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剣と魔法と七体の人工精霊  作者: ひろっさー
第一章 異世界転移と学院
19/219

19 マレットの焦り


 裕二とテリーはゴンズ武具店を出て歩きだす。


「ミスリルのチェーンメイルは儲けもんだぞ。だいたい俺の作戦通りだ」

「え? もしかして俺に剣を持たせたのは……」

「そう言う事だ。最初に無茶な事を要求して、そこから下げる。するとこちらの要求は通りやすくなる。まあゴンズが俺達の事を気に入ったみたいだから、そこまでしなかったけどな」


 テリーは裕二がオートソウを使えるんだから譲ってやれ、と言う。しかしそんな無茶な要求は通らない。『だったら』買い取り価格に色を付けてくれ、と要求する。この『だったら』が、こちらが譲歩しているように見せかける手口だ。オートソウは諦めるから買い取り価格を増やせ、となるが、実際テリーは何の譲歩もしていない。だが聞いてる方はテリーが譲歩したように錯覚して『だったら』仕方ない、となる。テリーがやろうとしていたのはそう言う事だ。


「そうだったのか、全然気づかなかった」

「まあ、舐めた店だったらもう少し色々いただくけどな」


 と、二人はそんな話しをしながら通りを抜ける。すると人影もだんだんまばらになり、やがて全く人はいなくなった。


「さて、ユージ。おそらく八人だ。てことはひとりで四人だな」

「ああ、でもどうするか……」

「チンピラじゃなくて俺に自分の手の内を見られたくないんだろ?」

「まあ」

「それを隠すのも実力のうち……って、来たか」


 裕二達の前後四人ずつ。計八人のチンピラが現れた。

 だが、そもそも人通りの少ない場所を歩いているのだから当然警戒もする。更に遠くからニヤニヤ見てる奴もいたので裕二もテリーも最初から気づいていた。しかしその杜撰さゆえに、チンピラ以上の何者でもないと判断できる。


「さて、ボクちゃん達。有り金全部置いてってもらおうか」


 チンピラ達はニヤニヤしながらナイフを取りだし、ゆっくり距離を詰めてくる。

 そのナイフを取りだした事が、裕二とテリーの戦闘スタートの合図となる。


 ――チビドラ、憑依しろ。

 ――ミャアアアア!


 ワイルドウルフのように、すばしっこい敵ならともかく。ゆっくりニヤニヤと歩いて近づくチンピラなど的でしかない。


「うわー! アチッ」


 裕二側のチンピラ四人は全員火だるまになり、転げまわっている。

 かたやテリーの方も全く同じ結果だ。


「アチー! ひぃ消してくれー!!」

「アツい! アツい!」


 このままでは死んでしまうので、裕二とテリーは同時に水魔法で消火する。


「いてー! いてーよお!」


 チンピラは全員地面に転がっており、あちこち火傷で動けない。


「いくらなんでも弱すぎだろ。良くそれで今までチンピラやってこれたな」


 テリーはそう言いながら、うずくまっているチンピラの腹を蹴りあげる。


「で、誰の命令だ?」

「うっ……命令なんて受けてねえ」

「そうか」


 テリーはそいつの足に再び火魔法を放ち、辛うじて残ってたズボンが燃え上がる。


「ぐわー! やめろ! 言う、言うから頼む」


 テリーは再度、水魔法で火を消してから、再び口を開く。


「聞かせてもらおうか」

「マッ、マットって奴だ。そいつが、そっちの黒髪を痛めつけたら金をやるって」

「そのマットは誰の命令で動いてる」

「し、知らねえ。俺達はやることやって金をもらうだけだ」


 ――ユージを狙ってはいるが、本格的な裏組織との繋がりのないドシロウトだな。てことは……


「まあわかった。次、俺達の前に現れたら殺す。それがたとえ偶然でもな。行こうユージ」



 裕二とテリーは寮に戻り、裕二の部屋で今の事について話しをする。


「ただの金目てのチンピラかとも思ったが、念のためカマをかけたら当たりだったな。ユージ、心当たりは……あるよな」

「たぶんグロッグだろう」

「少しは痛い目にあわせた方が良くないか?」

「うーん……ちょっと待ってくれ。トイレ行ってくる」



「じゃあ全員やられたってのか! ふざけるな。前金は返してもらうぞ!」

「だけどこっちも被害は出てるんだ! 治療費くらい出してもらわないと困るぞ! そもそもあんな強いなんて、こっちは聞いてないんだからな。それとも何か、俺達も敵にまわすか! あのユージとか言うのにぶちまけたっていいんだぜ」

