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剣と魔法と七体の人工精霊  作者: ひろっさー
第五章 クラカト
190/219

190 ガークックの危機


 裕二たちはクラカトの森へ入り、そこでアントマンティスの女王を捕まえる事に成功した。

 女王がいればアントマンティスについて、詳しく調べる事が出来る。そして、それはアントマンティスを効率よく倒す為の攻略法へと繫がるはずだ。

 既に裕二の頭の中にはその方法があるのだろう。後は現場でそれが正しいのかどうかを確かめる。これから、その段階に移行するのだ。

 女王は魔法によって眠らされ、頭を出した状態で袋に入り、ロープで縛られている。これで準備が整った。


「えっと、じゃあ、チビドラは――」

「裕二様。終了致しました」

「お、セバスチャン来たか。早かったな」


 そこへセバスチャンが登場する。何やら別の事をしていたようだ。


「クラカトの森におけるアントマンティスの数ですが、やはり大雑把な数字になってしまいます」

「この短時間じゃ仕方ない。どれくらいだ?」

「はい。最低で一万。最大で五万となります」

「一万越えかよ……参ったな」


 セバスチャンのとった方法は、ホローヘイム調査隊がやったのと同じものだ。

 一区画の面積にいるアントマンティスの数を数え、それを森全体の面積に割り当てる。もちろん地形により差はあるので、それも考慮してだ。

 それを霊体化で上空から行ったので、割りと短時間で数える事が出来る。とは言え、それではどうしても正確な数字とは言えないが、今回はだいたいの目安さえわかれば良い。

 一万から五万と言う大量のアントマンティス。これを最終的にどうするのか。それを後で考える為の調査だ。


「派手には出来ないから、ちょっと大変そうね」

「うーん、そうだな。その方法もそうだけど、タイミングも重要だな」


 しかし、これで後は女王を使った調査さえ終われば、ここでやる事は終了だ。

 裕二は再びチビドラに目を向ける。


「じゃあ、チビドラ。ロープを持ってくれ」

「ミャアアア」

「そのままのんびり森を出れば、色々わかるよ」

「え、それだけ?」


 不思議がるエリネアを尻目に、チビドラは女王に括りつけられたロープを持ち上げる。すると女王の体は徐々に浮き上がる。


「チビドラ。女王の体が俺の頭の上くらいにくるようにしてくれ」

「ミャアアア」


 何故そんな事をするのかさっぱりわからないエリネアは、目をパチくりさせながらその後をついていく。

 裕二はチビドラ自体ではなく、チビドラのやれる事がヒントになると言っていた。確かに、持ち上げて飛びながら運ぶ、となるとチビドラが適任だ。


「飛ばすのが重要って事かしら?」

「そうだな。女王を飛ばすとどうなるか。すぐにわかるはず」


 そのままのんびり歩く裕二とエリネア。その速度に合わせて飛ぶチビドラ。

 ここに至るまで、けっこうな数のアントマンティスを倒してきた。なので今、その気配は近くにない。しかし、森の中をのんびり歩いていれば、それも長くは続かない。すぐにガサガサと音を立てながらアントマンティスがやってきた。


「ユージ、またアントマンティス来たわよ。いいの?」

「大丈夫だ。俺たちは少しチビドラから離れよう。攻撃はしなくていい」

「え、ええ……」


 戸惑いながら裕二の後をついていくエリネア。そこにはアントマンティスの群れが迫っている。そして――


「え?」

「そうなるよな」


 エリネアにとっては不可解な、裕二にとっては予想通りの光景となった。

 その直後、裕二が行動に出る。


「ええええぇ! な、なんで?」


 エリネアはそれを見て、驚きの声をあげた。



「これでゴーレムの配置は全て完了だな。キリー」

「……後は……ガラックで待つ」

「あっちは上手くいったのかな」

「……待てばわかる」


 フレックとキリーは全ての村にゴーレムの配置を完了させた。理解してもらうのに時間はかかったが、村の為でもあるので反対されるはずもなく、それ以外はスムーズに事が運んだ。

 現在はその最後となるライラの村。そこを出たところだ。このままガラックに戻り、そこで裕二たちと待ち合わせる。


「次は女王をエーゼルに運ぶ事になるのか。討伐部位もたまってるからちょうど良いだろう」

「……あまり長居はしたくない」

「エーゼルか。確かにな。臨時ギルドもガラックに来れば問題ないんだが」

「……浅はか。今からそんな事したら、グレイダがどう動くか」

「それもそうか。ギルドへの依頼はあくまでエーゼルだからな。勝手には動かせんか」


 裕二たちと会ったら、そちらがどの程度の成果があるかにより、今後の方針も変わるだろう。そこで一番期待したいのは、攻略法があるかどうか。そして、それがどの程度使えるのか。その目標は、下級中級の冒険者が、なるべく安全に討伐出来る事になる。


