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剣と魔法と七体の人工精霊  作者: ひろっさー
第五章 クラカト
185/219

185 物資


 フレックたちとの話を終え、外へ涼みに出る裕二とエリネア。

 適当な場所に土魔法でベンチを作り、そこに腰掛ける。


「その噂の出どころの行商人が魔人の可能性は高いわね」

「ああ、やはり誘き寄せか……グレイダからワグラー。その先のどこかにいるのかもな。でも、まだ俺たちは魔人に見られてはいない」


 そう言いながら裕二は、ウォルターから受け取った護符を出す。それはもらった時のまま変色はしていない。魔人に見られていない証だ。


「なるべく目立たないようにやろう」

「そうね。ところで、今日は泊まるの男女別よね」


 一応村から空き家を借り、その二部屋に男女別々に寝ることになっている。

 裕二はフレックでひと部屋、エリネア、キリー、シャーリーン、エバでひと部屋だ。


「亜空島じゃないからちょっと心配だわ。私がユージと同じ部屋の方が良いんじゃないかしら」

「そ、それは、ほら、部屋が狭いし……うっかりエリネアの体に触れるかも知れないし……」

「そんなのいいわよ。私はユージのものって言ったでしょ。ユージが触りたいなら……ちょ、ちょっと恥ずかしけど」


 そう言って頬を赤らめるエリネア。ついでに裕二も赤くなる。そんな気まずい雰囲気を壊すように裕二が口を開く。


「そう言えば魔女っ子キリーの実力はどうだ? やっぱりエリネアには及ばないみたいだけど」

「ええ、それでも自重しているようね。ああ見えてかなり余裕はあるはず。普通の魔術師の域は軽く越えてるわ」

「やっぱりそうか……」

「私はあのテリオス・ジェントラーから指導を受けているから、あれくらい簡単に出来ないと彼から何を言われるか……」

「お察しします……」

「ふふ、いえいえ」


 エリネアは笑って答えるが、テリーから相当厳しい訓練を受けたのだろう。だからこその今がある。


「出来るワケがないって事をあっさりやって見せられたら、やるしかないのよね。私が彼に頼んだ事だから」

「アイツは本当に容赦がないからな。それよりも明日はガラックに行く。やる事はだいたい今日と同じかな」

「ええ、わかったわ。でもその先のミリーダまで考えると、食料が足りないかも」


 ライラの村は自分たちの食料をバラまいてアントマンティスを惹きつけ、そこを狙い攻撃をしていた。他の村も多かれ少なかれ似たような状況だろう。

 裕二はここライラで手持ちの食料の半分を供給した。それを考えると、ガラックは間に合うがミリーダでは足りなくなる可能性は高い。


「それは考えてあるけど、村の状況を見てからだな」

「でも、どうするの?」


 二人は話をしながら用意された空き家へと戻っていった。



 翌朝になり、裕二、エリネア、シャーリーン、エバ、フレック、キリーの六人はライラを出発してガラックへと向かった。

 ライラ、ガラック、ミリーダの村は、クラカトの森から最も近い位置にあるが、その中でもガラックは最前線と言える位置にある。多くの冒険者が拠点にするならガラックが一番便利だろう。だが、それは逆に言えば最も森から近い危険な村とも言える。

 裕二たちはライラからガラックへ繋がる道を行くと、そこに現れるアントマンティスも僅かながら増えている。それを手早く倒しながら目的地へと向かう。その戦闘の主力は、エリネアとキリーだ。

 二人の強力な魔術師が、馬を降りることなく戦闘を終了させて行く。


「ユージ。俺たちの出番はなさそうだな。女性陣が強すぎる」

「右足も集めなきゃいけないんだけど……まあ後でいっか」


 本来なら、ギルドからの依頼なので討伐部位を集めなければならないが、今はガラックへ急ぎたいので回収はしない。おそらく、後から集めても問題ないだろう。アントマンティスは森にたくさんいるはずだ。


 やがて、彼らの視線の先にガラックの村が見えてきた。


「あそこか。まだ大丈夫そうだな」


 裕二は村の外観を見てそう判断する。ガラックにもライラと同じくやぐらがあり、その上に村人がいるのが見えた。


「おーい。開けてくれ」


 フレックがそう呼びかけると、やぐらの上にいた人が急いで下に降りる。程なくして村の入り口が開いた。



「村長のホマックです。フォートナーの兵士……ではありませんよね」

「俺たちは冒険者だ。エーゼルの依頼でアントマンティス討伐に来ている」


 村長のホマックから色々と話を聞くと、状況はライラと変わりないようだ。

 昨日と同じく、食料の供給と壁の建て替えを行う。全員が動き出すと、裕二はその間にホマックと別の話をする。


「この村に商店はありますか?」

「ええ、一応ありますが」


 村長ホマックに聞くと、村には一軒だけ商店があると言う。しかし、商店と言っても小規模で、村の農産物をエーゼルに売り、代わりに必要な物だけを買ってくるだけの店だ。村人に頼まれる以外の物はほとんど置いていない。せいぜい加工された食品や農具、衣類、程度だ。それも今はエーゼルに行けないので品薄状態となっている。


