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剣と魔法と七体の人工精霊  作者: ひろっさー
第一章 異世界転移と学院
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44 初出動


 今朝も裕二は演習場の森でリサとお喋りをして過ごしていた。ほぼ日課になりつつあるが、休みが終わればこの日課も出来なくなるだろう。その代わり、クラスで会えるのでそれ程困るという訳でもない。


「予告通り来たぞ、ユージ」


 そこへいつも通り余裕の笑顔を浮かべたテリーが現れる。


「お、来たか」


 裕二もそのうち来るだろうとは思っていたので、普通にテリーを迎える。だが、ふと、リサに目をやると、その表情はやや引きつっていた。テリーもそれに気づきリサに笑顔を向ける。


「リサ、君にぶつかって無視した事は謝るよ。本当に申し訳ない。ユージにも怒られたので勘弁してくれないか?」

「い、いえ。私は大丈夫です」


 リサも多少表情は強ばったままだが、しばらく話しているとそれも無くなってくる。テリーとも仲良くなれそうだ。裕二はそれを見て安心する。


 裕二が編入してきた時は周りが全て敵に思えるような状態だった。リサにはそうなって欲しくない。テリーが多少でも気を使ってくれれば裕二の時のようにはならないだろう。もちろん裕二もそうしようと決めている。


「ところでユージ。ミーってのはどこにいる?」

「別の場所だ。後で見せるよ」

「凄くかわいいですよ」


 と、森での集まりは楽しく過ぎてゆく。


 そんな状況に水をさすように空から何かがこちらへ近づいてきた。


「パローか」

「だな」


 派手な鳥が裕二とテリーの元へ降り立った。


「ユージ、グラスコード、テリオス、ジェントラー、ショウシュウ、メイレイ」


 パローは同じ言葉を二度繰り返すと、再び空へ飛んで行った。


「やれやれ、せっかく楽しんでたのに、嫌なタイミングで来るな」

「まあな。でも仕方ない。行くかテリー」


 リサも裕二から自警団の事は聞いていたので、今の状況を理解している。少し残念そうだが二人を笑顔で送り出す。


「気をつけて行ってきてね」


 裕二とテリーは身体強化をして自警団詰所へと急ぐ。


「ユージ、なかなか素直そうな良い娘じゃないか」

「ま、まあな」

「なに、赤くなってんだよ」

「うるさい! 赤くなってない!!」



 詰所へ到着するとそこにはダドリーと知らない者が数名いた。そのうちの何人かは裕二達とすれ違いに部屋から出て行き、ひとりだけダドリーと残る。他の者は先に現場へ向かったのだろう。ダドリーと比べるとやや小柄なその男は精悍な顔を崩し、ユージとテリーに無言で笑顔を向ける。二人の教育係のような立場だろうか。


「来たか。今回二人は初めての任務なので簡単なものからやってもらう。任務遂行と同時に自警団の細かいやり方を覚えてくれ」


 ダドリーがそう言うと、もうひとりの残った人物が話し出す。


「俺は三年魔法科のリジー・ストラッド。君達の事は聞いているので挨拶は省略する。今回の任務は、モンスター討伐だ。スペンドラ郊外でオーガグリズリーが四体現れた。そのうち二体は既に騎士団により倒されているが、残り二体は逃走中。その捜索と討伐の応援要請が騎士団より来ている。手に負えない場合は見張りを付け騎士団に報告だ」


 簡潔な説明に頷く二人。特に問題もなく詰所奥の部屋から武器を取り出し、リジーの指示で表へ出る。そして建物の脇へ向かうと、そこには厩があり、既に三頭の馬が用意されていた。


「ここの馬には首輪がある。この使い方を説明するので良く聞いてくれ」


 馬に装着された首輪は魔石を埋め込まれた魔法道具だ。首輪には馬を身体強化する術式が予め組み込まれている。そこに魔力を注ぎ込むと、馬は通常より高速且つ長距離を移動出来るようになる。


「ここに魔石が付いてるだろ? これが光るまで魔力を注いでくれ」


 指示通りに魔力を注ぐテリー。だが、裕二はそんな事はやった事がなく一瞬戸惑う。とりあえずテリーの見よう見まねでやってみた。すると魔石は触った瞬間に光り出す。同時に馬が首を振り、少し落ち着かない雰囲気を醸し出す。早く走らせろとでも言いたげだ。身体強化が出来てる、という事になるのか。しかし――


「あれ、おかしいな。誰か既にやってくれてたのか?」


 リジーはそれを見て首を傾げた。裕二もそう言う事なのかと思ったが、テリーがそれを否定する。


「コイツの魔力は半端な量じゃないからな。一瞬で首輪に魔力が注がれたんだろう。ユージ。お前の場合は逆に入れすぎないように注意しろ。首輪が壊れるからな」

「そ、そうなのか。なら俺のも頼んで良いか?」


 リジーは現場到着まで、なるべくなら魔力を温存したい。そして裕二が今行った魔力注入をもう一度見たいようで、素直にそんな言葉が出たようだ。しかし自分の仕事を新人に頼むこの態度は何となく頼りなさも感じてしまう。テリーもやや、顔をしかめた。


