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剣と魔法と七体の人工精霊  作者: ひろっさー
第五章 クラカト
181/219

181 契約の成就


「クソッ! 何なんだアイツは」

「ど、どうされたのですか、グレイダ様」


 足を引きずりながら自分の屋敷へ何とかたどり着いたグレイダ。そこへ従者が駆け寄る。


「キップ! 武具店にいた女連れの冒険者を今すぐ調べろ! あと、ワグラーを連れて来い」

「ぐ、グレイダ様。まだあのような男と……」

「黙れ! いいからワグラーだ。さっさと呼べ!」


 グレイダはキップと呼ばれた初老の従者にそう怒鳴りつける。キップはオロオロしながらも肩を貸そうとするが、グレイダに突き飛ばされた。


「聞こえなかったのか、早くやれ!」

「は、はい……」

「殺す! アイツは必ず殺す。俺に逆らったらどうなるか、思い知らせてやる!」



「あそこまで清々しいクズもなかなかいないよな」


 街を出て二頭の精霊馬に跨がる裕二、エリネアとシャーリーン、エバの四人。

 裕二は自分の後ろに乗るエリネアにそう話しかける。


「余程甘やかされないと、ああはならないわね。シャーリーンが必死になるわけだわ。アレの婚約者になるくらいなら、まだテルメドのように地下牢に入れられた方がマシよ」

「そうだな。おそらくお家騒動に利用もされるだろうし」


 そして、もう一方のシャーリーンとエバ。

 シャーリーンは未だ青ざめた様子ではあるが、エバはそうでもないようだ。


「あ、あれはマズかったのではないですか」

「姫様……私も最初はそう思いましたが、あの二人、おそらくかなりの後ろ盾があるかと思われます」

「そ、そうなのですか? 何故そう思うのです」


 意外な返答のエバ。シャーリーンはそれを不思議そうに問い返す。


「ハッキリとはわかりませんが、彼らもグレイダがエーゼルの統治者と知っているのです。の割に余裕がありすぎではないですか? グレイダを助けてあげたような事さえ言ってました」

「言われてみれば……」


 先程の裕二とエリネアのやり取り。エバはそれを聞き、そこから色々と推測していたようだ。少なくとも、何も考えなしの行動には思えない。むしろグレイダなど、二人にとっては取るに足らない相手とも見えただろう。


「その余裕はグレイダの身分を知っている上でなお、あるのです。となれば……」

「やはり……確実に貴族」


 そうなると、そこには別の危険もあったりする。


「ええ、彼らがもし、バルフォトスの上客だとしたら……フォートナー本家さえ潰せる貴族など、ペルメニアにいくらでもいますからね。私たちは上手く立ち回らなければなりません。下手をするとグレイダどころではなく、フォートナーは終わりです」

「そ、そうですね」


 シャーリーンはそれを聞き、僅かに震え上がる。しかし裕二とエリネアは今、こちらの側にいる。グレイダは共通の敵ともなっている。


「ですが、上手く立ち回れたら、グレイダの野望を解き明かし、それをどうにか出来るかも知れません」

「ええ、ここまできたらやるしかありません。今さら後戻りなんて出来ない。私が彼らを雇ったんですもの。頼むわ、エバ」

「私にお任せ下さい」


 もしかして、とんでもない人物を雇ってしまったのではないかと考え始めたシャーリーンとエバ。

 裕二とエリネアにはグレイダの事を詳しく教えている以上、あの行動は平民ではあり得ない。それにより貴族だと言う確信は深めただろう。しかし、あまり詳しく二人の事を探るのは契約魔術があるので出来ない。そこが悩ましいところだ。


「ですが、姫様。ユージ様を男性としてどう思いますか?」

「えっ? それは……」


 シャーリーンは一瞬、なんの事だか良くわからず、キョトンとした表情でエバに聞き返す。


「結婚相手としてです。おそらく姫様はエリネア様より格下にはなりますが、フォートナーを守りたいのなら、その可能性は頭には入れておいて下さい」

「そうね……素敵だとは思いますけど、あんな美しい人がいるのに、私では……」


 裕二のそばにいるエリネア。シャーリーンとしては、あらゆる面で勝てる要素などないと認識している。裕二を良く思っていたとしても、結婚相手としてそこに食い込むのは容易な事ではない。しかし、エバはそう考えてはいない。


「それは関係ありません。フォートナー家の為にそこに食らいつけるかどうか。覚悟の問題です。一応まんざらでもないようですね」

「断られるわよ……」

「断られてもいいんです。その話をするかどうか、最大限の好意を示せるかが重要ですから。もちろん、確実に見極めてからです。あまりに高位すぎたら話さえ出来ませんので」


 シャーリーンは消極的だが、エバは本気で考えているようだ。

 もし、裕二とエリネアがそれだけの力のある貴族なら、シャーリーンを差し出してその後ろ盾を得る事は当然考える。

 そのシャーリーンが裕二に拒否感がなく、むしろ好ましく思っているのなら、シャーリーンにとっても悪い話ではない。グレイダとの婚約も望んでいないのは伝えてある。

 ともあれ、二人にとって裕二とエリネアは、謎は多いが頼れる存在でもある。特に最初、反抗心の強かったエバはその方向に強く心も傾いている。


 そうこうしているうちに陽はほとんど落ち、辺りは急激に暗くなり始める。


「村は明日だな。今日はもう休もう」


 裕二がそう言って馬を止める。野営の準備には遅い時間ではあるが、そう言う経験のないシャーリーンは不思議に思わない。しかし、エバはさすがにうっかりしてたと思い、どう対応するのかを聞きに裕二へ駆け寄る。


