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剣と魔法と七体の人工精霊  作者: ひろっさー
第一章 異世界転移と学院
39/219

39 決勝

「おい、大丈夫かバイツ?」

「くっ、ああ平気だ」


 ここはチェスカーバレン学院の医務室。バイツはそこで治療を受けている。心配そうに声をかけたのは既に回復したドルビーだ。そしてもう一人。リサも心配そうにバイツを見つめる。医務室にいる生徒はこの三人だ。

 シェリルはさっさと回復して自分の席に戻り、エリネアは寮の部屋に帰ってしまった。


「バイツさん。このミラーで試合の様子が見れますよ」


 リサの示す場所には、学院の用意した遠隔地を見れるミラーがある。高価な割りにはいくつもの中継地点を挟まないと使えない不便な道具だが、見るだけの三人には関係ない話しだ。


「こんな物があるのか……決勝は是非見たかったので助かる」

「治療中なんだから楽な体勢で見ろよ」

「そうだな」



「やはりこの二人が残りましたね。院長先生」

「ふむ、興味深い戦いですな」


 貴賓席にいるジェントラー侯爵とリシュテイン。お互い色々知っている事もあるのだろうが、当たり障りのない言葉をかわす。


 ――ユージがその気になれば如何にテリオスと言えど勝つのは容易ではない。じゃが、テリオスも今までの試合で全てを出し切った訳ではなかろう。ユージがどこまで出すのか、テリオスはどこまで力を秘めてるのか。想像がつかんな。



「はあ、やっぱりテリーか」

「おいユージ! 先に俺を労えよ」

「ああ、すまん。決勝進出おめでとう」

「まあ、当然だがな」


 たった今試合を終えたテリーは、少しの休憩を挟んで、この後裕二との決勝戦を行う。だが、テリーは少しの疲れも見せず裕二に話しかけてくる。

 圧倒的な試合を見せられた裕二は、未だにテリーとどう戦うか悩んでいるが、テリーにそんな様子はない。


 ――そこが憎たらしいところだ。


 普通なら、悔いなく全力を出して戦う、と言いたいところだが、裕二は、隠しておかなければならない能力がメインなので、そう言う訳にも行かない。


 ――とりあえず、バイツやドルビーみたく力任せの攻撃はダメだろうな。


「ユージ・グラスコード、テリオス・ジェントラーは舞台へ」


 悩んでる間に呼び出しを受け、いよいよ試合が始まってしまう。テリーと裕二は返事をして舞台に上がる。


「ユージ。俺には勝てないだろうが、あっさり負けるなよ」

「うるせえ。見とけよ」

「期待してるぜ」


 そう言葉を交わし、二人は開始位置につく。審判がそれを確認すると大きく手を振り上げた。


「では決勝戦、開始!」


 試合開始と同時に鐘が鳴らされるが、それを上回る観客の声に鐘の音もかき消された。裕二対テリーの試合にそれだけ期待がかけられてるのだろう。


 裕二はすぐに身体強化をかける。テリーもおそらく、そうしているだろう。そして先手を打ったのは裕二だ。


「ライトニング!」


 まずは様子見で魔法を放つ。テリーはアースらしき装備はないが、この程度の魔法が効くとは思えない。裕二はこれをどのように防ぐのか見たかった。


「ロイヤルメタルガード」


 テリーは裕二より一瞬早く防御魔法を使った。それはエリネアのロイヤルアイスガードより上位の魔法。ロイヤルメタルガード。土魔法により作られた、六枚の鉄の盾がテリーを守る。

 そして、そのうちの一枚がテリーの真上に動き、裕二のライトニングを受け止めた。


「鉄の盾だとお!」


 本物の鉄の盾とは違い、魔力がと切れれば崩れてしまうが、その強度は本物と変わらない。あらゆる魔法、物理攻撃に対応出来る強力な防御魔法だ。


「行け」


 テリーの声と同時に全ての鉄の盾が裕二に向かって行く。エリネアの時よりも更に厳しい。


「エクスプロードフレイム!」


 裕二は接近する盾に魔法を放つ。愚直に向かってくるだけの盾に、魔法は簡単に当たり爆発するが――


「くそっ、効いてねえよ……」


 鉄の盾は壊れる様子はなく、そのままの勢いで裕二に攻撃を仕掛ける。


「ぐほっ!」


 単純攻撃ではあるが、次々襲いかかる盾の威力は高い。何か手を打たねばやられる。


 ――くそっ、やるか。


 裕二は盾に張り手をするように手を触れる。するとその盾は破裂して崩れ落ちる。それを繰返し全ての盾を破壊した。


「ん? 何だそれは」

「教えるかっつーの」


 裕二が使ったのはサイコキネシスだ。その効果は裕二の得意なスプーン曲げのようなメタルベンドから、破壊まで調整して使える。会場で見ている者は、テリーが攻撃として破壊したのか、裕二が防御で破壊したのか区別は難しい。正確にわかっているのは裕二とリシュテインくらいだろう。


「やるなユージ。じゃあこれはどうだ?」


 テリーがそう言いながら手を振り上げた、次の瞬間。裕二の体を音にならない音、風にならない風、それが強烈な衝撃となって通り抜ける。


「ぐはっ」


 裕二の内臓が思いきり揺さぶられ、強烈な乗り物酔いのような状態になり、地面に手をつく。即座に起き上がろうと思っても体が動かない。

 テリーがこの状態を放置するはずもなく、剣を抜き裕二に向かって走り出した。


 ――ムサシ!


