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剣と魔法と七体の人工精霊  作者: ひろっさー
第五章 クラカト
195/219

195 スペシャルトリオ


 裕二たちはエーゼルでの用を終え、ライラの様子を見てからガラックへと向かった。そこへ到着する頃には、陽は完全に落ち、辺りは暗闇に包まれているだろう。

 裕二たちがいない間、ガラックにはグレイダが訪れ、店に対する嫌がらせをしていた。しかし、それを片付けた張本人であるセバスチャンから、事の顛末を聞いている。


 ――ほうほう、ガークックがそんな事を。やるじゃん。

 ――はい。一度だけ裕二様の名を盾にしてはいましたが、それでも立派な態度でした。


 とりあえず店も人も無事だ。グレイダもすぐには戻って来ないよう、セバスチャンが手を打っている。大きな問題はないようだ。


「ところでユージ。ワグラーの方は放っといて大丈夫なのか?」


 フレックが裕二にそう訊ねる。


「たぶんな。グレイダは先に俺を殺したいだろうし、それをやるのはワグラーだ。その前には動かない。奴らが何か企んでいても、まだ準備にも時間はかかるはずだし」

「そうなのか? その準備って何だ?」

「最初に目に見えて動くのはグレイダだよ」


 裕二は今まで得た情報を元に、フレックたちに詳しい説明をする。もちろん全てわかるワケではないが、既におおよその見当はついている。


「はあぁ、なるほどな! それしかないな」

「……つまり……マッカチンも奴らの……」


 フレックとキリーは裕二の話に納得しているようだ。


「確かに、大規模に事を起こすなら、それが準備になりますね」

「じゃあ、エーゼルの物資値上げもその為に……やはり単なる嫌がらせではないのですね」


 エバとシャーリーンも頷く。裕二の推測が正しければ、今まで得た情報のほとんどはワグラーたちの計画に必要な事になる。


「問題はそれにどう対処するかだな。もちろん、グレイダが動く前に終わらせるつもりだ」


 それをする為には、まだ必要な事が幾つかある。そして、彼らの計画のどこかに魔人がいるはず。エルファスで張られた網は、こちらにも用意されている。その根拠は、ほんの僅かな魔人目撃情報。

 裕二の本当の敵は、最初からグレイダやワグラーなどではない。その先にいる者だ。


「ガラックが見えてきたな」


 先頭にいるフレックがそう告げる。



 ガラックの入り口をくぐると、すぐに煌々と焚かれた松明が見えてくる。その灯りはテーブルに集まる冒険者たちを照らす。

 いつも通り彼らはワイワイ騒いでいるのかと思いきや、何だか様子がおかしい。そこへガークックが駆け寄ってくる。


「ユージ!」


 馬を降りた裕二は歩きながらガークックの話を聞いた。その内容は予想通り、昼間のグレイダ襲撃の件だ。

 多少、自分の活躍を盛ってはいるが、概ねセバスチャンの報告と変わらない。


「でよお。そのオッサンがツエーのなんの。冒険者かと思ったから夜には戻ると思ったけどよ。いねえんだよな」

「そうか……良くやってくれた、ガークック」

「へへ。まあ、大した事はねえよ」


 裕二はその話を聞きながら、周りにも聞き耳をたてている。

 おそらく、と言うか間違いなく、ガークックがここにいる全員にこの話をしている。それが、いつもと雰囲気が違う原因だろう。

 無事ではあったが、グレイダがガラックの店を潰しに来た事実は変わらない。

 冒険者にとって今のガラックは、必要なものが多数揃っている。本来なら、それはエーゼルがしなければならない事なのだが、そのエーゼルは役に立たないどころか、こちらの邪魔さえしてくる始末。


