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剣と魔法と七体の人工精霊  作者: ひろっさー
第一章 異世界転移と学院
38/219

38 失伝


「あれは強力な精霊魔法、ダイヤモンドダストバーストじゃな。あのキラキラに触れると破裂する。それが広範囲にあって対象者に迫る。強力な結界を使えば多少は防げるが全ては無理じゃ」


 リシュテインはエリネアの魔法について詳しく説明をする。ユージを応援している感じのジェントラー侯爵は、何故かそれを嬉しそうに聞いていた。


「エリネア殿下がここまでやるとは。やはりトラヴィスの血は強いですね。ユージがこれをどのように切り抜けるのか楽しみです」

「ほう、ユージがあれを切り抜けるのが当然といった口振りですな」

「え、いや、そう言う訳ではありませんよ」


 少し焦りぎみのジェントラー侯爵を、リシュテインは目を細めて訝しげに見つめる。

 


 舞台上ではエリネアのダイヤモンドダストバーストが、じわじわと裕二を追い詰める。誰がどう見ても逃げ場はない。


 ――これに対抗出来るのは多人数で行う、インフェルノの様な広範囲灼熱魔法くらいしかない。それには難解な術式の精霊魔法と膨大な魔力が必要。しかもそれを大会用に調整しなければならない。ユージがいくら凄くても、そこまでは出来ないはず。


 エリネアはダイヤモンドダストバーストに絶対的な自信を持っていた。もしこれが防がれたら、裕二には勝ちようがないくらいに。


 そして裕二の周りに展開された、エリネアのロイヤルアイスガードは、ダイヤモンドダストバーストに侵食されるように、無数の小さい破裂の連鎖で崩壊して行く。このまま行けば裕二は大ダメージを負い倒れるだろう。


 だが――



 ――チビドラ、やれるか?

 ――ミャアアアア!

 ――任せろってさー。


 チビドラは裕二に憑依すると、全方向に向けてファイアブレスを放つ。


「ミャアアアア!!」


 それは裕二とエリネア以外の舞台の全てに広がる。放たれた炎は堤防が決壊するような勢いで炎の濁流がダイヤモンドダストバーストを包み込む。そしてアチコチで破裂が起こる。美しい氷のきらめきが地獄の業火に焼き尽くされるようだ。


 そして全てが終わるとチビドラの炎も消え、もとの闘技舞台へと戻る。エリネアのダイヤモンドダストバーストは完全に消え去った。


「そんな……」


 ダイヤモンドダストバーストを防がれ、呆然とするエリネア。だが、まだ勝負はついていない。ひとつの魔法が防がれただけだ。


 ――どうすれば……はっ!


 エリネアが呆然としている隙に、裕二はエリネアに突進してくる。その前に防御しなければならないが、混乱したエリネアは一瞬戸惑ってしまった。


 ――まだ間に合う。この距離なら!


 エリネアはロイヤルアイスガードを発動させようとした。裕二との距離を考えればギリギリ間に合うはず。


 そう思った直後。エリネアは何かにぶつかりその勢いで弾き飛ばされた。


「うっ!」


 エリネアは弾き飛ばされた刹那の瞬間、裕二を見て何が起きたのか理解した。


 ――やられた。これはファントムプログレス。さっき裕二が見せたのはイメージを固定化させる為だ。


 本来、術者の前に幻があるのがファントムプログレスだ。裕二はそれを予めエリネアに見せていた。だが、今回は前後逆。幻の前に本体があった。エリネアはそれに気づかず見えない本体に弾き飛ばされたのだ。


