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剣と魔法と七体の人工精霊  作者: ひろっさー
第一章 異世界転移と学院
34/219

34 エリネアvsリサ


「いやーユージ様、さすがですね」


 席に戻った裕二を出迎えたマレットは、笑顔でそう言う。そして小声で付け加えた。


「本来の能力を使わずにあれだけ出来たら大したものです。優勝も充分あり得ますね」

「いえ、そんな事……」


 そこへテリーがやってきて、裕二に声をかける。


「良くやったなユージ。まあまあってとこか」

「まあまあね」


 テリーは相変わらずの上から目線を、何の悪気もなく発揮する。だが、裕二としても危ない場面はあったので、苦笑いで同意するしかない。


「そりゃそうだ。武闘大会に基礎的な火魔法を使うとは思わなかったぞ。余裕がある時の様子見ならともかく、そんなの通じる訳ないだろ」

「そうなの? それ先言ってくれよ。騎士科ならいけると思ってた」

「騎士科だから対策するんだよ。まあ、あの不完全な雷移動も次は使うな。おそらくカウンターか防御魔法は用意するはずだ。姫殿下ならあれが雷属性とわかってるだろうし」

「だよな。次の相手は……」


 裕二の視線の先には、舞台を見据えるエリネアがいる。その少し向こうには、リサ・スクワイアが準備を終え、舞台への呼び出しを待つ。


 ――美少女対決か。


「お前なにニヤついてんだ?」

「ハッ! いや、どっちが勝つかなって」

「普通に考えれば姫殿下だろうな。だが、もうひとりのリサってのは、全く情報がないから油断はできない。どっちが勝っても次は魔術師だ。試合を見ながら使う魔法は考えとけ」

「ああ、わかった」


 テリーはそう言って自分の席に戻り、裕二も席についた。そしてマレットの用意した紅茶で口を濡らすと、闘技舞台の上に審判が登って行くのが見える。


「ではこれより第二試合を始めます。エリネア・トラヴィス、リサ・スクワイアは舞台へ」


 その声に返事をしたエリネアとリサが舞台へ上がる。すると、エリネアの登場に会場が沸き返り、雄叫びのような声をあげてる者もいる。


「凄い人気だな」


 裕二の呟きにマレットが応える。


「あれだけの美貌を持つ王女様ですからね。しかも魔術師としての才も発揮されている。人気が出ない方がおかしいです。対戦相手はやりにくいでしょうね」

「確かに……」


 こう言った試合を見る場合、必ずどちらかを応援しながら見るものだ。裕二の場合、それがクラスメイトのエリネアになるのかもしれないが、エリネア人気に押され、若干のアウェイ感を放ってるリサは、裕二にとって自分の境遇に近い親近感を感じさせる。そして、やや好みのタイプという部分もあり、どちらを応援するのか迷ってしまう。


「院長先生。あの子がBクラス唯一の出場者ですか。しかしエリネア殿下が相手とは……ついてないですね」

「それはどうですかな? ジェントラー卿」

「それはいったいどういう……いや、試合で見せてもらいましょう」


 貴賓席ではそんな意味深な会話がなされていた。



「エ、エリネア様、よろしくお願いいたします」


 ややあたふたした態度で、リサはエリネアにそう挨拶をした。これから試合をするなら、これはちょっと頼りない感じにも見える。だが、エリネアはそんな事を気にする風でもなく挨拶を返す。


「ええ、こちらこそよろしく」


 審判から注意事項の説明をされ、二人は試合開始位置に下がり、双方とも短杖を用意する。


 そして鐘の音が場内に響くと、いよいよ試合開始。大歓声で沸き返る中、二人同時に杖を振り、身体強化で防御力を上げる。そして最初の攻撃を放ったのエリネアだ。


「エクスプロードフレイム!」


 エリネアの作り出す不定形の業炎。もちろん威力は落としてあるが、接触すると小爆発を起こす、高難度の通常魔法だ。

 その炎はアメーバのように形を変えながらリサに迫る。


「グランドシールド!」


 リサは素早く杖を地面に付け、防御魔法を発動する。同時に地面が動き、土の壁を作り出す。使い捨ての畳返しのような魔法だ。魔法を防ごうが防ぐまいが数秒で壊れる。なので使うタイミングが重要だ。