「そ、そうは言ってない。だが……わかった。前金は治療に使え。しかしもっと強いの用意できなかったのか?」

「俺達も本業じゃないからな。そう言うのに頼むのはかなり危険だ。金も比較にならないぞ。そもそもガキのケンカにそんなの頼むのか? 奴を痛い目にあわせて自分の仕業を匂わせ、ビビらせるだけだろ?」

「ぐっ……」

「悪いがあんなの相手に付き合ってられん。特にあのテリオスってのはマジでヤバい。後は自分でやってくれ」


 ――だってさ。

 ――ミャアアアア。

 ――そんな理由なのか? ビビらせたいって……力抜ける。

 ――しかし裕二様。仲間割れしたようなので、もうその者達には頼めないでしょう。

 ――確かに……


 裕二はチンピラと離れた時、その場にアリーとチビドラを置いて、後をつけさせていた。チンピラ達は予想通りマットという男に会い、マットはグロッグに会ってその件を報告していた。それをアリーとチビドラが見ていたのだ。そして今トイレにいる裕二に報告している。



「ふう」

「何かスッキリした顔してんな。まあトイレだからそうなるか」

「まあな。しかしなあ……」


 はっきり言ってグロッグ程度を痛めつけるのは簡単だ。だがそうなればグロッグはグラスコード侯爵にそれを言うだろう。そうなると、裕二はそのまま学院に通うことは難しくなり、せっかく仲良くなったテリーとも会えなくなる。それはまだ良いが、グラスコード侯爵には学院に通うためのお金全てを出してもらっている。その恩を仇で返す訳にはいかない。だから困るのだ。


「とりあえず、あのチンピラはもう来ないし、来たとしても余裕で勝てる。でも他の手考えるだろうな」

「だから家の養子になれよ。そしたらあいつらは何も出来ないぞ。ジェントラーを敵に回す事になるからな」

「うーん、とりあえず我慢できるうちは我慢しとくよ」

「そうか。何かあったらいつでも俺に言えよ」


 テリーはそう言って帰って行った。

 裕二はテリーが帰ったのを確認するとセバスチャンを呼び出す。


「つーかテリー、養子の件けっこう本気なんだな」

「そうみたいですね。ですが、いくらテリー様と言えど、その様な権限があるとは思えません」

「だよな。一応有名な貴族だし。何か方法でもあるのか?」

「かも知れません。そのあたりをストレートに聞いてみてはいかがでしょう。もしそれが確実にできるなら、どうしようもない時にはジェントラー家に移る、という選択肢もあるのですから」

「どうしようもない時か……ないとは言い切れないな。そうするとテリーと兄弟になるのか」

「ジェントラー家とグラスコード家の力関係はわかりませんが、ジェントラー家はクリシュナード直弟子の直系ですので、この国では名門になるのでしょう。今よりは良い状況にはなると思います」

「まあ、グロッグとシェリルが大人しくしてくれれば良いけど」

「難しいですね」

「全く、これなら俺を殺そうとした永井の方がマシに思えるよ」


 裕二がこの世界に来る原因になった、永井茂。裕二は彼に学校の窓から突き落とされたのがきっかけとなり、この世界にきた。彼はどうなっただろうか。

 だが裕二としてはそれほど永井を恨んではいない。永井は裕二を突き落とした直後、強い後悔の顔を浮かべていた。それを見た裕二は、永井もそんなつもりでやったのではないとわかっている。あれは事故だったのだ。


