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剣と魔法と七体の人工精霊  作者: ひろっさー
第一章 異世界転移と学院
64/219

64 伝言


 沢山の豪奢な建物が立ち並ぶグラスコード侯爵邸。中心になる居館の周りには様々な用途の建物がある。そのいくつかは既にペルメニアによって接収されている。

 表からは窺い知れないが、その内部はグラスコード侯爵の失脚により慌ただしく動いており、暇な人間などほとんどいない。

 臣下は何が起きたのか全く知らされず、自分たちにもその被害が及ばないかも考えなければならない。

 彼らが辛うじて知るのは、グラスコード家が新しい事業に失敗し、大借金を抱えた、と言う噂話しだ。だが、その噂話しは意図的に流されたものであり、彼らが真実を知る事はできない。真実を知る事はそれに巻き込まれると言う事でもあるからだ。

 いずれにしても、それを知るより自分達の先行きを心配する方が先だろう。


「ここがグラスコード邸か」


 その豪邸の前にひとりの男がいる。

 入り口を守る兵士はそれに気づき、声をかけた。


「何か用か? 今は大した用のない者は入れないぞ」


 兵士も中の事情は良くわかってないが、そう言って追い返すような仕草を見せる。


「責任者にテリオス・ジェントラーが来たと伝えろ」



 邸内で諜報員が事務所として使う建物。テリーはそこに通された。

 何故ここにテリオス・ジェントラーがいるのか。ユージ・グラスコードと一緒ではないのか。彼はその行方を知っているのか。諜報員は様々な疑問が頭を駆け巡りながら、会議室として使っている部屋へテリーを招き入れる。

 その対応をするのは二人の諜報員だ。


「良くおいで下さいました。あなたには聞きたい事が沢山あるので」

「大して話す事はないぞ。俺はユージの伝言係だからな」

「それは……一緒に行動していたが、今はそうではない。そう言う事ですか」

「見たらわかるだろ。ユージがどこにいる?」

「では彼はどこにいるのですか?」

「お前はバカか? 俺とユージは別行動してるのに知る訳ないだろ。いつまでも同じ場所にいると思っているのか?」


 テリーはやや挑発的に諜報員に答える。

 彼らの一番知りたいのは裕二の行方だ。それを知る唯一の人物が自分から来たのだから、何が何でも話しを聞き出さなければならない。下手をすればテリーは拘束される可能性もある。

 だが、テリーは余裕の表情で、いつもより更に偉そうな態度で諜報員と相対している。


「私どもはあなたを拘束する事も可能なのですが?」

「馬鹿者! やめんか」


 ひとりの諜報員が挑発に対応してしまったのを、もうひとりが諌めた。彼はきっとまだ若いのだろう。何もわかっていない。


「聞いてなかったのか? 俺はユージ・グラスコードの伝言を伝えにきたんだぞ? その意味がわからない程、諜報員は間抜けなのか」

「も、申し訳ありませんでした」


 裕二の伝言を伝える。それは、ユージーン・クリシュナード皇王陛下のお言葉を間接的に賜る、と言う意味にもなる。

 現在の状況でそれを唯一可能にするのはテリオス・ジェントラーだけだ。そしてテリーは、裕二の一番の友人でもあり、裕二に対し最大の便宜を図った人物でもある。その事も諜報員は知っており、それは裕二からの信用性と裕二に対する功績の面でかなり高い事になる。もしそれを無視してテリーを拘束したらどうなるのか。最大の懸案は裕二がそれを許すかだ。諜報員はそれも考えなければならない。

 テリーが最初に挑発的な態度を取るのは、予めそれを理解させておく為だ。こうしておけば今後の活動もしやすくなる。諜報員と言えども、テリオス・ジェントラーには迂闊な事は出来ないと言う事になる。


「まあいい。親父に色々聞いてるだろうから細かい事は省く。シャストニア・グラスコード、それとマレット・パーキンス。この両名にはユージが大変世話になったと言っていた。その功績を認め便宜を図るように。ペルメニアにとって罪人であっても雑な扱いはするな」


 裕二の決められるのは、皇王に対しての不敬から殺人未遂等、様々な行為に対する処遇。それ以外にペルメニアが推し進めてきた事に対する妨害行為があり、これはまた別にペルメニアが判断する事となる。そして、これらがグラスコードの主な罪、犯罪として裁かれる。

 たとえ裕二がグラスコード侯爵を許しても、ペルメニアに対する罪までは消えない。しかし、裕二の意見はそこにも反映される。

 ペルメニアに先駆けユージ・グラスコードに対する便宜を図った功績。これは考慮される事になるだろう。

 もちろん全て元通りとはならないが、裕二の言葉が今後、グラスコードを再興する可能性を残している。当然、今代で爵位を得るのは無理だろう。そしてその元凶になった者は切り捨てる必要もある。


「わかりました。仰せられた通りに致します」

「それと、グラスコード侯爵に面会させてもらう」

「い、いえ、それは……」

「ユージから預かっている物がある。それを渡さなければならない」

「か、畏まりました」



 自分の家でありながらほとんど来たことすらない殺風景な部屋。グラスコード侯爵はそこでする事もなく、ひとり椅子に座り佇んでいた。

 裕二が高貴な身分である可能性は最初から考えていた。なのに、何故こんな事になってしまったのか。

 グロッグもシェリルも自分の前では良い子供だった。それがいつの間にあんな人間になったのか、それをもっと考えるべきだった。それを知る機会はあったのだ。メアリーが裕二を追い出そうとした時、もっと二人を追求しておけば……そう考えずにはいられない。