「ふざけやがって。ぼったくりだけじゃ飽きたらねえのかよ!」

「やったのはエーゼルの代官。グレイダとか言う奴らしいぜ」

「店を潰すってのは、俺らの拠点を潰すって意味だぞ。わかってんのかエーゼルは?」


 今のガラックがなければ、冒険者たちは武器が壊れたら終わりでもあり、食料がなくなれば終わりでもある。戦闘をする彼らにとって、それは命の危険にも直結する。

 未遂だったとは言え、グレイダはそれをやった。冒険者たちが怒るのは当然だ。

 裕二がセバスチャンと白虎を配置しておいたので、当分グレイダは来ないだろうが、冒険者たちはそれを知らないし、言うわけにもいかない。

 グレイダの襲撃がこれで終わり、とは誰も思わないだろう。


「おい! 俺は明日、グレイダをぶっ殺しに行く」

「ああ、俺も行く。向こうがその気ならこっちもやってやらあ!」


 冒険者の中からそんな声があがる。


 ――マズイな……


 今そんな事をすれば、それは暴動であり彼らは犯罪者になってしまう。

 現在、冒険者の数はおよそ百二十名ほどいる。そして、エーゼルの私兵は約五十名。彼らがその気になれば、エーゼルを制圧し、グレイダを仕留める事も出来るだろう。しかし、そうなれば今度はフォートナーの軍隊が動く。大量の死傷者は免れない。

 それだけではなく、彼らを取り仕切る臨時ギルドの職員である、パーチの立場も悪くなる。

 何一つ良い事はないが、怒りに任せた冒険者たちにそんな理屈が通用するのか。それがわかっていたからこそ、今まで我慢もしてきたはずだ。そこに一度火がつけば、取り返しのつかない事になってしまう。


「俺たちも行くぜ!」

「そいつをぶっ殺さねえと気が収まらねえ」


 しかし、ひとりの冒険者が発した言葉に、次々と賛同者が現れてしまう。

 これはどうにかしなければマズイ。裕二にとってこれは計算外だった。一応、そうならない為にセバスチャンを置いたのだが、ガークックの説明が彼らに火をつけてしまったようだ。


「ちょ、ちょっと待ってくれ!」


 裕二がテーブルに集まる彼らを前に、そう言いかけた時。そこへガークックが割って入った。


「バカかテメエらは!」


 いきなり大声で怒鳴りつけるガークックに、そこにいる全員の視線が集まる。


「ここにある店、テント、テーブル。その全てを用意したのは誰だ! お前らが使ってる笛とやぐら。それを考えたのは誰なんだよ!」


 それはここにいる全員が知ってる事。全て裕二がやった事だ。ガークックの言葉に、それを聞く全員が静まり返る。


「おめえら、それで随分助けられてねえか? 本当ならもっと人数も少なくて、今頃死んでる奴もいただろうよ。でもユージがこれをやってくれたから、そうはなってねえ! 違うか!」

「そりゃそうだけどよう……」

「悔しいのはわかる。でも一番悔しいのは誰だよ。それを全て考えて実行してくれたユージじゃねえのか?」


 そうガークックに言われ、反論しようと思っていた冒険者も口を閉じる。


「そのユージを差し置いて、何でテメエらがグレイダを殺るって話になるんだ?」


 ガークックの言う正論に誰も答える事が出来ない。しかし、冒険者たちにとってみれば、それでもグレイダから受けた仕打ちを許せるワケでもない。


「じゃあ、どうしろってんだよ! アイツをこのまま見逃すのか? それは出来ねえぞ」

「そんな事は言ってねえ。ユージに任せろって言ってんだ。俺はユージが号令かけるなら、先陣切って突っ込んでやる。そこで真っ先にぶっ殺されるかもしれねえけどな。だが、ユージがそうしねえなら、俺もしねえ」


 静まり返る冒険者たち。ガークックは更に話を続ける。


「ユージは本当にスゲー奴だ。パーリッドじゃユージを本気で怒らせるバカはいねえ。それだけスゲーって街の全員が知ってるからな」


 そこでどよめきが起こる。裕二の今までの評価は、数々の行動から頭の切れるタイプと思っていた者も多いだろう。しかし、ガークックの話では、それとは真逆の部分もありそうだ。