「でも、それが永井じゃなくてグロッグならニヤリとしそうだよね」

「ミャアアアア」

「うーん、あり得そうで嫌だな」


 とりあえず裕二にはいざとなれば、という手段はある。


「白虎に乗って逃げればいいー!」

「ミャアアアア!」

「そう! 俺にはそれがある。その時は頼むぞ白虎!」

 ――ガルッ。


 そもそも裕二としては、この世界の常識を知れれば良い。学院を卒業するまでいる意味はあまりないのだ。卒業は出来れば、という程度でしかない。

 いざとなれば逃げ道はある、という心の余裕で今のところはそれほどのダメージもない。

 それに加えて、テリーの養子の件が確実な話しなら、更に余裕も増える。


 そんな話しををていると、突然ドアがノックされる音が聞こえた。その途端、セバスチャンは消え、アリー、チビドラは霊体化する。


「ユージ様、マレットです」


 グラスコード侯爵の側近、マレット・パーキンスだ。裕二の隠している能力の一端を知る、数少ない人物でもある。

 彼は月に一度、裕二の様子を見に来る事になっている。その際、お金や必要な物も届けるのだ。


「お久しぶりですねユージ様。何か不都合などありますか?」


 不都合ありまくりだが、とても言えない。シェリルに冤罪をかけられたとか、グロッグの手下に当たり屋されたとか、グロッグの手下のナイフを持ったチンピラに襲われたとか、言える訳がない。

 裕二にとっては、マレットもあまり心配かけたくない人物のひとりだ。


「特に何も……」

「そうですか。順調で何よりです。これは今月のお金です」


 と言って渡されたのは金貨十枚。日本円で約百万円だ。


「いっ!? 何でこんなに多いんですか?」

「武闘大会の資金です。足りない場合は言って下さい。旦那様はこれでは足りないと考えてますが、大会規定もありますしねえ。あまり高性能な武器だと大会に使えませんからこれで妥当かと」

「い、いいですよ。武器はもう頼みましたし」

「え? そうなんですか。ですがこれはお持ち下さい。他の武器を買っても生活費に使っても構いませんので」

「さすがにこれは……」

「いいえ! 私が叱られてしまいます」


 何度か同じ問答が繰り返されたが、マレットは頑として受け取らなかった。裕二としても仕方ないので、後で異次元ポケットに貯金する事にした。


 通常、裕二が月にもらう額は金貨一枚分、日本円で十万円程だ。これも最初は金貨三枚だったのを説得して下げさせたのだ。そもそも通常は食事くらいしか使わないのでそんなに必要ない。


 ――しかしこれだとイベント毎に大金持ってきそうだな。


 裕二としてはお金は欲しいが、もらい過ぎてグラスコード家に縛られるのも嫌だ。将来的にはグラスコード家からは離れたい。侯爵もマレットも良い人だが、グロッグとシェリルは嫌すぎる。それより何より自由に暮らしたいと思っている。


「もう学院生活には慣れましたかな?」

「ええ、だいぶ。ですが将来的な事も考えないとならないですね」

「その辺は旦那様がしっかり考えてますのでご安心を。ユージ様の将来は安泰です。卒業までには特別な身分を与えようかとも検討しております」


 ――なに! なんだそれ。


「旦那様は誰が来ても、ユージ様のグラスコードの籍は外させないと、意気込んでおりますよ」


 ――にゃんですとお!


「いや、しかし冒険者とかも良いかなーって」

「ハッハッハ、ユージ様なら冒険者でも有名になれるでしょうが、誰でもなれる仕事ですからねえ。遊びで数年やられるのもよろしいかと」


 ――いや、遊びじゃなくて……


「いやでも、ずっとグラスコード家にお世話になるのも……僕は孤児でもありますし、家名に傷をつけては……」

「え……もしや、何かありましたか」


 マレットの温和な表情が、途端に焦りの色を帯始める。


「いやいやいやいや! そう言う訳では……」

「もしかして何か嫌な事とか……」

「そ、それは別にないです」


 ――言えない。嫌な事いっぱいなんて。


「そ、そうですか……もし、少しでも何かありましたら、このマレットに何でもお言いつけ下さい」

「わ、わかりました、大丈夫ですから」


 その後マレットは何とか元の温和な表情に七割程戻った。そして多少のぎこちなさを残したまま帰って行った。


「これじゃジェントラーの養子はあり得ないな」

「家族でかなり温度差があるようですね」

「ありすぎだろ。グラスコード侯爵はグロッグとシェリルがあんな奴って知らないんだろうな」

「侯爵はお忙しいようですので、おそらくそうかと」


 裕二の将来はいったいどうなってしまうのか。



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