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剣と魔法と七体の人工精霊  作者: ひろっさー
第一章 異世界転移と学院
4/219

4 危機


 異世界の生活、というより山での生活は大変だが、タルパ達のお陰で少しずつ楽になってきた。

 アリーが薪を拾い、チビドラが鳥を捕まえ、セバスチャンが鳥を絞め焼く。特にセバスチャンは重たい物、量の多い物を軽々運んでくれるのでかなり楽になった。


 裕二はその間に別の物を作る。

 まずセバスチャンに大きな岩を小川の水源に運んでもらう。超能力で少しずつ形を整え大きな水がめを作り、水源から流れる水がそこに溜まる様にする。こうしておけば水の流れが少ない時でも水に困らないだろう。

 そしてもうひとつ、小川の途中に支流を作り池を掘る。

 これは容器を作った時の失敗作をスコップの代わりに使う。水深は三十センチ程だがかなり大変な作業だ。セバスチャンとふたりで何とか完成する。

 そこに大きめの石をたくさん集め、チビドラに焼いてもらう。それを池の中に入れると水がお湯になる。そしてお風呂の完成だ。


 裕二はそのへんに服を脱ぎ散らかしお湯に飛び込んだ。最初は少し熱く感じたがしばらくすると丁度良い湯加減になってきた。


「ふう、気持ちいい」


 眼下に雄大な景色のある露天風呂。けっこう贅沢かもしれない。山の斜面を背後に正面は広大な森。右側にはいくつかの山が連なっていて、その山頂付近は白く雪が積もっている。


 その景色をゆっくり眺めていると、今日は空気が澄んでるのか森の先が少し見える。

 どこまでも続いていると思われた森の先は平原になっていた。


「村とかは見えないな。でも平原に行けば人と会うかも」


 ある程度余裕が出来たら森を抜け平原に出てみよう。さすがにずっとこのままでは厳しいだろう。裕二はそう考えていた。


 洞窟の中は一番奥に大きさを揃えたタワシ植物をならべ、その上に森で取ってきた大きく厚い葉っぱを並べ、以前よりもくつろげるベッドを作った。

 鳥から毟った羽もベッドに使えるのではないかと思い集めているが、量は全く足りない。

 そのうち枕でも作れれば、と思い一応集めてはいる。


 ベッドの前には岩で作った椅子とテーブルがあり、最近はそこで食事をする。

 ただ、メニューは毎日同じだ。


 それともうひとつ。タワシ植物に火をつけるとなかなか燃えないが、一旦火がつくと毛はすぐに燃えるが、幹の部分は長時間燻り続ける事がわかった。

 炭の代わりになるのでこれで暖をとったりも出来る。残念ながら照明に出来る程明るくはないが。


 こうして裕二の生活も徐々に豊かになっていった。



「今日は魚を取りに行こう!」

「さかな!」


 以前見た山から森に流れる小川。その先は徐々に川幅が増し、更に下流に行けば食べれそうな魚もいるに違いない。

 裕二はそう思って準備をしていた。


 鳥の骨を鋭く加工し返しをつける。それを真っ直ぐな木の棒に繋げて銛を作った。

 おそらく銛で魚を突くのは難しいだろうが、やらなければ魚は永遠に取れない。


 今日は薪拾いと木の実採取も兼ね、全員で森に降りて今までより更に森の奥へと進む。


 森を小川沿いに進み以前きた場所を通過する。歩きながらアリーが薪を拾いそれがたまるとセバスチャンの異次元ポケットに入れる。木の実があればチビドラとアリーがもぎ取って集めセバスチャンに渡す。


 やがて川幅もかなり広くなってきたので川の様子を見てみる。


「裕二、魚いたー!」


 アリーの指さす辺りに二〜三十センチくらいの魚が群れている。


「いた! セバスチャン、銛!」

「畏まりました」


 セバスチャンから銛を受け取った裕二は、魚をじっくりと観察し、その中で一番大きな魚に狙いを定める。三十センチ程のその魚は尾ビレをゆっくり動かしその場に停滞していた。狙うには絶好のチャンスだ。

 裕二は集中し魚から目を離さずに銛を放つ。銛はシュッと音をたて魚目掛けて飛んでいく、が……


「外した……」


 魚は機敏な動きで逃げて行った。しかも一匹だけでなく群れごとだ。


「まあ最初から当たるワケないよな」


 と、気を取り直し再度挑戦する。


 魚を見つけては銛を突き逃げられ、また魚を見つけては銛を突く。だが、何度やっても魚には当たらない。


「難しい……セバスチャンやってみてよ」

「畏まりました」


 セバスチャンは異次元ポケットから複数作ってある銛を出し、魚を見つけるとそれに向かって銛を構える。その姿は執事だからだろうか、かなり優雅に見える。


「むん!」


 セバスチャンのかけ声で銛が水に突き刺さる。その風と水を切る時の音からして裕二とは違った。手応えのある音だ。

 水に突き刺ささった銛はそのまま生き物のように動き出す。何かに刺さった証拠だ。

 セバスチャンがそれを引き上げると、三十センチ以上はある鱒っぽい魚が銛に突き刺ささったまま体をくねらせ暴れている。


「やった! セバスチャン」


 早速アリーの集めた薪にチビドラが火をつけ、セバスチャンが魚を捌き串を通して焼く。

 皮に焦げ目がつき脂が滴り始めるとセバスチャンはそれを裕二に差し出す。


「お召しあがり下さい」


 裕二は魚の背中をがぶりと食いついた。味は白身で淡白だが、久々に食べる魚はものすごく美味しい。


「うめー! 塩があれば最高なんだけどなあ」

「少々お待ち下さい」


 セバスチャンは立ち上がり辺りを見回し何かを見つけて歩き出す。そして河原に落ちてる石を拾い上げ、様々な角度からじっくり観察する。そして平らでつるつるした岩にそれを置き、他の石で砕き始めた。それは白く半透明な岩石だ。


