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剣と魔法と七体の人工精霊  作者: ひろっさー
第五章 クラカト
188/219

188 マッカチン


 ミリーダに到着した翌日。しばらく二手に別れて行動する。

 フレックとキリーはゴーレム配置の為、元来た道を。裕二、エリネア、エバ、シャーリーンはクラカトの森へ行く。


「じゃあ、そちらは頼む。フレック、キリー」

「おう。任せとけ」

「……わかった」


 ミリーダの配置は既に完了しているので、後はガラックとライラだ。裕二たちは二人を見送ると、こちらもすぐに出発した。そして、見渡す限りの草原を、四人で二頭の精霊馬に乗り、走り出す。


「とりあえずやる事は、大雑把な数の調査。アントマンティス攻略法の発見。女王の捕獲だな」


 裕二が事も無げにそう言う。


「しかし、ユージ様。そのどれも、ひとつひとつがかなり大変なのではないですか?」


 並走するエバがそう答えた。


「まあ、出来たらだから。それに森の深くへは入らない」

「何故でしょう。森の浅い場所では、どれも困難ではないですか?」

「ワグラーがいたら面倒だからな。今回はいてもさっさと逃げる。バカの相手をしてる暇はない」


 ワグラーはグレイダから裕二を殺すように言われている。そして、こちらが冒険者である事も知っている。冒険者はいずれ森に来る。そこなら殺害もしやすい。

 裕二たちが森の奥深くへ入れば、ワグラーは仲間を使いこちらの人数、特徴から裕二たちを見つけ、見張りを付けワグラーに知らせる。

 殺害の準備が整ったら、裕二たちの近くに現れるだろう。ワグラーが動くとしら、森の可能性が最も高い。


「男ひとりと女性三人は奴にとって目印になるから、エバとシャーリーンは森へ入る前に亜空島に行ってもらう」


 そうなると、裕二とエリネア、男女の二人組となるので、いくらかでも相手を誤魔化せるだろう。こちらの顔までは知られていないはずだ。エバとシャーリーンに戦闘をさせるつもりはないが、現場は見たほうが良い。亜空島にいれば、それも安全な場所から見られる。


「というか、もう亜空島に行ってていいぞ。早い方が良いし」

「そ、それでは、何だか楽すぎて申し訳ないような……」

「姫様。確かにいささか心苦しいですが、今回の目的ならそれが最も効率的です。森で四人いるのを見られるのは得策ではありません」

「そういう事だ。ここ二〜三日で二人も疲れだろうから、ゆっくり休んでくれ」


 裕二がシャーリーンとエバにそう告げる。


 ――私は……なんの役にも立ってない……本当は私がしなければならない事なのに。


 シャーリーンは内心そう思っていたが、エバの言う通りそれが最も効率的なのもわかる。シャーリーンはそれでも申し訳ないのか、ペコペコ頭を下げながら亜空島に入った。そして、裕二とエリネア二人きりとなった。


「エリネアはそっちの馬使うか?」


 裕二は余った精霊馬に指差しながら、後ろに乗るエリネアに顔を向けた。


「私の希望通りにしていいなら、このままにするわ」


 そう言いながら、エリネアは裕二の腰に回した腕を引き寄せるように動かす。


 ――うっ、密着感……


「私は出来るだけユージの近くが良いの。ねっ、いいでしょ?」

「わ、わかった」


 ――裕二オッパイ当たった?

 ――ミャア?

