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剣と魔法と七体の人工精霊  作者: ひろっさー
第一章 異世界転移と学院
28/219

28 呼び出し

「ごきげんようユージ」

「ご、ごきげんようエリネア」


 裕二は相変わらず『ごきげんよう』という挨拶に慣れない。

 だが、エリネアの方は以前よりも表情は柔らかくなった。とは言っても仲が良いという程でもない。交わす言葉は挨拶程度だ。


 そしてシェリルが裕二に対して、あからさまに嫌な態度を取れなくなった今、クラスの中に裕二を敵視する目はほとんどない。


 だが、今日はそのシェリルがいない。どうやら授業を休むようだ。



「全く、お前のせいだぞ! 母上を呼んだら父上にバレるに決まってるだろ!」

「お母様がいけないのよ! 私は手紙で相談しただけなんだから」

「その結果がこれだ。それくらいわからないのか!」

「お父様に知られる前にユージが出ていけば、後は何とでもなったのよ」

「出ていけばな! だが、そのせいでユージは出ていかず、ジェントラー家まで絡んできた。どうすんだ!」

「うるさいわね! お兄様だって口ばっかりで大した事してないじゃない」


 チェスカーバレン学院から出ていく馬車の中では、こんな兄妹喧嘩が繰り広げられていた。そして、その二人を乗せた馬車は、シャストニア・グラスコード侯爵が仕事の為に宿泊している宿へと向かう。


 何故そうなっているのかというと、今回シェリルがメアリーを呼んで、裕二を追い出そうとした件で、グラスコード侯爵から大至急話しがあると、精霊郵便で手紙が届けられたからだ。


「授業を休んでも来いって事だ。俺は知らんぞ。お前が勝手にやったんだ」

「もう、うるさい!」



 グラスコード侯爵は二人を呼ぶ前に、メアリーを呼んでおり、既に話しを済ませている。

 その際、かなり揉めるだろうと思っていたのだが、メアリーは割りとあっさり、裕二の養子を認めた。それはもちろんシェリルのあの態度にあるのだろう。メアリーにとっては、最愛の娘に嫌われた事が重要で、最早裕二などどうでも良いのだ。


「旦那様、グロッグ様とシェリル様がお着きになりました」

「わかった。部屋へ通せ」


 グラスコード侯爵の部屋に、機嫌の悪そうなバツの悪そうな複雑な表情のシェリル、自分は関係ないとばかりに平静を装うグロッグが入る。


 二人は黙って部屋のソファーに腰かける。


「お前たちは私の決めた事に不満でもあるのか」

「……」

「……」


 グラスコード侯爵は静かに、その怒りを露にする。普段はとても優しく、滅多に怒らない父親なのだ。さすがに今回は二人も迂闊な事は言えない。


「ユージに対しては優しくしてくれと、それが出来ないなら無理に接する必要はないと、そう言ったはずだが?」

「だってお父様! ユージったら――」

「なんだ!」


 シェリルは、またある事ない事言うつもりだったのだろうが、グラスコード侯爵の静かな怒りに気圧され、何も言えなくなってしまった。


「――も、もうユージには何も言ってないわ」

「グロッグ、お前はどうだ」

「ぼ、僕は別に何もしてませんよ。シェリルがユージを嫌いみたいだから、助けてやろうとはしましたが」

「お兄様! ずるい!」

「はあ、もうわかった。ユージと仲良くしろとは言わん。だかトラブルは起こさないでくれ。今回の件でジェントラー家まで絡んできそうなんだ。その意味はわかるな」

「はい」

「……はい」

「お前たちはチェスカーバレンに勉強する為に通わせているんだ。それをせず今回のような事が今後もあるなら。二人とも学院をやめさせる」

「そ、そんな!」

「父上! それはあんまりでは。ユージを残して僕らだけですか!」

「ユージは真面目に学院生活を送っている。どこにやめさせる必要がある」

「それは……」


 グラスコード侯爵の、実子より養子を優先させるこの態度に、二人は衝撃を受けた。当然ながら、何故裕二をここまで大切にするのか理解出来ない。だが、それをここで言う訳にはいかない。言えばグラスコード侯爵を、更に怒らせる事になるのは明らかだからだ。



 帰りの馬車の中で、二人は黙りこくったままだ。

 シェリルは虚ろな表情で窓の外を眺め、グロッグは意味もなく馬車の床を眺めている。


 だが、シェリルはゆっくりと窓から目をはなすと、少しずつ口を開く。


「……いや……こんなの……絶対いや!」

「…………気持ちはわかるが……しばらくは大人しくしておけ。また父上を怒らせたら、今度こそ不味いぞ」

「だって――」

「このままにはしない! だからお前も迂闊な行動はするな。いいな」

「お兄様……いったい何を……」

「ふんっ、楽しみにしとけ」


 そして二人の帰ったグラスコード侯爵の部屋には、頭を抱える主人の横にマレットがいた。


「旦那様、少し言い過ぎたのでは……」


 マレットはそう言いながらグラスコード侯爵の様子を伺う。マレットもさすがに、裕二優先の態度をとりすぎたのではないかと思っている。それは二人がかわいそう、という事ではなく、逆に不満に思わせてしまう、と思ったのだ。