「エリネア、馬、消しといてくれ」

「ええ」


 と言いながら、エリネアに指輪を渡す。すると、先程まで乗っていた馬は二頭とも掻き消えた。そして、裕二の方はその手をかざした場所に、暗闇でもハッキリとわかる漆黒の空間が現れている。


「こっちだ」


 そこへ裕二とエリネアが平然と入る。

 シャーリーンとエバはそれに驚きつつも後に続く。そして、背後から聞こえる音に耳をそばだてるシャーリーンは、うっかり裕二に質問してしまう。


「波の音……ここはどこなのですか」

「だから聞いたらダメだって」

「あ……はい」


 同じ時間の流れる亜空島。そちらも既に暗くなり波の音だけが聞こえる。しかし裕二が足を踏み出すと、並木道に備え付けられた街灯が一斉に光り辺りをに明るく照らす。


「エバ……これは……」

「魔法……いや、こんなのは聞いたことすらない」


 疑問だらけのシャーリーンとエバ。しかし、それを聞いてはならない。わからなくても飲み込まねばならないのだ。

 そのままペンションに到着し一息つく。しかし、二人は辺りをキョロキョロ見回している。

 落ち着くにはしばらくかかりそうだが、裕二は構わず口を開く。


「ここは亜空間だ。本当はこれを他人には見せたくない」

「な、なるほど。確かにこれ程の事が出来るのなら、それを利用したい者は大勢いるでしょう。納得しました」


 エバは驚き冷めやらぬ状態ではあるが、同時にこんなものを見せられては納得するしかない。これ程の秘術なら、契約魔術を使ってでも隠したいと思うのは当然の事だ。


「君たちもこの事を他人に話すのは危険だと知っておいてほしい」

「そうですね……契約魔術は私たちの為でもあるのですね。本当に申し訳ありませんでした」


 エバは裕二に深く頭を下げた。しかし、その意味が良くわかっていないシャーリーンは、不思議そうな顔でエバを見つめる。


「エバ、それってどう言う……」

「姫様。これはとてつもない魔法……いや、おそらく国宝クラスの秘術です。ペルメニアの王族でさえも欲しがるでしょう。それを私たちが知ってると知られたら、どうなります」

「え、ええ……詳しく聞かれるわ」

「そうです。そして、それを聞いた後。その秘密を隠す為に私たちはどうなります?」

「秘密を隠す……まさか!」

「そうです。殺されます」


 ――いや、それは……


 裕二はそう思いながらエリネアをチラリと見る。それに気づいたエリネアも裕二を見ると、問題ないとばかりにほんの僅かだけ頷いた。

 目の前にいるペルメニアの王族が、二人を殺す可能性は全くないが、彼女たちにはそう思わせておいた方が良い。


「実際、契約魔術では死なない。でも別の形で死ぬ可能性はあるし、契約を破るとこちらも対処を考えなければならない。敵にはならないでほしい」

「ありがとうございます。まさか、そこまでの配慮があったとは全く存じませんでした。改めて契約魔術を受け入れ、全身全霊でそれを守り通すとお約束いたします」


 約束を破ると危険。命の保証はしない。

 それは魔法によるペナルティではなく、自分たちに重大な過失を生み出す危険がある、と言う事になるのだ。

 人の大事な秘密を見ておいてそれを迂闊に話す。そこに命の保証などされないのは当然だろう。しかし、当初考えてたよりも契約魔術の危険度は下がったのも事実。そこに裕二の事情と配慮、自分たちの気づかなかった危険が見える。

 ただの栗っぽい木の実を使った契約魔術は、魔法としての危険がない事を明かし、ここに完成する。

 それは契約者の心に深く刻まれ、より完璧なものとなる。しかし、それをする相手と時期は慎重に見極める必要がある。


 ――凄い……魔力を一切使わない契約魔術。それをこんな完璧に……


 エリネアはその瞬間を全て見ていた。シャーリーンとエバが心の底から契約を受け入れるその瞬間を。


「じゃあ、少し休んでから食事して、その後で今後の話をしよう。セバスチャン……とテンは、いないんだったな。エリネア。一緒にキッチンへ来てくれ」

「はい!」


 立ち上がる裕二に呼ばれたエリネアは嬉しそうについていく。そこに座ったまま残された二人は呆然と顔を合わせた。


「姫様。先程の話はやっぱりナシでお願いします」

「結婚相手の話ね。絶対無理よ。私たちの考えてる規模じゃないわ」

「ええ、高次元すぎました」


 そして、奥でお茶の用意をする裕二とエリネア。


「さすがユージね。あんな完璧な魔法、見た事ない」

「まあ、魔法と言っても魔力は全く使ってないけど」

「そこが凄いのよ。魔法を見て感動するなんて初めて」


 今までのエリネアは人の魔法を見ては、それに負けないようにと対抗心を燃やす事が多かった。しかし、裕二の使った魔力を全く使わない契約魔術。そのような魔法の形があるなど、思いもよらなかった。そして、その効果をたった今見た。裕二との契約がパーフェクトに伝わる瞬間。そこには対抗心など欠片もない。あるのは感動だけだ。


「いや、別にそんな……」

「あの二人には私の部屋を貸してあげて。私はユージの部屋で寝るから」

「えっ……」

「大事なあなたに何かあったら困るわ。出来る限り一緒にいないと。ねっ」


 ――うぅ、「ねっ」が可愛すぎる。


 しかし、そこには当然テンが来るのでおかしな事は出来ない。エリネアが寝る時はテリーとセバスチャンにより、そう勝手に決められているのだ。


「それよりセバスチャンとテンはいないの? さっきそう言いかけたけど」

「二人はお使いだ」


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