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剣と魔法と七体の人工精霊  作者: ひろっさー
第一章 異世界転移と学院
33/219

33 ユージvsバチル


 闘技舞台の上には、裕二、バチル、そして審判の三人が立っていた。審判は二人へ、簡単に注意事項を説明している。


「ユージ。賭けをするニャ」

「賭けって、何だよ」

「私がユージに勝ったニャら、ユージはこれから一生、私にバターソテーを作り続けるニャ。ユージが私に勝ったニャら、塩焼きで勘弁してやるニャ」

「なるほど……それは面白い、なワケねーだろ! どっちにしても俺が作るじゃねーか」

「チッ! 騙されない奴ニャ」


 そんな、どうでもいい話しをすると、二人は舞台中央から、戦闘開始位置まで下がる。


 そして審判が両者を確認し、手を上に振り上げると、その背後からゴングらしき鐘の音が鳴り響き、大歓声と共に試合が開始された。


「ニャハ」


 バチルは速攻で仕掛けてきた。そして低い体制で走りながら剣を抜き、ユージに斬りかかる。その動きには一切の迷いもない正面からの攻撃だ。


「不味い!」


 裕二は咄嗟に剣を抜き、身体強化でバチルの攻撃に備える。


「遅いのニャ」


 裕二は何とかそれを剣で受ける事が出来たが、バチルの速さに完璧に対応した訳ではなく体制が悪い。交差した剣はギリギリと音をたて、徐々に押されていく。


「ぐはっ!」


 交差した剣を滑らせながら、バチルは裕二の懐に入り、肘で鳩尾を攻撃してきた。その威力は、身体強化が間に合わなかったら、悶絶していたかもしれない。バチルは余裕の笑みを崩さず、まだほんの小手調べといった感じだ。


「どうニャ?」

「クソッ」


 ――この距離ではバチルが有利だ。何とか距離を広げないと。


 と、考えていると、バチルは剣の柄でガンガン裕二を殴り付けてくる。その素早く滑らかな動きに裕二は後ずさるが、バチルもそれに合わせて距離を取らせないように動く。

 明らかに慣れた動きだが、戦闘経験なのか、それとも喧嘩慣れなのかはわからない。


「グッ! てめー!」


 裕二はバチルに至近距離から四属性の火魔法を放つ。だが、バチルはそれを予測していたのか、バックステップと横移動であっさりと避けられた。だが、これは距離を取るチャンスでもある。裕二は連続で火魔法を放った。


「そんなもん、いくらやっても無駄ニャ」


 バチルはそう言いながら、左手に装着した篭手で魔法を叩き落とした。どうやらその篭手には魔法を弾く効果があるらしい。どの程度まで、どんな魔法に効果があるか、という事はもちろんわからない。魔法では遅れを取ってしまう騎士科の生徒なら、当然の対策になるのだろう。


 ――汚ねえな、そんなのあるのかよ……


 だが、裕二の方も連続で火魔法を放つ事により、少しずつ距離を開けていった。しかしそれでバチルの余裕が崩れる事はない。


「距離を取ったら勝てると思ってるニャか? ニャッハッハッハ」


 バチルは上手く火魔法を避けながら、再び裕二に突進してくる。


 しかし、裕二の火魔法の猛攻が一瞬止んだ時――


「ニャ? ニャアアア!!」


 バチルの足がゆっくりと舞台に沈む。焦って引き抜こうと思っても、上手くはいかないようだ。


「なんニャ? なんニャアアア!」


 裕二はバチルの動きを止める事に成功した。


「ほう、あれはマッドという土魔法ですな。足元に泥沼を作り、相手の動きを封じる。しかし、その効果時間は短く、およそ数秒間」


 貴賓席のリシュテイン学院長は、隣に座るヴェルコート・ジェントラー侯爵へ説明した。


「なるほど、ユージはこれから反撃という訳ですね。でもあの獣人の少女も、かなりのものですね」


 裕二にとってはチャンスだ。ここでダメージの高い魔法を使う。


 ――ライトニング!


「フギャッ!!」


 身動きの取れないバチルに、裕二は容赦なく雷属性魔法、ライトニングを放った。もちろん死なない程度に威力は落としてあるが、直撃すれば大ダメージだ。これを避けるのは不可能だろう。バチルは嵌まっていた泥沼から吹き飛ばされる。


 ――勝ったか?