「店と店主がいれば良いです。商品はこちらが用意しますので」

「わかりました。ではご案内いたします」


 裕二はホマックに連れられ商店に案内された。そこでエントラと言う壮年の男を紹介される。

 腰に剣を挿す冒険者が自分になんの用があるのか、と戦々恐々としているようだ。


「な、何の用でしょう……」

「エントラさんに売ってもらいたい物があります」

「はあ……いったい何を」

「これからこの村に冒険者が集まりますので、彼らが必要とする物資ですね」


 裕二は細かな説明を始めた。


 冒険者は一旦エーゼルに集まり、そこで物資を購入しようとする。しかし、エーゼルの商店は高価格な為、そこで物資を買う者は少ないだろう。買ったとしても最小限だけだ。なにせエーゼル側に売る気が全くない。なので、裕二がその物資を供給しガラックで売ってもらう。もちろん通常の価格でだ。

 そして、それだけではなく、食材も供給し冒険者の為の食堂。村人に部屋を借り、宿も用意する。


「食堂と言っても外に椅子とテーブルがあれば良いです。宿も足りなければテントで構いません。そこはホマックさんと協力して下さい」


 これから冒険者がどんどん増えていく。彼らはガラックで大量のお金を落としていくだろう。


「売り上げの三割はそちらの利益にします。あなたの采配で村人を雇っても構いません」


 裕二としては全て村に与えても良いのだが、欲をかかれても困る。仕入れがないのだから三割でも充分な収入となるはずだ。


「よ、良いのですか。そうしてもらえると我々も助かりますが」


 村もアントマンティスが増えてる以上、まともに仕事は出来ない。冒険者がいる間の特需ではあるが、彼らには喜ばしい申し出となるだろう。


「はい。その代わり、キッチリ働いてもらいます」

「それはもちろん」

「では、これから店の中に物資を運ぶので、エントラさんとホマックさんは椅子やテーブルの準備。村人に宿を提供してくれるよう頼んで下さい。テントは後で用意します」

「わ、わかりました」


 とは言っても、裕二には自分の為の物資しかないはずだ。食料も先程供給してほとんど残っていないはず。いったいどうするのか。


 ――裕二様。準備が整いました。

 ――お、来たかセバスチャン。いいタイミングだ。



 昨日の夜。裕二はエリネアにガラックでする事の説明をする。


「なるほど。ガラックで物資を売るのね。それならわざわざ無理してエーゼルで買わなくても良いわね。でも、その仕入れはどうするの?」

「セバスチャンに頼む」


 セバスチャンには今から大きな街の商店に行ってもらい、大量に商品を買い付けてもらう。

 今は夜なので店が開店する前に到着させ、さっさと物資を買いこちらへ戻る。

 一応小金持ちの裕二が持つ財産をはたけば、それなりの物は揃うだろう。しかし、それも冒険者の個人資産。店を開店させるだけの物資となると……


「それだと……お金が足りないと困るわね」

「そうだな……何か売るか」

「いえ。そんな必要はないわ。そこは私に任せて」


 王族のエリネアは裕二以上に大量の現金を持ち歩いている。二人の分を合わせれば相当な額になるはずだ。とは言え、これからどれだけの冒険者が集まるのかわからない。それで足りる保証はない。

 本来であれば、エーゼルが冒険者特需のはずなのだ。つまり街ひとつが潤う程度の物資がいる。いくら物があっても足りない状況さえ考えられる。


「どうすんだ?」

「私が手紙を書くわ。ペルメニア騎士団へ物資を納入する商店にね。支払いは王家よ」


 つまり、ペルメニア王宮の出入り商人だ。

 セバスチャンひとりなら、霊体化で高速移動が可能だ。とは言え、知らない場所へ地図を頼りに向かうので、それなりに時間はかかる。今から行けば裕二たちがガラックへ着く頃までに何とかなるだろう。帰りは亜空間を通れば良い。