 裕二は咄嗟にムサシを憑依させ、強制的に体を動かす。そしてテリーがこちらへ到達する前に後方へ飛び退き体勢を整えた。


「ほう」


 テリーはその様子に立ち止まり、剣を鞘に収める。そして何かを警戒するようにバックステップで距離を取った。


「効いてない訳ではないようだが……」


 ――裕二様。おそらく今のはソニックディストーション。次はお気をつけ下さい。

 ――わかった、セバスチャン。


 ソニックディストーションは、普通の防御なら突き抜けてしまう音波による魔法攻撃。殺傷能力は低いが相手を無力化するのには効果が高い。だが、同じ魔法が使えれば対策は難しくない。相手と同時に魔法を放てば音波は相殺される。


 テリーはニヤリと笑うと再び手を振り上げた。


 ――来ます!

 ――ああ、ソニックディストーション!


 舞台中央で見えない何かがぶつかり合う。


「さすがユージだな。すぐに対応できるとは」


 ――くそっ、ソニックディストーションは大ネタだったのにこんな使い方になるとは……

 ――裕二様、このまま魔法戦ではあちらが有利です。

 ――だな。一気にカタをつかるか。


 裕二は再度ソニックディストーションを放つ。テリーもそれに気付き対応する。


「さすがにそれは通じな――」


 テリーが言い終わる前に裕二は、自身の魔法の速度に追いつきそうな勢いで、その目前に迫っていた。裕二は既にムサシを憑依させている。


「くっ!」


 上段に構える裕二にテリーは咄嗟にブレードスライダーで防御。だが、裕二は途中で握りを変え突きに切り替えた。つまり線の攻撃から点の攻撃へ変えた。ブレードスライダーは超高圧縮とは言え空気である事に変わりはない。受ける面が小さい程不利になる。そこにムサシの力が加われば……


「不味い!」


 テリーは後ろに転げるように退避。そのままの勢いで起き上がり更にバックステップで距離を取る。しかしテリーが体勢を整える前に、裕二は再度テリーの目前に迫る。そして一瞬の猶予も与えず上段から斬りかかる。


 ――ガギイィィン。


 テリーは何とかロイヤルメタルガードを一枚出し、裕二の攻撃を防ぐ。だが、次の瞬間にはその盾も裕二のサイコキネシスに破壊される。テリーはその隙に剣を出し、次の攻撃を受け止めた。しかし裕二はバチルがやったように交差した剣を滑らせテリーの懐に入る。


「うっ!」


 裕二の肘がテリーの鳩尾に入る。このトーナメントで、初めてテリーが攻撃を受けた瞬間だ。



「す、凄い! テリオスが押されている。ユージがあそこまで強いとは……」

「バイツ! どうなってんだこりゃ。アイツら魔法科だろ? 何であんな事ができるんだ。あれは身体強化なのか?」


 医務室のバイツとドルビーは、裕二とテリーの対戦に目を奪われている。受けてるテリーも凄いが、ムサシを憑依させ、凄まじい動きになっている裕二。自分が対戦してあれに勝てるだろうか。それについて考えていた。


「凄いですユージさん。あんなに強いなんて」


 リサは難しい顔をして試合を見ている二人とは対照的に、嬉しそうに試合を見ていた。入学当初から圧倒的な力と態度のデカさで有名なテリーを、編入生でありながらそれに追い付き、更に今、追い詰めようとしている裕二に、リサは憧れに近い感情を抱いていた。



 何とか距離を取り、体勢を立て直したいテリーに、裕二は一切の隙も与えずムサシの高速攻撃を繰り出してくる。テリーはそれを何とか防いでいるが、ジリジリと舞台の境界線に追い詰められて行く。


 ――これがユージの力……確かに凄いが――まだユージには勝たせない!


 その瞬間、テリーの雰囲気が変わる。それに気づいたのは裕二だけだろう。無駄な動きを一切感じさせず、裕二の攻撃を受け止めた。


 ――テリーは何をした? 明らかにさっきまでと違う。


 裕二はテリーのその変化にぞくりとするものを感じる。それは裕二がこの世界にきたばかりの頃。森でモンスターと初めて対峙した感覚と似ている。


 ――危険だ!


 そう感じた次の瞬間。裕二は何故か空を見ていた。目の前にはテリーがいたはずだ。しかし裕二の目に写るのは青い空と白い雲だけ。その雲がゆっくりと動いている。


「勝者、テリオス・ジェントラー!」

「え?!」


 仰向けに倒れている裕二にテリーが上から覗き込む。


「大丈夫か? ユージ」

「あれ? 俺負けたのか?」

「そうだ」

「……そうか」


 裕二は多少混乱していたが、自分が負けた事を知るとそれ以上考えるのは面倒になった。


「まあ……仕方ないか」

「そうだな」


 テリーはいつもと変わらぬ笑顔で裕二に手を差し出す。裕二はテリーの手を取り起き上がった。


「腹へったなテリー」

「飯でも食いに行くか? でも親父も連れていかないと拗ねるかもな」

「ああ、そっか、約束してたな」


 二人はそんな話しをしながら舞台を降りていった。


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