67 戦う者達
「裕二様おきてー」
ツリーハウスで目覚めた裕二。その上に乗ったテンが小さな手で裕二の体を揺さぶっている。
「う、おはよう」
「朝ごはん出来てますよ」
テンはそう言うと光の玉に変化して、外に飛び出して行った。下に降りたようだ。
裕二が眠い目をこすりながらツリーハウスのハシゴを降りると、そこにはセバスチャンが朝ごはんを作って待っている。
「おはようございます裕二様」
ツリーハウスの外は昨日とは少しだけ様子が違う。太い木の枝が下に伸びながら平べったくなっており、テーブルと椅子が作られていた。おそらくテンの能力で作られたのだろう。テーブルの上には昨日ムサシの取ってきた鳥が焼いてあり、いつ取ってきたのか果物も置いてあった。
「随分豪勢だな」
「テンは果物が生えている場所がわかるようなので今朝、アリーとチビドラと一緒に取ってきたようです」
「おう、凄いなテン。そんなのもわかるのか」
「ふふん」
テンは腰に手を当て胸を張る。そこへチビドラに乗ったアリーが裕二の元へ飛んでくる。
「テン凄いよ。青い果物もテンが触ると黄色くなるの」
「ミャアアア」
「へえ、そりゃ便利だな」
テンの植物を成長させる能力は青い果物も熟したものに変えてしまうようだ。今後、食料面でおおいに役立つだろう。裕二はテンの成長により、新たな力を手に入れたと言える。
「じゃあそろそろ行くか」
裕二は目的の場所、パーリッドへ出発しようと山頂から西の方角へ目を向ける。
そちらは延々と森が続きそこを白虎で突っ走る事になる。ふと、南に目を向けるとそちらはいくつか山がある。
「セバスチャン。あっちは何がある?」
「あちらはサレム王国との国境地帯です」
「もしかしてヴィシェルヘイムに繋がってるのかな」
「かも知れません」
強力なモンスターが現われる事で知られるヴィシェルヘイムの森。アンドラークの隣国、サレムはそこと密接に繋がっている。
「少し遠まわりになるけど行ってみようか。ヴィシェルヘイム程じゃなくても強力なモンスターがいるだろ。そう言うのも見てみたいし」
「そうですね。あの辺りなら人もいないでしょうし、ムサシとリアンが大暴れしても問題ないでしょう」
ムサシとリアンのポテンシャルを考えると、今まで現れたモンスターでは全く相手にならない。もう少し強いモンスターと戦って相手になるか試したい。
いずれヴィシェルヘイムに行く可能性もあるのだから、それを予め確かめるのも良いだろう。裕二はそう考えた。
「どうだムサシ?」
「うむ」
リアンは聞いても答えないのでムサシにだけ聞いてみる。声の感じからすると全く問題なさそうだ。
「良し、行ってみよう」
裕二は白虎に乗り、アンドラークとサレムの国境付近の山を目指す。人里からは遠く離れる事になるので、モンスターの強さ、数、共に増していくだろう。
白虎は獣道を素早く走り抜け森を横断する。裕二はその背に乗りながら感知能力を働かせ、モンスターの気配を探りながら先へと進む。
街道から近い森では、ワイルドウルフやオークの気配があったが、それも徐々になくなってくると、今まで感じた事のない気配を察知するようになってくる。
「何かいるな……」
まだ国境付近まで辿り着いてはいないが、はっきりとした何者かの気配、と言うより鳴き声が聞こえ始めた。
裕二は白虎の速度を落とし、辺りを警戒する。
『ンギャー、ンギャー』
赤ん坊のような鳴き声が森に響いている。その声は一体ではなく複数だ。その声は徐々にこちらへ近づいてくる。もうこちらの気配は察知されているのだろう。
「何の鳴き声だ?」
「おそらく、クロウラーですね。体長百五十センチ程の毛虫のようなモンスターです。動きは遅いらしいですが、群れているのでご注意を」
セバスチャンはチェスカーバレンの図書館で得た知識から、鳴き声の主を推測する。
クロウラーは群れで獲物を取り囲み、口から糸を吐いて拘束する。そうなると後はクロウラーに喰われるだけだ。
「動きは遅くても、糸を飛ばすのは速いのかもな」
「裕二あそこにいるー!」
「ミャアアア!」
アリーの指差す方向に赤紫色の毒々しい色が見える。あれがクロウラーなのだろう。その気配は十二体。既に周りを囲まれつつある。
「俺とムサシとリアンで四体ずつやるか」
裕二がそう言った瞬間、ムサシとリアンが現れた。
まず、リアンがガトリングガンを回転させながら、まだ草むらの影で見えていないクロウラーを撃ち抜く。途端に周りから『ンギャー』と悲鳴にも似た声があがり、リアンは動きを止めた。同時にムサシが草むらに飛び込んだ。そちらからもクロウラーの悲鳴が聞こえ、ムサシは数秒でこちらに戻ってくる。
「お前ら速すぎだろ……」
ムサシとリアンが八体のクロウラーを軽々と倒し、残りは四体。裕二は身体強化をしてからエクスプロードフレイムをクロウラーに向けて放つ。
