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剣と魔法と七体の人工精霊  作者: ひろっさー
第一章 異世界転移と学院
23/219

23 兄妹

 裕二は夜の演習場でセバスチャン、ムサシを相手に訓練をしている。

 武闘大会に向けて様々な事を調べた結果、ジャミング程度の魔法は対策されてる可能性が高い。なので更なる魔法、そして身体強化の訓練に励み、対策を練っているところだ。

 

「なるほど、それは面白いですねえ。さすがは裕二様です」

「だろ。でもこれできるのかなあ? 要はオリジナル魔法って事だろ」

「その辺も研究して行きましょう」

「だな。ムサシはこれやられたら戦いにくいか?」

「うう、む」

「なんかいまいちそうだな……」

「うむ」

「鶏が卵を――」

「うむ」


 と、珍しくムサシが裕二のジョークに付き合っていると。


「ミャアアアア!!」

「裕二なんかいる!」


 霊体化していたチビドラとアリーが何かを見つけた。

 裕二にはそれが見えていないが、チビドラはその何かに襲いかかった。ひとりで格闘している様にも見えるが、何故か口をパクパクさせている。


「ミャアアアア!!」

「なんだ? なにやってる?」

「チビドラが食べちゃったみたい」

「何食った?! 変な物食うなよ」


 その直後、誰かがこちらへ歩いてくる気配を感じ、タルパは全員霊体化した。

 裕二はまた、学院長かバイツだろうと思ったが、何となく雰囲気が違う。地面を踏む音が、裕二にそう感じさせた。


「誰だ?」

「その声は……ユージ?」


 暗闇の中から現れたのはエリネアだった。彼女は短杖の先に光る、灯りの魔法で辺りを照らしながら、こちらへ歩いてきた。


「こんな時間まで訓練してるのね」

「エリネア? なんでこんな所に」

「あなたと同じじゃないかしら。演習場でやることなんて」

「ああ、訓練か」


 挨拶は交わす程度の仲にはなった裕二とエリネアだが、二人きりで面と向かって話すような事は何もない。

 なので裕二が気まずそうにしていると、エリネアの方から話し出した。


「騎士科のグランドでの事は悪かったと思ってるわ」

「いや、構わないよ。俺も勘違いした部分はあったと思うし」

「あの時ユージに言おうと思ったのは、精霊についてなの。それならユージの為になると思ったし、それをユージに対しての礼とするつもりだったの」

「精霊……」

「ユージは図書館で自分が精霊を集めていた事に気づいてないでしょ?」

「図書館……ああ、そういう事か。確かにその通りだ」


 裕二は図書館で、エリネアがこちらを見ていた時の事を思い出した。やはりエリネアはあの時、裕二の作った精霊を見ていたのだ。


「ユージの集める精霊は尋常じゃなく多いのよ。あれだけ集められるのに気づかないのは勿体ないわ」

「そうだな。精霊視というのがあるのは知ってるけど、やり方がさっぱりで」

「だからこれをユージに渡そうと思ったの」


 それは女の子らしく、綺麗にラッピングされた袋に入っていた。その中にはいくつかの小瓶と紙が入っている。


「この小瓶は精霊を集める為の香が入っているの。こちらは精霊を見やすくする為の香。この紙はその配合やコツが書いてあるの」


 そこには精霊を集めるのに適した場所や方法まで書かれている。

 精霊を集める為には、森の中で大きな木を探し、その根元近くに土で台を作る。これを精霊の踊り場と言う。精霊の踊り場の上で香を炊くと精霊が集まりだす。少し離れた場所でもうひとつの香を炊くと、その匂いにより精霊が見やすい状態になる。

 精霊が見えにくい時はスイッチングと言う方法を使う。

 スイッチングとは、例えば指を鳴らす。瞬きする。など何でも良いので自分のスイッチを決める。そのスイッチで視界が変わると意識する事で、普通の状態から精霊視に持っていきやすくする。


「凄い! これはいい」


 久々に裕二のオカルト魂に火がつきそうな内容だ。考えてみると、元の世界にいる時はこんな情報ばかり集めていた。その結果、スプーン曲げやタルパ作成ができるようになったのだ。


「喜んでくれたようで、良かったわ。ユージにはここまで細かく教えなくても、できるようになるかも知れないけど、一応知ってる限りの事を書いたから」

「ありがとう。これは助かるよ」

「でも武闘大会に向けての訓練なら、精霊視より先に、今やっている事を優先した方が良いと思うわ。精霊魔法は威力が大きいものが多いから、武闘大会では使いにくいの。特にユージは魔力もあるから余計そうなるわね」

「なるほど。でもこんな情報教えてもいいのか? テリーでさえ良く知らなかったのに」

「いいのよ。私はいずれあなたに勝ちたいと思っている。でもそれはユージが能力を出しきれていない状態では意味がないでしょ? それでは自分を高める事にならないわ。そう……だから、私の為でもあるのね……今気づいたわ」

「今って……ぷっ」

「ふ、ふふ」


 エリネアが初めて裕二の前で笑った。それは控えめなものであったが、裕二に笑いかけるクラスメイトは、今までテリーしかいなかったので妙に新鮮な気持ちだ。


「じゃあ私は行くわ」

「ああ、気をつけて」


 と、エリネアが数歩歩いてから再び裕二に振り返る。


「ところでさっき、私の精霊が消えたんだけど、ユージ何かした?」

「え?!」


 ――ミャッ!!


「いや、特になにも……」

「そう……それじゃ」


 ――お前だろチビドラ。無闇に食うな!

