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剣と魔法と七体の人工精霊  作者: ひろっさー
第五章 クラカト
198/219

198 逃げきり


「テメエがユージって奴か?」

「そうだ。お前は誰だ」


 ワグラーはそれに答えず、四人を舐めるように観察する。


「討伐部位あさりかよ。アイツが言うほど大した奴じゃなさそうだな」

「だから、何か俺たちに用なのか?」

「その女と……後ろの女がフォートナーの娘か。どっちも上玉じゃねえか。先に俺が味見するか」

「な、なんだと!」


 裕二はそれを聞き勢い良く立ち上がる。しかし、もちろん剣を抜いたりはしない。


「へへ、悪いな。お前に恨みはねえが、ここで死んでもらう。後ろの女騎士もな」

「ど、どう言う事だ!」

「おっと、動くなよ。この武器はここからでもテメエを簡単に殺すぜ」


 ワグラーが現れた瞬間から、裕二はそれに気づいていた。それは間違いなくワグラーの言っていた『アレ』だ。

 この世界では見た事のない鉄の武器。それは剣とはまるで違う形。

 エリネア、シャーリーン、エバには、それが何なのか全くわからないだろう。武器だとも思わないかも知れない。

 しかし、裕二は知っている。それは裕二の元いた世界にあった武器。もちろん触れた事はないが、様々なメディアを通して何度も見た事がある。


 それは――


 ――アサルトライフル、AK-47。何でそんなものがここにあるんだよ。


 ワグラー以外の仲間が、その銃口をこちらに向けた。


「女はもらってくぜ。まあ、死んじまうテメエには関係ねえか。やれ!」


 ワグラーがそう号令をかけた瞬間。

 後ろの四人の首をムサシが一気に跳ね飛ばす。そして、前方のワグラー以外の四人は突如現れたリアンが右二人をガトリングガンで、左二人を爪で真っ二つに切り裂く。

 そしてワグラーは、クイックムーブで一気に距離を詰められた裕二に銃を取り上げられ、足払いで地面にうつ伏せに倒された。


「セバスチャン。残りの銃を急いで回収しろ」


 そこまでおよそ一秒以下。リアンとムサシも即消える。

 呆気にとられてうつ伏せのまま裕二を見上げるワグラー。何が起きたの、すぐには理解出来なかったようだ。裕二は他の武器も全て取り上げ、ワグラーの両手首足首を縄で縛りあげる。そして、その場へ座らせた。


「て、テメエ……もしかして最初から……」


 自分が嵌められた事を素早く理解し、悪態をつくワグラー。裕二はいきなりその顔面を蹴り上げる。

 ワグラーの口からは血と折れた歯が噴水のように吹き出す。


「お前、自分の立場わかってんのか。大盗賊ワグラー。グレイダに頼まれて俺を殺しにきたんだろ」


 そこで僅かに目を見開くワグラー。しかし、言葉は発しない。


「こんな物をどうやって手に入れた」


 裕二は銃を見せながらワグラーに問う。しかし、ワグラーは答えない。

 裕二はそんなワグラーを銃床で殴りつける。


「さっさと答えろ!」

「ユージ様、それではダメです。私が代わりましょう。エリネア様は姫様をお願いします」


 エバがそう言って裕二と代わる。そのやり方ではワグラーは答えない。つまり生ぬるいと言う事だ。エバは剣を抜いてワグラーの前に立つ。


「貴様とグレイダはアントマンティスを増やして、何をするつもりだった。答えろ」


 淡々と質問するエバ。ワグラーはそれに答える様子はない。すると、エバはいきなりワグラーの太ももに剣を突き刺した。


「ぐあああ!」


 それをそのまま押し込んで行く。


「や、やめろ!」

「答えるまでやめると思うか。貴様も罪もない人に散々同じ事をしてきただろ」


 恐ろしい程に鬼気迫るエバ。彼女もかつて、ワグラーに仲間を殺されたのだ。中には拷問にあいながら死んでいった者もいる。その憎しみもあるのだろう。ワグラーは悶ながら悲鳴をあげた。


「耳や指がなくなってもすぐには死なんだろ。耳からいくか」


 そう言ってエバはワグラーの耳を強く引っ張りながら、太ももに刺さった剣を抜く。それを躊躇する事なく振り上げた。


「わ、わかった! 話す、話すからもうやめろ」

「ではさっきの質問に答えろ。嘘や誤魔化しがあればすぐに耳が飛ぶぞ」


 この仕事は裕二よりもエバの方が向いてるようだ。裕二はそちらをエバに任せ、ワグラーの証言を記録する為、自分はスマホを取り出し撮影を始めた。


「アントマンティスは確かに増やしてた。蜜核を取る目的もあったが――」


 ワグラーは説明を始める。その目的はクラカト湖に隣接する街、バルフォトス、ポルスク、エーゼルを乗っ取り、支配下に置く事だと言う。


「そんな事が可能だと思うのか」

「可能だ。フォートナー軍さえ潰せばな」


 フォートナーの正規兵は約百五十名。徴兵もあるので、その数はもっと増える。それに対しワグラーの盗賊団は七十名ほどしかいないと言う。それでは到底勝ち目はない。

 しかし、ワグラーはこの地にいるアントマンティスに目をつけた。これを増やしてフォートナー軍にぶつければ、と考えた。

 だが、もちろんそれでもフォートナーには勝てない。アントマンティス討伐は彼らが定期的にやってる仕事でもあるのだ。単純にアントマンティスをぶつけるだけでは難しい。

 そこでワグラーはアントマンティスを色々と調べているうちに、それが変異する事に気づいた。数が少ない段階でも、低確率で発生していたようだ。全ての群れをそれに入れ替えれば、勝てる可能性は高まる。しかし、それをするには時間がかかる。そこでグレイダに話を持ちかけた。