 と、一瞬裕二は思ったが、直後にバチルが勢い良く起き上がる。その動きにダメージは全く感じられない。単に転んだ、という程度にしか見えない。


「あ、あれ?」

「よくも、やったニャアアア! お前こそバターソテーニャアアア!」


 プロの魔術師に利便性の高さから、良く使われる魔法、ライトニング。到達スピードと威力には定評のある魔法だ。通常、これを喰らってすぐに起き上がるのは難しい。これに驚いた者も多いが、そのカラクリを知っている者も当然いる。


「なるほど、あの少女の首輪に付けてるのはアースですか。それがシッポに繋がり地面へ雷魔法を逃がした。用意周到ですね」

「ハッハッハ、ジェントラー侯爵も良くご存知で。こりゃユージもそろそろ本気出さないと負けてしまいますな」


 怒り狂ったバチルは裕二を睨み付け、何やら術式を唱えると、その体が一瞬青く光る。直後、今まで以上のスピードで裕二に突っ込んできた。


 ――何だ? 身体強化か? 今までやってなかったのかよ。


 今まで裕二が戦っていたのは、身体強化をしてない状態のバチル。それでもかなりのスピードだったが、今度はそれどころではない。おそらく力や防御力も上がっているだろう。この勢いで攻撃されるのは不味い。

 だが裕二は、これ以上のスピードを持つムサシと、何度も練習試合を行ってきた。決して慌てる事はなく、冷静に正確に魔法を放つ。


 ――マッド!


「無駄ニャアアア!」


 バチルは裕二の作った泥沼を飛び越える。同じ魔法が何度も通じる訳がない。だが、その着地点には、もうひとつの泥沼が作られていた。バチルの片足はそこに嵌まる。


「無駄なのニャアアア!」


 バチルは剣を地に突き、無理やり足を引っこ抜いた。バチルらしいやり方と言える。


「本当に無駄か?」

「ニャ!」

 

 バチルの引き抜いた足には、泥沼から出てる手のようなものに掴まれている。


「キモいニャアアア!」


 バチルの尻尾の毛がブワッと広がる。


 これはマッドの応用魔法、マッドハンド。泥で作られた手がバチルの足をがっちり掴み、その拘束力は高い。だが、効果時間はマッドより更に短いので、素早く攻撃に移らなければならない。


 ――クソッ、出し惜しみしてたら勝てない。トルネード!


 裕二の魔法で作られた、小型の竜巻がバチルに迫る。これが接触すればバチルは場外まで飛ばされるだろう。竜巻の進行速度は速くはないが、拘束されている今のバチルなら確実に捉えられる。


 しかし――


「ぐはっ!」


 裕二の背中に重たい衝撃が走り膝をつく。それと同時にトルネードも消え去った。拘束されているバチルには何も出来ないはずだ。いったい、何が起きたのか。

 直後に裕二の背後からバチルの元へ、円盤状の物が飛んでいき、その手に持つ薄く四角い箱にすっぽり収まった。


「あれは……ディッシュケース!」


 バチルが使ったのは、ゴンズ武具店で売られていたディッシュケースだ。


 魔力を込めて箱を振ると出てくる、皿のような円盤状の刃が、回転しながら相手を攻撃し、再び箱に戻ってくるという武器だ。


 テリーは常連客のバイツが、そういった武器を使うのではないかと警戒していたが、実際使ったのはバチルだった。


 バチルは他国ではあるが、一応貴族という事でそれなりの仕送りがある。とは言ってもディッシュケースはかなり高い。バチルの購入したディッシュケースは、本物ではなくレプリカで、更に刃引きしたものだ。威力はともかく耐久力は本物に劣る。それでもディッシュケースは安くはない。


 バチルが裕二と始めて会った時、不味そうなパンを食べていたのは、ディッシュケースを買った直後でお金がなかったのだ。そしてバチルが裕二をスパイと警戒した原因も、ディッシュケースを見られたくなかったという事になる。


