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剣と魔法と七体の人工精霊  作者: ひろっさー
第五章 クラカト
196/219

196 クラカトの森へ


 村と冒険者への支援。それは裕二たちの頑張りで何とか形になってきた。後は大して裕二のする事はない。その当事者たちが勝手にやってくれる。

 裕二とエリネアは、ウォルターから受け取った護符をもっており、この地での派手な戦闘もしていない。

 冒険者や村人には有名になっただろうが、ここにいるはずの魔人には見えていないはずだ。

 仮に魔人がこの地での異変を感じたとしても、それは発展する村や雑魚を効率よく倒す作戦でしかない。

 ここにクリシュナードがいる。或いはシェルラックの高位冒険者、ユージがいる。そう思われる可能性はかなり低く抑えられているだろう。

 残る問題はグレイダとワグラー。そして、未だ数多く残るアントマンティスをどう処理するか。

 セバスチャンの調査では、アントマンティスの数は一万から五万と、かなり多い。これを先にやるのなら、派手な戦闘にならないよう考えなければならない。

 しかし最終的には、それらのどこかに魔人がいる事を想定しているので、どれを先にやるかの順序は慎重に決める必要がある。


「アントマンティスは人為的に増やせる。グレイダはただ威張って命令するだけのバカ。やっぱりワグラーが怪しいよな」

「先に魔人への対処をした方が、アントマンティスとの戦いで、色々気にしなくても良いわよね」


 ガラックの冒険者たちが眠りに就こうとする時間。その食堂のテーブルでエリネアが裕二にそう話す。


「グレイダはどちらにしろワグラーの後になる。おそらくアイツがグレイダを使ってるだろうからな」

「じゃあ、まずはワグラーの調査を優先しながら、数万のアントマンティスをどう殲滅するかを考えたら?」


 今のところ一番謎に包まれているワグラー。彼の目的は何なのか。そして、その手段とは。

 今まで知り得た情報で、ある程度の予測はしているが、まだわからない事もある。


「そうだな。数万のアントマンティスとじゃ、地味に戦うのは難しいし」

「そこは新たな攻略法じゃない? 数万のアントマンティスの屍が転がるなら地味にはならないけど――」

「まあ、そう言う事だな。リアンが使えたら余裕なんだが……」

「それだと三分で終わりそうね。さすがにマズイわよ」


 そんな事が出来る者など限られている。それがクラカトにいると宣伝するようなものだ。


「まあ、とりあえずはそれで行こう」


 二人は話を終えると宿へ戻って行った。



 翌朝、裕二は全員を集めて今後の説明をする。


「フレックとキリーは森近辺のアントマンティスをやって欲しい。強い冒険者や手際の良い冒険者の指揮も頼む。笛なしでマッカチンと戦えそうなのもいるだろ?」

「わかった。そいつらはアントマンティスの多い場所担当だな」

「……草原から森へ、下級、中級、上級と分ければ良いと言う事」


 フレックとキリーにも異論はないようだ。


「俺とエリネア、シャーリーンとエバは森へ入る」

「いよいよワグラーですか」


 シャーリーンはそう察したようだ。この四人はワグラーから見て、グレイダから頼まれた四人組。つまり目印となる。

 裕二とエバは殺し、エリネアとシャーリーンを捕まえる為に、ワグラーは裕二たちの近くに現れるだろう。


「エバはシャーリーンを守る事だけ考えてくれ。後は俺たちがやる」

「心得ました。姫様には指一本触れさせはしません」

「あと、一応二人には護符を渡しとく」

「護符ですか?」


 シャーリーンが不思議そうにそれを受け取り、エバにも渡す。それはウォルターから受け取った魔人の目を誤魔化す為の護符だ。


「お守りだと思ってくれ。じゃあ行くか」


 そう言う事で予定は決まった。冒険者たちも昨日の出来事で、組織的な意識が高まったのか、ガラックに順番で見張りを置くようだ。そして、フレックを中心に地図を眺めながら、場所の指導をしている。今までバラバラにやってた事も効率的になるだろう。


