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剣と魔法と七体の人工精霊  作者: ひろっさー
第一章 異世界転移と学院
2/219

2 サバイバル生活


 現在裕二が所持している物は、スマホ、小銭、家の鍵、飴二つ、ブロック状のバランス栄養食品ひとつ、ボールペン、生徒手帳だ。食料以外は役に立ちそうもない。

 服装は上下詰襟の学生服と革靴。学校にいたままの格好だ。とても動きやすい、とは言えない。だが、そんな事より寝床や水、食料の確保を考えるべきだろう。


「最優先は水かな」


 裕二は袖をまくり、壊れた石碑のある場所から宛もなく歩き出した。

 空は快晴、空気は澄み切っており、気温も低くなく丁度良い。周りは静かで、遠くに鳥のさえずりが聞こえる。

 これがピクニックや登山なら気分は良いのだろうが、生存の手段を探さなくてならない今の状況では、そんな事気にしてはいられない。


 この辺りは背の低い草花があり、他には岩石くらいしかない。たまに白い半透明な岩石があるが、それを綺麗だとか思う余裕もない。


 しかし、三十分程歩くと、どこからかチョロチョロと水の流れる音がする。


「水か?!」

「あっちだー!」


 アリーが元気良く指さす方向に裕二が走って行くと、そこには幅二十センチくらいの小川が流れていた。

 裕二はすぐにその水を手ですくい、乾いた喉へと流し込む。


「うめー! けっこう冷たいな」

「雪解け水じゃないの?」


 小川の源はすぐに見つかった。

 岩の隙間から少しずつ流れた水が小川になっているのだ。


「魚とか、いないかな」

「いないよー」


 裕二はここに魚がいて欲しいという思いからそう言ったが、水深は十センチもない小川なので魚はいないだろう。アリーはそれを素直に言っただけだ。


「即答されるとへこむ……」

「ごめんねー」


 水は見つけたが寝床と食料確保の目処は今日中に欲しい。今日は学校に行く前、朝食はとっているので一〜二食抜いても平気だろうが、それ以上は体もきつくなるだろう。食料が取れないとしても、それがある場所、そしてそのとり方を考えるくらいの段階には行きたい。