 ――たぶん……


 最近のアリー、チビドラのマイブームは、裕二にエリネアのオッパイが当たったかどうかを聞きにくる事だ。そして、当たった場合は納得して消える。当たっていない場合は「エリネアにオッパイ当てるように言う?」「ミャア?」と、いらぬお世話を焼いてくる。


 そんなプチアクシデントを乗り越え、裕二とエリネアは草原を精霊馬でひた走る。すると、ぼちぼちアントマンティスも出現しだした。

 相変わらずエリネアが馬上から魔法で攻撃するので、馬を降りることはない。しかし、群れの中に赤黒マンティスも時折見かけるようになってきた。それは森へ近づくほど増えてくる。


「森の奥へ行ったら、赤黒だけの群れもいるかもな」

「やっぱり増えてるのね」


 そうこうするうちに進行方向の先に森が見えてきた。


「あれがクラカトの森ね。その先がクラカト湖のはずよ」


 本来の目的地はそちらにある。だが、今はまだ、クラカト湖へは行かない。裕二とエリネアはこの辺りから馬を降り、森へ向かう。


「しばらく戦闘は俺が代わる。疲れたらエリネアも亜空島で休んできていいぞ」

「私は全く大丈夫よ。それに少し疲れたくらいでユージの側を離れるなんて、あり得ないわ」

「そ、そうか。なら休む時は一緒に休むか」

「ええ、ユージと一緒ならどこへでも」


 エリネアが嬉しそうに答える。

 そんな話をしていると、森から六体のアントマンティスが出てくるのが見えた。しかし、その中の一体は遠目にも、かなりおかしいのがすぐにわかる程のインパクトがあった。


「な、なんだありゃ」

「あんなのもいるのね」


 その群れは裕二たちに気づいたのか、まっすぐこちらへ向かってくる。


「赤黒じゃなくて真っ赤よ」

「あれは……マッカチンだな」

「マッカチンてなに?」

「ああ言う色のエビみたいな奴だ」


 と、マッカチンの簡単な説明が終わったところで、裕二がアントマンティスの群れをマッカチンだけ残して手早く倒す。


「マッカチンはどうするの?」

「試しに普通の剣で戦ってみる」


 裕二はマッカチンが普通の冒険者と戦う事を想定し、鉄の剣を使い攻撃は控えながら戦う。

 マッカチンは赤黒マンティスより更に大きく、体長は百五十センチ程あり、その分強くなっているようだ。裕二の剣とマッカチンの鎌が交差すると、『カンッ』と硬い音が響く。


「防御力高いな」

「これ一体で普通の冒険者なら三人くらい必要ね」

「頭悪いから前しか攻撃しないな。基本は群れだからそれでも良いんだろうけど。ひとりが囮で左右かケツに二人か」


 と、だいたいの感触を確かめてから、魔法で倒す。


「赤黒はマッカチンになる為の途中経過みたいな感じなのか?」

「そうね。これが最終形態だと思うわ」


 そうなると想定していた赤黒マンティスの群れよりも、冒険者にとっては厳しい状況になる。もちろん裕二たちにとっては雑魚ではあるが、これが群れになったら、一般冒険者にはかなりの脅威だ。


「あ、あんなのがいたなんて……」

「ユージ様はこんな事態も予想していたのでしょう。お二人を雇わずに私たちだけで森に入ってたら……と思うと、ゾッとしますね」


 亜空島のペンション風建物から、その様子を見ていたエバとシャーリーン。

 フォートナー家の知らないアントマンティスの生態を見せられて、唖然としている。


「おそらく未だかつてない程、アントマンティスは増えているのでしょう。その証拠が、ユージ様の言うマッカチンです」


 アントマンティスはかなりの数に増えている。それでも足りないからこそ、新たな強さの個体を生み出した。それがマッカチンとなるのだろう。その状況が更にエスカレートすれば、アントマンティスは今までの黒い個体の群れではなく、マッカチンの群れに置き換わっていくはすだ。


「既にフォートナーの許容範囲を越えてるかも知れません」


 この状況だと、今からフォートナーの軍隊が出てきても、かなり厳しくなる事は簡単に予想出来る。

 これがグレイダとワグラーのやりたい事なのだろうか。むしろ自分たちを追い込んでいるようにも思える。今の状況はこの近辺に住む、グレイダ、ワグラーを含む全ての人の脅威となるはずだ。