「エリネア・トラヴィス場外! よって勝者、ユージ・グラスコード!」


 会場からは物凄い歓声とややブーイングもある。エリネアのファンだろう。しかしエリネアの耳にそれは届かない。


「負けた……」


 場外に手をついたままのエリネアの目から大粒の涙がこぼれ落ちる。あんなに頑張ったのに、様々なものを犠牲にして取り組んだのに、裕二には届かなかった。

 それを見た裕二はエリネアに駆け寄り手を差し出す。


「大丈夫か」

「ええ……」


 エリネアは裕二の手をとって立ち上がる。そして視線を合わせないままそこから走り去る。


 裕二は舞台を降りるが、その視線は終始エリネアの背中を追っていた。


「ユージ!」


 控えの席からテリーの声が聞こえる。裕二がそちらを向くと、テリーはゆっくり頭を振った。


「放っておけ」

「……そうだな」



「やはりユージが勝ちましたね」

「ふむ、しかし最後に体当たりとは意外じゃったな」

「まだユージには手があるって事ですよ。それを温存する為でしょう。次はテリーですから」


 貴賓席のリシュテインとジェントラー侯爵はそんな話しをしている。しかし真っ先に話すべきことは、それではないはずだ。ダイヤモンドダストバーストを防いだ、あの炎の魔法。その正体をリシュテインは知っている。ヴェルコート・ジェントラーがそれについてどう話すのか、その様子を伺っている。


「しかしあの炎の魔法は凄かったですね。精霊魔法でしょうか?」


 ――まあ、そう言うしかないじゃろ。


「ふむ、おそらくそうでしょうな」


 その話しはそれ以上広がらず、話題は次の試合に移る。


「次はテリー対バイツですが、先ほどの試合だとバイツの実力はわかりませんでしたね。まあテリーが勝つんでしょうが」

「そうですな。バイツは慎重な男ですが、シェリルの様子を伺ったようにテリオスにはしないでしょう。おそらくそんな余裕はないですからな。始めから強力な攻撃を仕掛けてくるかもしれません」



 裕二は走り去ったエリネアを見て、少し戸惑ってはいたが、かわいそうだからといって勝ちを譲れる訳ではない。エリネアがひとりで解決すべき問題なのだ。


 ――裕二様。頭を切り替えて下さい。まだトーナメントは終わってません。


 裕二はセバスチャンに諭される。


 ――そうだな。余計な事考えてて勝てる相手じゃないしな。テリーもバイツも。

 ――テリーとバイツ、どっち勝つの?

 ――ミャアアアア?

 ――俺が知るわけないだろ。


 裕二にとってテリーとバイツは、チェスカーバレンで数少ない友人だ。どちらも応援したいが、テリーと戦う事を念頭に訓練してきた。そしてその強さもある程度知っている。


 ――やっぱテリーかなあ。


 裕二の存在が広く知れ渡っていない会場では、テリーとバイツの試合を事実上の決勝戦と見るものもいる。ジェントラー家が勝つのか。ハリスターに連なるエストローグが勝つのか。どちらもクリシュナードから近い位置にいる家系だ。会場は否が応にも盛り上がる。


「では二回戦第二試合を始める。テリオス・ジェントラー、バイツ・エストローグは舞台へ」


 テリーとバイツが舞台に上がる。テリーは言うまでもなく、いつもと変わらない。だが、バイツはシェリル戦とは違う部分がある。テリーはそれを見てバイツに問いかける。


「ほう、それはハリスター家所有の魔剣ハザンだな。借り物か?」

「ふ、さすがに詳しいな。だが残念ながらレプリカだ。この程度のトーナメントで本物は出せん」

「確かに。まあレプリカでも本物でも同じ事だがな」

「剣だけならそうかもな」


 穏やかな口調で牽制しあうテリーとバイツ。舞台上にはピリピリした空気が流れる。そして双方薄笑いを浮かべたまま開始位置につく。


 ――多様な魔法を使いこなすテリオスに小細工など意味がない。様子見など論外。奴が防ぎきれぬ力を行使するまで。ハリスターに連なるエストローグの力。いや、クリシュナード様より与えられたあの力を……


 審判は二人が開始位置についた事を確認すると、大きく手を振り上げる。


「試合開始!」


 バイツは即座に魔法を使う。


「ベルセルクターミネイション!」


 一瞬苦し気な表情を浮かべたバイツが、燃え上がるように紅く輝く。


「うおおおお!」


 そして、雄叫びをあげると地面を蹴ってテリーに突進する。



「ベルセルクターミネイションだと! 失伝したのではなかったのか?!」


 貴賓席のジェントラー侯爵は驚きの声をあげる。それを聞くリシュテインは多少の事情を知ってるのか、あまり驚いた風ではない。


「あれはハリスター家の古い資料から再現された魔法だそうです。かつてクリシュナード様の使われたベルセルクターミネイション。本物は万の兵隊を身体強化し、更にバーサク状態、すなわち狂戦士にする対魔人軍に使われた魔法。あれはその魔法を個人用、簡易化したものですな」