「アレはクズだからな。金と女と地位さえ用意すりゃ、何でも言う事を聞く。全て終われば殺して終いだ」


 グレイダも殺すつもりだったらしい。そのグレイダの役割は、アントマンティスを増やす迄の間、フォートナー軍を動かさない事。なのでグレイダは被害を小規模に偽って報告し、その規模であれば、今回は試しに冒険者を使ってみるとフォートナーに提案した。

 そして、エーゼルに冒険者ギルドを招き、そこに依頼を出したのだ。しかし、その冒険者もアントマンティスを増やしたいのだから、あまりいてもらっては困る。冒険者は討伐ではなく、時間稼ぎに必要なだけだ。なのでグレイダはエーゼルの店に嫌がらせを指示した。その嫌がらせによって、冒険者の数をコントロールしたかった。エーゼルの店が非協力的だと噂されれば冒険者は増えない。グレイダはワグラーからそう指示された。実際、裕二がガラックに店を出さなければ、その通りになっていただろう。

 そして、クラカトの森では順調にアントマンティスを増やし、満を持してフォートナー軍をおびき寄せるつもりだった。グレイダが冒険者では上手くいかなかった、と報告すればそれで終わりだ。

 数万の変異種を含むアントマンティスの群れ。最初は勝てたとしても、徐々に疲れてくる。やがてフォートナー軍は追い詰められ、兵の数も減っていく。その背後からワグラーの盗賊団が襲いかかる。それでも七十名と言う数では厳しいが、ワグラーは何故か銃を持っていた。アントマンティスとの戦いに疲れ果てたフォートナー軍。その後ろから遠距離で銃に撃たれる。それがあるならワグラーは勝てる。そう考えたのだ。


「ユージの言っていた通りね。その武器以外は」


 エリネアはその話を聞き、事前に裕二が推測していた内容と比べる。そこでわからなかったのは『アレ』と言われていた銃だけだ。さすがにこれは裕二も予想しなかった。


「この武器は他にもあるだろ。全てお前らのアジトにあるか、仲間が持ってるのか」


 裕二はスマホを構えながらワグラーに質問する。


「ああ、そうだ」

「その仲間は今、どれくらい森に出てる」

「今はいねえ。お前らを警戒させたくねえから、全員アジトへ帰した」


 ワグラーもかなり慎重に行動していたようではある。それは、裕二たちの討伐部位を集める行動に注目していた事からもわかる。死体漁りをする程度の連中でなければ、もっと警戒していただろう。

 ワグラーは裕二たちの目の前に現れて、あんなお喋りなどせず、遠くから撃ち殺せば良かったのだ。そこは死体あさりをし、愚者を装った裕二に嵌められてしまった。

 他人の獲物を漁る情けない姿。それは裕二の演出だ。


 ワグラーの話した内容はだいたい裕二の予想通りでもあった。嘘はほとんどないだろう。

 後はアジトの場所と、何故銃を持っているのか。そして、フォートナーを乗っ取った後、どうするつもりだったのかを聞きだす必要がある。


 ――おそらく、この銃は……


 しかし、そこでちょっとしたトラブルが起きてしまう。


「あ、あれ……マズい!」


 裕二がワグラーの言葉を記録する為に撮影していたスマホ。長時間使いすぎたのか、いきなりバッテリー残量警告が画面に映し出される。


「どうしたのユージ!」


 動画撮影は結構バッテリーを使う。久しぶりにスマホを使った裕二は、それを完全に失念していた。


「いや……」


 その様子にエバとシャーリーンも注目してしまった。それがほんの僅かな隙をワグラーに与える。


「貴様!」


 ワグラーは両手首足首を縛られたまま、転がるように逃げようとする。しかし、そんな状態で逃げられないのは誰の目にも明らか。それが油断に繋がる。一番近くにいたエバも、そこで追跡を緩めてしまった。どう見ても逃げられないのだから、それも仕方ないのだろう。歩いても追いつける、と思うのが普通だ。

 だが、ワグラーの目的は逃走ではなかった。


「そんな事しても逃げられは――しまった! やめろ」


 ワグラーは転がった先にあった、濃い紫色の花を必至で口の中にいれ、それをろくに噛まずに飲み込んだ。


「どうしたんだエバ」

「それは、猛毒の花! ワグラーは自害を!」

「なに!」


 エバはワグラーに馬乗りになり、口に剣の柄を押し込んで自分の指をいれた。しかし、そこに花はもうなかった。


「グッ……グホッ!」


 直後にワグラーは口から血を吐き、全身が痙攣を始めた。その目は虚ろでもうなにも見てはいない。それが数分続くと、ワグラーはそのまま息絶えた。

 ワグラーはこの後、バルフォトスで更に苦しい拷問の末に処刑されると知っていたのだろう。彼は最後の最後まで、逃げる事を諦めず、それを自害と言う形で達成してしまったのだ。


「クソッ! 申し訳ありません、ユージ様。私の油断で……」

「いや、今のは仕方なかった。俺のトラブルも原因だ。自分を攻めないでくれ。それに……ワグラーが一枚上手だったのもある。エバに落ち度はないよ」


 ワグラーは死に、その屍がその場に残った。後は銃とバッテリーの切れかけたスマホ。銃は予想外だったが、証人のワグラーが死んだのは痛い。裕二の予想よりも少ない成果となってしまった。


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