5 戦闘特化型タルパ
裕二は昨日の反省を踏まえ、新たな戦闘特化型タルパを作り始める。
今日は他の雑事はセバスチャン、アリー、チビドラに任せ、ひとり洞窟の外でイメージを作り集中する。
そのイメージは格闘ゲームに出てくる様な打撃、剣技を使う近接戦闘タイプ。
その体はサイボーグかと思う様な近未来的な全身鎧に身を包み、岩を軽々と砕く打撃と長めのダガーを優雅に振り回し敵を切り刻むイメージ。
寡黙でほとんど喋らず、僅かに鎧の隙間から目が見えるだけ。それはいち早く敵を察知する為だけのもの。
裕二はそんなイメージで数時間集中し続ける。鎧の模様や動いた時の金属音、どんな敵にも立ち向かう程の闘気を全身に纏う。
それを朝から始めてセバスチャンが鳥肉を焼き始めた頃、裕二は確かな手応えを感じ、閉じていた目を開く。
そこには太陽の光に美しく反射された、しなやか且つ近代的な二メートル近い鎧が身じろぎもせず、裕二の目の前に立っていた。
「できたー!! 強そうだな」
「うむ」
その声を聞いたアリーはチビドラの背に乗って飛んできた。
「ミャアアア!」
「できてるー!」
アリーはニコニコしながら新たなタルパの鎧をペタペタ触る。新たなタルパはそれを全く気にしていないようだ。
「名前つけよー!」
「そうだな、何がいい?」
「うーん、鎧マン」
それを聞いた新たなタルパは「むう」と、初めて嫌そうな態度を示す。その後もアリーのつける名前はことごとく気に入らないようだった。
「じゃあムサシにするか。それっぽいだろ?」
「うむ」
というワケで新たなタルパは『ムサシ』という名前になった。そしてもうひとつわかった事は、ムサシはほとんど喋らない。これはイメージ通りだが意思表示は一応する。それは『うむ』の場合はイエス。『むう』の場合はノー、という事だ。
「裕二様。昼食の支度が出来ました」
昼食はいつも同じだが、最近は塩スープに野草を入れた物が増えた。タルパ達のお陰でもう飢える危険性はないだろう。
「裕二。ムサシ連れて森いくのー?」
アリーは早速ムサシの強さを見たかったのだろう。期待を込めて裕二に聞いてみた。しかし裕二の返事はアリーの予想と違っていた。
「いやまだだ」
「何でー?」
ムサシは裕二のイメージ通り出来た。その攻撃は近未来的なサイボーグ風の鎧により、ある程度防御を無視しての攻撃、そして高速な近接戦闘を想定している。
「つよそー!」
「だろ。でも攻撃の主力がムサシだけだと、こないだみたいな群れは厳しいからな」
「なるほどー」
「なのでもう一体作る!」
裕二は先頭で戦うムサシ、それと後衛から遠距離攻撃出来るタルパを最初から考えていた。
「すごいー!」
「ミャアアア!」
「素晴らしいアイデア。さすが裕二様」
というワケで森に入るのは、もう一体のタルパを作ってからになった。
◇
昼食後、再び裕二はひとりになりイメージを固め始める。しかし、そのイメージは今までのタルパとは大きく掛け離れたものになる。
裕二のイメージはスケルトンエイリアンだ。と言っても、それだけではわかりにくいが、基本は禍々しい強さをイメージしている。見た目の威圧感重視だ。
後頭部が異常に伸びた骸骨。低く構えた二足歩行のスケルトン。人というよりは恐竜のようなフォルムで強力な尻尾を持つ。赤くメタリックな鎧に身を包み、長く強靭な爪で敵を切り裂く。
右肩にはガトリングガンを載せそれを自由に動かし、左肩にはグレネードランチャーを載せている。
足元は高速で動くキャタピラーでどんな場所でも移動可能。夜間行動も可能な様に目は強力なライトになっている。
「これが出来たらスゲー」