「……かも知れん。だがユージが出ていくと言ったらどうする。古代魔法、強力な戦力、そして高貴な身分の可能性さえあるんだ。マレットも見ただろう、あのアンデッドのような強力な精霊を。ジェントラー家が絡んでくるのだから他にも何かあるのだ。絶対にユージは手放せない」



「もうすぐ武闘大会の選抜だな。ユージも俺に内緒で頑張ったんだろ?」

「内緒って……嫌な言い方するな」

「ハッハッハ、冗談だよ」

「でも選抜ってどうすんだ? 全員でトーナメントか?」

「そんな面倒な事する訳ないだろ」

「じゃあどうやって決める?」


 武闘大会は選抜された八名のトーナメントで行われる。

 そしてその選抜方法だが。一年生全員だと、一クラス五十人、A~Fクラス合計三百人もいる。なので武闘大会に出られる資格を持つのはA~Cクラスのみ。他は切り捨てられる。武闘大会に出たければ、そこに来年入れ、という事だ。


 そのA~Cクラスの百五十人をテストで選ぶ。その為にチェスカーバレン学院にわざわざ王都から宮廷騎士団、宮廷魔術師が試験官として呼ばれるのだ。もちろんその全員ではなく一部ではあるが。

 そして生徒ひとり対、騎士と魔術師の二人の組み合わせで戦う。もちろん最後までやらず、実力を見るだけだ。それによって個々に点数がつけられ、上位八名が本選に出る事になる。


「ほー、そうなってるのか」

「だから実力が示せれば、すぐ終わるって事だな」

「それって、どういう事だ?」

「相手はプロだ。気配とか握手しただけでその実力を察知する者もいる。戦う事に意味はない。それに勝てる者もほとんどいないだろうし」

「ほとんど……って事は」

「まあ俺なら勝つ」

「ですよねー」

「お前もたぶん勝てる。だけど勝つなよ、後が面倒だぞ」

「へ? なんで」

「お前が宮廷魔術師団に入りたいなら、話しは別だが」

「あ、なるほど。スカウトがバンバンくるって事か」

「そういう事だ」



「お前もバターソテーにしてやるニャアアア!!」

「ぐはっ! ま、参った」


 バチルの刃引きされた剣が、相手の剣を吹き飛ばし、そのまま一撃をいれた。

 相手はそのまま倒れ、そこで試合終了となる。


「もっと強いのいないニャか? 弱すぎニャ」

「もうやめておけ、バチル。他の生徒も選抜に出るんだぞ。その前に壊してどうする」

「ニャらバイツ。お前が相手するニャか?」

「今はやらん。お前とはトーナメントで当たる可能性もあるからな」


 これは一応、騎士科の授業中だ。選抜に向けての練習試合なのだが、バチルは張り切りすぎているようだ。その辺に数名の生徒が転がっているが、それは全てバチルとの練習試合による犠牲者になる。

 そんなバチルに声をかけたのは、騎士科一年ナンバースリーのドルビー・コールゲンだ。


「全くうるせーネコ女だぜ」

「お前、私より弱い癖に何を言ってるニャ。悔しかったらバターソテーなのニャ!」

「意味わからねえよ!」

「ドルビー、お前も煽るな」

「二人まとめてバターソテーなのニャ!」


 どうやらバチルの中ではバターソテーがマイブームらしい。だが、その意見に異を唱える者もいる。


「バチル、言っておくがバターなど邪道。やはり岩塩のシンプルな味わいこそ至高と言えよう。それは魚然り、肉然り」

「ふんっ、お前ユージから岩塩もらった癖に偉そうなのニャ。バターソテーはそのユージからもらったのニャ!」

「な、何だと! だが俺がもらったのは風呂敷いっぱいの岩塩。数で圧倒しているのではないか?」

「ニャ! ニャんと! やはりバイツは侮れないニャ!」


 バチルとバイツの良くわからない戦いが静かに続く。だが喧嘩とは言えバチルと通じあっているバイツは、やはりただ者ではない。


「お前らバカだろ」


 そう言い残しドルビーは去って行く。



「す、凄い……姫様、これならそのユージという者にも勝てるのでは?」

「はぁ、はぁ、ダメよ。この程度ではユージに勝てない」


 エリネアは授業のある日も校外のトレーニングルームを借り、そこで選抜まで特訓を続けていた。

 付き添いの王宮から派遣された魔術師は、元々、エリネアが魔力涸渇にならないよう監視の為にいたのだが、今はその心配よりも急成長するエリネアの魔法に驚嘆していた。


「これほどの早さで精霊魔法を身につけるとは……ユージという生徒はそれよりも凄いのですか?」

「そうね。私が一覚える間にユージは五覚えてしまう。そして魔力量も私より遥かに上。今なら良い勝負ができるかもしれないけど、勝てる可能性は低い」


 実際はエリネアが今まで見た裕二の能力だけなら、エリネアは勝つ自信もある。しかし裕二の恐ろしい所は火魔法しか使えない状態から数日で四属性魔法を使えるようにしてしまう程の成長スピードだ。その後エリネアは何度も裕二を図書館で見ており、それを考えれば様々な魔法を習得しているのは明らかだ。


「ユージに対して、どれくらい成長してるのか予測するのは意味がないわ。私がユージに勝ってるのは経験くらい。でもその全て駆使して、ユージに勝つ」


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