「え、ええ。構いませんよ」


 裕二はリジーに頼まれてもう一頭の馬の首輪に魔力を注ぐ。すると先程と同様に首輪の魔石がすぐに光り出す。


「おお、本当だ。噂には聞いてたがさすがだな」


 そして三人は馬に跨るのだが、ここで裕二はある事に気づいた。


 ――あ、俺、馬に乗ったことないんだった。ヤベー。どうするか……


 馬術訓練は一年の前半であったとは聞いている。だが、編入生の裕二はその授業を受けていなかった。初めて馬に乗って簡単に扱えるとは思えない。そう考えているとセバスチャンが霊体化で裕二の前に現れ声をかけた。


 ――裕二様。私が憑依致します。

 ――セバスチャン! 馬に乗れるのか?

 ――私は中世ヨーロッパ風執事なので問題ありません。乗馬はした事ありませんが嗜みとして乗れるはず。基本は白虎と同じです。

 ――どんな理屈だよ! まあいい。頼む。


「では出発だ!」


 リジーの号令で三人は馬で走り出した。そしてテリー、リジーは当たり前のように乗れているが、セバスチャンに身を預けた裕二も見た目は優雅に馬を操っている。内心はかなりヒヤヒヤしているが。


「上手いじゃないかユージ。もしかして乗れないかと思ったが」

「あ、ああ。何とかなりそうだ」

「ユージ、テリオス。スペンドラを出たら速度を上げるぞ」


 そして三人はスペンドラを出ると現場へ急いだ。


 馬は思いの外速く走り、僅かな時間で現場へと到着する。そこは討伐本部なのだろう。慌しく走り回っている者もいれば、ゆっくり休憩している者もいる。


「チェスカーバレン自警団、リジー・ストラッド、他二名、到着しました!」

「おう、ご苦労さん。そっちが期待の新人か」


 三人は騎士団と合流し、早速打ち合わせを行う。お互いの地図を突き合わせ逃げた二体のオーガグリズリーの範囲を確認する。裕二達の持ち場の近くには別の騎士グループもいるが、今のところ見つかったという報告はないので、裕二達が出くわす可能性は低くない。

 

「良し、行くか」


 再び馬に乗って走り出すと、すぐにひとけもなくなり、いつモンスターに遭遇してもおかしくない状況と言える。


 ――セバスチャン。感知能力で探した方が早いよな。

 ――そうですね。しかしどうやってテリー様とリジー様を誘導しますか?

 ――そうだな。感知能力の事は話せないし……


 と、セバスチャンと相談しているとテリーが声をかけてくる。


「おい、ユージ。お前以前森で暮らしてたんだから、気配とか探るの得意だろ」


 その言葉に反応したのは裕二ではなくリジーだ。


「そうなのか? ならユージが先導してみてくれ。俺はこういうの苦手でな。さっぱり見当がつかん」

「そうですね。わかりました」


 テリーのお陰で割とあっさりそう決まった。裕二としてはやりやすいが、リジーが何だか頼りない。そして裕二が感知能力を作動させると……


「向こうだ」


 裕二が指さす方向へ走り出すと、テリーとリジーもそれに従い馬を走らす。するとリジーでもわかるような獣臭が辺りに漂ってきた。


「良くわかるな。勘なのか? 魔法とは違うのか?」

「ああ、まあ匂いもありますかね」


 と、適当に返しておく。


「いた。あの黒い奴だろ」


 テリーがいち早くそれを見つけた。そこには二体の黒い熊のようなモンスターがいた。体長は三メートル程で頭に角が生え、四つん這いで移動している。だが、雰囲気はオーガグリズリーという名前ほどの凶悪さは感じない。裕二が以前森で暮らしていた時には、もっとデカい似たようなモンスターを何度も倒している。たぶんそれとは違う種類、おそらく下位のモンスターだろう。


「良し、さっさと仕留めるか」


 三人はオーガグリズリーにある程度近づいてから馬を降りる。向こうもそれに気づき警戒するが、すぐには襲ってこない。


 しかしこの時、裕二はそれ以外の何か別の気配を捉えた。


「まだ、何かいるな。気をつけろ」

「なに?! 二体じゃないのか?」


 リジーが裕二に聞き返す。テリーは無言で裕二の横に並び、裕二とテリーが前衛、リジーが後衛という配置が自然と作られる。


「ユージ。リジーを巻き込まず二人で速攻で片付ける。アイツには無理だ」


 テリーは裕二にだけ聞こえるように小声でそう言った。


「わかった……来るぞ!」


 すると、次の瞬間一体のオーガグリズリーが逃げだした。その直後、残された一体に更に大きな赤毛の熊のようなモンスターが襲いかかる。その大きさは約五メートル。そいつは突然現れオーガグリズリーを横殴りに吹き飛ばす。