こんなタルパが本当に作れるのか疑問だが、既にムサシを作っている安心感もある。失敗しても何とかなるだろうと考え、裕二はもう一体のタルパを作り始めた。
禍々しく、機械的、悪魔的、無慈悲、映画に出てくるような宇宙のモンスター。
頭から足の先まで細かくイメージする。
裕二にだけ従う、強力な戦闘マシーン。
完璧に作り上げたイメージを更に完璧に。
鋼鉄のような骨の中に流れる青い体液、その油くさい匂いまで精密なイメージを作る。
辺りは既に暗くなり、アリー、チビドラ、セバスチャン、ムサシは遠巻きにその光景を見守る。
そして……
「出来た」
裕二の目の前には三メートル近いモンスターが立つ。その眼孔の奥は青白く光り、剥き出しの歯は鋭く尖っている。シルバーメタリックの輝きを持つ爪は、肉を骨ごと切り裂く事が容易に想像できる。
そして黒く艶のない、右肩のガトリングガン、左肩のグレネードランチャーは目の前の敵を全て粉砕するだろう。
「完璧だ」
裕二が感慨にひたりながら、そのモンスターを眺めているとアリーがすぐそばまで来ていた。
「顔こわー」
と、笑いながら言う。あまり怖がってなさそうだが。
「名前つけよー!」
「そうだな。スケルトンエイリアンだから、リアンで」
「可愛い名前!」
またまた安置な名前をつけた裕二だが、気になる事がひとつある。
見た感じ特に問題はなさそうだが、ガトリングガン、グレネードランチャーは撃てるのか、という事だ。
銃器に関して裕二は詳しい訳ではない。なので映画やゲームに登場する物を強くイメージした。もちろん内部構造や性能も詳しくは知らないので、それで作れるのか不安はあった。見た目だけ立派でも使えなければ意味がない。
「それだけ先に試そう。リアン、辺りを照らしてくれ」
リアンの目に強力な光りが灯り辺りを照らす。かなり広範囲に渡り照らせるようだ。
裕二は離れた場所にある岩を見つけリアンに命じる。
「リアン、あの岩を破壊しろ」
するとリアンは首とグレネードランチャーだけを岩に向け擲弾を発射させる。
その音は意外にも『ポンッ』とマヌケな音だが着弾した瞬間、岩は爆発し砕け散る。
「おお、凄い」
今度は別の岩でガトリングガンを使う。こちらは映画やゲームの様に『ウィーン』とモーターの様な音をたて、六つの砲身を回転させながら連射する。そして岩は瞬く間に穴だらけになった。とりあえずは成功だ。
不思議なのは大量の薬莢が発生するのだが、それは地面に落ちると消えていく。岩に当たったはずの弾丸も調べたがどこにもない。
「どういう事だろうな? アリーわかるか?」
「いらないからじゃない?」
「必要ないものは消えるって事か? どうなんだ、セバスチャン」
「はい、その通りでございます。私達は物質的に見える部分も体の一部、例えば私の着るこの服は脱いでも消えませんが、必要なくなった場合、それと私が霊体化した場合は消えます。ただ消えるのではなく、そのエネルギーは再び自身と再結合する為に霊体の一部として戻ってくるのです」
「そういう事か、じゃあリアンのガトリングガンとグレネードランチャーは無限に撃てるって事か」
「そのエネルギーが続く限りはそうなります」
だとするとかなり便利だ。細かい部分は霊体がうまくは補完しているのだろう。
しかしそうなると、生命ではない完全な機械。例えば自動車などはタルパとして作れるのかが気になる。
「そのへんどうなんだ、セバスチャン」
「生物と非生物の隔たりがございますので難しいでしょう。付喪神のような非生物に宿る霊体もございますが、それはタルパとは根本から違うのではないかと思われます」
