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剣と魔法と七体の人工精霊  作者: ひろっさー
第一章 異世界転移と学院
22/219

22 VIPルームで


 翌日。授業は休みなので、裕二とテリーはゴンズ武具店に手入れを依頼した剣を取りに向かう。


「それ、良いとは思うけど、お前どんだけ剣持ってるんだ?」


 テリーは裕二がバイツからもらったソードケースを見て、そう言った。

 品物としてソードケースは良いと思うが、テリーはその中にある剣の多さに若干呆れ気味だ。


「バイツのお陰で助かった。アイツ意外といい奴だったぞ」

「ああ、割りと人望もあるって話しだ。しかし塩マニアとは思わなかったな。戦闘中に岩塩放り投げたら、よそ見してその隙をつけるぞ」

「なるほど、いい作戦だ」

「なワケあるか!」


 さすがにそれはないだろう。そんな冗談を交わしながら、二人はスペンドラの街を歩く。

 だが、次に裕二が放った言葉に、テリーの顔色がほんの僅かに曇った。


「バイツが言うにはサレム王国に隣接する、森の向こうに魔人がいるって話しだ」


 その話しの内容に、テリーは少し神妙な顔で話しだす。


「…………裕二。それはクリシュナード正教会がろくに調べもせず、勝手に言ってる事だ。知識としてそれを知っとくのは良いが、バイツも裕二もそれを自分の目で見た訳じゃないだろ?」

「えっ? まあそうだけど」

「もしそういう場面を自分の目でみる機会に直面したら、人の言う事じゃなく、自分で判断して行動するんだ」

「あ、ああ、わかったよ……」

「……なんてな。ちょっと調子に乗りすぎたか。少し偉そうにしてみたんだが」


 テリーはそう言って、いつもの笑顔に戻る。少し驚いた裕二も、その笑顔を見ていつもの調子に戻る。


「お前はいつも偉そうだろ」

「確かに」


 裕二はそのやり取りに僅かな違和感を感じたが、すぐにその事も忘れてゴンズ武具店へ向かう。



「よう。剣は出来てるぜ」


 店に入った裕二とテリーを見るなり、ゴンズは口を開く。


「そのソードケースはバイツのだな。譲ってもらったのか」

「ああ、仲良くなったんで」

「随分いっぱい入ってそうだな。買い取りか?」


 相変わらず見ただけでズバズバと言い当てるゴンズ。話しが早くて助かる。

 裕二はソードケースをゴンズに預け、手入れの済んだ剣を受け取る。


「問題ないとは思うが、抜いて確かめな。その間に鑑定しといてやるよ」


 裕二はゴンズに言われた通りに剣を抜く。すると、あの汚かった剣が新品のようになっている。


「凄いな! ここまで綺麗になるのか」


 ゴンズはその声を聞き、店の奥でニヤリとしながら鑑定を進める。


「元が大した剣じゃないから、これで充分だな。武闘大会はそれで間に合うだろ」


 テリーがそう言う。そして二人は剣を見ながらあれこれと話す。そうこうする内にゴンズが鑑定を終えた。


「悪いが、数は多いが質はあまり良くねえな。全部で銀貨五枚でどうだ?」

「それでお願いします」


 そうは言っても元々タダで手に入れた物だ。裕二としては充分な金額になる。


「ところでゴンズはバイツを知ってるんだろ? 最近何か武器は買ったのか?」


 テリーはゴンズにそう尋ねた。


「それは教えられねえな。店の信用に関わる」

「だよな。一応聞いただけだ」



 二人はゴンズ武具店での用を済ませ店を出る。裕二は先程のやり取りが気になったのでテリーに聞いてみた。


「あれはバイツが武闘大会に向けて、何か用意してるかも知れないので聞いただけだ。まあ、教える訳はないとも思ったがな」

「そういう事なのか」

「中には使われると面倒なのもあるからな」

「あれか、邪剣オートソウだろ」

「ああいう高価な剣はない。刃引きしても殺傷能力が高いから大会には使えないし、何よりそんな事したらもったいない。その前にゴンズが売らないし、使える人間もいない」

「そうか、言われて見れば」

「まあ、そんな事より茶でも飲みに行くか」


 テリーが意気揚々と歩き出す。裕二はそれについて行く。そのまま行くと、一軒の高そうなレストランに着いた。テリーは初めからここに向かっていたようだ。


「ここなのか?! ちょっと高そうだぞ」

「心配するな。俺のおごりだ。正確には俺じゃないが」


 店に入ると照明やテーブル、イスの感じから、かなりの高級店という事がわかる。何より店員の立ち振る舞いが違う。


「テリオス・ジェントラー様でいらっしゃいますか」

「ああ、もう来てるかな」

「ご案内致します」


 ――な、な、何だこの雰囲気。予約してたのか? 大丈夫なのかテリー?


 裕二とテリーは店員の後について行くと、店の奥にある部屋の前に連れて行かれた。その入り口前には二名の黒服が見張りでもしているかの様に立っている。完全にVIPルームだ。

 その二人はテリーを見るなり頭を下げ、すぐに部屋の中に入って行く。中へ取次ぎに行ったのだろう。


 ――この雰囲気。中には明らかに偉い人がいる。どうすんだオイ! 茶飲みに行くってレベルじゃねーぞ。


 裕二とテリーは中に通されると、そこには身なりの整った紳士がいる。高級そうなスーツに身を包み、白髪混じりの髪は綺麗なオールバックで纏められている。そしてグラスコード侯爵とはまた違う雰囲気の威厳を放っている。

 その紳士は裕二を見るなり、その威厳のある表情を崩し、笑顔で手を広げ、握手を求めてきた。


「君がユージか。お会い出来て光栄だよ」

「ど、ど、ど、どうも」

「ユージ何緊張してんだ? 俺の親父だ」

「へ?」

「おお、紹介が遅れて済まなかったねえ。私はヴェルコート・ジェントラー。テリオスの父親だ」


 ――にゃんと! て事はジェントラー家の当主、ジェントラー侯爵か!? にゃんて事だ! ニャントラー侯爵が何故ここに?

