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剣と魔法と七体の人工精霊  作者: ひろっさー
第一章 異世界転移と学院
42/219

42 朝の演習場


「今日から休みか。どうしよう」


 裕二は朝起きてから悩み始める。一応普段通りに訓練を行うつもりだが、授業に出ない分の時間はあまる。スペンドラの街にはテリーと何度も行ったので、それ程行きたい訳でもない。隣街となると場所もわからず馬車で数日とかザラなので、そもそも行きたくない。


「うーん、演習場の森でものんびりと散策するか」


 普段良く行く演習場だが、そこは森に囲まれており、奥に行く事はあまりない。知らない場所もかなりあるだろう。裕二はとりあえずそう決めて部屋を出た。


「他の人は実家に帰ったりしてるんだろうな」


 裕二はかつての実家、元の世界の家を思い出す。何の変哲もない普通の家だったが、家族の事を思い出さないという訳でもない。だが、その家族に二度と会えないという事は、なるべく考えないようにしていた。


「はあ……」

「裕二ブルー?」

「ミャアアア?」

「いや、お前らがいるからな」


 裕二がそう言う事をあまり考えずに済むのは、タルパの存在が大きいだろう。特にアリーは元の世界からずっと一緒にいるのだ。ほとんど家族同然でもある。


 森に入ると空気も爽やかに変わり気分も上向いてくる。そして裕二の前にはチビドラに乗ったアリーが楽しそうにブンブン飛びまわる。


「人に見られないようにしろよ」

「わかったー!」

「ミャアアア!」


 ――そう言えば裕二様。エリネア様に教わった精霊視を試してみては如何でしょう。


「あ、それがあったか。セバスチャン、道具を出してくれ」


 裕二は更に森の奥へ進み、そこで一番大きな木を探す。その根本に土で台を作り、エリネアから貰った香を炊く。


 ――おお、すぐに集まりますね。


 セバスチャンは霊体化でそれを見ている。アリーとチビドラもそれを聞き霊体化する。


 ――おお、きれー!

 ――ミャアアア!


「そうなのか? 俺には見えないな」


 裕二はエリネアに聞いたスイッチングという方法を試す。スイッチングは自分で何でも良いのでスイッチを作る。例えば瞬きとか指を鳴らすとかだ。それをスイッチに視界を切り替える方法になる。だが――


「見えないぞ?」


 ――おそらくテリー様の言っていた、感覚頼みという部分が強いのでしょう。それさえ分かれば後は容易いかと思われます。スイッチングにこだわる必要はなさそうです。


「そうなのか」


 見えているセバスチャンにそう言われると説得力はあるが、その感覚とやらが難しいのだ。そんな風に考えているとアリーとチビドラが人の気配を察知する。


 ――誰かくるよー!

 ――ミャアアア!


 裕二もすぐに気配を察知し、そちらを見る。間もなく草木をガサガサとかき分ける音が聞こえ、その間からメガネをかけた少女が顔を出す。


「あっ! ユ、ユージさん……ですよね?」


 そこに現れたのはリサ・スクワイアだ。突然の対面にリサもユージも驚いている。実の所、ほぼ初対面の女の子に、裕二はどう対応して良いのかわからない。しかもリサは裕二の好みのタイプの女性でもあるので、より一層緊張してしまう。


「リサさんだよね……えっと……何してるの?」


 裕二はかなり焦っているが、とりあえず無難に話しかけられた。だが、この後話しが続けられるのか。裕二はそれが気がかりだ。


「え、あの……私この近くで訓練してて……精霊の気配がしたので……ユージさんが集めてたんですね」

「う、うん。まあ」


 ――違う! うん。まあ。じゃねえ! それでは話しが終わってしまうじゃないか!


「もしかして精霊視の訓練……では?」


 ――助かった! それだ! 精霊視!


