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剣と魔法と七体の人工精霊  作者: ひろっさー
第一章 異世界転移と学院
40/219

40 テリーの兄


 武闘大会はテリーが優勝した。そして二位が裕二。同率三位がバイツとエリネアとなった。その結果に異を唱える者はいないが、ハイレベルすぎる試合に混乱する者は結構いたかもしれない。医務室のドルビーもそのひとりだ。


「おいバイツ。何でユージは倒れた? 俺にはテリオスがユージの首の付け根を軽く剣で撫でたようにしか見えなかったぞ」

「俺もだ。おそらく速すぎて見えなかったのかもしれん」

「マジか……あんな怪物二人に勝つのはそもそも無理なんじゃないか? 剣だけでアレなのに魔法も使うんだぞ」

「いや、次こそ奴らに勝つ!」

「そうなのか……お前のポジティブさが羨ましい」


 そんなバイツとドルビーを微笑ましくリサが見ている。が、一緒に試合を見ていたリサも、ドルビーと同意見だろう。ベストエイトとは言え、裕二とテリーは別格すぎる。


「あの試合を見て良く戦う気になりますね。私は絶対無理ですよ」


 リサはそう言いながら手を横に振る。だが、バイツはそう思っていないようだ。


「何を言っている。君は単独で召喚魔法を使えるではないか。魔力切れさえ起こさなければ、あの二人と対等に戦えるかもしれんぞ」

「いや待てバイツ! 俺達三人がかりならユージくらい倒せるかも」

「なるほど。ではエリネア姫も加わって頂こう」

「バチルも入れよう。それならユージを倒せる!」

「はあ……五対一ですけど」


 最早趣旨が変わっているが、意図的なのか無意識なのかひとりだけ名前が出てこない。


 そして会場の観客席。そこには今まで黙って全ての試合を見ていた二年生がいる。その二年生は苦々しげな表情で爪を噛みながら、裕二とテリーの去った誰もいない舞台を見つめていた。


 ――ユージがあんなに強いなんて……あれではマットの手下など勝てる訳がない。やはりあの裏家業の奴が言ってた事は本当だったんだ。くそっ! 力では奴に勝てない。あれでは高い金を払っても失敗する可能性が高い。テリーが一緒にいたら確実だ。どうすれば良いのか……


 そこには裕二の絶望的な強さを目の当たりにし、途方に暮れたグロッグがいた。

 裕二を何とか排除する為に何か弱点はないかと試合を見ていたが、そこには驚異的な強さの二人が戦っているだけで、何の弱点も見つけられなかった。おそらくグロッグが戦ったら瞬殺だろう。


 ――他の方法、何か他のやり方はないのか。



「さあユージ、テリー。好きなだけ食べてくれ」


 そこは以前訪れたのとは違う店だが、やはりVIPルームだ。ジェントラー侯爵がいるのだから当たり前なのかも知れないが、裕二は人生二度目のVIPルームにやや緊張しながらも、豪華な食事に手を伸ばす。


「スゲーな」

「ユージ、遠慮しないで食え。ジェントラーの財力ならお前が死ぬほど食っても問題ない」


 二人が食事に手をつけ始めると、ジェントラー侯爵はニコニコしながらそれを見つめている。


「いやあ、二人とも良い戦いだった」


 裕二は一瞬、試合でムサシを使った事に探りを入れられるかと思い緊張したが、それを聞かれる事はなかった。聞かれたとしても身体強化で通すだけだが。


「ユージとテリーはエキシビションには出場するのかな?」


 本日の試合は一年から三年まで。明日は四年から五年、その後エキシビションマッチが行われる。本選の後の試合なので出場者は少なく評価も一切関係ない。どちらかと言うと余興になる。


「エキシビション? そう言えばそんなのあったな」

「どうするユージ?」

「テリーはどうすんだ?」


 裕二は少し考えてから答える。


「面倒だな。テリーと戦ってもうネタないし」

「そうか。たぶんエリネアとバイツも棄権だろうな」


 バイツはベルセルクターミネイションの反動で暫く動けない。エリネアは裕二に負けたショックで引きこもっている、という噂だ。おそらく出て来ないだろう。


「ひとりは出ないとディクトレイ先生がうるさいぞ。一年Aクラス担任の面子もあるからな。ユージが出るなら俺は出ないが、ユージが出ないなら俺が出る」

「そうなのか?」

「まあお前は休んどけ。上級生で強いのはせいぜいバイツクラスだ。大したのはいない。一分で終わる」

「じゃあテリーに任せるよ」


 相変わらずの自信満々な態度だが、あの強さを見せられたばかりの裕二なら納得するしかない。テリーなら本当に一分で終わらすだろう。


「ところでユージ。その後グラスコード兄妹は何もしてこないかね?」


 ジェントラー侯爵の質問に裕二は一瞬戸惑う。グロッグが何者かを雇って攻撃してきた事を思い出したからだ。しかし裕二には終わった事だし、ジェントラー侯爵に何かして欲しい訳でもないので黙っておく。


「え、ええ。だいぶ大人しくなりました」

「何かあったらすぐ言えよユージ」

「ああ」


 三人は雑談を交え食事をし、気づくと二時間ほど経っていた。


「テリーそろそろ帰るか?」

「ああ、済まないがユージ。先に帰ってくれ。俺は親父と少し話しがある」

「わかった。じゃあ先行くぞ」


 裕二はジェントラー侯爵に丁寧にお礼を述べてから席を立つ。そしてVIPルームにはテリーとヴェルコート・ジェントラーの二人が残された。裕二が帰った事で室内の雰囲気は少し張り詰めたものに変わる。


