49 誤報
野外演習を大きな問題もなく終えた翌日、裕二はアミルに聞いたアンドラークやサレムという国が気になり、それを調べる為、図書館へと向かった。だが――
「その前にミーの様子を見てくるか」
と、先にそちらへ寄る事にする。
裕二がミーのいる場所へ近づくと、草むらからミーがひょこっと顔を出す。
「いたー!」
「ミャアアア!」
裕二より先にアリーとチビドラがミーに飛びかかる。
「ミー!」
「きゃあああ!」
「ミャアアア!」
アリーはミーをモフモフ、ミーはチビドラをキックアンドキック、そしてチビドラはミーのなすがママだ。
その間にセバスチャンが餌を用意し、裕二が皿を拭いてそこにのせる。
「おーい、餌だぞ」
ミーはアリーとチビドラをキックアンドターンで皿まっしぐらだ。
「ミー!」
ミーは元気いっぱい、健康そのものといった感じだ。やんちゃざかりで何をしててもかわいい。
精霊視で見ると相変わらず精霊を纏っているようだが、特に問題もなさそうだ。
「やっぱりエリネアがやってるんだろうな。防御系の精霊魔法だと思うが」
「どんな魔法か聞いてみては如何でしょうか」
「うーん。聞くタイミングがあれば良いけど……」
ミーの事は秘密にしておきたいのでクラスでは話したくない。しかしそうなるとエリネアとはなかなか会わない。
タイミングとしては、演習場で偶然会うか、ここで偶然会うかだろう。
と、考えていると、餌を食べ終えたミーが、しゃがんでいる裕二の膝をミーミー言いながらよじ登ってくる。もっと餌を寄こせと言う事だろうか。裕二はニヤケながらミーのしたいようにさせる。
「ミー!」
「うは! お前かわいすぎるだろ」
その時、セバスチャンが地面に落ちてる何かを見つける。
「何でしょう……餌ですかね?」
裕二はセバスチャンから、その何かを受けとりじっくりと見てみた。丸くて茶色く固いそれは見た事あるような気がする。いや、知っている。裕二はこれを知っているのだ。
「これは……カリカリ!」
裕二が元の世界にいた時。ネコの餌として代表的な存在だったドライキャットフード。またの名をカリカリ。それと似た物がここに落ちていた。
「匂いもカリカリっぽいな。魚っぽいというか」
「エリネア様が持ってきたのでしょうか?」
「そうか! エリネアなら専用の餌とか持ってそうだよな。ミーも元気だし大丈夫だろ」
「ミー!」
ミーは裕二の持つカリカリを欲しそうにしているのであげてみた。大喜びで食べてるので問題はないだろう。
そして、ひとしきりミーと遊んだ裕二は、後ろ髪を引かれる思いで図書館へ向かった。
◇
「セバスチャンは地図を写してくれ」
「畏まりました」
図書館に着いた裕二は、セバスチャンと手分けして色々と調べる事にした。
今のところ予定はないが、いつでも他国に行ける準備はしておきたい。
裕二がこの世界に来た時、地理がわからないので森から出て人里へ行くのにかなり時間がかかった。偶然グラスコード侯爵が通らなければ、街に辿り着くのはもっと遅かっただろう。裕二にとって、ある程度の地理は知っておきたい知識だ。
いつものように裕二が本を読み様々な事を調べ、セバスチャンが色々と書き写す。そしてアリーとチビドラは自分達の読みたい本をセバスチャンにめくってもらい読む。
アミルの言っていたサレム王国はペルメニアの南西、アンドラーク王国が北西にある。どちらもペルメニアと比べると小国だ。ペルメニアの周りにはこの様な小国が幾つか存在し、その成り立ちは様々だ。
ペルメニアが国となった時に統合されなかった小国が多いが、後から作られた国もある。多くは人間を主体とした国家だが、それ以外の国も存在する。例えばバチルの出身国はペルメニアの南東、マスカネラと言う国になり、獣人主体の国だ。ペルメニアから離れた北の寒冷地にはエルファスと言うエルフの国がある。
人間以外の種族は、その生活環境、習慣、などの違いが大きく、同じ国で暮らす事はあまりない。例えば地底に穴を掘って暮らすドワーフと人間では、住環境が全く違うので同じ場所では暮らさないのも当然の事だ。獣人の国は人間と生活環境が近く、隣国として存在する。と言った感じだ。
基本的に全ての国の敵はモンスター及び魔人となり、国同士での争いは少なく、それが様々な種族、国家の共通認識となっている。そこには当然、モンスターに割くべき軍備を他国に向けてはいられないと言う事情もある。だが、不穏な動きをする国家、団体がないと言う訳ではない。
サレムとアンドラークはヴィシェルへイムと言う広大な森に隣接しており、そのヴィシェルへイムがバイツの言っていた強力なモンスターの棲息する、谷も含めた巨大な森になる。だが、その接地面積はサレムの方が大きく、その分モンスターからの被害も多い。
小国故の軍備の小ささから冒険者に頼る部分は大きく、主にアンドラークは中級冒険者、サレムは上級冒険者が多くなる。
