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剣と魔法と七体の人工精霊  作者: ひろっさー
第一章 異世界転移と学院
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63 最後の足掻き

 チェスカーバレン学院。その学院長室から近い距離にある控え室。そこで待たされているのは、シェリル・グラスコードだ。

 自分が何故ここにいなければならないのか、それについての説明は何もない。ただ、係員に誘導されてここに来た、と言うだけだ。


「いったい何のつもりかしら」


 この前日に起きた、裕二によるグロッグの襲撃事件。これについては学外の路地裏で起きた事もあり、学院内でその噂は広まっておらず、シェリルはその事を何も知らない。


 かなり長いこと待たされイライラしているシェリル。そのイライラを打ち破るように突然開く扉。そこに現れたのは、シェリルの兄であるグロッグ・グラスコードだ。だが、その姿はいつもと大きく違う。


「お、お兄様! どうなさったの」


 松葉杖を使い何とか歩いてはいるが、その様子は事故にでもあったかのようだ。とは言っても、長時間の魔法治療によって、前日に比べればかなりマシになっており、手足があらぬ方向を向いている、と言う事はない。

 見た目には松葉杖をついて動きがぎこちない、と言う程度に見えるだろう。あくまでも見た目の話しだが。


 そんなグロッグは眉間にシワを寄せ、苦々しい表情で控え室に入り、シェリルの隣の席に何とか辿り着き腰を落ち着けた。


「ユージだ……」

「え?」

「あいつにやられた」


 一瞬驚いたシェリル。だが、その意味をすぐに理解した。


 正確な理解とは言えないが、シェリルはこう考えた。


 シェリルがグロッグにやらせたリサの妾の件。これに怒った裕二がグロッグを襲撃し大怪我を負わせた。

 そう考えてシェリルは唇の端を釣り上げる。


「大成功じゃないお兄様」

「大成功なもんか! 俺がどれだけやられたと思ってる! 少しは俺の心配をしろ!」

「心配は後でしてあげるわ。でもお兄様がこれだけ暴力を受けたなら、ユージはもうグラスコード家にいられないわよ。お父様だって考え直すわ。ジェントラー家もそんな暴力的な人間、養子にしたいと思うかしら。私とのユージの約束もあるしね」

「当たり前だ! 父上に言いつけてやる! ジェントラー家にもその様な人間だと暴露してやる」


 この時点でグロッグは、ミーを殺した事はバレていないと思っている。おそらく、裕二は何の証拠もなく、自分が犯人だと決めつけた。そして、自分に襲いかかってきた。

 エリネアは完全に騙せたし、証拠の剣もある。ミーを殺した場面は誰にも見られていない。どうやってもバレる事はない。グロッグはそう思っていた。


「それだけじゃ許さない! この俺をこんな目に合わせたんだ。犯罪者として訴えてやる! 侯爵家の次期当主に手を出して、ただで済むと思うなよ」


 グロッグが控え室に来てからも、かなりの時間待たされている。その間グロッグは、頭の中で如何に裕二を叩き潰すか、そればかり考えていた。


「グロッグ・グラスコード、シェリル・グラスコード。学院長がお呼びです」


 扉を開けた係員が淡々と告げる。

 二人は案内され通路を歩き、学院長室の更に奥の部屋に通された。


 そこにいるのは、リシュテイン学院長、そして、何故か二人の父親であるグラスコード侯爵がいる。

 他に二名の知らない者がいるのだが、何故グラスコード侯爵がここにいるのかが気になって、そちらは目に入らない。


「ち、父上!」

「お父様!」


 久しぶりにに会ったグラスコード侯爵は、睨みつけるように二人を見ていた。その態度にグロッグ、シェリルは僅かに危機感を覚える。だからと言って引き下がる訳には行かない。絶対に裕二を悪者にしなければならないのだ。


「そこに座りなさい」


 声をかけたのはリシュテインだ。グラスコード侯爵は深いため息を吐いて、目を下に背ける。二人はこの態度の意味を考えずにはいられない。だが、同時に自分の落ち度もないと信じている。


「今回の事件についてお聞きします」


 そう言ったのは諜報員のひとり。彼は調査報告書を二人の前に差し出し、説明を始めた。

 その報告書には、グロッグの思い描いていたものとは違い事実が綿密に記載されている。

 一瞬顔色の変わるグロッグだが、それを誤魔化す為に大声を出す。


「な、何だこれは! 俺はこんな事してないぞ! 悪いのはユージじゃないか!」


 グロッグは立ち上がって怒声をあげる。だが、グラスコード侯爵は静かに口を開く。


「弁明は後にしろ。そこへ座れ」


 静かではあるが、気迫のこもる口調にグロッグも戸惑い、座るしかなかった。

 これは不味い状況に陥っているかも知れない。グロッグはそう感じ始めた。


 再び説明が始まるが、グロッグは僅かに額を濡らし、それを聞いている。どのように弁解するか、頭をフル回転させなければならない。シェリルは全く知らなかった事に多少驚いているが、あまり表情を変えずにそれを聞く。これはグロッグについてであって、自分には関係ないと言う事だろうか。


