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剣と魔法と七体の人工精霊  作者: ひろっさー
第一章 異世界転移と学院
18/219

18 ゴンズ武具店


「何であんな事を……」


 エリネアは後悔していた。裕二に対して礼を言うはずだったのに、先走った事を言って裕二を怒らせてしまった。

 この後どうすれば良いのか、エリネアには全くわからない。そしてそのまま塞ぎ込んでしまった。



 騎士科のグランドでは裕二がその様子を見ている。いや、見ているようで全く見ていない。先程のエリネアの件が頭から離れないからだ。


「言いすぎたか……」


 そこへ遅れてテリーがやってくる。


「よう、どうだった?」

「…………」


 テリーとしては、エリネアが裕二に礼を言いに行ったのは知っているので、それについて聞いていた。しかし裕二は無言で答えない。


「おい、どうした?」

「……テリーか。それが――」


 裕二は先程の事をテリーに話した。そして自分で話す内に、やはり言いすぎたのではないかと更に思うようになった。


「はあ、そうなったか」


 テリーは額を抑えてため息を吐いた。


「エリネアはユージに礼を言うつもりだったのは間違いない。俺の所にも来たし、ユージのいる場所を教えたのは俺だからな。俺は気を利かせたつもりで遅れて来たんだよ」

「そうなのか!?」

「エリネアはああいう性格だからな。礼を言うつもりがパニックになって何か先走ったんだろう」

「……俺もそんな気がしてる」

「まあ……言ったものはしょうがない」

「どうすりゃ良いんだ?」

「ほっとけ」

「え?!」

「どうせお前とエリネアじゃ今から会ったってギクシャクするだけだ。誤解を解いたとしてもそれは変わらないだろ? それにどちらかと言えばだが、悪いのはエリネアだ。お前から動く事でもない」

「確かに……そうだけど」

「なら、時間が解決するまで待て」

「でもそれじゃ……」

「すぐにどうこうしたって逆効果なんだよ。一度吐いた言葉は元に戻らないからな。お前もエリネアも」

「…………」

「まあ……しょうがない。予定通り騎士科の訓練を…………帰るか?」

「そうだな……」



 テリーが裕二の部屋まで送ってくれて帰宅する。別れ際テリーが「明日は休みだから武器屋に行くからな。準備しとけよ」と、言って別れる。裕二は「ああ」とだけ返事をし、そのままベッドに寝転がった。


「なあ、アリー。言いすぎたと思うか?」

「そうだねー。エリネアちょっとかわいそうかも。バカ女なら、かまわないけど」


 バカ女とはシェリルの事だ。アリーはシェリルの名前を言った事は一度もない。よほど嫌いなのだろう。


「セバスチャンはどう思う」

「そうですね。エリネア様の物言いが誤解を与えるのは確かでしたから、彼女自信も深く考えるべき問題かと」

「そうか……一応チビドラはどうだ?」

「ミャッ?!」

「いや、何でもない」


 色々意見が聞きたかった裕二だが、マトモな意見を言えるのはセバスチャンとアリーくらいだろう。


「ねえねえ、ムサシはどう思うの?」

「むう……」


 と、こうなる。白虎なら『グルル』と唸るだけ。テンならピカピカ光るかもしれない。リアンなら見向きもしないだろう。


「裕二様、このままお休みになられるのなら、武器を出しておきましょう。明日はテリー様と武器屋に行かれるのですから。私が綺麗な物を選別しておきます」

「悪いな。セバスチャン」


 裕二はテンが薄暗く照らした部屋で、武器を選別する音を聞きながら眠りについた。



「起きてるかユージ」


 翌朝、テリーがそう言いながら裕二の部屋に入ってきた。


「ああ、おはよう」


 という裕二の言葉を無視して、テリーはその床に並べられた沢山の武器に驚いていた。


「何でこんなにいっぱい武器持ってんだ?」


 床に並べられた武器は十数本。全体の一部でしかない。が、それでも充分すぎる数だ。


「言わなかったか? 以前しばらく山で暮らしてた時にしょっちゅうオークと戦ったからな。その戦利品だ」

「なるほど……だから宝剣も持ってるのか」


 ――山という事はオークだけじゃないし、オークも群れで出るはず。あの火魔法しか使えない状態で……な訳ないな。


 テリーは置かれた武器を一本一本確かめる様に眺めた。


「それ程悪くないな。確かに汚いが……この中から二本残せ。他を売ってその二本を手入れしてもらえばお金の節約になるぞ。そして一本は刃引きしてもらえ。練習や模擬戦にも使える」

「おお、いい考えだな。で、良さげなのはあるか?」

「どれも普通だな。宝剣も……きたねえな。まあ売れるだろ」


 裕二は剣を布で包み、両端に紐を括りつけ肩に担ぐ。そしてテリーと寮を出て学院の外に歩き出す。


「何か食ってから行こうぜ」

「そうだな」


 そう言いながら二人は街へ繰り出す。

 