『グオオオオ!』


「不味いな。レッドベアだ。援軍を呼んだ方が良い。あれは手に負えない」

「え?」

「はあ?」


 リジーは撤退を提案する。だが、裕二はあれが森で何度も倒した事のあるモンスターだとすぐに気づいた。リアンなら数秒、裕二でもムサシを憑依させれば同様に倒せる。はっきり言ってデカいだけだ。撤退など有り得ない。


「おいおい、冗談だろ? あの程度で逃げるのか? デカいだけののろまだぞ」


 そう言ったのはテリーだ。テリーもイライラしているのか挑発的な態度だが、裕二もあの程度のモンスターに撤退してたら正直先が思いやられると思っている。


「しかし、あれはかなり強いぞ。三人では――」

「ひとりでも充分だ。一応慎重にはやるが、俺とユージがいれば問題ない。その判断は他の団員の時にしてくれ」

「し、しかし……」

「あれは何度も倒した事があるので大丈夫ですよ。それに逃げるのは悪手です。逃げればたぶんアイツはコッチを追ってきます。そうなると本部の戦闘体制が整ってないと余計危険です。本部にそんな雰囲気はなかったですから、何の準備もなく戦闘になりますよ」


 さすがに裕二もそこまで騎士団がヤワだと思っていないが、倒せるのに撤退は避けたいので少し大袈裟に煽る。


「わ、わかった。だが、負傷者が出たら即撤退するぞ。それは譲れん」

「わかったよ。ユージ。俺が援護するか?」

「ああ、頼む」

「じゃあ、やるぞ」


 そうこうしている内に、レッドベアはオーガグリズリーを倒して、こちらに体の向きを変えてきた。その直後、ムサシを憑依させた裕二は地面を蹴って一直線に走り出す。


「正面は危険だ! やめろ!」

「んな訳ないだろ。お前はもう黙ってろ」


 裕二とレッドベアがぶつかる直前、裕二は鋭角的に進行方向を変える。するとその直後、テリーの火魔法がレッドベアの顔を襲う。レッドベアは悲鳴をあげながら顔の火を振り払う。その動きも止まった。


『グオオオオ!』


 裕二はその隙にレッドベアの背後に周り、背中を駆け上がり剣を突き刺す。だが、これではレッドベアは倒せない。同時に魔法ではなく、超能力の内部破壊を使う。

 そして内側から破壊されたレッドベアはその場に倒れる。裕二は念のため、心臓のある場所に剣を根本まで突き刺す。これは先程もそうだが、剣で倒したという印象をつけ超能力を隠す意味もある。


「す、凄い。ほんの数秒で……ここまで強いとは……」

「なに言ってんだ。本来なら援護も必要ない。お前がうるさいから慎重にやっただけだ。お前の考える戦闘レベルを押し付けられたら、俺達はやりにくくてしょうがない」


 言いにくい事をズケズケと言うテリーにリジーは反論出来ずに黙りこむ。二重にショックだろう。


「慎重さはいつ如何なる時も必要だ。だが、今使える戦力の正確な把握も同時に必要な事だ。それが出来なきゃ無駄な撤退をするだけだぞ。その間に被害が広まったらどうする」

「まあ、その辺にしとけよテリー」


 裕二も概ね同意だが、リジーがちょっと可哀想になってきた。テリーに怒られてかなりしょんぼりしている。


「お前自警団だろ! まだ一体逃げてるんだぞ! しょんぼりしてる暇があるのか!!」

「す、すいませんでした!」

「レッドベアとオーガグリズリー合計二体は討伐済み。オーガグリズリー一体は逃走中。この先には別の騎士団がいる。ならどうする」

「はっ! そちらで討伐される可能性が高いですので、一旦本部に報告を――」

「バカかお前は! こちらは余力がありオーガグリズリーは騎士団と会えば逃げる可能性がある。既に二度逃げてるんだぞ。なら退路をふさぐ必要があるだろ。挟み撃ちだ。行くぞ」

「はっ! 畏まりました!」


 ――何故か立場が逆転してる?


「参りましょうテリオス様」


 ――まあ、いいか。


 いつの間にかテリーは巧みに自分のやりやすい方向に持っていってしまった。リジーは完全にテリーの手下のようになっている。裕二としてはやりやすいので歓迎だ。あまり慎重過ぎてはやりにくすぎる。


「多少はやりやすくなったろ?」


 テリーはリジーに聞こえないように裕二に伝えた。


 三人は馬に乗り、再びオーガグリズリーを追おうとした時。本部の方向から騎士がひとりだけ馬に乗ってこちらへやって来る。


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