 不定形の炎はその壁に当り、破壊しながら消滅する。そして、そこから沸き上がる土煙の中から、複数のファイアーボールがエリネアに向かって飛んで行った。


「ロイヤルアイスガード」


 一瞬で作られた百五十センチ程の大きさがある六つの氷の盾。それがエリネアの周りを回転しながらファイアーボールを防いだ。しかも破壊された盾はみるみるうちに修復される。


「くっ!」


 ――あんな防御魔法、どうやって突破すればいいのか……やはりエリネア様は強い。どうすれば……


「ブレイク!」


 リサが僅かな時間戸惑う間に、エリネアは自分を守るはずの盾を破壊する。そこから作られた氷の石つぶてが、リサに向かって飛ぶ。


「きゃあ!」


 リサに直撃した複数の氷がダメージを与えた。身体強化してあるので、大きなダメージではないが、エリネアにとってこれは、ついでの攻撃だ。


 ロイヤルアイスガードを長時間維持するとなると、それなりに魔力を消費する。ならば必要ない時は使わない方が効率的だ。なので氷の盾を破壊し、ついでに攻撃もしてしまおう、というエリネアのアイデアで生まれたやり方になる。ついでなのでそれほどのダメージは最初から期待もしていない。

 だが、今回は結果的にリサの隙を上手く突く事になった。


「その程度でベストエイトとは思えないわね。切り札を隠したまま次に行かせる程、私は甘くないわ」


 ――確かに……エリネア様の言う通り。全力で戦っても勝てるかわからない相手に出し惜しみは意味がない。だけど失敗したら……


「エクスプロードフレイム!」


 エリネアの放つ不定形の炎が、再びリサに襲いかかる。


 ――不味い!


「グランドシールド!」


 またもや僅かな隙を突かれたリサは、咄嗟に防御をするが少し間に合わなかった。エリネアの炎は作りかけの壁の一部を破壊し、やや威力が落ちたものの、壁の向こうにいるリサに到達し、爆発する。


「ぐはっ!」


 リサはその勢いで吹き飛ばされ、同時に少なくないダメージを受けた。


「院長先生。やはり殿下が圧倒的ですな。開始位置から動いてすらいない」

「ほっほっほ、それはどうですかな?  ジェントラー卿。リサの目も変わったようですぞ」


 ――ダメ、他の魔法を使っても返り討ちにされるだけ。やるしかない。


 リサは大きく深呼吸をし、エリネアを無視して心の中で念じる。


 ――集え、私の元へ――


 リサはパシッと音をたて、両手を合わす。その瞬間、闘技舞台の空気が大きく変わる。エリネアもその様子に気づき、リサを見据える。


 ――なに? これは…………精霊! 精霊魔法を使う気?


 エリネアの視界は精霊視に切り替わり、リサに群がる大量の精霊を捉える。

 色とりどりの光りがリサを包み、更にその周りの地面から新たな精霊が湧きだしてくる。


 ――多い! このままだと不味い。


「エクスプロードフレイム!」


 エリネアの振る短杖の先から不定形の炎が作られ、リサに向かって飛んでいく。しかし――


 ――弾かれた!