「そ、そうなんだ。今始めたばかりなんだけどね。まだ全然見えないよ」

「そうなんですか。精霊視なら私でも何か教えてあげられるかもしれません」

「え? 本当に?」


 精霊視という共通の話題で何とか話しを続けられそうだ。ここまでくれば何とかなるだろう。裕二はそう確信した。そう思う事で次第にぎこちなさも取れてくる。そしてリサの方も、優しげな口調がより滑らかに自然になってきた。


「私なんかがユージさんに教えるのは、おこがましいですけど……」

「そんな事ないよ! 何にも見えないし。アドバイスしてもらって良いかな?」

「私で良ければ」


 ――良し!


 何が良し! なのかはわからない。


「これは精霊の踊り場ですね。凄い数……たぶんユージさんならそれ程難しくありませんよ」


 気がつくとリサは裕二のすぐ隣にいる。そしてリサの視線は精霊の踊り場に向かっている。その横顔を裕二が間近に見ている。


 ――近い!


「いいですか?」

「う、うん」


 リサはそう言って裕二の顔に手を近づける。その手は目を覆い何も見えなくなった。


 ――やわらか!


「暗闇の状態でも様々な色の光が僅かに見えてませんか?」

「ん? ……確かに」


 明るい場所で目を閉じると、その明るさが網膜に残り様々な光として見える。今はその状態だ。


「それが精霊だと思って動かして下さい」


 裕二はその通りに光を動かしてみる。目を動かせば光も動く。何となく出来てるような気もする。という感じだ。そしてリサは実際の精霊の方を見ている。


「あ、動いてますね。じゃあ私が手を離したら目を開けて、その光と精霊を重ねる様に意識して下さい。いいですか?」

「うん、わかった」

「では離します」


 リサが手を離すと同時に裕二は目を開ける。先程の光がまだ見えており、それに集中する。


「お? おお、おー!」


 そこから光が繋がり一気に広がった。

 赤、緑、青、黄色、様々な色の光が精霊の踊り場の上をゆらゆらと漂っている。その光は見てる間に更に広がる。


「こんなにいるのか? これ全部精霊?」

「そうですよ、うふふ」


 裕二の驚く顔を見て、リサは嬉しそうに顔をほころばす。


「やっぱりユージさんは凄いですね。私は精霊視だけで、ひと月以上かかったのに」


 裕二は目の前の光景に圧倒されると同時に、エリネアに言われた事を思い出した。それは図書館で裕二が精霊を集めた、のではなく作った時の事だ。エリネアはそれを見て尋常じゃない数、と言っていた。


「えっ…………これは」


 裕二とリサの視界に地面からどんどん湧き出してくる精霊が見える。それが裕二の周りに群らがりだした。その幻想的な光景に、普段精霊を見なれたリサも呆気に取られていた。


「凄い……こんなの初めて……はっ! これ以上は危険です。ユージさん止めて下さい!」

「え?! あ、そうか」


 裕二は精霊を止めて、集まった精霊も散らすよう念じた。すると精霊は離れて行ったり、その場に溶けるように消えたりして数を減らして行く。


「大丈夫ですかユージさん! 気分悪くないですか?」

「え? 大丈夫だけど」

「良かったあ」


 リサはホッと胸をなでおろす。魔力の使いすぎを危惧していたのだろう。裕二自身は何ともないが、リサがそう考えていた事はすぐに理解した。精霊はほとんど散ってしまったが、まだその辺に少しだけ残っている。