どちらの国にもクリシュナード正教会の支部があり、ペルメニアとの連携をとっており、有事の際には連合する事になっている。
有事の際と言うのは、もちろん魔人が現れた時だ。
――なるほど、だいたいわかった。
――仮に冒険者として活動するなら、アンドラークが良さそうですね。
――そうだな。ヴィシェルへイムの森と言うのも気になるな。
裕二にとっては憧れの職業である冒険者。本当は大変なのかもしれないが、自由気ままで様々な場所に行き自分の腕で稼ぐ。現代日本から来た者なら、多少は共感出来るのではないだろうか。
今の裕二は一応貴族になる。だが、悪くはないがあまり良い生活とは感じていない。グロッグやシェリルのような兄妹がいなければ、また違う考えになるかもしれないが。
裕二は漠然とだが、いずれは独り立ちしたい。自由気ままに暮らしたいとも考えている。その為に一度は冒険者をやってみたいと思っている。だが、それをする為にはクリアしなければならない事が色々あるだろう。
――グラスコード侯爵は納得しないだろな……
――裕二様の人生ですので納得してもらうしかありません。そもそも裕二様はグラスコード侯爵の命を救ってるのです。学院に通わせてもらってる事は、その対価と考えれば彼に引き止める権利はないはずです。
――まあ、そうなんだけど。
裕二としてはグラスコード侯爵の命を救ったと言っても、それまで毎日のようにやってたワイルドウルフ討伐、しかも数秒の出来事だ。裕二にとって造作もない事なので恩着せがましく思ってはいない。それに対してグラスコード侯爵はチェスカーバレン学院に通う数年分の学費、生活費を払ってくれている。今の裕二には簡単に出来る事ではない。
――それこそグラスコード侯爵には簡単な事ではないですか? お互いが相手の為に自分の出来る事をした。それだけです。多少の恩は返してもグラスコード家に縛られる必要はありません。
――そうだー! バカ兄妹の嫌がらせもあるしー!
――ミャアアア!
――そうかもな……
問題はいつ頃までにそれを決め実行するか、だろう。
◇
翌日。朝の教室では裕二、テリー、リサが集まり楽しく雑談するのが恒例のようになっている。他の生徒はそれに関心はあるが見ない振りと言った感じだ。そしてシェリルはそれについて快く思ってはいない。
この日は授業が始まりしばらく経つと、窓からパローが飛んできて裕二とテリーの近くにとまる。自警団の召集命令だろう。
「ユージ、テリオス、ショウシュウダヨー」
「何か呼び出し方も雑になってきたな」
「後でダドリーに言っとくか。行くぞユージ」
裕二とテリーは授業を抜け自警団詰め所へと向かう。
ちなみにこう言う場合は授業は免除になる。選ばれる団員も授業がない、或いは授業を受ける必要性が低い者が選ばれる。裕二とテリーは成績優秀者なので特に問題はない。
二人の去った教室はすぐに通常通りの授業に戻る。
そして授業が終わり僅かな休憩時間。リサは次の授業の準備をしていた。そこへ背後からリサに近づく者がいる。
「ちょっとあなた」
「はい?」
振り返ったリサの前にはシェリルだ。その目は憎々しげにリサを睨みつけている。
「朝っぱらから男を二人も侍らせて、良い身分よねえ」
シェリルは今朝の三人の雑談の事を言っているのだ。裕二はともかくテリーとリサが親しげに話しているのは許せない。そう言う事なのだろう。
「そんな……私は――」
「大した女でもないくせに偉そうにしちゃって。しかもテリーまで巻き込むなんて」
「……」
◇
一方の裕二とテリーは……
「はあ? 見間違いだと?」
裕二は顔をしかめてそう言う。続けてテリーが説明する。
「大型のドギーだな。人懐こい動物だが見た目がワイルドウルフに似ている」
二人はスペンドラにワイルドウルフが侵入したので、討伐に向かうよう指示が出ていた。しかし、いざ現場につくとドギーという犬型の動物がウロウロしているだけだった。
「参ったなこりゃ」
「ハッハッハ、たまにはこう言う事もあるさ。せっかくだから茶でも飲んでから帰るか?」
「いや、一応授業中だしな。さっさと帰ろう」
テリーはあまり気にして無いようだが、裕二はガックリと力が抜けた。結局任務としてはすぐに終了し、二人は教室に戻る事にした。
詰め所に報告してから教室に行き、その扉を開ける。すると、なにやら雰囲気がおかしい。その原因はすぐにわかった。
「黙ってないで何か言いなさいよ。テリーに迷惑だと思わないの?」
「……テリーさんはそんな事――」
裕二とテリーはたまたまシェリルがリサに文句をつけてる現場に出くわした。それを見た裕二は即座にそこへ駆け寄る。
「お前何やってんだ!」
自警団の招集でいないと思っていた裕二が突然現れ、リサとシェリルは同時に驚き叫ぶ。
「「ユージ!」」