タルパは無から作り出す霊体、付喪神は霊体が後から物質に取り憑いたもの。しかも神とついている。霊体としての質が違うのだろう。
生命が生まれ瞬間に霊体も存在するが、物質が生まれた瞬間に霊体は存在しない。となると物質の霊体は元々存在しない物とも考えられる。無から物質の霊体のみを作るのは難しそうだ。
「順序の問題もありそうだな。とりあえず作る予定はないからいいけど」
「リアンはギリギリ生物なんだねー」
「そうなるな」
こうして二体の戦闘特化型タルパ、ムサシとリアンが仲間に加わった。
戦闘特化型なので普段は見えない状態で待機。敵が現れるか命令しないと出てこない。
ちなみにセバスチャンは出てくる頻度は多いが、用がない場合は消えている。異次元ポケットはセバスチャンが消えてる場合でも使える。
アリーとチビドラは普段は霊体化の状態で、裕二の近くにプカプカ浮いている。
アリーが元の小さいサイズでチビドラに乗って遊んでいるのだ。
「明日はオオカミをやっつけに行こう」
「いこー!」
「ミャアアア!」
◇
翌日、裕二は小川を下りながら歩く。
以前オオカミと出くわしたポイントを越えると川幅が増してきた。おそらく対岸まで十メートル位はあるだろう。薪や木の実も集めながら先へ進む。
持ってきた鳥肉で早めに昼食を終えた頃、以前と同じような嫌な感覚を覚える。危険な生物が近づいてきた合図だ。
「ムサシ、リアン」
二体のタルパを実体化で待機させ、裕二はその嫌な感覚の先を凝視する。
すると森の木々の間からオオカミが現れた。
一応簡単な作戦は考えてある。オオカミが来たら、リアンがグレネードランチャーとガトリングガンで先制し、取りこぼしたオオカミをムサシが倒す。
オオカミが数体、森から出てくると、そのうちのこちらに気づいた一体が走り出す。それにつられ他のオオカミもこちらへ向かってくる。
戦闘スタートだ。
「リアン行け!」
オオカミの群れは八体。ブイ字型に広がって走ってくる。
その先頭に最初のグレネードランチャーが撃ち込まれた。
――ポンッ!ポンッ!ポンッ!
三発の擲弾に全てのオオカミが吹き飛ぶ。続けてリアンのガトリングガンが音をたてて回転すると、僅かに動いていたオオカミが着弾に合わせ痙攣するかの様に動く。それは既に生きた者の動きではなく、リアンの圧倒的な攻撃の余波によるものだ。
結果は圧勝。ムサシの出番はなかった。
「リアンつよいー!」
「ミャアアア!」
「一瞬だったな」
リアンとムサシが消えると、代わりにセバスチャンが現れる。
「オオカミを見てみましょう。毛皮や肉が使えるかも知れません」
セバスチャンに言われオオカミを近くで見てみる。
「良く見ると角あるんだ」
「鬼みたーい」
「ミャアアア」
オオカミは頭に一本の短い角が生えている。地球のオオカミでこのような種類はいないだろう。ここが異世界だと言う事を改めて感じさせる。
セバスチャンがオオカミを木に吊るし解体を始めた。オオカミの毛皮があれば、ベッドや敷物に使えるだろう。しかし解体の様子を見ていると肉は少ない。食肉用の家畜ではないので、これが普通なのかもしれない。
セバスチャンは食べやすそうなオオカミのモモ肉を数本持ってきた。
「アリー。私は解体を続けるのでこれを焼いて裕二様に差し上げて下さい」
「わかったー!」
焼きあがったオオカミのモモ肉は赤身の多い牛肉のような感じだ。少し硬いが充分食べられる。
セバスチャンは食べられそうな部分と毛皮を異次元ポケットにいれると、自分の仕事は終わったとばかりに、裕二に深く頭を下げながら消える。
裕二は立ち上がり再び川沿いを歩き出す。
「今度はムサシだな」