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剣と魔法と七体の人工精霊  作者: ひろっさー
第一章 異世界転移と学院
51/219

51 約束


「やっぱりと言うか何と言うか……本当にあいつは意地が悪いな」


 裕二は訓練を終え、自室でセバスチャン達と話しをしている。その話題はシェリルとリサの事だ。

 このままシェリルが、リサをイジメのターゲットにさせないよう考えていた。


「しかし、裕二様が直接何かされる訳ではないので難しいですね」

「そうなんだよな。俺がいない間にやられると……」


 裕二はその意見に同調するが、セバスチャンの意見とは少し食い違っているようだ。


「いえ、そうではなく、あの方なら強引な理屈を使ってくるのでは? という事です」

「強引な理屈?」


 つまり、簡単に言えば、シェリルとリサのやり取りは二人の問題であって裕二には関係ないという事。それを基礎にシェリルが有利な理屈を組み立てる事が出来る。という訳だ。


「なるほどな。でも今回そんな様子はなかったぞ?」

「それは、今回だけでしょう」


 今回の招集は誤報なので裕二にとっても意外な程早く終わった。おそらくシェリルも、しばらく帰っては来ないだろうと考えていたと予想出来る。

 しかし、裕二はその予想を裏切り早く帰ってきた。驚いたシェリルはそれに対応出来ず、その場を去った。つまり対応出来るならそこから去る必要はなかった事になる。


「確かに……」

「ですが裕二様にはジェントラー家の養子になれる、というカードがあります。あの方はそれを避けたいはずですから」

「まあな。それがあるから安心ではあるな。あんまり使いたくはないけど、いざとなったら……俺のせいでリサを辛い目に合わせる訳にはいかない」



 翌日、表面上教室内はいつもと変わらない。しかし、何となくピリピリした空気はある。それを発しているのは裕二とシェリルだろう。お互いに様子見と言ったところだろうか。

 ちなみにエリネアはミーのいる場所の結界のような物を、裕二がやったのかが気になっている。だが、それを直接聞こうとはしない。

 そんな感じで教室は色んな意味でピリついている。


 そんな雰囲気を保ちながら放課後になると、裕二、テリー、リサが一緒に帰る事になる。


 だが、校舎を出て少ししたところで、テリーは用があるとかで先に帰ってしまった。


「悪いな、二人っきりでゆっくり帰ってくれ」


 そう言ってテリーは去って行く。


 ――リサ・スクワイアの事は何とかしないと不味いな。しかし、どうするか……養女に出来れば簡単だが、ユージと違ってスクワイア家の実子だからな。


「何だよアイツ。せっかくミーを見せるつもりだったのに」

「何か大切な用があるんだよ。仕方ないから二人で行こう。ミーが待ってるよ」

「そうだな。いや、少し暗くなってからの方が良いな。他の奴にミーの事を知られたくない」

「じゃあ少し森を散歩してから行こうか」


 と、いい感じのやり取りをしながら二人で歩く。

 そんな光景を、遠く離れた校舎の上の階から見ている者がいる。裕二がそれに気づく事はなかった。



「なあリサ。シェリルの事だけど……」

「あ、うん。大丈夫だよ。Bクラスにいた時も嫌味とか嫌がらせはあったし、あれ位どうって事ないから。だからユージは心配しないで」


 と、リサは笑顔で裕二に答えるが、その表情はややぎこちない。

 やはり気にしているのだろうか、と裕二は考える。


「シェリルが何か言ってきたら俺に言えよ。奴は本当に意地が悪いからな」

「ふふ、ありがとう」


 裕二は、シェリルの意地の悪さを何度も経験しているので、かなり心配している。この優しそうな女の子がアレに耐えられるのか。裕二もテリーがいなければどうなっていたかわからない。