「距離をとっても無駄という事がわかったニャか!」

「くっ!」


 これでバチルは裕二の前後両方向から攻撃出来る事になる。距離を取ればディッシュケースが大回りして、背後から飛んでくる。それに対応すれば前からバチルが迫ってくる。


「ほう、あの少女は大したものですね。良く考えられている。ユージはどうするんでしょう」

「まあ、ご覧になればわかりますよ、ジェントラー卿」


 バチルはディッシュケースを振り、円盤を飛ばすと同時に地面を蹴り、裕二に前と後から迫る。その勢いが空気を動かし、圧迫感となって襲いかかる。


 ――不味い、バチルには普通の攻撃魔法は、避けるか叩き落とされるから牽制にも使えない……やりたくないが、仕方ない!


「終わりニャアアア!」


 バチルの剣が裕二を捉え、その手応えを感じる……はずだったが――


「ニャ? いないニャ! どこいったニャアアア!」


 バチルは一瞬の眩しさと共に、その剣は空を斬る。そして裕二が消えた事に気づいたバチルは、すぐさま辺りを見回す。


「な、何だ今のは!? 院長先生、あれは魔法……なのですか?」

「ふむ、おそらくは……雷属性のオリジナルじゃな。雷光があったので間違いないじゃろ」


 裕二は攻撃される直前に一瞬で別の場所に移動していた。しかし、その様子にはやや戸惑いも感じられる。


 ――やっぱり着地点がずれるな。闘技舞台ギリギリで使うのはヤバそうだ。下手すりゃ場外負けだな。


「なんニャそれ!」

「教える訳ねーだろ!」


 裕二が使ったのは、ライトニングアクセルというオリジナルの移動魔法だ。

 自身を魔力で覆い、その魔力と着地点を雷属性魔法で繋ぎ、雷の速さにより一瞬で移動する。

 超能力者の裕二なら、テレポーテーションとかの方が上手くできそうだが、あくまでも魔法で、という事で考えたのがライトニングアクセルだ。


 しかし雷の扱いの難しさは、少しでも高い場所、近い場所に行ってしまう事にある。目標物、つまり敵に当てるなら扱いやすいが、何もない場所だと、コントロールしにくいのが難点だ。移動向きの属性ではないだろう。


 ――雷属性で移動なんて……さすがはユージ。だけど、まだ精度は低い。私には通じないわ。


 エリネアは裕二の魔法に驚嘆しながらも、その欠点も見抜いているようだ。


「けど逃げるばかりじゃ勝てないニャ!」

「誰が逃げるって?」


 ライトニングアクセルの欠点は、何もない場所では使いにくい。だが、目標物があるなら……


「フギャアアア!!」


 その状態で体当たりしたら、バチルのアースではなく、体に直接雷魔法の効果が及ぶ事になる。

 バチルはその衝撃により、勢い良く吹き飛ばされた。そしてその直後――


「トルネード!」

「ニャ! ニャアアア!」


 大きなダメージを受けながらも、何とか起き上がろうともがくバチルに、裕二のトルネードが迫る。


「嫌ニャアアア!」


 トルネードに触れたバチルは、勢い良く場外まで飛んで行った。


 そして――


「勝者、ユージ・グラスコード!」


 審判が宣言する。


 その途端、会場から大歓声が上がった。


「ウオオオオ! あいつスゲーぞ」

「最後のヤツ、何だあれ?!」

「良しっ! やはりゴンズの言う通りだ」


 その光景を、バイツとドルビーは苦々しげに見つめる。やはり応援していたのは同じ騎士科のバチルなのだろう。


「けっ、バカが。油断しやがって」

「いやドルビー。ユージを侮るな。あいつは強い。まだ何か隠してると見るべきだ」


 勝者として舞台の上で、歓声に応える裕二に、場外から何とか起き上がってきたバチルがヨロヨロと寄ってきた。そして険しい表情で裕二にビシッと指をさしてこう言った。


「お前嫌いニャ!」

「え? 何で?」

「絶対許さないニャ!」

「試合なんだから仕方ないだろ」

「ニャらまたバターソテー作るニャ! そしたら許してやるニャ」

「あーハイハイ、今度な」


 途端にバチルは笑顔に戻る。


「ニャらまあ、許してやるニャ。でも次は負けないニャ!」

「えー、う、うん」


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