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剣と魔法と七体の人工精霊  作者: ひろっさー
第一章 異世界転移と学院
52/219

52 リサの危機


 裕二は朝、いつも通り授業に出席する。そして教室内もいつもと変わる所はない。

 リサは多少不安そうな顔をしているが、シェリルはこちらを見る事もない。雰囲気としては、一応約束は果たしていると言った感じではある。

 裕二はその後もシェリルの動きに警戒はしていたが、特に問題なく放課後を迎える。


「とりあえず大丈夫か……テリー、リサ、帰ろう」


 その彼らの後ろ姿をほんの一瞬目で追ったシェリル。


 シェリルはそのまま自分の部屋ではなく、グロッグの部屋へと向かった。そこにはイライラした表情のグロッグがシェリルを待ち構えていた。そして開口一番シェリルを怒鳴りつける。


「おい! シェリル。昨日は何をしていた! 下手に動くなと言っただろ」

「あら、お兄様。知ってたの?」

「ふんっ!」


 グロッグは鼻を鳴らしながら、顎で机の上を示す。そこには筒状の何かが置いてあった。


「何これ? 魔法道具……かしら?」

「そうだ。魔遠鏡と言う遠く離れた場所を見る為の物だ」

「魔遠鏡?」


 そう言いながらシェリルは魔遠鏡を手に取る。


「その穴から外を見てみろ」


 言われた通りシェリルは魔遠鏡の穴に目を当て、そこから外の景色を覗いてみた。


「あら凄い。かなり遠くまでよく見えるわね……あ! なるほど。これで昨日の私の様子を見てたのね」

「そう言う事だ。それがあれば暗闇でも良く見えるぞ。見てたのはお前じゃなくてユージだけどな」


 グロッグは裕二の様子を探る為に、高価な魔遠鏡を購入した。それで裕二の様子を探っていて、昨日の件も見ていた。しかし、音は聞こえないので、裕二とシェリルが何を言っていたかまではわからない。グロッグはシェリルが迂闊な事をしないかとヒヤヒヤしながら見ていたのだ。


「また、こんな下らない物買って。何に使うのよ?」

「うるさい! それより昨日、何を話していた。それを教えろ」

「ふふ、もちろんよ。それを話しに来たんだから」



 チェスカーバレン学院の学院長室に向かう通路を歩く、ひとりのメイド服を着た女性。それはチェスカーバレン学院の受け付けを担当するファニエ。正式な名前はファニエ・チェスカーバレンと言う。

 学院内でもあまり知られてはいないが、ファニエはチェスカーバレン家の人間なのだ。

 学院長であるリシュテインの弟がチェスカーバレン家の当主にあたる。その息子の娘がファニエになる。

 ファニエにとってリシュテインはお爺さんの兄、と言う事だ。


 そのファニエが沢山な書類を抱え、学院長室のドアをノックする。するとドアの向こうからは、少し慌てたリシュテイン学院長の声が聞こえてきた。


「は、入りなさい」


 ファニエが室内に入ると、広々とした机の向こうで待ち構えているリシュテインの姿がある。だが、どこか落ち着かない様子だ。


「リシュテイン大おじ様。また骸骨の人形で遊んでましたね。仕事中ですよ」


 ファニエはおそらくそれを隠したであろう、机の引き出しに目を向ける。するとリシュテインは狼狽しながら答えた。


「な、何を言う。あれはリア……精霊についての重要な研究じゃ。他で言ってはならんぞ。それより学院内では学院長と呼びなさい」


 どうやら図星のようだ。


「はいはい、では学院長。お手紙が届いておりますので目を通しておいて下さい。人形で遊ぶのはその後です」


 ファニエはそう言って、机の上に数通の手紙を置いて学院長室を出て行く。


「遊んどる訳じゃないわい! 凡人にはアレの良さがわからんのじゃ」


 と、ひとりブツブツ言いながら手紙の送り主を一枚ずつ確認する。


「ん?」


 リシュテインはその内の一枚の手紙に目を留めた。その送り主の名前は――


「ヘルツ・ハリスター……奴から手紙がくるとは、何事じゃ?」


 ヘルツ・ハリスター。

 その名が示す通り、使徒の家系であるハリスター家の一員だ。


 ヘルツはチェスカーバレン学院の卒業生で、現在でもリシュテインと交流がある。そして彼は現在、ハリスター魔法研究所の所長となっている。所長ではあるが、現役バリバリの研究者でもある。

 バイツ・エストローグとは親戚関係となり、武闘大会の時、バイツの使ったベルセルクターミネイションは彼が復活させた魔法だ。

 そしてヘルツ・ハリスターはペルメニアに於いて、クリシュナード研究の第一人者でもある。


 そのヘルツから届いた手紙には何と書かれてあるのか。リシュテインはすぐに封を開けた。


「拝啓、リシュテイン学院長様、私が卒業してから幾年の年月が――どうでも良いわ、そんな事! なになに……」


 手紙の内容は、ヘルツがハリスター研究所所長としてリシュテインに重要な話しがあるとの事。それ以上詳しい事は書いてはいないが、出来るだけ早く、急いでほしい、との事だ。