 チェスカーバレン学院のあるスペンドラという街は学院があるお陰で貴族が集まる。なので街の中心には高そうな店が多い。しかし路地を一本入ると、その様子はガラッと変わり、屋台や露店も多く、表通りとは違う活気がある。


「匂いが違うな」

「まあな」


 通りを歩くと次々と匂いも変わってゆく。食べ物の良い匂いもあれば、生臭いような匂いもあり、裕二のイメージとしては築地とかアメ横みたいなものだ。

 二人はパンに肉を挟んだだけのサンドイッチを食べる事にした。


「これが意外とうまい」


 テリーに言われ買って食べてみると、パンは硬いが肉は確かに美味かった。というか山で食べた事のある味だ。


「オークだな」

「正解だ。だけど見てみろ。塩が他の店と違う」


 その店で使っている塩は岩塩だった。それを削って使っているのだ。


「あ、あれ。もしかして高いのか」

「普通の塩の三倍くらいかな」


 ――マジすか。いっぱいあるんだが。出しときゃ良かった。


 裕二は山で岩塩を沢山見つけていたが、裕二ひとりでそんなに消費するはずもなく、その量は溜まる一方だった。岩塩ひとつ売っても大した金額にはならないだろうが、裕二は抱えきれないくらいの量は持っている。どうせ使わないので、今度売ってしまおうと考えていた。


 ――毛皮にヤリに斧もあるからな。意外と金になるかも。あー、すぐ出せるのに……


 裕二は次来る時はひとりでこようと決めた。


 食事を終えると、その通りにある割と大きめの武器屋を見つけ、二人はそこに入って行く。



「この剣を売りたいんですけど」


 裕二はカウンターの上に布に包まれた剣を置き紐を解く。


「随分あるな。オークの戦利品か」


 店の者は一目で言い当てた。やはり汚い事と数の多さがポイントだろうか。


「はい」

「誰がとって来たんだ」

「僕ですね」


 と、裕二は手を上げた。


「ひとりで、じゃねーよな? そっちの兄ちゃんと二人でか?」

「いえ、僕ひとりです」

「ほう……て事はかなりの魔術師だな。学院の生徒だろ?」

「はい」


 店の者はズバズバと当てて行く。商売柄わかってしまうのだろう。


「この街は優秀な若者が多いからな。じゃあオークの宝物庫も見つけたか?」

「宝物庫?」

「なんだ、見つけてないのか。惜しい事したな」


 オークは人間を襲撃すると、その荷物を何でもかんでも奪って行く。そして武器じゃない物はどこかに隠しておくのだ。


「人間の女も持って行っちまうからタチが悪いけどな。グアッハッハッハ」

「はあ……」


 宝物庫と言ってもガラクタが多いが、中には高価な物がある場合も当然ある。群れが大きい、もしくは群れが沢山ある程その可能性も高まる。


「そうなんですか?」

「ああ、しかも見つけるのはそんなに難しくねーしな。オークに見つからない様に追いかけてネグラを突き止めれば良い。大概その奥だ」

「なるほど、いい事聞いた」


 若者と言えど、この街には優秀なチェスカーバレン学院の生徒が沢山いる。今は大した事がなくても将来優秀になる者もいるし、貴族も多い。武器屋としてはそういう将来有望な若者達に情報を与えておく。それが後から様々な形で帰って来るのだ。


「じゃあ、武器が多いから鑑定には時間が掛かるからな。他の武器でも見ててくれ」


 と言われ振り返ると、既にテリーは飾ってある武器を眺めていた。どおりで静かだと思った。


「ユージ、ここはなかなか凄い店だぞ」

「いいのあったか?」

「これを見ろ」


 そこにあるのは美しい細工の施され一本の長剣。裕二からすると高そうではあるが、特に何とも思わない。


「こいつは魔剣ヨグトゥーラだ。魔力を通して剣を地面に突き刺すと、敵の足元から刃が飛び出して突き刺さるんだ」

「ほえー。スゲーな」

「値段からするとレプリカじゃなくて本物だな。鑑定書も付いてる」

「レプリカとかあるのか。いくらするんだ?」

「買える値段じゃない。金貨四百枚だ」


 金貨四百枚ってことは……日本円で約四千万円!!