 だが、その時。森に向かう通路を裕二とリサが歩いていると、路地から出てきたひとりの女性がこちらへ歩いてきた。


「あら、あなたまた男をたぶらかしてるの。テリーだけじゃなく他の男まで。それが目障りな行動だとわからないのかしら? 随分と調子に乗っているのね」

「えっ」

「シェリル!」


 突然現れたシェリル。その目はリサを睨みつけながらも、口元には不適な笑みを浮かべている。

 裕二は即座にリサの前に出た。するとシェリルはその笑みを崩し軽く裕二を睨む。


「何かしらユージ。私はリサに文句はあるけれど、あなたに文句はないわ。そもそもユージには何の関係もない事よ」


 やはりセバスチャンの言った通りだった。シェリルは何か考えてきたのかもしれない。ただ文句を言いに来たとは思えない。


「リサは俺の友達だ。関係ない事はない」

「お友達ねえ……では私は言いたい事は言ってはいけないって事かしら? ユージを怒らせたくはないけど、そこまでする権利があなたにあるの?」

「お前の言いたい事なんていつも言い掛かりだろ!」

「あらそう。それはユージが勝手にそう思ってるだけでしょ。私は言いたい事は言うつもりよ。だけどユージには迷惑をかけてないし文句も言ってない。これは私とリサの問題。違うかしら?」

「くっ……」


 ――やっぱりこれで押し通す気か。引く気はなさそうだ……どうするか。


 裕二は養子の件をチラつかせようと考えたが、それにはまだ早いだろう。もう少し反論の言葉を並べてからだ。しかし、裕二がそう考えていると、先にシェリルが口を開く。


「でもユージ。あなたの為に今後リサには文句を言わないと約束してあげる事は出来るわ」

「なに?」

「ユージはリサに文句を言われたら嫌なんでしょ? 同じグラスコード家のユージの頼みなら聞いてあげようと思うの」


 意外な言葉がシェリルの口から出た。言葉だけを見れば友好的にも思えるが、シェリルに限ってそんな事はないだろう。


 ――何だコイツ……何を考えてる。


「どうかしら? ユージ」


 ――どうする、罠か?


 いきなりの事にどうして良いのかリサには全くわからない。とりあえず止めなければならないが。リサに止められるとも思えない。


「ユージやめて。私は大丈夫だから」

「あなたは黙ってなさい。私がユージと話しているのよ」


 シェリルが無条件でそんな事するとは思えない。何か裏があるはずだ。


「どういう事だ。何故突然そんな事を言う」

「ふふ、もちろん無条件じゃないわ。私はユージの頼みを聞くのだから、ユージも私の頼みを聞いてほしい。それなら平等でしょ?」


 テリーがここにいたなら、それが平等だとは言わないだろう。

 シェリルは理不尽な言い掛かりをつけて、それを引っ込める事を条件にしているのだ。相手を殴っておいて、殴るのをやめるから金を出せと言ってるようなものだ。裕二はそれに気づいているのだろうか。


「何が言いたい」


 裕二はシェリルの真意を測りかねている。もう少し詳しく聞いた方が良いだろう。


「私は今後一切、リサに文句や嫌な事を言ったりしないわ。もちろんユージにもね。でもそれは私の発言を私の意思ではなく、ユージが制限する事になるわ。なら、ユージにも多少の制限を課しても良いわよね。これでお互い様でしょ?」

「……話しを続けろ」


 同意を求めるシェリルを無視して、裕二はその続きを促す。


「簡単な事よ。ユージはジェントラー家の養子にならない。そう約束してほしいの。それって今の状態と全く変わらないのだから難しい事じゃないでしょ? 裕二もリサも今まで通り。たったそれだけの事」


 シェリルの要求は、裕二がジェントラー家の養子にならないと約束させる事だった。裕二の人生を左右する事と、シェリルのワガママを引っ込める事。どう考えても平等とは言えない。


