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剣と魔法と七体の人工精霊  作者: ひろっさー
第五章 クラカト
189/219

189 女王捕獲


「キリー。ゴーレムの扱いは問題ないか」

「……問題ない」


 フレックとキリーはミリーダを出発し、一路ガラックへと向かっていた。二人が到着する頃には、村にほとんど冒険者はいないだろう。彼らは草原のアントマンティスを狩りにいくはすだ。


「ひとつ試しに使ってみろよ」

「……わかった」


 まだこの辺りには、人もアントマンティスの気配もない。キリーは馬を走らせながら、ゴーレムの魔石に魔力を込めてから斜め前方に放り投げる。

 すると、瞬く間にゴーレムが完成された。


「……私に続け」


 ゴーレムはキリーの命令に従い、その後を追って走り出す。


「おお! 高速で走る場合は四足なのか」

「……四つん這い……とも言う」


 獣のように走るゴーレムは、キリーの乗る馬の速度にも難なくついて行く。

 しばらくその様子を眺めていると、街道の先にアントマンティスの群れが見えてきた。通常の黒いアントマンティス。数は八体だ。


「ちょうど良いな。ゴーレムで倒してみてくれ」

「……了解。ゴーレム、アントマンティスの群れを全て倒せ」


 キリーの小さな声でも問題なくゴーレムは従う。途端に速度を増し、キリーとフレックの馬を追い抜く。

 そして、その速度のままアントマンティスに近づくと、突然その石の様な体で大きくジャンプをして、海老反りのように体をしならせる。

 続けてゴーレムは、空中で両の拳を組むとそれを頭上に振り上げ、勢いよくアントマンティスの頭に叩きつけた。

 すると、攻撃を受けたアントマンティスの頭は一撃で砕け散り、その場に倒れる。


「おお! 強い」


 それに気づいた他のアントマンティスが、ゴーレムに鎌を振り上げながら群がる。その攻撃はあっさり当たっているのだが、ゴーレムはビクともしない。せいぜいその体表に傷がつく程度。それもすぐに修復される。


「なるほど。これじゃ負けるはずがないな」


 集まったアントマンティスはゴーレムにほとんどダメージを与えられないまま、石の拳に次々と破壊されていく。


「……討伐完了。戻れ」


 キリーがそう言うと、ゴーレムはいきなりその形を崩し、土へと戻る。その中から魔石だけが飛び上がりキリーの手の中に飛び込んでくる。


「凄いぞキリー。やるなあ」

「……私が凄いんじゃない。この魔石の技術レベルが異常。私は最初に、多少多めの魔力を持っていかれるだけ。それでも、攻撃魔法の連発よりは遥かに楽」


 キリーは戻った魔石をしまいながらそう言った。


「それが革袋にジャラジャラあるのか。まさにポケット軍隊だな」

「……だからこそ、あまり人には見せられない」

「そうだな。その辺は上手くやるつもりだ。これを任されるって事は、信頼されてるって思っていいよな」

「……たぶん。だが、失敗は許されない。私が許さない」

「脅すなよ。キリーもエリネアと仲良くなりたがってるって、言っておいてやったぞ」

「……余計な事を言うな」

「仲良くなりたくないのか? エリネアの前では随分と可愛かったな」

「……黙れ」


 キリーは、ほんの僅かにフレックを睨みつける。フレックも冗談が過ぎたと思ったのか頭を掻いて話を変える。


「まあ、自重する必要はなさそうだ」

「……もうしてない。こちらの力は最初から見抜かれてる。しても意味がないし遠く及ばない」

「そうだな。その方が却って気楽か」

「……フレックはお喋りを自重しろ」

「へいへい。怖い怖い。さっきまではあんなに可愛かったのに」

「……黙れ」



 アントマンティスは通常の黒い個体から赤黒い個体、赤黒マンティスとなり、更にそれが真っ赤になった個体、マッカチンが現れた。アントマンティスは数の力で足りなくなると、変異体となる事で新たな力を手に入れる。