「これ視界を元に戻すのどうするの?」

「うふふ、意識して瞬きすれば簡単に消えますよ」


 裕二は早速言われた通りにやってみる。


「あ、本当だ。簡単なんだな」

「本当にできたんですか?!」

「うん、なんで?」

「普通は元に戻すのも簡単ではないんですよ。慣れるのに時間がかかるんです。ユージさんなら簡単と言って暗示をかければ出来ちゃうかなーと思って言ってみたんですけど」

「そうなんだ。お陰で出来たみたいだ。ありがとう」

「凄すぎてちょっと呆れちゃいますね。うふふ」


 リサはそう言って笑うと裕二もつられて笑う。いつの間にか裕二とリサの間にあった緊張感はなくなり、二人の距離は大きく縮まった。


 その後二人は倒木に腰掛け様々な話しをする。試合の事、召喚魔法の事、お互いのクラスの事、話したい事はたくさんあった。もちろんその中には言えない事もあるが、それはどちらも深くは聞かない。お互い魔術師なのでそれはマナーのうちに入る。


「テリーはモテすぎるからな。いい奴なんだけどね」

「私テリーさんちょっと怖いです」

「え? なんで?」

「選抜メンバーの順位発表を見てた時、いきなり後ろからドンッてぶつかってきて、表情も変えずにそのまま行っちゃったんですよ」

「あ……ごめん。それ俺のせいだ」


 武闘大会の選抜メンバーが発表された時。リサもその場にいたようだ。テリーは後で見ようと言ったのを、裕二が今見たいと言った為、テリーが裕二を連れて人混みを体当たりしながら先頭まで出て結果を見た。リサはその体当たりの被害者だった。


「本当にごめん」

「いいですよ」


 リサは笑って答える。そしてその日から、裕二とリサは森で良く会うようになった。



「裕二機嫌いいー!」

「ミャアアア!」

「そうか? いつもと変わらないぞ」


 リサと話しを終え、その後訓練をし、寮に戻る。その頃には辺りは暗くなっている。


 裕二はいつもより機嫌が良いようだ。リサと仲良くなれた事が嬉しかったのだろう。浮かれているのか何故かいつもと違う道を通る。そこは昼間でもほとんど人通りのない道だ。使われていない建物や木々の鬱蒼とした場所もある。


 その時――


 ――ミャ!

 ――チビドラが何かいるって!

 ――なに? なんだ?


 裕二は感知能力を発動させる。どうやらその者は建物の影に隠れたようだ。


 ――この感覚……


「ミャアアア!」


 チビドラがその影に飛びかかった。何故か続いてアリーも飛びかかる。


「ミャアアア!」

「きゃー!」

「ミー!」


 チビドラとアリーは何を見たのか!


「裕二フカフカー!」

「は? フカフカ? テン、明かりつけてくれ」


 テンに照らされた建物の影でじゃれまわるチビドラ、アリー、そしてグレーのフワフワな体毛で覆われた、謎の子ネコみたいな生物がいる。大きさもチビドラ、アリーと同じくらいだ。


「なんだコレ?」


 謎ネコは一旦チビドラ、アリーから離れると、お尻フリフリして再び飛びかかって行った。


「きゃー!」

「ミャアアア!」


 アリーとチビドラは叫んではいるが超笑顔だ。謎ネコは寝転がり、チビドラを両手で掴み連続キックしている。


「かわいいな。ネコなのか?」


 裕二はその謎ネコをあっさり捕まえ顔の前に持ってくる。フカフカではあるが、随分痩せているようだ。親からはぐれてここで一匹で暮らしていたのかもしれない。


「お前名前は?」

「ミー!」

「ミーか」


 裕二がミーを放すと再びお尻フリフリチビドラとアリーに飛びかかる。完全に遊んでいる。チビドラとアリーは大喜びだ。


「セバスチャン。作り置きの肉があったよな」

「ミーが食べやすく切り分けますか?」

「そうだな」


 ミーは、肉を出すとそれを切り分けてるセバスチャンの膝に飛びかかる。


「ミー!」

「もう少しお待ちなさい」


 だが、暴れまくってたミーも、肉を目の前に出されると、それにかぶりつき動かなくなる。裕二とチビドラ、アリー、セバスチャンはそれをニコニコと眺めている。


「かわいいな」


 裕二はこの日、リサとミー、ひとりと一匹の友達が増えた。


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