「あれ、洞窟の近くにもあったな。あれってもしかして……」


 セバスチャンは白い粉になった岩石を異次元ポケットから出した岩の皿に乗せ裕二に差し出す。


「ご所望の品でございます」


 裕二はそれを指にとり舐めてみると。


「塩だ!」


 白い半透明な岩石は岩塩だったのだ。


「こんな身近に塩があるとは思わなかった」


 その後、セバスチャンとアリーが魚を数匹銛で突き、塩焼きにして美味しくいただいた。

 そして、落ちている岩塩の綺麗で手頃な大きさの物を持ち帰るため、幾つかセバスチャンの異次元ポケットに入れた。


「余った魚は塩漬けにするか」

「しおづけー!」

「ミャアアア」

「畏まりました」


 と、全員で手分けして作業を始めようとした瞬間。裕二は嫌な気配を捉える。


「何だ?」


 裕二は嫌な気配の方向、川の下流をじっと見つめる。だが何もいない。しかしそれでも全員がそちらを凝視していると森から何か出て来た。


 それは体長二メートル程のオオカミの様な生物だ。しかも一体ではない。次々と森からオオカミが現れ、川を渡ろうとしている。


「ヤバい……」


 そう思った瞬間。一体のオオカミがこちらを向いて立ち止まる。それにつられ他のオオカミもこちらを見た。その数は六体。奴らが襲ってきたらマズい。


 今まで戦う事を想定してなかった裕二は、この事態に戸惑う。しかし――


「お下がり下さい裕二様」

「ミャアアア!」


 セバスチャンとチビドラが前に出た。

 そしてセバスチャンは予備の石斧を異次元ポケットから出す。


「セバスチャン、チビドラ頑張れー!」


 アリーがそう言った瞬間、先頭のオオカミがゆっくり走り出し、他のオオカミは広がりながらその後を追う。

 徐々にスピードを増しこちらに近づくオオカミ達があと数メートルの距離まで来た時、チビドラがファイアーブレスをオオカミに放つ。

 その炎に四体のオオカミが驚き慌てて退く。そして残った二体はセバスチャンに飛びかかった。


『グオオオオ!』


 セバスチャンは一体を頭を横殴りに蹴り飛ばし、もう一体に斧を使い、フルスイングで攻撃した。

 斧でやられたオオカミは肩口から血を流す。蹴られたオオカミはすぐに体制を立て直し、再びセバスチャンに飛びかかる。

 口を開けて飛びかかるオオカミに、セバスチャンはいつの間にか出した銛をその口目掛け突き放つ。

 口から刺さった銛は背中に突き抜けたので、かなりのダメージがあるはずだ。死んではいないが戦闘不能だろう。


 他の四体はチビドラのファイアーブレスに攻めあぐねているが、うまくそれを交わしているのでダメージはない。だが、隙あらば攻撃しようと、その様子を伺っている。


 斧でやられたオオカミは、血を流しながらも再びセバスチャンに襲いかかる。それを避けたセバスチャンはオオカミの腹に向けて銛を突き刺した。今度はかなりのダメージだ。そのオオカミは血を流しながら逃げだした。


 一体は戦闘不能、もう一体は逃亡。残り四体。

 微妙な距離を保つオオカミはファイアーブレスがあるので近づく事は出来ない。セバスチャンは大きめの石を拾い上げ、それを一体のオオカミの頭目掛けて思い切り投げた。


 ――ギャンッ!!


 そのオオカミが悲鳴をあげ逃げ出す。すると他のオオカミも後を追い逃げて行った。先に逃げたオオカミがリーダーだったのだろうか。戦闘不能のオオカミもいつの間にか遠くに逃げている。


 セバスチャンとチビドラの活躍で何とかオオカミを退ける事が出来た。


「ヤッター勝ったー!」

「危なかったなあ、セバスチャンとチビドラのお陰で助かったよ」

「ミャアアア」

「主を守るのは当然の事、裕二様にお怪我がなくて何よりです」


 どうにか難を逃れた裕二はまたオオカミが来たら嫌なので、荷物をセバスチャンに預けさっさと洞窟まで戻って行った。


「裕二危なかったねー」

「そうだな、あんなのいるとは思わなかった」


 それを聞いていたセバスチャンが静かに口を開いた。


「裕二様。今回はたまたま何とかなりましたが、私もチビドラも戦闘の為に生み出されたタルパではありません」

「そうだったな。戦わせて悪かったよ」


 裕二はそう言って少しうなだれた。セバスチャンとチビドラに嫌な事をさせたと思ったからだ。戦う為に生み出されたワケじゃないのに、裕二のせいで戦う事になってしまった。


「そういう意味ではありません。主の生命をお守りするのは私達の喜び。嫌だと思う事などありません。ですが力不足も同時に感じてしまうのです」

「……そうか、てことは」

「はい。森には更なる危険な生物がいると考えられます。それに対抗するには新たに戦闘特化型のタルパを作る事を進言致します」

「ミャアアア!」


 今回は運が良かっただけだ。たまたま武器になる物があった。たまたまチビドラが火を吐く事が出来た。たまたまセバスチャンの力が強かった。

 運が悪ければ裕二は死んでいたかもしれない。何故ならオオカミは逃げたが、一体も倒せなかった。それだけの攻撃力、ギリギリの攻撃力しかないという事だ。


「戦闘特化型タルパ……か」


 こうして裕二は新たなタルパ、それも戦闘に特化したタルパを作る事を決心した。


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