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剣と魔法と七体の人工精霊  作者: ひろっさー
第一章 異世界転移と学院
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53 杜撰な計画


「ハッハッハ、こんな事で良かったのか。ユージのあの顔、お前にも見せたかったぞ」


 グロッグはシェリルを部屋に呼び、事の顛末を嬉しそうに話す。


「私の言った通りだったわね。テリーを奪われた私の苦痛をユージも味わうと良いのよ」


 シェリルの目的は、裕二に精神的な苦痛を与える事。テリーを奪われたシェリルだからこそ考えついた作戦。厳密に言うとテリーには最初から相手にされてないが、その目論見は成功したと言える。


 シェリルが裕二と約束したのは約束が目的ではなく、裕二がリサを守る為に例え表面的でも養子のカードを使うのか、それを見る為だ。

 裕二もどうでも良い人物にそんな事はしないだろう。それだけリサを大切にしている事になる。

 そして約束はシェリルがリサと裕二に文句は言わない、と言う事になっている。それはあくまでもシェリルとの約束。つまり、グロッグは関係ない。シェリルは約束を破ってはいないのだ。

 グロッグがリサを妾にしても、裕二には元々何を言う権利もない。そしてそのリサとの交渉もグラスコードと強い繋がりを持てる善意の交渉とする事も出来る。


「しかし、リサの家がグラスコードの臣下とは知らなかったな」

「末端の下級貴族なんだから知ってる訳ないわよ」


 シェリルはリサの事を調べ、スクワイア家がグラスコード侯爵領に仕えている事を知った。その情報は取り巻きから簡単に手に入った。シェリルはそれを聞きこの作戦を思いついた。それを使わない手はないだろう。


 一応学院では、家格を持ち出して相手に言う事を聞かせるのは規則に反する。だが、それを律儀に守っているのは真面目な生徒だけだ。というかエリネアくらいしか思い当たらない。グロッグやシェリルがそんな規則を守る訳がない。


 スクワイア家はグラスコード侯爵領の徴税官を務める男爵家。

 徴税官と言う仕事は、領内の各村を回り収穫に応じて税を決める。その性質上、訪れた村々から接待を受ける事も多く、賄賂を受け取る場合さえある。それはつまり不正が起きやすい仕事とも言える。もちろんリサの親がそんな事してるとは限らない。グロッグもシェリルもそんな事は知らない。


 シェリルはリサと同じ寮に住んでいるので、裕二の眼の届かないところでリサを呼び出した。それは悪意を見せずに先日のお詫びと言う形でだ。そうなるとリサも応じざるを得ない。そしてグロッグに引き合わせた上でそんな話しをされたら、言う事を聞くしかないだろう。

 グロッグの言う事を聞けば、そう言った不正があってもグラスコード家がスクワイア家を守る事が出来る。しかし、グロッグの言う事を聞かなければどうなるか。

 グロッグもシェリルもそれに言及はしなかったが、それらしい事を匂わせた。その結果、どうなるのかは明らかだ。

 罪のでっちあげも可能になるだろう。リサからすると、それを真っ先に考えるしかない。そうなれば家族を巻き込む、そうならない為には言う事に従うしかなかったのだ。


 言葉の上での強制はなかったが、リサにそれを断る事は出来なかった。

 そもそも、そう言った話しは喜んで受ける人間も存在する。領主家と強い繋がりを持てるのなら、進んで引き受ける者がいてもおかしくない。

 そうなると、裕二にはほとんど手の届かない話しになってしまう。


 そしてグロッグはリサが学院を卒業してから妾とする妾候補と言う形にして自分のものとし、これも半ば強制的に裕二に近づけないようにした。

 だが、そもそも正妻候補はあっても妾候補なんてものはない。非公式なものなので、しきたりや決まりも当然ない。お互いが良ければそうなる、と言うだけだ。なので妾候補と言う言葉をグロッグとシェリルが勝手に作った。最初、シェリルは正妻候補として婚約しろと言ったのだが、それはグロッグが渋った為にそうなった。それに婚約となればグラスコード、スクワイア両家を無視できない。妾候補なら勝手にやれると考えての事だ。


「しかし、いつまでリサを妾候補にしとくんだ? 噂になると俺が困る」


 グロッグとしては、あまりこの件を知られたくはない。正妻も決まってないのに妾を決めるなど外聞が悪すぎる。妾候補とは言ってるが、リサを妾にする気などサラサラない。


「俺に相応しいのはエリネアだ。絶対エリネアには知られないようにしろよ」

「そうしたかったら早くユージを追い出す事ね。そしたら妾候補なんて解消したら良いじゃない」

「うむ……だけどシェリル。これだけではユージは出ていかないと思うぞ」

「もちろん。だからアイツの大切な物をこれから探し出して、また奪ってやればいいのよ。それを何度も何度も繰り返す。ユージがここにいたくなくなるまでね」

「ユージの大切な物……か。あの顔を見れば、確かに効果はあるな。いや、待てよ……」


 裕二の大切な物。グロッグはその言葉に思い巡らす。


「そんな事よりお兄様。ユージがどんな顔してたのか、もっと詳しく話してほしいわ。私はそれを見てないんだから」



 教室を飛び出したテリーは裕二とリサを探す。もう授業も始まるので辺りに人は少ない。そして廊下の突き当たりを曲がった。そこには既に、グロッグも裕二もおらず、リサがひとり、しゃがんで泣いている。