 寝床は最悪そのへんで寝ても良いが、あるにこしたことはない。


「アリー。洞窟みたいな雨風凌げる場所を探したいから手分けしよう。俺が向こう行くから――」

「あったー!」


 アリーはそこから少し離れた大きな岩のある場所を指さした。そこを良く見ると、岩の影に洞窟がある。その入り口は人が立って歩くには充分な高さがある。


「おお! 良くやった。行こう」

「行こー!」


 その洞窟は奥行が十メートル程あり、そこからエル字型に曲がって行き止まりになっている。


「ここなら風もこないし丁度良いな。しばらくここを寝床にしよう」

「ベッドつくろー!」


 洞窟の中はジメジメした感じもなく過ごしやすそうだ。しかし洞窟の地面にそのまま寝たら固いし冷たいのでどうにかしたい。


「とりあえず寝床用の草とか薪も必要だな。火はどうするか……」

「ファイアードラゴンだ!」

「食料は森近くまで降りないとダメかもな」

「ファイアードラゴンだ!!」

「水を入れる容器も欲しいな」

「ファイアードラゴン!!」

「わかったよ、うるさいな」


 裕二は洞窟から出ると、森に向けて斜面を降りだした。見た感じ、まっすぐ降りれば二〜三十分で着きそうだ。

 途中、周りを見ながら後で刈り取る為、草の多い場所を確認しながら進む。


「裕二、なんかいるー!」

「何だ?」


 アリーの指さす方向には、ニワトリくらいの大きさのウズラの様な鳥がいる。三十メートル程先にいるその鳥は、既にこちらの存在に気づいているようだ。


「食料だ!」

「やきとり!」


 裕二はそっと近づくと、まだかなり距離があるにもかかわらず、鳥は物凄い速さで逃げて行った。捕まえるのはかなり困難だ。


「はえーな。あんなの捕まえられる気がしないよ」

「やきとり速い!」


 仕方なく鳥は諦め、そのまま下へおりる。途中、急斜面もあったが何とか森に辿り着き薪を集める。しかしあちこち歩き周りながら落ちてる枯れ枝を集めるのは大変な作業だ。


「裕二ガンバレー!」


 そう言って裕二を応援するアリーは近くの木の枝に座り、足をバタバタさせながら手を振っている。

 だが、その光景を見た裕二は違和感を感じ、アリーをじっと見つめる。


「裕二どうしたのー?」

「アリー、もう一回足をバタバタさせてみて」

「こう?」


 アリーが足をバタバタさせると、アリーの座っている枝も一緒に動いている。

 普通なら当たり前の事だが、アリーはタルパなので物理的な事は一切出来ないはずだ。


「アリー、そこに落ちてる枯れ枝拾ってみて」

「いいよー」


 するとアリーはあっさりと枯れ枝を持ち上げた。霊体であるはずのアリーが物を持ち上げる、という事は実体化しているという事になるのか。


「何でだ?」

「わかんない」

「うーん、とりあえずいいか……いやちょっと待て。他に何かできそうか?」

「えーとね。たぶん裕二くらい大きくなれるよ」

「なに! そうなのか?」

「うん!」


 アリーはそう言うと十五センチくらいの大きさから、いきなり百五十センチくらいの大きさになった。

 座っていた枝はバキッと折れて、アリーはそのまま地面に着地した。


「え? ええええ!?」


 何故そんな事になるのかサッパリわからないが、その後色々検証すると、アリーは十五センチから普通の女の子サイズまで大きさを変えられる。物理的な事も普通に行えるが、力はやっぱり普通の女の子程度。そして以前と同様に霊体にもなれて、消えたり物理的な影響を与えず木をすり抜けたり出来る。


「どういう事だろうな? 異世界にきた影響か?」

「わかんないけどそー」


 他にも何かできそうな気もするが、今は薪を集めなくてはならない。検証を中断して再び薪拾いを始めた。


「アリーも薪拾い手伝ってくれ」

「わかったー!」


 ふたりで別々に薪を拾い一ヶ所に集めておく。そしてもうそろそろ良いかと思った時、アリーが何か見つけた。


「裕二、タワシみたいのあるー!」

「タワシ?」


 裕二がアリーの所に行くと、そこには毛が伸びた茶色いタワシの様な植物があった。大きさは人の頭三つ分くらいある。


「何だこれ?」

「フカフカー!」


 笑顔で触ってるアリーを見て、裕二もそのタワシみたいな植物に触ってみた。すると、その植物は意外な程フカフカしていた。


「これいいな! 寝床に使おう」

「ベッド出来るねー」


 よく見るとその辺りには、同じ植物がいくつもある。しかしその植物を根本から折ろうと思ったが、その幹は意外に太く簡単には折れそうにない。引っこ抜こうと思ったがそれもダメだった。


「どうするか。斧みたいの欲しいな」

「作ればいいじゃん」

「どうやって」

「超能力で」

「出来るワケねーだろ」


 裕二の超能力はスプーン曲げがせいぜい。斧など作れる訳がない。しかしアリーはその返答に不満げだ。


「ちーがーうー! アレで作るの!」


 アリーはそう言いながら近くの岩を指さす。


「これをどうするんだ?」

「超能力でパキッて」

「パキッ?」


 アリーの言ってる事は良くわからないが、先程見たアリーの能力の変化。もしかして自分も何か変化しているのかも。そう思い裕二は岩に手を当てる。

 そしてスプーン曲げの要領で念じてみた。

 すると――


 ――パキッ!


「ぬお!」


 岩にヒビが入る。


「これはまさか……」


 更に念じてみると。


 ――バキバキッ!


