と言う言葉のイメージは欠片もない。


「ユージ、こっちだ」


 地下空間に見とれて立ち止まる裕二にベルグナルから声がかかる。シートットを抱えているので急ぎたいのだろう。そのまま居住区らしき場所へ向かう。


「ミルフ!」


 ベルグナルは通路にいくつも並んだドアのひとつをノックもせずに開け、そう叫んだ。

 そこには、某アルプスの少女風、緑色のチロルワンピースを着た少女が驚いてこちらを見ている。民族衣装だろうか。


「シートットがメディッサバイパーにやられた。だが、こちらの御仁に、ユージと言うんだが、助けてもらった。肝臓もユージのお陰で手に入ったから後は頼むぜ」


 部屋の中は小奇麗に整頓されており、その片隅にあるベッドにベルグナルはシートットを寝かせる。そこに駆け寄る先程の少女はドワーフの女性だろうか。ベルグナル達男性とは見た目がより人間に近く、耳が多少大きい程度で、葡萄色の長い髪と白い肌、小柄だがとても美しい。


「ユージはここで休んでくれ。おい! ミルフ」

「わかったからさっさと行きな。後はやっとくよ」


 ミルフと呼ばれた女性のドワーフは、その見た目と裏腹に言葉遣いがちょっと乱暴だ。もしかしたら、これはミルフに限らずドワーフにとっては普通なのかも知れない。


「ユージ、兄貴を助けてくれてありがとう。とりあえず隣の部屋でゆっくり休んでくれ」


 ――兄妹なのかよ……全然似てねえ。


 可愛らしく笑顔を見せるミルフに案内され、裕二は隣の部屋で休ませてもらう事になった。


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