「フレック、キリー。そっちは頼むぞ」

「任せとけ!」

「……頑張る」


 そう言うと、裕二たちは馬に跨りクラカトの森を目指す。



 裕二とエリネア、エバとシャーリーンそれぞれ馬に二人乗りで草原を走る。

 遠くにはいくつかのやぐらが見え、その近辺にも冒険者が集まりだしている。

 こちらに手を振る彼らの首には、ヒモで結ばれたアントマンティスの笛がぶら下げられている。


「エバに聞きたいんだけど、フォートナーであの笛の大量受注って、ありそうなのか?」


 裕二はガークックにそんな事も言ってはあるが、もちろんその場で考えた内容だ。実際、細かい事を考えての発言ではない。


「充分あり得ます。興味は確実に持つでしょうね。私も画期的だと思いましたし、その成果も見ています。あの笛があれば徴兵はかなり抑えられるでしょう。そうなれば兵の安全とコストが全然違いますよ」


 フォートナーの騎士団に所属するエバがそこまで言うなら、大量受注の可能性はかなり高い。しかも今まで捨てられていた部分を利用するのだから、価格も抑えられる。その分大量に作って売らなければ大きな儲けにはならないが、そこはベルとウドーを含めたガークックの頑張り次第だろう。


「ガークックの事をよろしく頼むよ。今回アイツには随分世話になったからな。少しは儲けさせてやりたい」

「わかりました。もし笛を真似する者が現れても、ガークック殿を優先するよう働きかけます。発案者であるユージ様のご友人ですからね」


 シャーリーンもそれを聞き、笑顔で話に加わる。


「あの方はとても義理堅い方ですね。ユージ様にも感謝しているのでしょう。昨日の冒険者たちへの説得の言葉はとても良かったです。何とかしてあげたいですね」

「俺もそう思ってる。でもそれはガークックに言わないでくれ」


 裕二にそう言われ、首を傾げるシャーリーン。


「何故ですか?」

「アイツはすぐ調子にのる。増長させると失敗するからな」

「ああ……何となく、わかります」


 和やかな雰囲気で草原を走る四人。しかし、これから自分たちを殺そうとしている人物を探さなければならない。裕二が続けてエバに問いかけると、その雰囲気も変わる。


「ワグラーはかなり切れ者なはずなんだが、フォートナーもその認識で間違いないか?」

「その通りです。盗賊に才能が必要なら、奴にはその才能があるのでしょう。その上で極悪非道です。しかし今回は、我々がグレイダとワグラーの関係を知っている事を奴は知りません」


 つまり、ワグラーは裕二たちが自分を捕まえに来るとは思っていない。自分の存在を知らないとさえ思っているはずだ。

 グレイダが裕二たちの殺害、捕縛をワグラーに依頼した。それを裕二たちは知らない事になっている。


「そうだな。だから、人の気配は無視してくれ。俺たちはワグラーに殺されるとは思っていない。森に人がいるとすれば、それは冒険者だ。事前に警戒されると面倒だから、そう振る舞って欲しい」


 大盗賊ワグラー。その人物像は頭が切れ、極悪非道。故に警戒心はかなり高い。こちらが準備万端で待ち構えていると思われたら、ワグラーは逃げる可能性もあるだろう。いざとなればグレイダの依頼など無視だ。だからこそ、ワグラーは何年も大盗賊でいられ続けているのだ。


「わかりました。しかし、あの映像だけで、良くそれがわかりますね」

「映像だけじゃないさ。ワグラーが森にいてアントマンティスを増やしているのなら、俺たちが考えた攻略法と似たようなを事をしているはずだ。もちろん俺たちより奴が先にな。バカに出来る事じゃない」