 エリネアが行う全ての行動は王家が了承している。全力で裕二を支えるのがエリネアの使命。その為の物資供給など造作もない事だ。

 セバスチャンはエリネアの手紙を商店主に見せ、必要な物資を取り揃える。それを異次元ポケットにしまえば裕二に物資が渡る。


「セバスチャン。必要な物は全て買ってちょうだい。額は気にしなくて良いわ」

「畏まりました」


 どう言った物が必要なのかはセバスチャンにはなかなか判断出来ないので、エリネアはその協力も店にするよう手紙に書く。

 武器やその手入れの為の道具。荷物を運ぶロープや袋、衣類や馬具、そして食料に至るまで必要となるだろう。そこは本職である出入り商人に頼みたい。


「しかし、私が行って信用されますでしょうか?」


 セバスチャンはその点を考慮する。支払いが王家となる以上、セバスチャンは信用面で不安があるようだ。


「私の短剣を使ってちょうだい。それを見せても信用しないなら……」



 そして、セバスチャンはエリネアの手紙を携え、ペルメニア王都へ向かった。

 全体地図を見て王都へ向かい、そこからはエリネアの書いた地図を見て商店を目指す。

 ガラックからは相当な距離があるが、何とか朝方にはたどり着き、街の様子を眺める暇も惜しみ開店準備を始めた店に入る。


「お客様。ただいま店は準備中なので――」

「王家から直接の大量発注です。急ぎますのでよろしくお願いします」

「お、王家から……では発注書を」


 そこでセバスチャンはエリネアの手紙を渡す。大規模討伐に必要なありとあらゆる物資。それを店主の裁量で用意してもらいたい。


「これは……少し大雑把ですね。騎士団へ確認をとってもよろしいでしょうか」

「これは極秘の買い付けです。店はこの手紙と請求書のみを王家に届ければ良いと聞いています」

「し、しかし……」


 ペルメニアの騎士団へ連絡されるのは困る。これはペルメニアが最大限秘匿しなければならないクリシュナードが絡む案件。やはりセバスチャンの懸念通り、なかなか信用してはもらえないようだ。


「エリネア様から王家と示す短剣も預かっております」

「そ、そうですね。では、一度王家に連絡を取り――」

「ダメです。その過程で何人の人が介在しますか。極秘且つ急ぎだと言っているのです。それにエリネア様からは極秘の買い付けに対応出来ないなら、王宮への出入りは考えなければならないとも言われておりますが」

「そ、それは。わかりました……」


 店主はしぶしぶだが納得はしてくれた。しかし、これも仕方ないのだろう。王女であるエリネアが武器を含めた物資の大量発注など、通常はあり得ないからだ。店主はそこを不審に思っているのだろう。


 ――困りましたね。一応納得する素振りを見せてますが……裏から確認の店員でも放たれると……


 騎士団などに連絡でもされたら、そんな発注は知らないと言われる。そうなると店は確認の為に更なる時間稼ぎをするだろう。最悪、セバスチャンが騎士団に捕らえられる事もあり得る。もちろん最終的に潔白は証明されるし、セバスチャンなら簡単に逃げられる。しかし、そんな事をしている時間はない。裕二がガラックに店を確保するまでに間に合わせたいし、これを知る人物は最小限に留めたい。


 ――となるとやはり、エリネア様に直接ここへ来てもらうしか……


 セバスチャンがそう考えていた時、開店準備中の店にひとりの男がかなり焦った様子で飛び込んできた。そして、いきなりセバスチャンへ声をかける。


「あ、あなたは、確か……セバスチャン殿ではないですか!」

「え、ええ。確かに私は……バイツ様!」


 突然店に現れたバイツ・ハリスター。チェスカーバレン学院騎士科ナンバーワンの男だ。

 彼は王都に用があり、たまたまここへ来ていた。その途中、商店の中に以前、一度だけスペンドラで見た人物がいるのを発見した。その人物は後から知ったのだが、クリシュナードである裕二に仕える精霊のひとり、セバスチャンと言う。

 バイツは何があったのか知るために、当然そこへ駆けつける。


「なるほど。ユージがそのような事を……」

「こ、これはハリスター様。そのお方はお知り合いの方でしょうか」


 セバスチャンが簡単にバイツへ説明していると、そこへ店主が様子を窺いつつ声をかけた。どうやらハリスター家の重要人物であるバイツの事は知っているようだ。


「無論だ。このお方のお言葉は王家のお言葉と捉えよ。何があってもハリスターが全責任を持つ。本日は店を閉め、他の店員がいるなら締め出せ。このお方に全面的に協力をするのだ。無駄に時間をかけてはならん!」

「は、はい!」


 バイツからそう言われた店主は飛び上がって準備を始めた。


「助かりますバイツ様」

「とんでもありません。貴殿と言葉を交わせるだけでも光栄の極み。私もご協力いたします。力仕事や武器の事なら多少は……何なりとお申しつけ下さい」


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