「あの時、グロッグとシェリルを学院から退学させておけば……」


 そんな事を考えていると、部屋の扉が開かれる。


 食事と取り調べ以外では開かれる事のない扉。自分の家なのに自由に出入りすら出来ない。虚ろな目でその扉から現れた人物を見る。

 裕二やグロッグと同じ年頃の少年。初めて見る顔だが、事件の関係者なのは明白だ。そして、ここまで入って来れる人物など限られている。


「テリオス・ジェントラーだ」

「テリオス……ジェントラー、あなたが……良く入れてもらえましたね」


 確か、グラスコードにグロッグを引き渡すような事を手紙で言っていたはず。裕二の件がなくても叩き潰されておかしくない相手だ。


「あんたに渡す物がある」

「私に?」


 そう言ってテリーは、裕二から預かった金貨の入った袋を渡す。


「これは……」

「ユージはグロッグとシェリルには責任をとらせ、それに対する後悔はしない、と言っていた。だが、その反面あんたには感謝していたし申し訳なくも思っている。今回ユージはグロッグをぶちのめしたので、その責任を感じグラスコードを出なければならないと考えている。なので貰った金は返すそうだ」

「そうですか……」


 今となっては、裕二がグラスコードから離れるのは当たり前だし、そんな金はどうでもいい。本来なら一度渡した物を受け取る訳には行かないが、それを拒む気力もない。しかし、テリーが来たのは金を渡す為ではなく、その意味を教える為だ。

 グラスコード侯爵は、テリーの次の言葉に反応する。


「あんたがそうしていたから、助かる者が大勢いるだろう」

「え?!」


 テリーは先程の話しをグラスコード侯爵に話した。最初は虚ろな目で聞いていたグラスコード侯爵も、その内容に少しづつ目が開かれていった。

 一族が全て処刑される可能性。それが消えた訳ではないが、そうでない未来もあるかもしれない。

 テリーの話しにはそう言った希望も含まれていた。


「で、では、グラスコードの再興も……」

「今の段階では可能性があるとしか言えんが、あんたがそれまで生きていれば、平民としてなら可能かもな。だが、グロッグ、シェリル、そしてメアリーは諦めろ。あれはユージが許しても難しい」

「そ、それはもちろん」


 グラスコードを潰したグロッグとシェリル。それに加担したメアリー。

 父親として、家族として、彼らが処分される事に何も思わない訳ではないが、彼らは自ら進んで修羅の道を歩いた。

 彼らを犠牲にして、グラスコードを再興する、とも考えられるが、彼らが、グラスコードを犠牲にして修羅の道を突き進んだとも言える。当主としては後者の考えを取らざるを得ないだろう。それで一族を救えるなら尚更だ。


「それと今回の事を不服に思うような者を絶対に出すな。二度目はない。後はユージが戻るまで待て」


 それでもおそらく、かなり過酷だろう。爵位と領地を失い、他所の貴族からは爪弾きにされる。残された道は開拓民と言ったところだろうか。

 モンスターと戦いながら木を切り倒し、その根を引っこ抜くところから始めなければならない。それでも、一族が全て処刑されるよりは遥かに良い。

 ほんの少し、ほんの僅かではあるが、希望が見えてきた。今度こそ、その明かりを見失わないよう慎重に進まなければならない。



 テリーは用件を済ませて帰ろうとするが、当然ながら諜報員に引き止められる。彼らとしては何としても裕二の行方が知りたい。テリーに対し迂闊な事は出来ないが、これはペルメニアにとって重大な事だ。テリオス・ジェントラーが来たのに何の成果もなし、とはいかない。


「何とかご協力をお願いしたい。我々も困っているのです」

「はあ、わかったわかった。少しなら教えてやる。適当な事をされても困るからな」


 テリーと二人の諜報員は再び会議室に戻り、話しを始めた。


「今はユージをクリシュナードと確定させるな。それは親父にも言われたはずだ」

「確かにそうですが……」


 彼らからすると、ペルメニアが進むべき道が裕二を皇王として迎える事になる。それには裕二がクリシュナードだと確定させる事が必要だ。

 しかし、それは簡単な事ではない。そして、それは全て説明出来る事でもない。彼らにはその一部、今確定すると裕二の身が封印に耐えられない可能性があり、危険だと言う事を教える。そして、確定したとしてもその後、クリシュナードを名乗る危険性を教えた。そして、力をつけていない裕二の情報が、これ以上広まっては困る事も伝える。


「それなら尚更我々はユージ・グラスコードを保護し、彼の周りに強力な兵を配置しなければ――」

「無駄だ。ユージが進む道にお前らはついて行けない。お前らがユージを守るのではなく、ユージがお前らを守る事になる。足手まといはいらない。お前らの死体の山など必要ない」

「し、しかし……」

「ユージを探すな、と言っても探すだろうけどな。それならせめて、探すように見せかけた撹乱くらいは考えろ」

「撹乱?」

「そう。クリシュナードを探しているのはお前らだけじゃない。そうしてくれると俺の仕事も減る」

「なるほど……」

「お前らの気持ちもわからなくはない。だが、五百年待ったのだからもう少し待て。ユージは放っといても進むべき道を進む。それは五百年前にクリシュナードが決めた事だ」

「…………あなたはいったい何者なのです。何故そんな知識を……」

「下らん事に時間を使うな。そのうちわかる」


 テリーはそこまで話し、グラスコード侯爵邸を後にした。

 そして数日ぶりに、裕二のいなくなったチェスカーバレン学院に帰る事になる。


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