 そうでなければ、数万のアントマンティスがいる森にいつまでもいられない。そんな事をしていたら、高い死の可能性が常につきまとってしまう。しかし蜜核を大量に奪い取り、アントマンティスを増やしたいのなら、そこを避けては通れない。

 そして、ワグラーがグレイダと話していた時に言っていた『アレ』と言う言葉。警戒しているからこそ、そこを濁している。それはワグラー側のアントマンティス攻略法にも関係があるのだろう。


「なるほど……ユージ様ほどの知恵があれば、我々もワグラーをとっくに捕まえていたのでしょうね」

「ワグラーもその知恵を良い事に使えば、大成していたかも知れないのにな」


 今まで間接的、断片的に見えたワグラーの行動が、その才能を示している。彼がもし、フォートナーの軍事顧問なら、そこにかかる費用を大幅に抑える事が出来るだろう。そんな風にも考えてしまう。


「ですが、奴は捕まれば処刑です。領民も兵士も大勢殺してますから」

「まあ……それは仕方ないか」

「グレイダもそうなるでしょうね。そのワグラーと通じてましたし」


 グレイダはエーゼルの代官と言う立場から、ワグラーを見つけたらすぐにフォートナーへ知らせていなければならない。それをせず、自分の屋敷で会っている時点で、二人は結託している証となる。たとえグレイダが現時点で何もしていなくても、それは同じだ。


「その前に、実態がどうなっているのか掴まないと。その場で殺すなよ」

「はい。それは心得ております」


 やがて裕二たちの前に、クラカトの森が見えてくる。四人はそこで馬を降り、森の奥へと分け入っていく。

 裕二はいつも使っている魔剣ヘイムダルではなく、普通の鉄の剣を装備する。

 魔剣持ちと言うだけで警戒させない為だ。


「エリネアはファイアボールを適当に散らしてくれ。倒せるギリギリがいいな」

「わかったわ」


 ――アリー、チビドラ、セバスチャンは周りを警戒だ。

 ――わかったー!

 ――ミャアアア!

 ――畏まりました。

 ――リアンとムサシは不意の攻撃に備えてくれ。シャーリーンとエバを守るように。ワグラーは殺すな。

 ――うむ。


 これでワグラーとその仲間が何をしてこようと問題ないが、そのワグラーには、裕二たちが普通の冒険者に見えるだろう。そのうちの二人は、フォートナーの者と知っている。おおよその戦力は把握したと思うだろう。


 森に入るとすぐにアントマンティスの群れが現れ、裕二たちに襲いかかってくる。それを、本当は簡単に倒せるのだが、苦戦しているように見せかけながら進む。


「これはこれで、結構めんどくさいな」

「本当ね。でも縛りのある訓練だと思えば、何とかなるわ」


 先頭でそうボヤく裕二とエリネア。


「普通に強く見えるのですが……」

「姫様。私もです」

「ぐっ……マジかよ」


 と言う事はもう少し手抜きをしなければならないのか。裕二もそれを聞き、少しため息を吐きながら森の奥へと進む。


「マッカチンと赤黒マンティスは増えてるな。変異種の入れ替わりが進んでる証拠か」

「群れを構成する、アントマンティスの数も増えてるわ。ひとつの群れの力は大幅に上がってるわね。私たちには感じにくいけど」

「だな。確実に人の手が入ってる」


 マッカチンも赤黒マンティスも例外的な変異。女王が統一されずに群れが増えている。兵隊を避けて女王を殺すからそうなる。通常のアントマンティス同士の戦闘ではない。


 森の奥へ行くほどアントマンティスの密度は上がってくる。そこを手抜きしながら進むのは予想以上に面倒だ。しかし、そうしながら進んでいると、そこへセバスチャンがやってくる。


 ――裕二様。あちらへお進み下さい。

 ――わかった。何かあるのか。


 裕二はセバスチャンが指し示す方向へ歩みを進める。するとそこには異様な光景が広がっていた。


「な、何だあれ!」


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