 エリネアの視界には、エクスプロードフレイムにより一部の精霊が消滅しながら、魔法の方向性を変える場面が写し出された。その奥にはエリネアの魔法に対して、微動だにしないリサがいる。


「セット!」


 そう唱えながら、リサは自分の周りに綺麗な小石と枯れた植物をばらまく。地面に落ちた小石は勝手に動きだし、何かの形を作り出す。


「オイオイ、これは精霊魔法じゃないぞ。エリネアはわかってるのか?」


 裕二から近い席に座るテリーから、そんな声が聞こえる。その直後、舞台からはリサの声が鳴り響く。


「召喚! ラージレイヴン!」


 次の瞬間、枯れた植物は煙を出して燃え上がり、バラまかれた小石が光りだす。そして小石同士を光りで繋ぎ円を描き出す。そしてそこには、大きな魔方陣が出現した。


「こ、これは……召喚魔法!」


 エリネアがそれに気づくと同時に、魔方陣から体長二メートル程の大きさの巨大なカラスが現れる。


「行きなさい! ラージレイヴン」


 リサは杖を前方に振り、ラージレイヴンに命令を下す。


「グアアア!」


 ラージレイヴンは羽根を広げ、バサバサと音をたてて飛び立つ。単純に羽根を広げただけでも、見た目の大きさは威圧感を伴って変わる。その印象は人ではなく、モンスターと相対した時のものに近い。そして上空で一時滞空したラージレイヴンは、鋭い目つきで狙いを定め、エリネアに向かい突進する。



 貴賓席ではその光景に目を見開いて驚く、ジェントラー侯爵の姿があった。


「あ、あれは……単独で召喚魔法を行使するとは……院長先生が言ってたのは、この事ですか」

「左様です。驚かれましたかな?」

「もちろんですよ。しかしあんなやり方始めて見ました。いったいどこで……」

「それは私もわかりません。それとなく聞いては見ましたが、スクワイア家の秘伝としか……」

「ま、まあ、それはそうでしょうね。是非一度、彼女と話しがしてみたい」

「ふむ、ジェントラー家が彼女に目をかけるのは賛成ですが、あまり派手には――」

「もちろん、わかっております」


 そして選抜メンバーの席にいる、裕二は――


「なんだありゃ?! でっかい鳥が出てきたぞ」

「カラスだ。ラージレイヴンという低級の召喚獣だな。正確には精霊幻想獸と言う」


 いつの間にか裕二の隣にきたテリーが、そう答えた。


「テリー! じゃああれ、召喚魔法なのか?」

「そうだ。低級とは言っても召喚獣に普通の魔法は効きにくい。さっきエリネアの魔法を弾いたのは精霊。その精霊が元になって作られたものだ。エリネアは完全に予想外だろうな」



 ――これがリサ・スクワイアの本当の力。あの攻撃を受けたら、どの程度のダメージになるかわからない。攻撃をもらう訳にはいかない!


「ロイヤルアイスガード!」


 上空から猛スピードで突進するラージレイヴンに、エリネアは氷の盾で防御する。だが――


 ――バリッ!


 ラージレイヴンは氷の盾を突き破る。


 しかしエリネアはその直前に杖を振り、全ての盾をエリネアとラージレイヴンの間の直線上に並べた。


 ――バリッ、バリッ!


 ラージレイヴンは氷の盾を次々と破壊し、最後の一枚をも突き破った。もうエリネアを守る物は何もない。


「うっ!」


 エリネアはラージレイヴンの体当たりを受け、吹き飛ばされた。だが、ラージレイヴンも六枚の盾を突き破る事により、その威力はかなり軽減されており、予め身体強化されたエリネアを倒すには至らない。


「くっ!」


 しかしエリネアのピンチは変わらず、ラージレイヴンは再び上昇し、またもエリネアに攻撃を仕掛ける。


 ――今の攻撃を本格的に受けたら、かなりのダメージ、もしくは場外。このままでは負ける。ユージの為に取っておいた、あれを出すしか……


 エリネアはそう決心すると、素早く立ち上がり杖を大きく振る。


 その姿を見るリサの目には、様々な色の光りに包まれ始めたエリネアが見えた。リサもエリネアと同じように精霊視を会得しているのだ。


 ――エリネア様のあの光り……精霊魔法! 不味い! だけど、あの氷の盾はない。今なら……


「ラージレイヴン! 全力で行きなさい!」


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