 段階的に強くなるアントマンティス。その分、倒すのに手間もかかる。


「まあ、キマイラみたく極端な能力変化じゃないだけマシだな」

「キマイラってそんなに凄いの?」

「ああ、頭がなくても元気に走ってる」

「そのヴィジュアルは見たくないわ」


 森から現れたマッカチンを倒した裕二。この辺りの森なら、強い部類に入るモンスターだろう。

 おそらく、これを放置しておけば、アントマンティスの群れはマッカチンの群れとなり、近隣の村には更なる脅威となるはずだ。


「冒険者たちも、これを楽に倒せるようにしないと」


 群れと個体により、戦力の幅はかなり異なってしまう。普通に考えると、そこがやりにくいところだ。一定でない戦力。バラつきの激しい戦力はそれぞれ対応も異なる。

 黒いのは剣で倒せたが、赤いのは剣で倒しにくい。この群れは五人で間に合ったが、次の群れは十人でも足りない。そんな感じになる。

 そんな事を考えながら、裕二とエリネアはクラカトの森へ分け入る。


「けっこういるな」


 裕二の感知能力がそう告げている。


「モンスターの密度は格段に濃くなるわね」


 アチコチからガサガサと草を踏む音が聞こえる。わかりやすいと言えばわかりやすい。


「先に女王を探す」


 草原では一度も見ていないアントマンティスの女王。パーチによると色は白く、子を生む為に腹が余分にあるので大きい。そして、攻撃力はない。

 見つければ捕まえるのは難しくなさそうだが、通常は森の奥にいるらしく、なかなか見つけられない。


「この辺りにいるといいけどなあ」

「数は増えてるから、森の表層に出てきてもおかしくないと思うわ」


 話しながら進む二人。その間に近づくアントマンティスもいるが、白くなければ近づく前に即、倒される。

 しばらくは森と草原の境目辺りを狙うが女王はいない。しかし、赤黒マンティスとマッカチンの数が増えているのは実感できる。


「でも、女王を先に探すのは意味があるの?」

「あるよ。群れの戦いは女王同士の戦いでもある。つまり兵隊は――」

「待って。それ攻略法に繫がるのよね。自分で考えたいわ」


 エリネアは裕二の言葉を遮り考え始めた。群れの戦いは女王同士の戦い。その前にはアントマンティスの兵隊がいる。それを想像すると将棋やチェスのようにも思えてくる。


「まあ、雑魚は俺がやるからゆっくり考えてくれ。寝てても勝てるからこっちは気にしなくていいぞ」

「え、ええ。少しだけお願い」



「今の続きを聞きたかったんですけど」

「私もです姫様」


 その様子を亜空島から見聞きしていたシャーリーンとエバ。

 こちらも裕二の話していた事が、アントマンティス攻略法に繫がるのだと確信している。フォートナー家にとっては是が非でも聞きたい内容だ。


「おそらく裕二様は、既に攻略法が頭の中にある。しかし、それにはまだ足りない部分があるのでしょう」

「それを実際に見て、確認しなきゃならないのですね」


 納得したように頷くシャーリーン。だが、それを説明したエバにも疑問や推測はある。


「ですが……裕二様のアントマンティスに関する知識は、我々とそれ程変わらないはずですよね?」

「そうね……説明したのは私とエバですし」

「つまり、その知識の中で攻略可能と言う事になるのでは?」

「じゃ、じゃあ、私たちも考えたらわかるのですか」

「おそらく、そうではないかと」


 と、亜空島でもエリネアと同じよう頭を捻って考えている。そして、あれこれと推測して議論を始めたようだ。


「女王が白い事に意味があるのでは?」

「き、きっとそれです、姫様! 白いと目立ちます。つまり……」

「つまり?」

「……わかりません」


 と、そう簡単に正解にはたどり着けないようだ。二人はもう一度、頭を突き合わせて考える。



 そして、裕二とエリネアの方は……


「難しいわ、ユージ。何かヒントをもらえないかしら」


 エリネアが強く目を閉じて、悩みながらも裕二にヒントを求めている。


「ヒント……ヒントか。じゃあ、アントマンティスの群れ同士、何故戦うのか……何故じゃないな。何を目印に戦うのか、だな。そこが発想の出発点でもある」

「目印…………」

「そして、その行動パターンは割りと機械的だと以前言った」

「機械的…………」

「通常は普通に戦う。でもそれは単なる捕食の為。しかし、群れ同士の戦闘は違う。特別な事だ」

「特別な…………」

「ヒントおしまい」

「うっ……」


 とは言え、裕二も全てわかっているわけではなく推測もかなり入っている。それをこれから調べるのだ。そして、調べる為にはまず女王が必要となる。

 裕二はそんな説明をしながら、群がるアントマンティスを片手間に倒す。その後ろでエリネアは腕を組んで考える。


「ねえ、ユージ。もうひとつだけヒント――」

「あっ! いた」


 エリネアの言葉を遮り、裕二が叫びながら指を差す。そちらを見ると草むらの影に僅かながら白く大きな体が見えていた。その周りには女王を守る兵隊がいる。


「あれで間違いない。良し! 捕まえる」

「はい!」


 その側へ行くと、アントマンティスの兵隊がこちらへ向かってくる。通常より少し多い十八体の群れだ。

 裕二とエリネアはそれをドンドン倒していく。女王を傷つけたくはないので、一応一体ずつ慎重にやる。

 そして、兵隊の数が減ってくると、女王は体を反転させ、逃げ始めた。


「悪いが逃さん」


 裕二はクイックムーブでその先に一瞬で到達する。そして、女王へ向けて手をかざす。


「セイクレッドヒュプノ!」


 その途端、女王の動きがゆっくりと止まった。裕二の放ったのは高位の睡眠魔法。白いアントマンティスの体は、力が抜けたようにその場へ横たわる。


「テン!」

「はいー」


 そして、テンが女王の体を診察する。小さなテンが、自分より大きく白い体の隅々まで手をかざす。それが終わると裕二に顔を向けた。


「問題なし。だけど、魔法効きすぎかな。当分起きないよ」

「それでいい。パーフェクトだな」


 その体を慎重に袋へ入れてからロープでキツくなりすぎないよう縛る。呼吸が出来るように頭は出しておく。


「これで調べられるのね」

「そうなる。チビドラ出てくれ」

「ミャアアア!」


 そこへチビドラが現れて裕二の肩に乗る。それを不思議そうに見るエリネア。


「チビドラが必要なの?」

「そう。これもヒントになるかな」

「チビドラがヒント?」

「いや、チビドラ自体は考えなくてもいいけど」

「ミャ?」



「姫様! 全くわかりません」

「私もです」


 亜空島のエバとシャーリーン。こちらもさっきからずっと考えているようだが、さっぱりわからない様子。しかし、女王を捕まえたので、それもこれからわかるのだろう。


 群れは何を目印に戦うのか。

 行動パターンは機械的。

 通常の戦いは捕食。群れとの戦闘はそうではない。

 そして、チビドラ。この場合はアントマンティスを調べる為に、チビドラのやれる事。チビドラが適した事になる。


「あれもユージ様のお仲間でしょうか。赤い鳥がパタパタ飛んでますね、姫様」

「鳥……じゃないと思いますが」


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