 フォートナー家はエーゼルの報告によって軍隊を派遣する。その為にいるのが、グレイダ・シーハンスだ。

 おそらく今は、その情報を捻じ曲げて伝えている。冒険者だけで足りると報告しているのだろう。

 シャーリーンによるとグレイダはそれなりの実績をあげている。そして、弱者を見下し強者に媚びへつらう。それでフォートナーからの信用を得ているのだ。その言葉は実務について詳しくないシャーリーンよりも、信用に足るものとなっている。その結果が、この現状だ。


「これが森から溢れたら、まずは冒険者に多大な犠牲が出るでしょう。ユージ様はそれを何とかしたいと考えているのですね」


 窓ガラスに映る裕二とエリネアを見て、エバはそう言う。


「確かに……既に私たちではどうにもならない状況ですね。ユージ様とエリネア様に縋るしかありませんが……いったいどうされるおつもりなのでしょう」


 そう言って不安な表情を見せるシャーリーン。しかし、エバは確信めいた表情で口を開く。


「あのお二方なら大丈夫です」

「そ、そうでしょうか……」

「はい。姫様は先程エリネア様の作るゴーレムをご覧になったではありませんか。フレック様も言ってましたが、おそらくその規模は軍隊と呼べるもの」

「はっ! なるほど。それをこれから使うのですね」


 シャーリーンはパッと表情を明るくするが、エバは首を横に振る。


「いえ。それはあまり見せたくないようです。しかし、ユージ様なら、もっと凄いことするのではないかと思っています」


 エバはそう言いながら、再び裕二たちの見える窓ガラスに目を向けた。


「姫様はユージ様がガラックをあんな風にするなど予想出来ましたか?」

「い、いえ。全く」

「私もそうです。ユージ様は不思議な方ですね。観察すればするほど、その奥深さに気付かされます。おそらく……これから、私たちでは考えつかない事をなさるのでしょう」


 エバとシャーリーンは今までの裕二の行動を思い起こす。

 考えてみれば、出会いの時点から裕二は自分たちを助けてくれているのだ。あれだけでも圧倒的な強さなのだとわかる。エーゼルではグレイダからも守ってもらった。そして、契約魔術に亜空島。各村には強固な壁を作り食料まで供給する。ガラックでは冒険者の為の店、食堂、宿まで作る。

 どれひとつとっても、エバとシャーリーンには考えつかないし、たとえ考えたとしても出来ない事だ。


「言われてみれば確かに……何となくですが、エリネア様がユージ様を大切にされる気持ちがわかったような気がします。自分の大切な方があのような行動をしているのを傍らで見守り、それを手伝えるのはとても誇らしいでしょうね」


 ――私も……そうなれたら……


 それを聞いたエバは、鋭い眼差しをシャーリーンに向けた。


「やはり姫様。ユージ様との結婚を考えてみますか?」

「む、無理ですよ。エリネア様には全てに於いて負けてます」

「別に勝たなくても良いと思いますが」


 シャーリーンは突然の事にアタフタしだす。そして、エバから視線を逸らすように、窓ガラスに映る裕二へ目を向けた。


「でも、ユージ様の隣にいられるのは、とても幸せな事なのでしょう。私はそれを側で見られるだけでも充分です」

「欲がありませんねえ、姫様は。あのような男性は二度と現れませんよ」

「わかってます。わかってますけど……」


 そして、シャーリーンは窓ガラスからエバに顔を向ける。


「エリネア様はユージ様の隣にいる為に、相当な努力をなさっているような気がします。美しいだけではないのです。私には到底……」

「それは……確かにそう感じますね。それだけユージ様が大切なのでしょう」

「羨ましいですね。二人きりになったら、ユージ様でもエリネア様にちょっと甘えたりするのでしょうか」

「姫様も甘えられたいと?」

「ち、違いますよ!」


 亜空島ではそんな会話が繰り広げられていた。


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