「リサ! どうした? ユージはどこだ」

「テリーさん……私、ユージにひどい事を……」

「泣いてちゃわからん。はっきり喋れ」


 テリーは泣いているリサを人の来ない場所に移動させ話しを聞く。リサは泣きながらも何とかテリーに今までの経緯を話した。


「はあ? そんなバカ話しをリサもユージも真に受けたのか?」

「グス、え?」

「あのなあリサ。いくらグロッグが領主の息子でも、実務をした事もない奴に大した権限などないぞ。男爵家をどうにかするなんて余程の金と時間と根回しが必要になり、グロッグ単独では無理だ。まあグロッグの親がグロッグ並みのバカならそう言う事もあるかもしれんが、グラスコード侯爵はそこまでバカじゃない。領地経営は子供の遊びじゃないんだ。何も知らないバカに貴重な人材を潰させる真似は普通しない」

「そ、グス、そうなんですか?」

「だいたい学生の身分で正妻もいないのに妾など、グラスコード侯爵が許す訳がない。正妻を娶るのに影響するからな。順序が違う。そう言うのは先に父親がプロの……まあ良い。おそらくユージに嫌がらせをする為に、短時間で考えた作戦だろう。杜撰にも程がある。それをいつまでも両家に内緒にできると思うか? 両家が知って黙ってると思うか?」

「そ、それは……」

「とりあえず寮に送るから、しばらく休め。奴らには何があっても絶対に会うな。ユージにも言われただろ? 何を言おうが奴らの言葉に強制力はない。会わなければ何もやりようがないんだ」

「は、はい」


 リサはこの件をひとりで解決しようとせず、裕二とテリーに相談すれば良かったのだ。この件は裕二だけでも解決できた。


 裕二がその気になれば、グロッグの事をグラスコード侯爵に訴える事が出来る。自分の為ならともかく、リサの為なら裕二もそれを決断する可能性は高い。

 仮にグラスコード侯爵がグロッグを庇うなら、裕二とグラスコード侯爵の間に亀裂が入る事になる。

 裕二がジェントラー家に行き協力を仰げば、グラスコードには最悪の結果が待っている。


 だが、リサがひとりで解決しようとした為にそうはならなかった、という訳だ。


「ごめんなさい。私はどうすれば……」

「ユージの事は俺に任せろ。これからは俺かユージに必ず相談するんだ」

「はい」



 そんな事情を知らない裕二は、森の奥に逃げ込み、どうすれば良いのか考えていた。だが、リサの態度にショックを受けた裕二の頭は、いくら考えても考えが纏まらない。そこにセバスチャンが声をかける。


「裕二様。お言葉ですが、あれ程の害悪を生かしておく必要はないのでは? 我々なら暗殺も可能です」

「そうだな……」


 裕二はグロッグに対して僅かな殺意を抱き始めた。セバスチャンの言葉に対する裕二の返答はそれを肯定しているようにも聞き流しているようにも思える。


 裕二としては、グロッグが死んでもなんとも思わないだろう。今それを押し留めているのは、グラスコード侯爵への恩という細い糸に過ぎない。その細い糸は、グロッグのリサへの仕打ちによって、今にも切れそうな状態だ。


「ここにいたか。心配したぞ」

「テリー……」


 テリーは森を走り回ったのかアチコチ汚れているが、いつもと変わらない笑顔で裕二に近づく。そんな様子を裕二は、申し訳ないと思いながら見ていた。


「ごめんテリー。探させたみたいだな」

「全くお前は……まあ、いいさ」


 テリーはリサにしたのと同じ話しを裕二にした。冷静に考えればかなり無理のある話しだとわかる。とりあえずリサがどうにかされる事はないとわかっただけでも一安心だ。


「ありがとうテリー」

「気にすんな。で、奴はどうする。さすがにリサまで巻き込んで放置はないだろ」


 グロッグに対する怒りを収めた訳ではないが、テリーと話し落ち着きを取り戻した裕二は、先程まで持っていた僅かな殺意を引っ込める。まだ他に手段はあるだろう。

 今回グロッグのした事は絶対に許さない。奴をどうするか、今後一切舐めた真似をできないようにしなければならない。


 裕二にとってリサは、初めて見た時から特別な存在だった。そのリサと仲良くなって短い期間だが、とても楽しく過ごせた。リサが笑ってるだけで裕二は楽しかったのだ。

 そんな些細な幸せをグロッグは、最悪の形でぶち壊した。

 裕二がグロッグにいったい何をしたというのか。シェリルもそうだ。裕二はあの兄妹に対して何も悪い事はしていない。なのに初めて会った時からグロッグとシェリルは、理不尽に裕二を憎んだ。

 そして裕二だけでなくリサをも巻き込んだ。もうあの二人を野放しにはできない。


「だがユージ、突発的に殺すのだけはやめろ。それをやるとお前が悪者になる。殺るならまず俺に言えよ」

「わかった。明日までに決める」



 その後、裕二はミーに餌を与えてから寮に戻った。ミーと少し遊ぶ事で、ささくれ立った裕二の心も癒やされてゆく。

 そして部屋に戻ると再びセバスチャン達を呼び出した。


「グロッグには今までの借りを返す。だが、どうやってそれをするかだ」

「奴を殺るなら我々にご命令を」

「いや、殺さない」


 裕二の考えはグラスコード侯爵の事も多少はあるが、今はそれよりももっと大事な事がある。リサがどう思うかだ。

 今回の事でグロッグを殺せば、リサは自分の為に裕二がグロッグを殺したと思うだろう。リサの事だからそれに罪悪感を持つに違いない。そしてもう一つ理由がある。


「奴には今までしてきた事を生きて後悔させたい。その為にはグラスコードに留まるのはもうやめても良い」


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