「ユージの作ったものが壊されたなら、その復讐の権利はユージにある。お前らじゃねえ。だけど、お前らの気持ちもわかる。かと言ってユージを放り出して勝手な事していいワケじゃねえだろ。散々世話になってんだ。その前にユージにどうすんのか、まずそれを聞けよ」

「……そうだな。お前の言うとおりだ」


 ひとりの冒険者がそう言うと、他の冒険者もそれに納得する者が増えたようだ。もちろんグレイダを許したワケではないが、落ち着きは取り戻した。何とか話は出来るだろう。


「わかった。俺たちも頭に血が登ってたようだ。謝るぜ」

「でも、どうすんだ? ユージに任せるって言っても、奴を殺す以外に懲らしめる方法なんかあるのか? 結局変わらねえと思うが」


 冒険者たちがグレイダを懲らしめたいと思うなら、それは命をかけたやり取りになるだろう。彼らにはそれ以外の方法など思いつかない。裕二がいたところで、何も変わらないようにも思っている。


「バーカ。そんなのユージがその気になりゃあ、ひとりで充分なんだよ。コイツは魔術師を含めた武装ギャング、四十人を怪我人抱えながら倒すんだぜ。ユージならひとりでエーゼル制圧もできらあ」

「ま、マジか……」

「四十って……それだとエーゼルの私兵と変わらねえぞ」


 その言葉に驚く冒険者たち。裕二にとって、ギャングなど敵ではないが、武装した四十人を倒すと言うのは、一般的に並外れ戦闘力と言える。


「で、どうすんだユージ。殺るなら手伝うぜ」

「はっ?」


 いきなりガークックから話を振られた裕二。そのおかげで冒険者たちは落ち着いてはくれたが、肝心な部分は裕二に丸投げのような気がしないでもない。

 しかし、それでもガークックの作ってくれたこの場の雰囲気。それはありがたく利用させてもらうしかない。

 裕二はガークックの隣に立つ。


「全員聞いてくれるか。俺たちは最初からグレイダとはやり合うつもりでいる。その為に色々と準備はしてきた」


 裕二の言葉に全員が頷く。


「でもその準備はまだ終わっていない。もうしばらくは、何もせずに我慢して欲しい」

「構わねえけどよお。俺たちの役どころもその準備の中にあるのか?」

「ある! むしろちょうど良かった。実は最初から手伝ってもらうつもりだったからな」


 それを聞き、俄に盛り上がる冒険者。


「いいぜ。何でも言えよ。お前には世話になってる」

「おう! 俺の命もユージに預けるぞ」


 血気盛んではあるが、ほとんどの者が裕二に従ってくれるようだ。とは言え、今すぐグレイダに何かするワケでもない。


「グレイダなんかより先に、村人を救わなきゃならない。まずはそちらを優先して欲しい。その為の笛でありやぐらだ」

「わかったぜ。先にここいらのアントマンティスを倒さねえとな」

「その後に、グレイダだな。やってやるぜ! 段取りは任せたぞ、ユージ」


 一時はガークックのせいで混乱はしたものの、これもガークックのせいで何とかなった。しかし、プラスマイナスで考えるなら、ガークックのおかげで僅かにプラスへと傾いたはずだ。


「助かったよガークック」

「へへ、気にすんな。俺とお前の仲だ。あと、ここにヘスがいりゃあ、伝説のスペシャルトリオなんだけどなあ」

「ハッハ……なにそれ?」


 パーリッドの冒険者ギルドに伝わる伝説のトリオ。裕二、ヘス、そして何故かガークック。しかし、裕二はそんな話を聞いた事がない。と言うかそんな話は確実にない。


 しかしガークックの活躍で、ガラックはどうにかいつも通りの様子を取り戻した。

 裕二のするべき事は、着々と進んでいるのだろう。


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