「以上で間違いありませんか」

「間違いだらけだ! ミアーニを殺したのはユージだぞ! エリネア様だって知ってるし、奴の剣がその場に落ちていた。ユージは俺に罪を擦り付ける為に、俺が犯人であるかのように暴行したんだ!」


 頭を抱えるグラスコード侯爵。そこへリシュテインが呆れ気味に口を開いた。


「良く聞くがよい、グロッグよ。お主の行動はバチル・マクトレイヤによって記憶石に全て記録されておる。そしてつい先程、コリー・スパネラがお主から脅され、自警団からユージの剣を盗んだと申告しにきおった。ユージを精神的に傷めつける為、ユージの可愛がってたミアーニを、その剣で殺す計画だったそうじゃな」


 それを聞き、途端に勢いを失うグロッグ。コリーが裏切るとは思っていなかったのだろう。かなり不味い状況に追い込まれているが、グロッグはそれを何とかコリーの責任に出来ないか。口籠りながら模索する。


「そ、それは……コリーがやったんです。僕は知りません……そうだ! コリーは以前、ユージからお金を脅し取ろうとして――」

「やめんか! 見苦しい! その件もコリーは話しておったわ! ユージに謝りたいと泣いて訴えておったぞ」


 コリーはあの後、セバスチャンの言葉を真摯に受け止め、自分のしてきた事、知っている事をリシュテインに告白してきた。

 グロッグとシェリルが、控え室で余計に待たされたのもそのせいだ。本来ならコリーの相手などしていられない状況だが、その内容が裕二に関する事なら話しも違ってくる。

 コリーは全てを話し、罰を受け、今の状況から抜け出したいと、涙ながらに語った。それを聞いたリシュテインも、コリーは馬鹿な事をしたが心底反省していると捉えた。

 相手が裕二なのでコリーの立場もかなり悪いのだが、リシュテインはこの件を、裕二が戻ったら執り成してあげたいと思っている。


「し、しかし……」


 返す言葉を失うグロッグ。そこへ諜報員が、裕二の手紙を報告書として纏めた物をグロッグとシェリルに差し出した。


「こちらを良くご覧下さい。わからない点は説明します。事実と違う場合は仰って下さい」


 二人はそれを見てみるみる顔が青ざめていく。裕二が編入した当初、シェリルが裕二にドブネズミと言った事に始まり、マーロ・デンプシーに乗じて裕二にいわれなき罪を着せようとした事。

 母親であるメアリー・グラスコードに嘘を伝えて裕二を学院から追い出そうとした事。

 リサのイジメをやめる事と引き換えに無理な要求をしてきた事等、シェリルの悪事も全て書いてある。

 コリーのように反省した態度がはっきりわかるなら、関係者の心象も悪くなく、裕二の言葉次第で何とかなりそうだが、ここまで執拗な嫌がらせをして、反省の欠片も見せないのでは、彼らを助けたいと思う者がいてもどうにもならない。


「わ、私はこんな事言ってません! 誰がこんなデタラメを」

「こんなの嘘だ! 被害者は俺なのに!」

「黙れ馬鹿者! そこに書いてある全てはジェントラー家が保証した内容だぞ! グロッグ! お前の雇った殺し屋はジェントラー家がとっくに捕まえている。そして、ここにいるお二方は宮廷諜報団。お前らの嘘が通用する相手だと思うのか!」


 グラスコード侯爵は激怒した。この期に及んで嘘をつこうとする二人に、親としての慈悲も失いつつある。

 そんな親の気も知らないグロッグとシェリルは、グラスコード侯爵の口から飛び出した、宮廷諜報団と言う言葉に大きく反応した。


「宮廷諜報団……」

「な、何で諜報団がここに……」


 宮廷諜報団が何故ここにいるのかはわからない。だが、ハッキリしているのは、彼らの前で嘘をつくのは自殺行為だと言う事。嘘をつけば彼らによって徹底的に調べられ、事実が明るみにされるだろう。

 一気に旗色の悪くなるグロッグとシェリル。何と答えれば良いのか、方針転換を余儀なくされる。


「どうなんだ、グロッグ」

「それは……多少ユージに嫌な事はしたかもしれません。ですが私はユージに暴行されて何十ヶ所も骨を折られたのですよ? ユージだって悪いじゃないですか」


 グラスコード侯爵は再び頭を抱えた。今までの悪辣な行為を、多少の嫌な事、と一言で片付け保身を図る卑しさ。これが自分の息子の本当の姿なのかと。

 吐き気がする程の無様な姿。自分はこんな人間を育ててしまったのかと。


「では、ここに書かれている内容は認める。そう言う事ですね」

「それは……」

「違うのですか?」

「いや……認めます」

「シェリル・グラスコード。あなたはどうです」

「み、認めます……けど……」

「けど?」

「……認めます」


 さすがの二人も認めるしかない。報告書には事実のみが書いてあり、自分たちはそれを知っている。そして、目の前にはペルメニア最強の諜報組織がいる。

 これを認めず嘘がバレたらどうなるのか。子供の嘘が通用する相手ではないのだ。


 諜報員は話しを続ける。


「あなた方の犯した罪は非常に重く、被害者のユージ・グラスコードはあなた方より身分が高い。今後、詳しい調査を経て――」

「ちょ、ちょっと待って下さい」


 諜報員の言葉を遮り、グロッグが意見を言う。その表情は口を尖らせ、納得いかないと言った感じだ。


「ユージは我がグラスコード家の養子ですよ。我々より身分が高いはずがありません。確かに私達にも悪い部分はあったかもしれません。ですが、これはグラスコード家で処理する問題ではないですか? 罪が重いなどと――」