「ハリスター研究所か。数日間は出張になるのう。しかし……そんなに急ぐ用とは……」



「そう言う事か……でもそんな約束に拘束力ないだろ? 罰則もないのに」


 シェリルは昨日の件をグロッグに詳しく話した。

 シェリルはリサに文句を言わない代わりに、裕二はジェントラー家の養子にならない。話しの過程を飛ばして結果だけ見ると誰が聞いても不平等だ。

 罰則もなくそんな約束を守るのか、とグロッグは疑問を持つ。


「そう、拘束力はないわ。守ってくれたらもちろん良いけど、さすがにそこまで期待しないわよ」

「なら、なんの為に」

「ユージはどこまでリサを守るのか。それが知りたかったの」

「はっ? そんな事してどうする」

「本当にお兄様は子供ね。ユージにとって重要な人物じゃなきゃそんな約束しないでしょ? つまりそれがユージの弱点。約束を守るかどうかは関係ないのよ」

「ますますわからん。約束を守らないと意味ないだろ? それにお前はもうリサに手出しできないのに弱点を知ってどうする」

「もう! とにかくお兄様は私の言う通りにすればいいの!」


 シェリルとグロッグがそんな話しをしていた頃。裕二はリサを女子寮まで送り届けていた。


「ありがとうユージ」


 リサは笑顔で裕二に礼を言う。裕二にとっても、その笑顔が見れるだけで満足とも言えた。だが、リサを送る目的はそう言う事ではないので、改めて気を引き締める。


「ああ、しばらくは出来るだけ部屋から出るな。約束したとは言え、アイツは何するかわからないからな」

「うん、わかった」


 裕二は警戒はしているが、シェリルの言う通りにコチラが不利とも言える約束を交わしてあるのでそこまで警戒は必要ないかも知れない。そして裕二は約束を守る気はないが、シェリルが約束を守らなければ裕二は約束を破る、ではなく、守る必要がなくなる。さすがにシェリルもそんな意味のない行動はしないだろう。すぐに目立った動きはしないと裕二は思っている。



 翌日。裕二はいつも通り教室に入る。

 既にリサもシェリルもエリネアも教室に来ているが、テリーは相変わらず遅いので、まだここにはおらず、昨日までと何ら変わらない。


 と、裕二は思っていたのだが、そうではなかった。


「リサ……どうした?」

「な、何でもない」


 表情の優れないリサに、裕二は声をかけたが、リサは裕二と目を合わせる事なくその場を離れた。


 ――何だ?! 何が……シェリルか! アイツがリサに何かした?


 裕二はシェリルを睨みつけるが、シェリルはそれに気づかないかのように、取り巻きと楽しそうに話しをしていた。裕二はシェリルがリサに何かしたに違いないと思っているが、今のところそんな証拠はない。


 裕二はもう一度リサに声をかけようと近づく。すると――


「ご、ごめんなさい」


 裕二の気配を察したリサは、目を合わせないまま、走って教室から出て行く。


「リサ!」


 リサを追いかけて裕二も走り出す。


 リサは長い廊下の突き当たりを曲がり、その姿が裕二からは見えなくなった。しかし、裕二はそれでもリサを追いかける。そして、リサの消えた角を曲がった時――


「お前!」

「何だ? ユージか。どうした?」


 そこには俯くリサの肩を、馴れ馴れしく抱くグロッグの姿があった。


「何をしている! リサから離れろ!」

「は? 何を言ってるユージ。コイツは学院を卒業したら俺の妾になるんだ。つまり俺の物と言う事。ユージには何も言う権利はないぞ」

「な……に!」


 リサがグロッグの妾になる。いったいどう言う事なのか。そんな事は信じられない。混乱する裕二だが、リサの表情を見れば言う事を聞かされているのは一目瞭然だ。


「嘘をつくな!」

「嘘なもんか。リサもそれに同意している。何だユージ、もしかしてこの女が気に入ってたのか? それは残念だったな」


 グロッグはいやらしい笑みを浮かべながら裕二にそう言う。だが、裕二はリサが同意したなど信じない。そんな事がある訳ない。昨日まであんなに楽しそうにしてたのに。今のリサの表情は哀しみに満ちている。


「嘘だ! お前リサに何を言った!」

「はあ、だから言ってるだろ。リサ、ユージが信じないそうだからお前の口から言ってやれ。これはリサも同意済みの事だと」


 リサは俯き何も答えない。だが、グロッグは構わずリサに問いかける。


「どうしたリサ。この件はお前も同意した。もちろん俺は強制などしていない。そうだろ?」

「…………はい」


 裕二は耳を疑った。そんなはずはない。グロッグが強制したに決まっている。リサの表情が何よりの証拠だ。

 だが、今の裕二にはこれに抗う術がない。裕二が何か被害を受けた訳でもなく、仮にジェントラー家の養子の件を持ち出したとしても、これが覆るかはわからない。養子の件を嫌がってるのも約束したのもグロッグではなくシェリルだ。どうすれば良いのか。


「リサ! 嘘だろ。グロッグに言わされてるんだろ?」

「…………ユージ、ごめんなさい」


 リサの悲しげな表情とは裏腹に、グロッグは満足そうに笑う。いや、満足と言うよりサディスティックと言ったほうが近い。今まで惨敗してきたグロッグが初めて裕二に勝ったとも言える。その戦利品は裕二の苦痛に満ちた表情だ。


「そう言う事だユージ。悪いがリサには今後近寄らないでくれ。妾とは言えグラスコードと近しい関係になるんだ。悪い噂は困るからな」

「くっ!」


 裕二はそれを聞いて、その場から逃げるように走り出した。その瞬間、リサの目から大粒の涙がこぼれ落ちる。だが、裕二がそれを目にする事はなかった。



「ユージとリサはまだ来てないのか?」


 教室では遅れてきたテリーが、その辺にいる生徒を捕まえてそう質問していた。


「さっきまでいましたけど、二人とも何か慌ててどこかに走って行きましたよ」

「なに! どっちに行った!?」


 テリーはそれを聞き即座に教室を飛び出して行った。


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