「凄そうだけど絶対買えないな」

「こっちのライトニングエッジの方がまだ現実的な値段だな」


 テリーはそう言って、やや大きめの両手剣を指さす。


「これは魔力を通すと雷魔法が付与出来る。魔法は飛ばせないが、触るとビリビリくるぞ」

「なかなか良さげだな。いくらだ?」

「金貨二十枚だ」

「買えるか!」


 テリーはこの他に様々な武器を眺めては、裕二にその説明をする。

 ミスリルの鎖の先に小さな刃が付いたミスリルチェイン。これは魔力を通すとミスリルの鎖が相手を締め上げる。

 ブラッドアクスという投擲斧は、敵に刺さるとそのままめり込もうとする。

 ディッシュケースという変わった武器は、ケースを振ると中から円盤状の刃が飛んでいき相手を切り裂いてからケースに戻ってくる。


 どれも買えそうな値段ではない。その中で一際目立つ大剣が裕二の目を引いた。


「やはり、それに目をつけたか」

「いや、デカいし目立つからな」


 その剣は、裕二が話している間にテリーが真っ先に眺めていた剣だ。

 全長が裕二の背丈よりもありそうなその大剣は、刀身の真ん中に支柱のような物があり、その両側に別々の刃がある。

 片方は普通の刃だが、もう片方はノコギリのようにギザギザになっており、真ん中の支柱と両側の刃の先はまっすぐなフォークのような形状だ。


「これはオートソウという邪剣だ」

「邪剣てなんだ?」


 邪剣というのは要は魔剣なのだが、剣を作る職人の間では邪道とされるような作りの物だ。

 オートソウは魔力を込めるとギザギザのノコギリ刃が上下に細かく動く。つまりチェーンソーみたいなものになる。こういうギミックが邪道扱いされる所以になる。


「だが邪道でも極めれば、それはそれで価値のある事になるのさ」

「へえー、面白いな」

「これを置いてるというだけでも、この店は価値があるという事になる」


 その話しを聞いてた店の者から声がかかる。


「学院生なのに良くわかってるな。学院の武器屋じゃ絶対置かない剣だろうな。あいつらは見る目がねえ。綺麗な剣しかねーだろ? 芸術品と武器の区別がついてねーからな」


 店の者は得意気に話す。テリーに店を誉められた事も気分が良かったのだろう。


「だがその剣は非売品だ。それにお前らに扱うのは無理だろう。剣に食われるぞ」


 剣に食われる、という意味は剣に魔力をごっそり持っていかれて魔力枯渇になる、という意味だ。


「なら扱えたらこの剣くれるか?」

「な、なに! それは……」

「ハッハッハ冗談だよ。でも持つ位は良いだろ?」

「まあ、それくらいなら……だが魔力を込めすぎるなよ。本当に食われるからな」

「わかってるさ。ユージ持ってみろ」

「え!? 俺かよ」


 裕二はテリーに言われて壁からオートソウを外し、両手で持ってみる。かなり重い。

 そしてそのまま魔力を剣に込めてみた。すると剣は裕二でもちょうどよい重さになり、ノコギリ刃が動き始める。


「どうだユージ?」

「うん……かなり魔力が動いた感じはするけど……別に大丈夫だな」


 裕二は更に魔力を込めてみた。するとオートソウのノコギリ刃は更に速さを増す。


「お、おい。その辺でやめとけ」

「そうだな。ユージもう良いぞ」


 裕二はオートソウを止めて、再び壁にかけ直した。


「大丈夫か? 具合はどうだ」

「いや別に……何とも」


 店の者は心配そうに裕二を眺めるが、裕二は特にいつもと変わりない。


「大したもんだ。今までその剣をそこまで扱えた奴はいねーぞ。こりゃかなりの有望株だな」

「だろ? ならその剣はユージにやるってのはどうだ?」

「い、いや勘弁してくれ。店が潰れちまう。でもまあ、面白いもん見せてもらったからな。少しはサービスするぜ」


 既に鑑定は終了しており、裕二はその中から二本を選び手入れをしてもらう事にした。

 合計の料金は裕二に高いか安いか良くわからないが、テリーが納得してるのでたぶん良いのだろう。


「剣は一週間後に取りに来い。こいつはオマケだ。中古だがミスリルのチェーンメイルもつけてやる。サイズも合わせてやるから剣と一緒に渡そう」

「おお、気前良いな」

「いいんですか?!」

「なあに、お前ら程の有望株なら必ず稼ぐからな。そんときゃうちでバンバン買い物してくれ。これは投資だ。俺の名はゴンズ。ゴンズ武具店の店長だ。お前らは?」

「ユージ」

「テリオス、テリーと呼んでくれ」

「わかった。ユージとテリーだな。期待してるぜ」


 そう言って二人は店を出た。



 だが店を出た裕二達の遥か後方。彼らの様子を伺ってる者達がいた。


「へっ、のんきに買い物してるぜ」

「ターゲットは黒髪の方だ。長髪の方は極力相手にするな」

「まかせとけ。腕の一本もへし折ってやりゃいいんだろ?」

「ああ、でも殺すなよ。殺すとギャラは出ねえからな」

「わかってるさ」



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