「いえ、あなた方が知らないだけで、ユージ・グラスコードは尊き身分のお方。グラスコード家で処理出来る問題ではありません」

「尊き身分て……いったい」


 シェリルが口を挟んだ。自分たちより裕二の身分が高い事に疑問を感じたようだ。しかし、諜報員はそれ以上の事を教えない。


「あなた方が知る必要はありません」

「そんな! では我々は学院をやめなければならないのですか!?」


 それを聞いたグラスコード侯爵は、途端に怒り狂って目の前のテーブルを乗り越える。そして、グロッグを思いきり殴りつけた。


「貴様あああ!」

「ぐはっ! 父上何を!」

「学院だと?! お前は自分のした事がどう言う事か、わかってないのか!」

「や、やめて下さい父上!」

「お前のせいで! お前のせいで! グラスコード家は終わるんだぞ! それがわからないのか!」


 涙をボロボロ流しながら激しい怒りを見せるグラスコード侯爵。それを諜報員が慌てて羽交い締めにする。だが、それでもグラスコード侯爵はグロッグを罵る事を止めない。


「本来なら私が貴様らの首を持って、ユージの前に跪かねばならんのだ! 貴様らのした事で、我が一族全てが処刑されるんだぞ!」

「ま、まさか」

「うそ……」


 顔をグシャグシャにして叫ぶグラスコード侯爵。グロッグとシェリルはその言葉を聞き凍りつく。それを見て嘘をついてると思う者はいないだろう。裕二がどれほどの身分かわからなくても、それが嘘でない事は、この二人にもわかるはずだ。

 余りにも突然やって来た絶望。侯爵位にある者が、我が子の首を持って跪かねばならない相手。一族全てを巻き込む程の大罪。

 どう足掻いても誤魔化す事が出来ない。何故なら彼らは、自分達がここにくる前から全てを知っていたからだ。

 ユージ・グラスコードは、目の前にいるペルメニア最強の諜報組織、宮廷諜報団の遥か先にいた。遠すぎて見えなかった。

 それを今更ながら知る事になる。だが、それは全て終わった後だ。何もかもが終わった後なのだ。


「落ち着きなさい」


 リシュテインがグラスコード侯爵に声をかける。諜報員が何とか座らせるが、その怒りと嗚咽は止まらない。そしてグロッグとシェリルは魂のない人形のように、ただそこに座り込むだけとなる。


 それが一旦落ち着くと、諜報員は話しを続ける。


「重罪ではありますが、我々にグラスコード家の罪と刑罰を決める決定権がありません」


 この件は被害者が裕二。つまりユージーン・クリシュナード皇王となり、その意向は無視できない。罪と刑罰の決定権も裕二にある。現在、その裕二がいない状態なので、それを決める事が出来ない。

 とは言っても、妥当な刑罰は先程グラスコード侯爵の言った内容に近いだろう。

 グロッグとシェリルが理解しようがしまいが、ペルメニアを揺るがす大罪なのは間違いない。


「あなた方はそれらが決まるまで、接収されたグラスコード家の居館のひとつに幽閉されます」


 グラスコード侯爵領はとりあえずその臣下に委ねられる。後に分割、他領地へ吸収されるだろう。

 グロッグとシェリルは病気療養、経済的理由などでチェスカーバレン学院から去り、幽閉生活に入る。


 そして、裕二がペルメニアに戻り、クリシュナードと確定した後に、グラスコードの処分が裕二によって決まる。

 仮に裕二が寛大な処分をしても、多くの貴族はグラスコードを許さないだろう。彼らが貴族として生きて行く事は、もうない。


 そして諜報員から最後の言葉が放たれた。


「二人を連れて行きなさい」


 その声を聞いたグロッグとシェリルは、ハッとして先程まで虚ろだった目を開き諜報員に訴える。このまま連れて行かれたら本当に終わりだ。


「ま、待って下さい! 謝ります、だから……」

「わ、私も謝ります! お願い! ユージに会わせて! 何でもするから!」


 グロッグとシェリルは諜報員に呼ばれた兵士に連れていかれる。二人は声を張り上げ最後の抵抗を試みる。助かるのであれば謝罪でも何でもする。だが、もうどうにもならない。気づくのが遅すぎた。既に処刑台を登りきった後に何が出来よう。


 ドアの外に連れ出された二人の声は徐々に遠ざかり、やがて完全に聞こえなくなる。


 そして、それがチェスカーバレン学院で見る、彼らの最後の姿となった。


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