 しかし――


「わかった」


 裕二はあっさり同意してしまう。


「ユージ!」

「大丈夫だリサ」


 思わず声をあげたリサに裕二は優しく微笑んでそう応えた。しかし、それでリサの顔が安心する事はない。


「交渉成立ね。今後はそう言う事で行きましょう。そうすればお互い嫌な思いはしない」

「ああ」


 シェリルはニヤリと笑い組んでいた腕を解く。そして裕二とリサに背を向ける。


「約束は必ず守ってよ」


 首だけをこちらに向け、シェリルはそう言い残して去って行った。


 その場に残された裕二とリサ。


「ごめんなさい、私の為に……でもあんな約束――」

「大丈夫だ。リサは心配しなくてもいいよ。だけどテリーには話しておかないとな」


 下を俯き申し訳なさそうな表情のリサ。だが、裕二はそれ程でもなさそうだ。何か考えあっての事なのか。それはともかくテリーには早急に報告する必要はあるだろう。シェリルの出した条件は、ジェントラー家の養子に関する件だ。それを裕二が勝手に決めてしまったのだから。


「もう少し散歩したらミーの所に行こう」

「ユージ……」



 夜になり裕二はテリーの部屋を訪れる。もちろん先程の件を報告する為だ。もしかしたらテリーに怒られるかも知れない。裕二はそう思いながらテリーの部屋のドアを開ける。


「どうしたユージ。こんな時間に」

「テリー……じつは今日――」

「何かやらかしたな。まあいい、とりあえず座れ」


 少し申し訳なさそうな苦笑いの裕二を見て、テリーは何か察したようだ。だが、テリー特に動じる事もなく裕二に席を勧める。裕二は高そうなソファーに腰を落ち着けた。


 そして裕二は、今日起きた事をテリーに全て話した。

 特にシェリルの出してきた条件を詳しく話す。裕二は罠の可能性も考えたが、その条件をのんだ。


「悪いなテリー。勝手に決めて」

「何だそんな事か。別に構わないさ」


 テリーとしては養子の件については、裕二を守る為の手段であって目的ではない。それに最終的にそれを決めるのはテリーではなく裕二だ。裕二がそう決めたのなら、テリーに言う事はない。


「だが、ユージの考えは聞いておきたい」

「ああ、そうだな」


 裕二としては、グラスコードであろうがジェントラーであろうが、最終的には貴族としてではなく、自由に暮らしたいと思っている。今ジェントラー家に養子として世話になっても、いずれはそこを離れるつもりだ。そうなると養子になる事は、単にジェントラー家を利用するだけになってしまう。なるべくならそれは避けたい。最近裕二は先を見据え、そう考える様になってきた。


「なるほど。こっちはそれでも構わないぞ。ジェントラー家はその程度利用されても困る事はない」

「まあ……そう言ってくれるとは思ったけど……気持ちとしてはあまり良いもんじゃない」

「とりあえずそれはわかった。で、シェリルとの約束はどうする。不平等なのはユージもわかっているだろ?」


 そう言ってテリーはニヤリと笑う。それを見て裕二もニヤリとする。


「もしかしてバレてるのか?」

「当たり前だ。ユージはシェリルとの約束を守る気はサラサラない。約束を守る振りをするだけ。だろ?」

「う、さすがテリー。良くわかってる」


 シェリルの使った話術は、以前テリーがゴンズ武具店で教えてくれたものと基本は同じ。コチラが譲歩している様に見せ掛けて実利を得るやり方。裕二はそれをわかった上で約束をした。

 だが、約束をしたとして、それを破っても罰則がある訳ではない。せいぜいシェリルがギャーギャー騒ぐだけだ。とりあえず約束を守ってる振りをしておけば、シェリルはリサにも裕二にも何も言ってはこない。しかし、いざとなったらそんな約束は守らないつもりだ。

 

「あんな奴との約束なんか守る気はないっての。今まで散々嫌がらせされたのにそんな約束するか!」

「ハッハッハ。わかってきたじゃないかユージ」


 こうしておけば、リサがシェリルからの被害に合う事はない。裕二が約束を破る時までに、別の手段でリサを守れる様に考えておけば良い。



 一方、こちらは二年魔法科女子寮の一室。そこでシェリルはニヤニヤしながら色々と考えを巡らせていた。


「やっぱりそう言う事ね。ユージがあそこまでバカだったとは。あんな女の為に……ふふ」


 シェリルは全てうまくいったと思っているのだろうか。それとも何か別の考えがあるのか。今の段階でそれは、シェリルにしかわからない。


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