 ――ミャアアアア。

 ――ごめんなさいだってー。


 ちなみにエリネアは偶然を装って裕二の前に現れたが、本当は偶然ではなく裕二を探していたのだ。

 良く考えれば、この時間の訓練なのに裕二に渡す物を持ってるのはおかしい。それに精霊を使ってたのは裕二を探す為だ。当然裕二はそんな事気がつかないが。


 エリネアも帰ったので、裕二もそろそろ帰る事にした。タルパはそのまま霊体化の状態だ。なので見た目はひとりで歩いているように見えるが、セバスチャン、アリー、チビドラを引き連れ、喋りながらの帰宅となる。


 ――エリネア様は今すぐ精霊視を覚える必要はないとおっしゃってましたね。

 ――そうだな。武闘大会が終わってからにするか。

 ――エリネア最後笑ったよー。可愛かったー!

 ――ミャアアアア!

 ――た、確かに。

 ――裕二赤くなったー!

 ――ミャアアアア!

 ――うっさい!


 そんな感じで裕二とタルパ達は、ワイワイガヤガヤしながら寮へと帰って行く。

 


 エリネアは自室で久々にゆったり過ごす。裕二の件で心を悩ませていた部分も解消し、これからはそういう思いに煩わされる事なく、訓練に打ち込む事ができる。

 ちなみにテリーに対しても何か礼をしたいとは言ったのだが「エリネア姫の笑顔が何よりの礼となりましょう。他は何もいりません」と言われ、それ以上の事は半ば諦めている状態だ。そしてテリーのその言葉は本心ではなく、軽くあしらわれている様にも聞こえた。なのでエリネアは相変わらずテリーが好きじゃない。


「今日のユージはいつもより話すのが楽だった……何だか身内のような……いや、友人という事かしら……」


 エリネアにその様な態度で話す者は皆無だ。学院の者はほとんどがエリネアに対し、王女として接する。何かと機嫌を取るように話しかけ、ことある事に褒めそやす。エリネアが学院に家格持ち込まないルールにうるさいのは、こう言った部分への苛立ちもあるのかも知れない。そうでないのはユージとテリーくらいだ。

 テリーはいつも自信たっぷりの上から目線なので、あまり好きにはなれないが、今日のユージの様に話されるのは、エリネアには新鮮な経験なのかも知れない。少なくとも悪い気はしなかった。


「……いや、そんな事関係ない。私はユージを追い越し、テリオスも追い越さなければならないのだから」


 エリネアは遊ぶ為にチェスカーバレンに来たのではない。目的があってここにいるのだ。


「クリシュナード様。どうか私をお導き下さい……」


 エリネアは窓の外に向かって、そう祈りを捧げる。



 ここは二年騎士科、男子寮の一室。そこにいるのはとある男女だ。本来女性が男子寮にいるのは好ましくないのだが、兄妹という事で特に何も言われることは無い。そう、そこにいるのはグロッグとシェリルだ。

 椅子に座るグロッグに対し、シェリルはやや興奮状態でグロッグの目の前に立つ。


「お兄様! いつになったらアイツを追い出してくれるのよ! アイツ、ずっとテリーのそばにいるんだから。どうにかしてよ!」

「少し痛めつけてやろうと思ったんだが、そのテリーが邪魔をするからな。しかしあんなキザな男のどこが良いんだ?」

「テリーを悪く言わないで!」

「だが、邪魔するならテリーも少しは――」

「絶対ダメよ! もしテリーのあの美しい顔に傷でも付けたら――」


 そう言いながらシェリルは短杖を取り出す。グロッグの言葉次第では、本当に何かしそうな勢いだ。とは言ってもグロッグはそこまで慌ててはいない。おそらく良くある事なのだろう。


「わかったから杖を出すな。お前こそエリネア様をパーティーに誘えてないじゃないか! 同じクラスだから任せろとか言っておきながら」

「あんな女こそ、どこが良いのかわからないわね。ツンケンしちゃって、いくら誘っても訓練とか勉強とかで来やしないわよ。アレと話すのはもううんざり」

「約束が違うぞ!」

「あ、そうそう。最近はユージとあの女は仲が良いみたいよ。前は無視してたのに最近は挨拶なんかしちゃって。この間も私がわざわざ、あの女の為にユージを怒ってやったら、ユージの事を庇ってたわね」

「な、何だと! 養子の分際で……絶対許さん!」


 実の所シェリルは、裕二とエリネアがそれほど仲良くなったとは思っていない。実技で助けられたのだから、真面目なエリネアの性格なら当然の行動と知っているからだ。つまりわざとグロッグに二人は仲が良いと思わせている。話しの流れでわかると思うが、グロッグはエリネアが好きなのだ。それを勘違いさせ、裕二により憎しみを抱かせる、というわけだ。

 シェリルとしては、エリネアは嫌いだが、グロッグとくっつくのは賛成している。そうなればグラスコード家とトラヴィス家の繋がりも強くなり家格も上がると考えている。そして自分はテリーと結婚を夢見ている。


「ジェントラー家と繋がりを持つのは悪くないが、なんでテリーなんだ? せめてテリーの兄貴にしろよ。テリーは養子だぞ」

「嫌よ! 私はテリーがいいの! テリーだったら……何されてもいいわ」


 先程までの釣り上がった目が一気に垂れ下がる。恋する乙女モードだ。しかし裕二の事は養子という事で馬鹿にしているのに、テリーが養子でも全く気にしないようだ。矛盾しているがシェリルにはどうでもいい事なのだろう。


「我が妹ながら気持ち悪い。とにかく今はあのユージのクソ野郎を潰さないとな。目障りにもほどがある」

「あーん、テリー」


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