『ンギャー!』
武闘大会で使ったエクスプロードフレイムは威力を落としてあり、殺傷力は低かったが、本来の威力ならどの程度モンスターに通用するのか、知っておく必要がある。
クロウラーは炎に包まれ爆発するが、体液を撒き散らし、悲鳴を上げながらもまだ生きている。数発同じ攻撃をすれば倒せるだろう。しかし、他の攻撃も試したい裕二は、転げ回るクロウラーの背後に周り、その頭に超能力の内部破壊を使う。こちらの攻撃は一撃でクロウラーを倒した。まだまだ魔法より超能力の方が威力は高いようだ。
裕二が超能力で使う攻撃は、この内部破壊と遠隔操作の二つが主だ。
内部破壊は対象に手を当て、魔力をその内側に流し破壊する。中国拳法に発勁と言う似たような技がある。
遠隔操作は離れた場所から対象を動かす力だ。かつてチェスカーバレン学院でマーロ・デンプシーを転ばせたのもこれになる。こちらも気功やサイコキネシスとして裕二が元いた世界でも知られた力だ。
その他に手で魔法を叩き落としたりも出来るが、モンスター相手にあまり使わないだろう。どちらかと言うと対人用、魔術師に使う技になる。
「何とか倒せたけどムサシとリアンにはまだ及ばないな」
「彼らは戦闘に特化したタルパですから。裕二様が成長すれば彼らもそれに応じ成長すると思います」
「そうか……てことは、ずっと追いつけないじゃん」
「いえ、彼らも含めて裕二様の力ですから」
「まあ……それもそうなんだけど」
とは言っても、ムサシとリアンはいつでも実体化して戦える訳ではない。人が見ている状況ではなかなか出しにくい。特にリアンは見た目がアンデッドみたいなので、人に見せたらかなり驚かれるだろう。そうなると面倒な事になりそうだ。
「ところでセバスチャン、このモンスターは何か素材は取れるのか?」
「いえ、生きたまま捕獲出来れば糸を吐き出させて、それを素材として使えるようですが、死んでしまうと何も使えません。食用にもしないようです。糸を取るには捕獲して専用の設備が必要になります」
「つまり、俺では何も使えないワケか。じゃあ今後はさっくりと倒そう」
こんな感じで裕二は、パーリッドに向かいながらも、今まで見た事のないモンスターを倒し、遠まわりしながら森を進んで行く。
◇
「馬鹿野郎! そいつがメディッサバイパーだ。離れろ!」
不気味な赤と黒の縞模様。その太さは直径一メートル、長さは八メートル程はありそうな巨大な蛇。逆三角形の頭の半分はありそうな口を開き、鋭い牙で周りを威嚇する。
鎌首をもたげたその大蛇はメディッサバイパーと言うらしい。
移動速度はそれほど速くはないが、攻撃する時の首の動きはかなりの速さだ。その攻撃の間合いに入れば、一瞬で食いつかれるだろう。
「ぐあっ!」
「シートット!」
人など寄り付かないであろう森の奥深く。そこでは剣や斧で武装した四人の者が、その大蛇と戦っていた。そのうちの一人がメディッサバイパーに食いつかれ、咥えた状態から地面に叩きつけられた。
「ごほっ!」
口から血を吐き動かなくなった仲間を見ても何も出来ない。圧倒的な強者の目の前にいるのは単なる捕食対象でしかない。逃げる以外の選択肢がない中、彼らをそこに踏みとどまらせているのは、地面に横たわる仲間がいるからだ。
「俺が奴を惹きつけるから、その間にシートットを頼む」
「それじゃお前が!」
「いいからやれ!」
おそらくその者は、自分を犠牲に仲間を助けるつもりなのだろう。間合いの外から石を投げ、メディッサバイパーの注意を惹きつける。
「来やがれ蛇野朗!」
そしてバックステップで避けるつもりで間合いギリギリに入る。だが、メディッサバイパーの間合いは予想より広くその動きも速かった。彼は直感的に避けられないと感じとった。その判断ミスは死へと直結している。
口を開き、矢のように向かってくる大蛇の頭。
死を覚悟したその時、メディッサバイパーはその大きな口から大量の血を吐いた。そして、その者に到達する直前で頭をガクッと地面に落とす。
「なっ! 何が起きた」
落ちたメディッサバイパーの巨大な頭の上には見た事のない人間がいた。その人間はメディッサバイパーの頭に手をついている。そして、こちらを見てこう言った。
「大丈夫か?」
誰もその問いに答えられなかった。何が起きたのかさっぱりわからないからだ。その人間は蛇の頭から降りると、倒れているシートットの元へ向かう。
「あ、あれ? 人間じゃないのか? まあ良いや、テン」
そう言って、胸元へ手をかざした。
「あんたいったい……」
「少し待て。治療中だ」
しばらくするとシートットの体が僅かに動き出した。
「ごっ、ごほっ!」
「シートット!」
だが、その人間は治療をやめない。そして、何か独り言のように呟いた。
「これじゃ駄目なのか……」