「やはり裕二は話さないな。なら内密に進めるか。どうなってる、親父?」

「うむ、まずマットは拘束した。殺し屋の仲介はやはり奴だった」

「これだからチンピラは信用できん。相応の金を与えてやったのに。だが、殺す訳にもいかんな。あんなのでも切り札に使える」

「殺し屋のグループも全員捕まえた。なかなか口を割らなかったが、薬と魔法で吐かせた。目的はユージを殺さず、再起不能にする事」

「やはりグロッグか」

「奴は消した方が良いのではないか?」

「あんなクズでもユージの意に沿わない以上それは出来ない。そう言ったはずだ」

「しかしテリオス様!」

「テリオス様と言うな! お前はジェントラーの当主。俺はその養子。それを間違えるな」

「済まん、テリー」

「そうだ」



「だけどテリーの強さは異常だな。ムサシを凌駕してる事になるのか?」

「いえ、ムサシが憑依した場合と実体化では、その強さも異なりますので一概には言えません。裕二様が憑依を使った場合の熟練度もございます。実体化のムサシならテリー様でも難しいでしょう」

「まだ使いこなせてないって訳か」

「ですが確かに異常な強さですね」


 部屋に戻った裕二はテリーとの戦いについて、セバスチャンと話していた。


 試合全体を見れば魔法は何とか出来たし、ムサシを憑依してからはテリーを圧倒してきた。だが、最後にテリーが何か切り札を使い逆転された、という事になる。


 その事について、裕二はテリーに直接聞きたい気持ちもあるのだが、そうなるとこちらの事も話さなければならない。


「俺の能力については、いずれテリーには話そうと思ってる。テリーなら問題ないよな?」

「はい、テリー様は信用出来るお方です」

「テリーなら大丈夫だー!」

「ミャアアア!」


 武闘大会が終わると学院は長期の休みになる。その後裕二は進級して休み明けは二年生だ。進級とクラス分けは選抜の結果も考慮されるので、裕二は問題なく二年Aクラスとなるだろう。ベストエイトは間違いなくAクラスなので、リサ・スクワイアも来季はクラスメイトになるはずだ。


「明日テリーの試合見たらしばらく休みか」



「うー。昨日食いすぎたか」

「裕二ふんばれー!」

「ミャアアア!」

「アリー、チビドラ。トイレはひとりにして欲しいんだけど」

「ふんばれー!」

「ミャアアア!」


 翌日、裕二は適当に武闘大会の続きを見ていたが、途中から個室にこもる事になる。テリーとジェントラー侯爵の食事で食べすぎたようだ。


「良し! 完了」

「かんりょー!」

「ミャアアア!」


 裕二は個室から出ると、急いでテリーの元へ向かう。すると選手席にはテリーの後ろ姿が見えた。その隣には長い髪をオールバックにし、白いマントを装着した男がいて、テリーと話しをしている。


「お、ユージ長かったな」

「悪い、これから試合だろ?」

「いや、終わった」

「なに!」


 その会話を聞いている隣の男は、少しバツの悪そうな顔で頭を掻きながら苦笑いしている。人当たりの良さそうなその表情は、後ろから見たがっしりした体格の、如何にも騎士、と言ったイメージとは大きく異なる。


「コイツが対戦相手だ。一分かからなかったな」

「余計な事言うなテリー! ちゃんと紹介してくれ」


 男は不満気に口を尖らせるが、その口調からすると、以前からテリーとは知り合いのようだ。


「ユージ。コイツは騎士科で四年の優勝者、ダドリー・ジェントラー。一応俺の兄貴、ジェントラー家の次男だ」

「テリーの兄貴!? 似てな……くて当たり前か。よろしくお願いしますダドリーさん」


 テリーは王子様風美少年といった感じだが、ドリーはお笑いも出来るアイドル風と言った感じだ。どちらも整ってはいるが系統が違う。


「ドリーでいいよユージ。君に会えて光栄だ。テリーとユージの試合は素晴らしかったよ。テリーをあそこまで追い詰めるなんて。あと一歩だったのに惜しかった」


 ――テリーとドリー……まあいいか。


「実は前からユージと会わせてくれるよう頼んでたんだが、テリーがなかなか会わせてくれなくてね。昨日の食事も是非行きたかったが、テリーが教えてくれなかったんだ」

「は、はあ」

「そんな事はどうでもいい。ドリーはこんな風だが、それなりの実力者だ。そして来季の自警団団長でもある」

「自警団!」

「こんな風ってなんだよ!」


 テリーは相変わらず養子とは思えない態度のでかさを、兄弟にも発揮している。ドリーもそれを自然に受け入れているようで、特にぎくしゃくした雰囲気もない。傍から見れば仲の良い兄弟に見えるだろうが、テリーの態度のでかさ故に、どっちが兄かは聞かなければわからないだろう。


「ユージ。我が自警団は是非、ユージとテリーに所属してもらいたいと考えてる。予めテリーから聞いてるだろうけど、後ほど詳しい話しをしたいので、大会の閉会式が終わったら自警団の詰所に来てもらって良いかな?」

「ユージ。嫌なら断っても良いんだぞ」

「テリー、うるさい」


 以前テリーから聞いていた自警団。その来季から、つまり休み明け、進級してからの団長はテリーの兄、ダドリー・ジェントラーだった。

 自警団には正団員と予備団員があり、どちらも入団テストは厳しいという話しだ。しかし、自警団からスカウトされる場合、入団テストは免除される。裕二とテリーはスカウトになるので、入団する場合にテストはない。


 ――自警団か……話しだけでも聞いてみるか。


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