 岩が割れて崩れ落ちた。


「おお!?」

「裕二、壊しすぎ!」


 ああ、なるほど。この岩を斧頭の形に割るのか。


 裕二は残った岩の平らに割れた部分を見つけ、そこを斧っぽくなる様に斜めに割れるよう念じてみた。


 すると岩はパキッと音をたて割れ、その部分が斜めにスーッと動いた。それを落ちる前に手で持ち上げてみると、斧に使うには丁度良さそうな岩が出来た。


「なかなかの出来!」

「なかなかー!」


 その後、斧の柄に使えそうな木を探し、蔓の様な植物を見つけ、柄に斧頭を巻き付け、何とか斧っぽい物が完成した。


「良し! これでタワシの根本を切ろう」

「切ろう!」


 だが、裕二が斧をタワシ植物の根本に当てようとした時、ある考えに思いが至った。


「この根本も超能力で折れないのか?」

「あっ! そうだねー! アッハー」

「アッハーじゃねーよ!」


 そしてタワシ植物の根本に手を当て、折れる様に念じると、タワシ植物はあっさり折れた。


 気がつくと、辺りは暗くなりかけている。

 今日はこれ以上の作業を断念し、洞窟に戻るしかないだろう。裕二とアリーは蔓で縛り上げた薪とタワシを持って洞窟へ帰った。


「食べる物は取れなかったなあ」

「だねー」


 洞窟につくと中は真っ暗だ。

 裕二はスマホのLEDライトで奥まで進み、そこにフカフカのタワシを並べた。

 タワシはひとつひとつ大きさが違うのでちょっと寝にくいが、何も無いよりはましだ。

 そして数少ない食料のバランス栄養食品を一欠片食べると、そのまま寝てしまった。



 翌朝。昨日の続きで今日は食料を得たい。後は水を入れたり煮炊き出来る容器が欲しい。そして火だ。

 とりあえず今わかっている事、出来る事を上げてみると。

 斧を使った作業が出来る。

 アリーは簡単な作業なら出来る。

 岩を破壊、簡単な加工が出来る。

 たぶんここは異世界。

 という感じだ。


「岩で容器を作れば鍋代わりに出来そうだな。食料は昨日の鳥捕まえられれば良いんだけど……問題は火か」

「だからファイアードラゴン!」


 アリーが昨日から言っているファイアードラゴンとは何なのか。裕二はうっかり聞き流してしまいそうになったが、アリーの言う事は昨日も良くわからなかったが最終的には正しかった。詳しく聞く必要がありそうだ。


「ファイアードラゴンて何なんだ?」

「作ればいいでしょ!」

「何を?」

「ファイアードラゴン」

「…………あっ! もしかしてタルパ」

「そー!」

「だけどタルパ作るのは数ヶ月は……いや、異世界に来て能力も変わってるんだよな。てことは……」


 裕二はすぐにファイアードラゴンをイメージする。

 真っ赤な鱗に翼を広げた雄々しき姿。口から火炎放射機の様に火を吐き、大空を飛ぶ。


 裕二は目をつぶりその姿を細かくイメージする。すると目をつぶった暗闇の中からはっきりとしたファイアードラゴンの形が現れた。

 裕二はそれに確かな手応えを感じ、目を開ける。


「お、おお!」


 裕二の目の前にイメージ通りのファイアードラゴンが浮かんでいる。


「ちっちぇーぞ!」


 だがちっちゃかった。


「元のアリーくらいの大きさだな。大丈夫かこれ?」

「火出るー?」


 そのちっちゃいファイアードラゴンは翼をパタパタさせながら空中に浮かび、裕二を見つめる。ドラゴンというより赤くて翼のあるネズミだ。


「良し、火を吐けファイアードラゴン!」


 ファイアードラゴンは『ミャアアア!』と一声鳴くと予想以上のどでかい火を吐いた。


「あちーよ! こっちに吐くな!」


 だが大成功だ。これで火の確保は出来た。しかし何故こんなに小さいのか。


「時間短かったからねー」

「短時間で作ったから小さいって事か。なるほどな。だけど良く考えたら、どでかいドラゴン出来ても困るよな。火をつけるだけだし」


 短時間で作ったタルパは、やはりそれなりのものになってしまう、という事なのだろう。それでも本来なら長期間かかるタルパ作成が、こんなに簡単に出来てしまう事が凄い。異世界に来たことで様々な能力が変化している事は間違いない。


「名前つけよー!」

「名前か。アリー付けてくれ」

「チビドラ!」

「じゃそれでいいや。よろしくなチビドラ」

「ミャアアア」


 こうしてチビドラが新たな仲間に加わった。





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