 ひと仕事終えたフレックとキリーは、街道をのんびりと馬で走る。草原を見渡すと、遠くに冒険者らしき影もチラホラ見えている。ほとんどの冒険者は、現在草原にいるだろう。その中には赤黒マンティスも混じっているかもしれないので、怪我人が出ない事を祈りたい。


 その街道の少し先では……


「ベル、ウドー! 数が多い。下がりながら攻撃しろ」

「が、ガークックさん! これ群れ二つ分くらいいません?」

「ヤバイっすよ!」

「だから下がるんだよ!」


 裕二とパーリッドで知り合ったガークック。彼は今ここにおり、討伐の真っ最中だ。

 その仲間に、ベルとウドーと言う名の兄弟の冒険者を引き連れている。川辺で裕二と別れた後に知り合ったようだ。

 しかし、ベルとウドーはガークックに比べると動きが悪い。経験の差が出ているのか、おそらく下級冒険者だ。ガークックから色々教わりながら、アントマンティス討伐の依頼を受けているのだろう。


「変なのいますよガークックさん!」

「真っ赤だ! 何だあれは」

「そいつは俺がやる! ベルとウドーは他を捌け。隙を見て逃げろ!」

「で、でも。それじゃガークックさんが」

「いいから早くしやがれ!」


 その光景が見える位置にたどり着いたフレックとキリー。大きな群れと戦っている三人の冒険者。二人もそこで真っ赤なアントマンティスを初めて見る。かなりまずそうな雰囲気だ。


「また変なの出てきやがった。あれはヤバいな。助けるぞ、キリー!」

「……了解」


 街道を外れてそちらへ急ぐフレックとキリー。そこにいる内のひとりが、真っ赤なアントマンティスを倒そうとしている。


「馬鹿野郎! そいつはダメだ。離れろ!」


 大声で叫ぶフレック。その声はガークックの耳にも届く。しかし、その後ろには、逃げることすらままならない二人の冒険者がいる。今、引く事は出来ない。


「くそ、うおらあああ!」


 ガークックの使うメイスが、真っ赤なアントマンティスに振り下ろされる。しかし、それは大きな音を立てて鎌にぶつかり、弾き飛ばされた。

 そして、もう片方の鎌が、ガークックの体を捉えようとする。


「キリー! 魔法だ」

「……この距離では……」


 キリーの魔法も届かない。このままではガークックの体に、真っ赤なアントマンティスの鎌が突き刺さる。


「くっ! ダメだ」


 ガークックがそう漏らした時。


「ライトニング!」


 遠くから微かに聞こえた声。同時に目の前のアントマンティスには、轟音とともに青白く図太い光が突き刺さる。そして、その真っ赤な体は瞬時にバラバラとなった。


「い、今のは……」


 そして更に、他のアントマンティスも次々と同じ攻撃により破壊される。


「おーい。大丈夫か……つーかガークックかよ!」

「ゆ、ユージ!」


 突如現れた裕二により、ガークックは事なきを得た。そして反対側からは、フレックとキリーも到着する。


「危なかったな」

「た、助かったぜユージ」


 そう言いながらガークックはその場にへたり込む。



 裕二に助けられたガークック。その仲間ベルとウドーは、しばらくして何とか落ち着きを取り戻す。そして、軽く自己紹介をしてから、裕二は目の前でバラバラになった真っ赤なアントマンティス。マッカチンを見つめる。


「マッカチンがもうここまで来てんのか」

「ユージ。マッカチンて……これの事か」


 フレックが新たなアントマンティス、その大きな特徴である真っ赤な色から納得の表情を浮かべる。


「……真っ赤だからマッカチン……なるほど、良いネーミング」

「まあ、俺が考えたんじゃないけど区別する必要はあるからな」


 などと言いながら、裕二、フレック、キリーがマッカチンを囲む。


「だけどこいつぁ何なんだ? アントマンティスとは違うのか」


 マッカチンを見て訝しむガークック。今まで普通のアントマンティスと戦っているなら当然の疑問だろう。それにフレックが答えた。


「これはアントマンティスの変異体だ。他に赤黒いのもいて、通常のアントマンティスよりも強い。俺たちは群れがこれらの変異体に置き換わる事を懸念している。この真っ赤なのが最上位で良いのか? ユージ」

「おそらく、それで間違いない。黒、赤黒、真っ赤の順に強くなる」


 今のガークックたちの戦い。その様子を考えると、やはり下級中級冒険者にはかなりキツそうだ。この三人の場合、ガークックが中級。ベルとウドーが下級となるだろう。

 現在、草原に広がる冒険者たちは、まだその存在すら知らない。今見た戦いのように、突発的な対応は難しい。こう言った情報も早めに広めなければならない。


「ところでユージ。こちらの配置は全て完了したが、そっちはどうだった。攻略法は出来たのか?」

「バッチリだ。早く広めたいので今から説明する。エリネア頼む」

「ええ、わかったわ」


 裕二がそう言うと、エリネアが素早く馬に乗り、どこかへ行ってしまった。


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