「な、なるほど。再現率はどの程度でしょう?」

「ふむ、失伝してるとされてる魔法なので、はっきりとはわかりません。ですが高い再現率とは考えにくいですな。クリシュナード様の魔法ですから。後はバイツ次第でしょう」



「ふ、こいつは古臭いもんを引っ張り出してきたな。そして魔剣ハザンか……面白い」


 バイツは目を血走らせ、突進しながら剣を降り下ろす。


「うおおおお!」


 雄叫びと共に魔剣ハザンから衝撃波のようなものが放たれた。それは地面をえぐりながらテリーへと襲いかかる。


「ドミノウォール」


 テリーの魔法により、バイツとの間にたくさんの壁がドミノのように連なる。魔剣ハザンから放たれた衝撃波は、そのいくつかを壊し止まった。だが、その後ろからはバイツが凄まじい勢いで突進し、壁を破壊しながら進む。


「うおおおお!」


 バイツはその勢いを失うこと無くテリーへと一直線に突き進む。そして最後の壁をも破壊する。


「ぬあああ!」


 だが、そこにテリーはいなかった。しかしバイツは前を見据えたまま剣を横に大きく振る。そこには壁を使ってバイツの死角に移動したテリーがいた。


「おっと」


 テリーは上体を後ろに反らし、バイツの攻撃を回避する。そしてバックステップで大きく距離を取った。バイツも距離を取らせまいと再びテリーに突進する。テリーは舞台の境界線近くまで下がり、そこでバイツを迎え撃つ。


 剣を大きく振りかぶったバイツに、テリーも剣を出し受け止めようと構える。


 だが、テリーは剣を受け止めずに受け流しながら右に避ける。勢いのついたバイツは境界線前迄動くがそこで踏みとどまった。止まらなければバイツの場外負けだっただろう。


「下らん小細工だ」

「バーサク状態でも一応理性はあるみたいだな。バカみたいに突進すると思ったが」


 バイツはそれに答えずニヤリと笑う。そして再びテリーに向かって走り出す。


「うおおおお!」

「やっぱりバカだったか」


 ――フラッシュアンドリバース。


「ぐはっ!」


 強烈な光がバイツを襲い、その視力を奪った。


 ――くっ! だが、たとえ見えなくとも奴の場所は把握している。少々の攻撃で俺の勢いは止められん。


 バイツは視覚を奪われながらも、構わず記憶にあるテリーの居場所へ突進する。だが、その直後バイツの足がガクッと崩れる。あるべき場所に地面がなかったのだ。


「何だ?!」


 どこかに転げ落ち手をつくバイツ。少しずつ慣れてきたバイツの視界にテリーの姿はなく、闘技舞台の外側にある会場の壁が見えた。


「しまった!」

「バイツ・エストローグ、場外!」


 ベルセルクターミネイションを掛けたバイツは完全なバーサク状態ではなく、ハーフバーサーカーと言える状態にあり、完全に理性を失っていた訳ではない。だが、それでも些細な事は無視してしまう傾向にはあった。

 テリーの使ったフラッシュアンドリバースは、敵の目を眩ませ、同時に敵の足元の地面を反対方向に回してしまう。つまりバイツは目くらましを受け、テリーとは逆方向に走り出したのだ。バイツはハーフバーサーカー状態の隙を突かれ、場外に落ちてしまった。境界線の位置を把握する事が逆に隙を作る結果となってしまった。


「くっ! 無念」


 バイツは場外で膝をつきながら魔法を解除する。そこへテリーが寄ってきてバイツに手を差しだす。


「おそらく後から反動がくるぞ。早めに休んどけ」

「ああ、承知のうえだ」


 ベルセルクターミネイションでたくさんの壁を破壊したバイツ。痛みを感じない状態ではあったが、それは単に痛みを先送りしただけに過ぎない。後ほどその痛みがバイツを襲うだろう。

 バイツはうっすらと笑ってテリーの手を取り立ち上がる。そして自ら医務室へと歩いて行った。その背後には、審判に手を掲げられたテリーがいる。


「勝者。テリオス・ジェントラー!」


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