 ――裕二様。ニャントラーではなくジェントラーです。


 セバスチャンの突っ込みは、当然ジェントラー侯爵には聞こえず、そのまま話しを続ける。


「ハッハッハ、驚かせて済まなかったね。緊張しないでくれ。僕の事はヴェルと呼んでくれて構わない」


 ――呼べるかボケ!


「親父、変な強要するな。余計ユージが緊張するだろ」

「それもそうか。まあユージ、とりあえず座ってくれ」


 裕二は席に座り何とか落ち着きを取り戻す。部屋には高そうなカップを使った紅茶が運ばれ、その間テリーとジェントラー侯爵は他愛のない話しをしている。その内容は裕二の頭にはほとんど残らない。


「ではユージ。テリオスと仲良くしてくれて本当にありがとう。父親として礼を言うよ」

「い、いえ。テリーには色々助けて貰ってますから、礼を言われる様な事は……」

「親父。そんな事より本題に入れよ」


 ――テリーは養子なのに随分砕けた態度だな。テリーらしいと言えばそうなのだが……俺とは偉い違いだ。


「そうだな。テリーからユージに養子の誘いがあったそうだね」

「え?! は、はい」


 ――まさかその為にわざわざ来たのか? 考えられん。


「何でもグラスコード家の兄妹には嫌な目にあわされてるとか」


 ――そんな話しまでしたのかよテリー!


「そ、それは――」

「あ、いや済まんね。ちょっと立ち入りすぎかもしれんが。で、ユージがもしもの場合、我がジェントラー家で、ユージを養子に迎えたいとテリーから聞いている」

「はあ、ですが、やはりご迷惑では……」

「そ、そんな事はない! ユージ。君なら大歓迎だ。迷惑だなんて思わないでくれ!」


 ジェントラー侯爵は裕二の言葉を聞き、急に慌てだした。


「親父!」

「はっ、いや。ユージはグラスコード家に学費と生活費を出してもらってるので、そう簡単にはアチラを裏切れないと考えている。そうだね」

「はい。グラスコード侯爵にはその恩がありますので、自分の都合で勝手に出て行くのはマズイと思います」

「確かに。しかし、兄妹の……いや、様々な事情でもし、グラスコード家にいられなくなった場合。その時は遠慮なくジェントラー家を頼ってほしい。君がどんな選択をしようとも、その事情は最大限考慮しよう。もちろんジェントラー家に来られなくても私達は既に友人だ。他の事で頼ってくれても構わない」

「え……」


 ――どうこう事だ? 何故そこまでしてくれる。


 裕二がそう考えているとテリーが口を開く。


「ユージ。これで安心だろ? お前さえ良ければいつでもジェントラー家に来られる。その確約をジェントラー家の当主から得たんだ。これで俺の言う事も納得出来ただろ」

「まあ、確かに。でも何でここまでしてくれるんですか? テリーが言うだけならともかく、ジェントラー侯爵まで」


 裕二はその疑問をジェントラー侯爵にぶつけてみた。どう考えてもそこまでされる理由がわからない。


「そ、それはだね――」


 ジェントラー侯爵が少し言い淀むと、間髪入れずテリーが話しだす。


「ユージの事は俺が手紙で詳しく教えていた事もあって、親父は前からユージを気にかけてたんだ」

「そう、その通り! テリーの見込んだ人間ならばジェントラー家にも相応しい」

「親父は黙っとけ! それにお前の魔法の才能もある。ジェントラー家にとっては有能な魔術師を養子に迎えるのは得はあっても損はない。俺も似たようなもんだしな。お前はいつでもジェントラー家に来れる。今すぐでも構わないぜ。あんな馬鹿を野放しにしているグラスコードに文句は言わせない。今はそれだけわかってれば良いんだ」


 今は、というのが気になるが、納得出来ない話しでもない。それに裕二にとって、グラスコード家と関係が悪くなった時の、受け入れ先があるのは悪い話しではない。むしろ歓迎すべき事。


「なるほど……」


 ――だがやっぱり、それを言うためだけに来たのか……


「ユージ。少し立ち入って申し訳ないが、彼らはナイフを持ったチンピラまで差し向けたそうじゃないか。ジェントラー家に来ればそのような事は絶対させない。今の状態は君にとって余り良い環境とは思えない。もし君がそういう奴らをどうにかしてくれ、というのであれば、ユージが我が家に来ないとしても、全力でどうにかしよう。だが、君の意思もなければそれも難しいのでね。そんな選択肢もあるんだという事を覚えておいてほしい」

「わかりました。ありがとうございます」


 裕二の返事にジェントラー侯爵は満足そうな笑顔で応える。


 その後、少しの雑談を終えるとテリーが立ち上がり、裕二に退席を促す。


「そろそろ行くか」

「そうだな」

「おお、もう行ってしまうのか……また今度ゆっくり食事でもどうかね? ユージと話すのは楽しくてね」

「はい、また是非」


 と、裕二は社交辞令を交わし店を出た。

 だいぶ和らいだとは言え、緊張状態にあった裕二も、普段の調子に戻ってテリーと話しだす。


「なっ? 養子の件は大丈夫だっただろ」

「そうだけど前もって言ってくれよ。緊張するだろ」

「そうだったか。悪いな」


 テリーは全く悪いとは思ってない表情でそう告げた。そして二人はチェスカーバレン学院に向かって歩き出す。


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